2018/06/19(火) - 12:12
パワーメーターが普及し、データを管理しながらサイクリングを楽しむ人たちが増えてきた。パフォーマンス向上を追求する人たちにとっては最早必須とも言える機材であるがゆえに、自転車におけるパワーデータの情報は向上心あふれる人たちにとっては当たり前となってしまい、ビギナー層を置いてけぼりにしてしまっている節がある。
今回の特集ではパワーの基礎となる考えから応用の仕方までを竹谷賢二さんに解説して頂いた。ビギナーはもちろん、現在何となくでパワートレーニングを行っている方、向上心あふれる方などがパワートレーニングへの理解を深めてくれれば幸いだ。
フルタイムワーカーとしてMTBレースに参戦。2000年に全日本選手権優勝を経てプロライダーへ。2004年にはMTB XCOの日本代表としてアテネオリンピックに出場、同年のアジア選手権で優勝を遂げる。2009年の全日本選手権を最後に現役を引退。以降、スポーツバイクのアンバサダーとしてイベントやスクールにて培ったノウハウを提供。トレーニング関連の書籍も多数出版し、その客観的内容には定評がある。
現在は自ら立ち上げたエンデュアライフをベースにフィッティングやコーチングを行い、エンデュランススポーツを「生涯現役」で楽しめるアスリートをサポートしている。ガーミンのアンバサダーとしてサイクルモードなどでもトレーニングの有用性を広くレクチャーする活動も行っている。
―今回はパワーというものの考え方から教わりたいと思います。パワーとは一体何なのでしょうか。
まず、パワーという言葉を聞いて筋骨隆々の人が重いギアをガシガシと踏んでいる姿をイメージする方も少なくないと思います。しかし、これはよくある間違いです。このイメージではパワーという概念の1つの要素である「力」が強いといった方が良いかもしれません。
「パワー」とはグッと物を動かすための「力」と動かす「スピード」を掛け合わせた仕事率の事を表します。例えば、ベンチプレスのウェート100kgを10秒間で2回動かすと、200kgの仕事をしたと言えますよね。対して、20kgなら10秒で10回持ち上げられるという人も、時間あたりでは同じ200kg分動かすパワーを出力したという事になります。
自転車の場合では、ひと漕ぎに使う力と足を動かすスピードに置き換えることができます。重いギアを高いケイデンスで回すことができれば高い出力がでていると言えるでしょう。パワーメーターが普及する以前からある「ハイケイデンスで回すペダリングと、重いギアを踏むのはどちらが良いでしょうか」という古典的な質問に対しての答えは、両方必要であるとなります。
重いギアをゆっくり回すことは力があるということになりますし、軽いギアを回すことはスピードがあるということになります。その2つを合わせた結果がパワーなのでどちらも必要です。なのでパワーがあれば良いという答えになります。
―自転車ではスピードや心拍数など様々なデータを記録しますが、それらに対してパワーというのはどういうメリットがあるのでしょうか。
スピードという指標は様々な外的要因から影響を受けやすく、変化の幅が大きいです。平坦路であれば向かい風などの空気抵抗、勾配に対してはライダーの体重によってスピード差が生まれることは想像しやすいでしょう。
向かい風の影響で20km/hのスピードしか出なくてもパワーは300w出力していて、追い風に変わった途端に300wの出力は変えなくてもスピードが40km/hに上昇する可能性があります。スピードは大幅に変化していますが、パワーは変わっていません。実際に体を動かした結果であるパワーのほうを運動の尺度とするものがパワートレーニングの考え方です。
心拍数というのは体の負担を確認するための指標でした。ですが、レース終盤で心拍数が高く出ている一方で、脚は全然動いていなくスピードも出ていないというケースも起こり得ますよね。このような状況で体の負担を表す心拍数が高く出ており、それを見て頑張ったねとなるでしょうか。レースで結果を求めるならば実際に体がどれくらい働いたかが重要になるはずです。その実際の働きはパワーという指標で表すことができるのです。
―可視化されたパワーという指標はどのように活用できるのでしょうか。
まずはライドを数字で振り返ることが可能です。レースの場合、今までは展開をストーリーとして把握していたものが、各局面を数値で捉えることができますよね。例えば、ある逃げに対して300wで追走したもののキャッチすることができなかったとしましょう。パワーデータを確認することで、その逃げは、300wより高いパワーを出力していたと考えられるようになりますよね。
