2010/05/19(水) - 13:54
le coq sportif は、1882年にフランスで生まれ、100年を超えるヘリテージを持つ、いちばん古い総合スポーツブランドだ。
サイクリング、フットボール、テニスをはじめとする数々の競技で革新的なアイテムを産み出し、アスリートの信頼を得てきた。なかでもルコックとサイクリングには、50年を超える長い歴史がある。
ルコックといえばお洒落でカジュアルなサイクリングウェアが人気だが、この春からついに、ロードレース対応の“サイクリングパフォーマンス”ラインの展開が始まり、プロユースから街乗り、カジュアルユースまで、サイクリングにまつわるフルラインアップのウェアを手がけていくことになった。
ルコックのパフォーマンス・サイクリングラインの開発について、お話を伺ってみた。
井上:ルコックとしては、3年ほど前からカジュアルなサイクリングウェアを手がけていまして、非常に好評をいただき、売り上げも順調に伸ばすことが出来ました。
現在の市場の動向を考えてみると、高級車ではなく、クロスバイクを含めたスポーツバイクを購入して楽しむというエントリー層にルコックのカジュアルラインが受けたということです。
我々にとって、いいタイミングがいくつか重なったということもあるのですが、ひとつにはそういったユーザーさんの中から、「競技用のホンモノのウェアが欲しい」というリクエストが出てきたということがあります。
合わせて、これは社内的なタイミングになりますが、カジュアルウェアをやってきた中で改めて「ルコックスポルティフ」はスポーツウェアのブランドだ、競技の背景を持つピュアなスポーツウェアブランドだということをお客様に伝えなくてはいけないという認識が生まれたのです。
我々のブランドの売り上げの大半は、業界で言うところの「スポーツライフスタイル」、つまり「汎用性があり、人によっては部屋着として、あるいはウォーキング、軽いジョギング、もしくはタウンユースの街着として使われるようなウェア」という売れ方をしてきました。実際のところ、他の海外大手メーカーさんは、ランニングやサッカーなど競技、つまりリアルに汗をかくようなシーンを背景に持つウェアで好調に売り上げを伸ばしている流れがあります。
そこでルコックは改めてブランドの歴史を紐解いた時、本来は「世界のトップアスリートが、それぞれの競技シーンで着用してきたスポーツウェアブランドなんだ」ということを顕示しなくてはいけないと思ったわけです。ルコックブランドの起源を遡っていくと、ひとつにはサッカーがあり、そしてもうひとつには自転車がある。そう、自転車はルコックの礎を築いてきた競技なのです。
そこで、社内で「競技を背景にしっかりとしたスポーツウェアづくりをしよう」という声が高まったのです。つまりユーザーからの欲求と、我々社内の目標が一致したことで、このタイミングで競技用ウェアを開発することになりました。
パフォーマンス・サイクリングラインは、マーケットには2010年2月からの投入になりましたが、展示会は2009年の9月でした。開発にあたっては、2009年の初頭から随時準備をして参りました。より遡ると、2008年の夏の段階で、近い将来に競技用ウェアに取り組むぞ、という声が社内にありました。この頃からコツコツと準備を整え、今回の発表に至ったのです。
—そもそものサイクリングラインの展開とカテゴリー分けはどうなりますか?
