2018/01/05(金) - 16:49
ピナレロの誇る最高のフラッグシップマシン、DOGMA。同社のラインアップの頂点に立つばかりでなく、レーシングバイク全体で見ても際立った性能を持つ一台として、世界中のサイクリストに認知されている特別なシリーズだ。DOGMAの歴史、そして残してきた戦績は先立って記した通り。
そして、その積み重ねてきた歴史の中で磨き抜かれてきた最新にして最高の一台がこのDOGMA F10だ。2017年モデルとして、南イタリアのシチリア島にてベールを脱いだモンスターマシンは、瞬く間にツール・ド・フランス、ブエルタ・ア・エスパーニャという2つのグランツールを制し、その実力を示して見せた。
全世界でピナレロ、その中でもこのDOGMAシリーズにのみ使用することを許された最先端のカーボンマテリアル”T1100G Nanoalloy"によって形作られたフレームは、前作F8の形状をベースとしつつ、TTバイク”BOLIDE”の設計要素をマッシュアップすることで、空力性能を向上しているのが大きな特徴だ。
最も目を引くのは、上部にくぼみを設けられボトルケージが半ば埋め込まれるようなデザインとなった”Concave(=凹み)Down Tube”だろう。ボトルとダウンチューブのクリアランスを小さくすることで乱流の発生を最小限に抑え、フロントフォークからのエアフロ―を整える役目を果たす。
もう一つ、F8と明らかに異なるのがフロントフォーク先端に設けられたフィンだ。”フォークフラップ”と名付けられたこの造形は、ブラッドレー・ウィギンスがアワーレコードを獲得した際に使用した専用マシン”BOLIDE-HR”にて採用されたテクノロジー。一滴の無駄も許されない究極の効率を求めたスペシャルマシンのDNAを受け継ぎつつ、ロードレーサーとして最適化された形状へと進化している。これらのエアロダイナミクステクノロジーによって、F8に対して-12.6%ものドラッグ低減を果たした。
そして、完璧とも言われるバランスを持った先代を超えるため、ピナレロの技術陣はコンマ数mm単位でのカーボンレイアップの最適化や、熱処理方法の改善によるレジン使用量の削減といった極限の改善を積み重ねることで更なる性能向上を果たした。具体的な数値で表すならば、F8から重量は6.8%削減する一方で剛性は7%向上している。更に、ピナレロバイクのエッセンスともなった左右非対称設計”ThinkAsynmetic”もさらに推し進められ、徹底的に左右バランスの均等化を図った。
これらのテクノロジ―を与えられ、更なる進化を果たしたDOGMA F10だが、2018年モデルには新たに2つのバリエーションが加わった。一つはコストを度外視し、限界まで軽量化を果たした”F10 Xlight"、もう一つが押し寄せるディスクブレーキロードというムーブメントに応える”F10 Disk"だ。
DOGMA F10 Xlightは今年のツール・ド・フランスにて、勝負を決める山岳ステージでクリストファー・フルームを筆頭に限られたメンバーにのみ使用することが許されたヒルクライム用のスペシャルライトウェイトモデル。フレーム形状はF10そのままだが、カーボンプリプレグのレジン含有量をさらに引き下げると同時にレイアップスケジュールを新規設計することによって、可能な限り軽量性を追い求めた。
製造に際してはより細やかな作業が求められることとなり、このバイクのために新たな専用モールドと更なる精密さで制御される成型プロセスを採用することで、フレーム重量760g(未塗装、サイズ53)と通常のDOGMA F10比で60gの軽量化を遂げ、歴代DOGMAシリーズの中でも最軽量モデルとして完成した。
一方で、DOGMA F10 Diskはその名の通り、オリジナルモデルのF10が持つ走行性能をそのままに、コントロール性に優れつつ雨天時などでも安定感のあるブレーキ性能をもつディスクブレーキを搭載したモデルだ。ディスクブレーキ台座によって少し形状は異なるもののフォークフラップも採用されるなど、こちらもF10の基本的な設計は受け継いでいる。
ディスクブレーキ周辺の仕様については、現在スタンダードとなりつつあるフラットマウント台座および、前後12mmスルーアクスルというスペックを採用。オーソドックスな仕様となり、規格的にも長い期間愛用し続けることができるだろう設計となっている。
オリジナルモデルとなるDOGMA F10、更なる走りの軽さを目指したF10 Xlight、最先端のトレンドを反映したF10 Disk。当代きってのレーシングバイクに加わったバリエーションの持つ本当の意味と価値に迫るインプレッションをお届けしよう。テストライドを担当してくれたのは、ピナレロ歴代モデルにも精通する上萩泰司さん(カミハギサイクル)と小西裕介さん(なるしまフレンド)だ。
3つのDOGMA F10シリーズが持つ素顔に迫る徹底インプレッション
DOGMA F10 最もオールラウンドでバランスに優れるオリジナルモデル