次回レースで同様なシチュエーションとなった時、同じ轍を踏まないようにするために300w以上の出力を維持する追走ができるようにトレーニングを行っていれば、逃げをキャッチできる可能性はあがります。このようにレース局面のパワーデータを確認することで、今の自分に足りない能力を具体的に把握でき、トレーニングに活かすことができます。
ライド中に一定ペースで走行し続けやすくなりますよね。地形や風向きによる影響を受けても常に一定負荷のペーシングを行えるので、走り続けることが重要なロングライドといったサイクリングやトライアスロンでも有効になります。
今までライド中の出来、不出来が感覚的な思い出でしか無かったものを数値化することでわかることが増えます。パワーメーターを購入したのであれば、まずは自分の事を把握するためにもあらゆる場所を走ってみる経験が重要になります。データを積み重ねていくことで、自分が心地よく出力ができるパワーがわかっていきます。FTPテストを行いたい人はパワーに慣れてからで良いでしょう。まずはたくさん走ることをオススメします。
―パワーデータを活用したトレーニングはどのようなメリットが生まれますか。
トレーニングは時間に対して何キロメートル走行したことは重要ではなく、練習中に何をしていたかが重要です。タラタラ走っていれば、"それなりに"しか成長しません。パワーという指標があるとトレーニングで取り組む内容が明確になる上、しっかりと練習できていたかが明らかになります。力を抜いている部分もデータとして明らかになってしまいますので、練習に対する取り組みが変わると思いますよ。
パワーメーターがあろうがなかろうが昔から強くなる人たちはキチンとしたトレーニングに取り組んでいたんですよ。そこにパワーを通すことで「キチンとした」という事の内容が明らかになるんですよね。
例えば、土日しか練習していなくても何故か速い人はいたと思います。その人に何をしているのか質問した時に「1日普通に乗っているだけだよ」と答えが返ってきたとしましょう。中には「おかしいな、自分も普通に乗っているのに」と思う方もいるでしょう。
実は速い人の普通のライドがヘロヘロになるぐらいハードなライドを行っていたのです。各人で普通の内容が異なるケースですね。パワーという指標を取り入れることで、トレーニングの内容が数値化でき、明確になります。このように数値を把握できればトレーニングの内容を変えることもできますね。それがパワーメーターを導入することでできることです。
―では実際にパワーメーターを購入しようと思った時に、数多くの選択肢があると思います。ユーザーはどのように選べば良いのでしょうか。
プロが使うパワーメーターの代表例といえばSRMというスパイダーアーム型のモデルが有名です。その他にもクランク型のものなど優秀なプロダクトは存在しており、細かいデータを記録することが可能になっています。
しかし、パワートレーニングで重要なことは詳細なデータを記録することではなく、データを読み解く能力です。レースや練習の結果から仮説を立て、次回のトレーニングで検証、結果の確認、仮説、検証、確認……の繰り返し作業です。詳しい改善方法の仮説を立てる時に細かいデータが活躍します。
一方で、これからパワートレーニングを始める、データを読み解けないという方は、まずはライドの記憶が新しいライド直後にデータを確認し、ライドの感触が良かったならば、実際に良い数値が出ていたのか確かめることが重要です。その場合においてはデータの加工も必要なく、必ずしも多機能なものが最良の選択肢とは限りません。数字を読み解くことができるかどうかを考え、自分に見合ったパワーメーターを選ぶと良いでしょう。
―ガーミンにおいてはどのような点が選ぶためのポイントになりますか。
ガーミンの場合はデータの計測、記録、表示、蓄積などのサービスがガーミン内で完結することでしょう。ライド直後でもコネクトで閲覧できるデータはわかりやすく、スマホでも十分な情報を提供してくれるため、私も満足できています。先程も説明したように記憶が新しいうちにデータを確認しやすいというのはメリットです。
もちろんトレーニングを深掘りしたいときにパソコンでデータを細かくみることもできますし、VECTOR3で記録したデータは専門ソフトに入れて加工することもできます。データの読み取り手が求めるものに応じられることがポイントでしょう。