井上:2007年の秋冬ラインからカジュアルなサイクリングウェアを提案し始めました。その段階であったのは3つのカテゴリーです。ひとつは「トレンドスポーツ」。これはいわゆるカジュアルサイクリングウェアで、デザイン性と機能性を兼ね備えたウェア。ストイックで競技的なウェアではなく、レジャースポーツとして自転車を楽しむためのウェアですね。
もうひとつにはヘリテージというカテゴリーで、これは過去に培ってきたブランドのオリジン(起源)でもある、ルコックのサイクリングウェアの歴史をモチーフとしています。これは、乗って汗をかくということを想定しておらず、普段着として着られるカジュアルなものを提供しようというのがコンセプトになっています。
3つ目はその対極にあるような「プラチナム」というカテゴリーです。これについてはビジネスマンの通勤シーンを想定しており、スポーツ素材のテーラードジャケットなどを提案してきました。
この3つのカテゴリーがルコックの既存のカテゴリーとしてありました。これら3つのカテゴリーのユーザーからの総意として競技用ウェアの需要があったということです。
2011年度に向けてブランド内にカテゴリーが増えてきている中で名称は再編成しています。「パフォーマンス」と呼ばれるラインは競技用のラインを指します。それ以外に機能性と汎用性があるトレンドスポーツのカテゴリーを「スポーツスタイル」と分けています。「パフォーマンス」と「スポーツスタイル」の二つが今後のルコックブランドの軸になります。
以上がパフォーマンス・サイクリングライン開発までの経緯です。
井上:いざ作ろうとなった段階で、幸運にも我々はエキップアサダ(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)のアフターウェアを2008、2009年と2年続けてサプライし、その選手たちの協力を得てウェアのノウハウやフィッティングなどのウェアリングを行うことができました。そこで競技用ウェアの土台となる部分が築かれたということです。
それに合わせて行ってきたのが、素材や機能の方向性をどこに置くか、という研究です。選手たちの協力はデザイナーの実務的な作業に直結します。素材の探求や機能性の追求はコンセプトワーク、つまり机上の作業で、それが私の仕事です。
いくらルコックが長い歴史を持っていると言っても、日本で競技用ウェアを開発するのは初めてのことです。つまり、ルコックは既存のメーカーさんがある中の後発ブランドです。いきなり勝とうとかそういうレベルの話ではなく、まずは同じ土俵に立っても遜色の無いしっかりとしたものを提供しようと決めました。そして後発であっても我々のカラーを打ち出さなくてはいけない、そのためのコンセプトワークです。
その中で、既存のメーカーさんに対し我々のカラーを出して行く手段。それは、ルコックスポルティフというブランドは総合スポーツウェアブランドであること。例えば、Jリーグの名古屋グランパスの選手はみんなルコックが提供しているウェアを着ています。つまり、プロサッカーの現場にも、我々の技術が活かされていることです。
それからデサントという会社で大きく考えると、オリンピック種目のあらゆる競技の選手が着用していること。またデサントのブランドであるarena(アリーナ)の水着が北京オリンピックで話題になったことに対して、企業として常に総合的な開発力を持って克服してきた実績があること。その他、野球やバレーボール、スキーなどの現場でも、デサントの技術が活かされていること。これは自転車の専門アパレルメーカーさんには無いスポーツ全般のノウハウを我々が持っていること。そのことを強みに開発を進めてきました。
例えば、この2010春夏で初めて世に送り出すウェアの中には、ルコックがオリジナルに開発した素材があり、サイクリングジャージやウインドブレーカーに用いられています。そしてアリーナの水着やフィットネスラインで使用されている素材も、サイクリングウェアに投入されています。プロサッカーチームを抱えているUMBRO(アンブロ)も使用しているような素材も同様です。
これはひとえにルコックというブランドの総合力と、様々な競技をバックボーンに持つデサント社の強みとして挙げられると思います。