―VECTOR3を選ぶメリットはありますか。
まずペダル型はパーツ規格やデザインなどモノによる制限に囚われず、どのような自転車にも導入しやすいことがメリットです。クランク型の場合だと使用途中に長さを変えにくく、規格にも左右されます。スパイダーアーム型はギア比などを考える必要もありますし、変える際に手間とコストがかかってしまいますよね。パーツ交換を考える場合や複数台の自転車を使い回すという場面において、ペダル型は非常に便利に扱えます。
実際にエンデュアライフのフィッティングでもユーザーのバイクで行う際はその場でペダルを交換するケースもありますので、脱着の行いやすさは実感しています。仲間内でも貸し借りが容易に行えるので、「ちょっと使ってみる?」といったこともできるようになるでしょう。
以前のVECTORはセンサーポッドというパーツをペダル本体に加えて装着する必要があり、クランクとの相性を確認する必要がありました。現行のVECTOR3はネジを締めるだけに進化したので、一般的なペダルが装着できるバイクであれば、ほぼ取り付けることが可能となっています。作業は柄の長いペダルレンチでしっかりと締め付けるだけなので、装着がハードルとなることもありません。
―実際に使用してみて優れていると感じたポイントはありますか。
プロダクトとしての精度と剛性が高い点を気に入っています。パワーメーターなのでモノとしての精度は良くて当たり前なのですが、軸のつくりがシマノ DURA-ACEと同等レベルに優れているため信頼感が高く、気持ちよく使用することができています。この点もVECTOR3を勧めやすいポイントです。
計測するパワーデータにスパイクやバグが発生することもほぼありません。以前、クランク下死点付近で数値の乱れが発生したことがあったのですが、その原因は締め付けトルクが弱かったことにありました。ライド途中で増し締めしたあとは精確なデータを検出してくれていたので、ペダルの締め付けトルクだけ気にしていれば大丈夫です。
校正も非常に簡単で、EDGEシリーズと組み合わせれば設定次第でライド毎に校正するかどうかを尋ねてくれます。玄関でシューズを履く前にピッとボタンを押すだけでペダルの準備完了させられるので、普通のペダルでパワーが計測できている感覚があります。使用するためのストレスは限りなくありません。
―VECTOR3を使用するとどのようなデータを得ることができますか。
パワーの他に左右バランスやパワーフェーズという力を掛けているクランク位置や、プラットフォームセンターオフセットというペダルのどこを踏んでいるかの位置を知ることができます。これらのデータは、一概に何が良いかなどは言いにくい部分もありますが、データを見て自分の傾向を把握することで、改善策を考えることが可能となります。
私の場合はクランク長を5mm短くしたことがあるのですが、ペダルを踏み込み始める位置がクランク長変更前と比較し遅れていることがわかったんです。確かにクランクを短くすることで、BBに対するペダルとの距離はもちろん、ペダルの移動距離や速度が変わります。その結果として、踏みはじめとピークポイントが遅れていることがデータとして計測されましたので、ペダリングの認識を改め、改善することができました。
このようにパーツを変えた時、サドルポジションの前後を変えた時などに踏み込みの位置が変わる可能性があります。変える前と変えた後の違いを比較することができるので、その試みが良いか悪いかの判断できるようになるのがVECTOR3です。
Vol.1はパワーというものの概念から記録したデータはどのように使えるのかまでの説明を受けた。ここでは、まずはデータを積み重ね、パワーというもので自分を客観視することで、得意不得意の傾向を把握できるということがわかったはずだ。それはシリアスにトレーニング派、ロングライド派関係ないことも。
Vol.2ではFTPやTSS、CPなど小難しいパワトレ必修単語の解説と、ビギナーがパワーメーターを使って具体的にどんなトレーニングをすればよいのかを紹介する。
今回の特集ではパワーの基礎となる考えから応用の仕方までを竹谷賢二さんに解説して頂いた。ビギナーはもちろん、現在何となくでパワートレーニングを行っている方、向上心あふれる方などがパワートレーニングへの理解を深めてくれれば幸いだ。
指南役:竹谷賢二さん(エンデュアライフ代表)