試みに、ウインドブレーカーを例に挙げますと、名古屋グランパスの選手たちが実際に着用しているものを、そのままサイクリングのウインドブレーカーの素材として採用し、パターンを変更して商品化しています。
このように、競技用ウェアを作ることは初めてのことでしたので、いろんな作業、つまりデザインワークとコンセプトワークを並行して行ってきました。
Page.2へつづく。
次のページでは、ルコックの人気のデザインの秘密に迫ります。
サイクリング、フットボール、テニスをはじめとする数々の競技で革新的なアイテムを産み出し、アスリートの信頼を得てきた。なかでもルコックとサイクリングには、50年を超える長い歴史がある。
ルコックといえばお洒落でカジュアルなサイクリングウェアが人気だが、この春からついに、ロードレース対応の“サイクリングパフォーマンス”ラインの展開が始まり、プロユースから街乗り、カジュアルユースまで、サイクリングにまつわるフルラインアップのウェアを手がけていくことになった。
ルコックのパフォーマンス・サイクリングラインの開発について、お話を伺ってみた。
競技用ウェア「パフォーマンス・サイクリングライン」開発の経緯
—ルコックといえば大ヒットしているカジュアルラインのイメージが強いのですが、フランスではマイヨジョーヌのスポンサーとして、かつてツール・ド・フランスのリーダーの胸に雄鶏のマークが輝いていました。やっと、という気もしますが、今回、2010年の春夏のコレクションから競技用のウェアを開発することになった経緯からお話しいただけますか?井上:ルコックとしては、3年ほど前からカジュアルなサイクリングウェアを手がけていまして、非常に好評をいただき、売り上げも順調に伸ばすことが出来ました。
現在の市場の動向を考えてみると、高級車ではなく、クロスバイクを含めたスポーツバイクを購入して楽しむというエントリー層にルコックのカジュアルラインが受けたということです。
我々にとって、いいタイミングがいくつか重なったということもあるのですが、ひとつにはそういったユーザーさんの中から、「競技用のホンモノのウェアが欲しい」というリクエストが出てきたということがあります。
合わせて、これは社内的なタイミングになりますが、カジュアルウェアをやってきた中で改めて「ルコックスポルティフ」はスポーツウェアのブランドだ、競技の背景を持つピュアなスポーツウェアブランドだということをお客様に伝えなくてはいけないという認識が生まれたのです。
我々のブランドの売り上げの大半は、業界で言うところの「スポーツライフスタイル」、つまり「汎用性があり、人によっては部屋着として、あるいはウォーキング、軽いジョギング、もしくはタウンユースの街着として使われるようなウェア」という売れ方をしてきました。実際のところ、他の海外大手メーカーさんは、ランニングやサッカーなど競技、つまりリアルに汗をかくようなシーンを背景に持つウェアで好調に売り上げを伸ばしている流れがあります。
そこでルコックは改めてブランドの歴史を紐解いた時、本来は「世界のトップアスリートが、それぞれの競技シーンで着用してきたスポーツウェアブランドなんだ」ということを顕示しなくてはいけないと思ったわけです。ルコックブランドの起源を遡っていくと、ひとつにはサッカーがあり、そしてもうひとつには自転車がある。そう、自転車はルコックの礎を築いてきた競技なのです。
そこで、社内で「競技を背景にしっかりとしたスポーツウェアづくりをしよう」という声が高まったのです。つまりユーザーからの欲求と、我々社内の目標が一致したことで、このタイミングで競技用ウェアを開発することになりました。
パフォーマンス・サイクリングラインは、マーケットには2010年2月からの投入になりましたが、展示会は2009年の9月でした。開発にあたっては、2009年の初頭から随時準備をして参りました。より遡ると、2008年の夏の段階で、近い将来に競技用ウェアに取り組むぞ、という声が社内にありました。この頃からコツコツと準備を整え、今回の発表に至ったのです。
—そもそものサイクリングラインの展開とカテゴリー分けはどうなりますか?