フルタイムワーカーとしてMTBレースに参戦。2000年に全日本選手権優勝を経てプロライダーへ。2004年にはMTB XCOの日本代表としてアテネオリンピックに出場、同年のアジア選手権で優勝を遂げる。2009年の全日本選手権を最後に現役を引退。以降、スポーツバイクのアンバサダーとしてイベントやスクールにて培ったノウハウを提供。トレーニング関連の書籍も多数出版し、その客観的内容には定評がある。
現在は自ら立ち上げたエンデュアライフをベースにフィッティングやコーチングを行い、エンデュランススポーツを「生涯現役」で楽しめるアスリートをサポートしている。ガーミンのアンバサダーとしてサイクルモードなどでもトレーニングの有用性を広くレクチャーする活動も行っている。
基本のキ「パワー」とは何かを知ろう
プロ選手を始めシリアスに結果を追求するサイクリストにとっては記録必須となった「パワー(power)」というデータ。「w(ワット)」という単位、「仕事率」という意味で表される。言葉は難しいがイメージと合わせて捉える事ができると、トレーニングのヒントを多く得られるようになるはずだ。―今回はパワーというものの考え方から教わりたいと思います。パワーとは一体何なのでしょうか。
まず、パワーという言葉を聞いて筋骨隆々の人が重いギアをガシガシと踏んでいる姿をイメージする方も少なくないと思います。しかし、これはよくある間違いです。このイメージではパワーという概念の1つの要素である「力」が強いといった方が良いかもしれません。
「パワー」とはグッと物を動かすための「力」と動かす「スピード」を掛け合わせた仕事率の事を表します。例えば、ベンチプレスのウェート100kgを10秒間で2回動かすと、200kgの仕事をしたと言えますよね。対して、20kgなら10秒で10回持ち上げられるという人も、時間あたりでは同じ200kg分動かすパワーを出力したという事になります。
自転車の場合では、ひと漕ぎに使う力と足を動かすスピードに置き換えることができます。重いギアを高いケイデンスで回すことができれば高い出力がでていると言えるでしょう。パワーメーターが普及する以前からある「ハイケイデンスで回すペダリングと、重いギアを踏むのはどちらが良いでしょうか」という古典的な質問に対しての答えは、両方必要であるとなります。
重いギアをゆっくり回すことは力があるということになりますし、軽いギアを回すことはスピードがあるということになります。その2つを合わせた結果がパワーなのでどちらも必要です。なのでパワーがあれば良いという答えになります。
―自転車ではスピードや心拍数など様々なデータを記録しますが、それらに対してパワーというのはどういうメリットがあるのでしょうか。
スピードという指標は様々な外的要因から影響を受けやすく、変化の幅が大きいです。平坦路であれば向かい風などの空気抵抗、勾配に対してはライダーの体重によってスピード差が生まれることは想像しやすいでしょう。
向かい風の影響で20km/hのスピードしか出なくてもパワーは300w出力していて、追い風に変わった途端に300wの出力は変えなくてもスピードが40km/hに上昇する可能性があります。スピードは大幅に変化していますが、パワーは変わっていません。実際に体を動かした結果であるパワーのほうを運動の尺度とするものがパワートレーニングの考え方です。
心拍数というのは体の負担を確認するための指標でした。ですが、レース終盤で心拍数が高く出ている一方で、脚は全然動いていなくスピードも出ていないというケースも起こり得ますよね。このような状況で体の負担を表す心拍数が高く出ており、それを見て頑張ったねとなるでしょうか。レースで結果を求めるならば実際に体がどれくらい働いたかが重要になるはずです。その実際の働きはパワーという指標で表すことができるのです。
―可視化されたパワーという指標はどのように活用できるのでしょうか。
まずはライドを数字で振り返ることが可能です。レースの場合、今までは展開をストーリーとして把握していたものが、各局面を数値で捉えることができますよね。例えば、ある逃げに対して300wで追走したもののキャッチすることができなかったとしましょう。パワーデータを確認することで、その逃げは、300wより高いパワーを出力していたと考えられるようになりますよね。
次回レースで同様なシチュエーションとなった時、同じ轍を踏まないようにするために300w以上の出力を維持する追走ができるようにトレーニングを行っていれば、逃げをキャッチできる可能性はあがります。このようにレース局面のパワーデータを確認することで、今の自分に足りない能力を具体的に把握でき、トレーニングに活かすことができます。
ライド中に一定ペースで走行し続けやすくなりますよね。地形や風向きによる影響を受けても常に一定負荷のペーシングを行えるので、走り続けることが重要なロングライドといったサイクリングやトライアスロンでも有効になります。
今までライド中の出来、不出来が感覚的な思い出でしか無かったものを数値化することでわかることが増えます。パワーメーターを購入したのであれば、まずは自分の事を把握するためにもあらゆる場所を走ってみる経験が重要になります。データを積み重ねていくことで、自分が心地よく出力ができるパワーがわかっていきます。FTPテストを行いたい人はパワーに慣れてからで良いでしょう。まずはたくさん走ることをオススメします。
―パワーデータを活用したトレーニングはどのようなメリットが生まれますか。
トレーニングは時間に対して何キロメートル走行したことは重要ではなく、練習中に何をしていたかが重要です。タラタラ走っていれば、"それなりに"しか成長しません。パワーという指標があるとトレーニングで取り組む内容が明確になる上、しっかりと練習できていたかが明らかになります。力を抜いている部分もデータとして明らかになってしまいますので、練習に対する取り組みが変わると思いますよ。
パワーメーターがあろうがなかろうが昔から強くなる人たちはキチンとしたトレーニングに取り組んでいたんですよ。そこにパワーを通すことで「キチンとした」という事の内容が明らかになるんですよね。
例えば、土日しか練習していなくても何故か速い人はいたと思います。その人に何をしているのか質問した時に「1日普通に乗っているだけだよ」と答えが返ってきたとしましょう。中には「おかしいな、自分も普通に乗っているのに」と思う方もいるでしょう。
実は速い人の普通のライドがヘロヘロになるぐらいハードなライドを行っていたのです。各人で普通の内容が異なるケースですね。パワーという指標を取り入れることで、トレーニングの内容が数値化でき、明確になります。このように数値を把握できればトレーニングの内容を変えることもできますね。それがパワーメーターを導入することでできることです。
どの種類のパワーメーターを選べばいいの?
―では実際にパワーメーターを購入しようと思った時に、数多くの選択肢があると思います。ユーザーはどのように選べば良いのでしょうか。
プロが使うパワーメーターの代表例といえばSRMというスパイダーアーム型のモデルが有名です。その他にもクランク型のものなど優秀なプロダクトは存在しており、細かいデータを記録することが可能になっています。
しかし、パワートレーニングで重要なことは詳細なデータを記録することではなく、データを読み解く能力です。レースや練習の結果から仮説を立て、次回のトレーニングで検証、結果の確認、仮説、検証、確認……の繰り返し作業です。詳しい改善方法の仮説を立てる時に細かいデータが活躍します。
一方で、これからパワートレーニングを始める、データを読み解けないという方は、まずはライドの記憶が新しいライド直後にデータを確認し、ライドの感触が良かったならば、実際に良い数値が出ていたのか確かめることが重要です。その場合においてはデータの加工も必要なく、必ずしも多機能なものが最良の選択肢とは限りません。数字を読み解くことができるかどうかを考え、自分に見合ったパワーメーターを選ぶと良いでしょう。
―ガーミンにおいてはどのような点が選ぶためのポイントになりますか。
ガーミンの場合はデータの計測、記録、表示、蓄積などのサービスがガーミン内で完結することでしょう。ライド直後でもコネクトで閲覧できるデータはわかりやすく、スマホでも十分な情報を提供してくれるため、私も満足できています。先程も説明したように記憶が新しいうちにデータを確認しやすいというのはメリットです。
もちろんトレーニングを深掘りしたいときにパソコンでデータを細かくみることもできますし、VECTOR3で記録したデータは専門ソフトに入れて加工することもできます。データの読み取り手が求めるものに応じられることがポイントでしょう。
―VECTOR3を選ぶメリットはありますか。
まずペダル型はパーツ規格やデザインなどモノによる制限に囚われず、どのような自転車にも導入しやすいことがメリットです。クランク型の場合だと使用途中に長さを変えにくく、規格にも左右されます。スパイダーアーム型はギア比などを考える必要もありますし、変える際に手間とコストがかかってしまいますよね。パーツ交換を考える場合や複数台の自転車を使い回すという場面において、ペダル型は非常に便利に扱えます。