井上:2007年の秋冬ラインからカジュアルなサイクリングウェアを提案し始めました。その段階であったのは3つのカテゴリーです。ひとつは「トレンドスポーツ」。これはいわゆるカジュアルサイクリングウェアで、デザイン性と機能性を兼ね備えたウェア。ストイックで競技的なウェアではなく、レジャースポーツとして自転車を楽しむためのウェアですね。
もうひとつにはヘリテージというカテゴリーで、これは過去に培ってきたブランドのオリジン(起源)でもある、ルコックのサイクリングウェアの歴史をモチーフとしています。これは、乗って汗をかくということを想定しておらず、普段着として着られるカジュアルなものを提供しようというのがコンセプトになっています。
3つ目はその対極にあるような「プラチナム」というカテゴリーです。これについてはビジネスマンの通勤シーンを想定しており、スポーツ素材のテーラードジャケットなどを提案してきました。
この3つのカテゴリーがルコックの既存のカテゴリーとしてありました。これら3つのカテゴリーのユーザーからの総意として競技用ウェアの需要があったということです。
2011年度に向けてブランド内にカテゴリーが増えてきている中で名称は再編成しています。「パフォーマンス」と呼ばれるラインは競技用のラインを指します。それ以外に機能性と汎用性があるトレンドスポーツのカテゴリーを「スポーツスタイル」と分けています。「パフォーマンス」と「スポーツスタイル」の二つが今後のルコックブランドの軸になります。
以上がパフォーマンス・サイクリングライン開発までの経緯です。
■総合ウェアブランドの特性を活かし、後発ブランドのハンデを克服する
—開発にあたって、選手などの協力を得た部分はありますか?また製品開発テストはどのように行いましたか?井上:いざ作ろうとなった段階で、幸運にも我々はエキップアサダ(EQA・梅丹本舗・グラファイトデザイン)のアフターウェアを2008、2009年と2年続けてサプライし、その選手たちの協力を得てウェアのノウハウやフィッティングなどのウェアリングを行うことができました。そこで競技用ウェアの土台となる部分が築かれたということです。
それに合わせて行ってきたのが、素材や機能の方向性をどこに置くか、という研究です。選手たちの協力はデザイナーの実務的な作業に直結します。素材の探求や機能性の追求はコンセプトワーク、つまり机上の作業で、それが私の仕事です。
いくらルコックが長い歴史を持っていると言っても、日本で競技用ウェアを開発するのは初めてのことです。つまり、ルコックは既存のメーカーさんがある中の後発ブランドです。いきなり勝とうとかそういうレベルの話ではなく、まずは同じ土俵に立っても遜色の無いしっかりとしたものを提供しようと決めました。そして後発であっても我々のカラーを打ち出さなくてはいけない、そのためのコンセプトワークです。
その中で、既存のメーカーさんに対し我々のカラーを出して行く手段。それは、ルコックスポルティフというブランドは総合スポーツウェアブランドであること。例えば、Jリーグの名古屋グランパスの選手はみんなルコックが提供しているウェアを着ています。つまり、プロサッカーの現場にも、我々の技術が活かされていることです。
それからデサントという会社で大きく考えると、オリンピック種目のあらゆる競技の選手が着用していること。またデサントのブランドであるarena(アリーナ)の水着が北京オリンピックで話題になったことに対して、企業として常に総合的な開発力を持って克服してきた実績があること。その他、野球やバレーボール、スキーなどの現場でも、デサントの技術が活かされていること。これは自転車の専門アパレルメーカーさんには無いスポーツ全般のノウハウを我々が持っていること。そのことを強みに開発を進めてきました。
他分野のスポーツで培った技術をサイクリングウェアに投入
例えば、この2010春夏で初めて世に送り出すウェアの中には、ルコックがオリジナルに開発した素材があり、サイクリングジャージやウインドブレーカーに用いられています。そしてアリーナの水着やフィットネスラインで使用されている素材も、サイクリングウェアに投入されています。プロサッカーチームを抱えているUMBRO(アンブロ)も使用しているような素材も同様です。
これはひとえにルコックというブランドの総合力と、様々な競技をバックボーンに持つデサント社の強みとして挙げられると思います。
試みに、ウインドブレーカーを例に挙げますと、名古屋グランパスの選手たちが実際に着用しているものを、そのままサイクリングのウインドブレーカーの素材として採用し、パターンを変更して商品化しています。
このように、競技用ウェアを作ることは初めてのことでしたので、いろんな作業、つまりデザインワークとコンセプトワークを並行して行ってきました。
Page.2へつづく。
次のページでは、ルコックの人気のデザインの秘密に迫ります。
提供:デサント 聞き手:綾野 真(シクロワイアード編集部)