実際にエンデュアライフのフィッティングでもユーザーのバイクで行う際はその場でペダルを交換するケースもありますので、脱着の行いやすさは実感しています。仲間内でも貸し借りが容易に行えるので、「ちょっと使ってみる?」といったこともできるようになるでしょう。
以前のVECTORはセンサーポッドというパーツをペダル本体に加えて装着する必要があり、クランクとの相性を確認する必要がありました。現行のVECTOR3はネジを締めるだけに進化したので、一般的なペダルが装着できるバイクであれば、ほぼ取り付けることが可能となっています。作業は柄の長いペダルレンチでしっかりと締め付けるだけなので、装着がハードルとなることもありません。
―実際に使用してみて優れていると感じたポイントはありますか。
プロダクトとしての精度と剛性が高い点を気に入っています。パワーメーターなのでモノとしての精度は良くて当たり前なのですが、軸のつくりがシマノ DURA-ACEと同等レベルに優れているため信頼感が高く、気持ちよく使用することができています。この点もVECTOR3を勧めやすいポイントです。
計測するパワーデータにスパイクやバグが発生することもほぼありません。以前、クランク下死点付近で数値の乱れが発生したことがあったのですが、その原因は締め付けトルクが弱かったことにありました。ライド途中で増し締めしたあとは精確なデータを検出してくれていたので、ペダルの締め付けトルクだけ気にしていれば大丈夫です。
校正も非常に簡単で、EDGEシリーズと組み合わせれば設定次第でライド毎に校正するかどうかを尋ねてくれます。玄関でシューズを履く前にピッとボタンを押すだけでペダルの準備完了させられるので、普通のペダルでパワーが計測できている感覚があります。使用するためのストレスは限りなくありません。
―VECTOR3を使用するとどのようなデータを得ることができますか。
パワーの他に左右バランスやパワーフェーズという力を掛けているクランク位置や、プラットフォームセンターオフセットというペダルのどこを踏んでいるかの位置を知ることができます。これらのデータは、一概に何が良いかなどは言いにくい部分もありますが、データを見て自分の傾向を把握することで、改善策を考えることが可能となります。
私の場合はクランク長を5mm短くしたことがあるのですが、ペダルを踏み込み始める位置がクランク長変更前と比較し遅れていることがわかったんです。確かにクランクを短くすることで、BBに対するペダルとの距離はもちろん、ペダルの移動距離や速度が変わります。その結果として、踏みはじめとピークポイントが遅れていることがデータとして計測されましたので、ペダリングの認識を改め、改善することができました。
このようにパーツを変えた時、サドルポジションの前後を変えた時などに踏み込みの位置が変わる可能性があります。変える前と変えた後の違いを比較することができるので、その試みが良いか悪いかの判断できるようになるのがVECTOR3です。
ガーミン VECTOR3、VECTOR3S
バッテリー | LR44/SR44 |
稼働時間 | 最大120時間 |
重量 | 316g/324g(3S) |
耐荷重量 | 105kg |
測定精度 | ±1.0% |
対応クリート | LOOK Keo |
Qファクター | 53mm、55mm |
スタックハイト | 12.2mm |
コーナリングクリアランス | 31.7° |
歪センサー位置 | スピンドル |
無線通信 | ANT+、Bluetooth |
付属品 | クリート、クリート用ネジ、クリート用ワッシャー、アフターサポートカード |
価格 | 128,000円(税抜、VECTOR3)、79,000円(税抜、VECTOR3S) |
Vol.1はパワーというものの概念から記録したデータはどのように使えるのかまでの説明を受けた。ここでは、まずはデータを積み重ね、パワーというもので自分を客観視することで、得意不得意の傾向を把握できるということがわかったはずだ。それはシリアスにトレーニング派、ロングライド派関係ないことも。
Vol.2ではFTPやTSS、CPなど小難しいパワトレ必修単語の解説と、ビギナーがパワーメーターを使って具体的にどんなトレーニングをすればよいのかを紹介する。
提供:ガーミン 制作:シクロワイアード編集部