上萩:F10シリーズは、オリジナルのF10も含めて初めてしっかりと乗り込む機会となったのですが、面白いですね。ベーシックでオールラウンドレーサーのF10、より研ぎ澄まされた切れ味のF10 Xlight、どんなコンディションでも対応するタフさが加わったF10 Diskと、どのモデルもしっかりと個性が出ていて、わかりやすい性格が与えられているように感じました。小西:自分は現在F10をメインバイクとしているのですが、今回加わった2モデルも絶対的な走行性能という面では、フラッグシップモデルとして太鼓判を押せるのは間違いない。その中で、方向性がしっかりと演出されているので、乗り手がどういったイメージで走らせるのかという目的に、ぴったりフィットするように細分化されています。
上萩:3モデルが揃うなかで、一番オールラウンドでバランスが取れているのはノーマルのF10ですね。シルエットや各チューブの形状を見るとエアロロードらしい印象を受けるのですが、実際走ってみればヒルクライムも速いですし、見た目通り平地も下りも得意。あらゆるシチュエーションでソツがなく、と言うと無難にこなすようなイメージになってしまいますが、どれをとってもトップレベルで良く走る。真のオールラウンダーです。
小西:メカニック目線で見ても、とてもベーシックなバイクなんですよ。今、僕がメインバイクとしている理由もそこにあって、奇をてらわないノーマルなブレーキキャリパーやトラディショナルなスレッド式のボトムブラケットなど、汎用的な規格を採用している部分に魅力を感じましたね。
かつ、エアロロードとしての側面もありつつも、極端な設計になっていないところに好感を持ちました。確かにヒルクライムもしっかりこなせるという評価がつくエアロロードも市場に増えてきています。しかし、あくまでどれも「エアロロードとしては」という前置きが必要なレベルで、優れたオールラウンドレーサーと比べてしまうと、やはりスプリントでは反応が遅かったり、ヒルクライムは苦手だったりするものが多いと感じています。
F10は特殊なギミックがあるわけでもなく、エアロロードとしては大人しめですが、実際に乗ってみると最先端のエアロロードと比肩しうるエアロ効果を感じます。それでいて、ヒルクライムやスプリント性能はトップレベルにある。
上萩:前作のF8も非常に良くまとまっていて、とてもバランスのいいバイクだと思っていましたが、F10は明らかに進化していますね。さらに洗練された走りを身に着けて、全体的な完成度がさらに増しています。
エアロロードでもあるので、ディープリムを組み合わせたがる人も多いでしょうけれど、今回のインプレッションで使用したレーシングゼロのようなローハイトのオールラウンド系アルミホイールでも良くマッチしています。ルックスももちろんですし、走りもキレがある。BB規格もスレッド式イタリアンを固持しているというのは正直言って時代遅れだなと思ったこともありますが、乗れば考えが変わります。少なくとも剛性面で不満を感じることは絶対に無いでしょう。
小西:圧入BBでフレーム幅を広げてしまえば、剛性を出しやすいのは確かなのですが、そこをあえて扱いやすさやメンテナンス性能との兼ね合いでスレッド式イタリアンという規格にこだわりつつも、非の打ち所がない性能に仕上げてきているのは、流石というほかありません。
そういったところでトラディショナルなものを大切にしているのかと思いきや、Di2のジャンクションをダウンチューブに搭載する"eLink”システムのような先進的なテクノロジーを惜しみなく搭載しているのも、またピナレロらしい。ステム下に設置するのはスマートでないですし、これなら乗車しながら操作するのもかなり容易になっています。
上萩:時代の流れでもありますが、インテグレートされているのは、カッコいいですよね。BBにトラディショナルな規格を採用するのも、eLinkのようなインテグレートされたデザインも、ユーザー体験を第一にしているからでしょう。一つ言えるのは、一度でも乗ってしまったら、絶対欲しくなるということ。だから、ちょっとお財布が厳しい人は乗らない方がいいかもしれない(笑)。
小西:所有欲は絶対にくすぐられますね。ファウスト・ピナレロも「速くてもカッコいいバイクじゃないとダメなんだ」ということを言っていましたけれど、やっぱり性能だけじゃポンとお金を出せないじゃないですか。F10は速いし、注目を集めるオーラもある。
上萩:あとは、細かいことになるんですが前作に比べて少しスローピングが強くなって、シートピラーの出しろが大きくなった。8mmくらいトップチューブが下がって、日本人でもカッコいいシルエットでセッティングが出しやすくなったのは個人的には嬉しいポイントでしたね。
60gが生み出した予想以上の切れ味 F10 Xlight
小西:正直、Xlightについては全方位に優れた性能を持っていたオリジナルのF10から60g軽くなって、20万円のプライスアップとなったと聞いて、『一体どこにそんな差が生まれるんだ』と思ったのが乗る前のイメージでした。でも、今回初めて実機に乗ってびっくりしましたね。F10と同形状で同じマテリアルを使いながら、ここまで走りが軽くなるのか!と。F10のバランスの取れた乗り味は、もうこれ以上のものはないだろうと感じさせるほどでしたが、X Lightの軽やかさはその上をいきますね。
上萩:F10をベースに、更なるレーシングなチューンを施したスペシャルな一台ですよね。60gの軽量化に20万円というのが妥当な金額かは別として、明らかな走りの違いは存在します。よりシャープで鮮烈な軽さと反応をするバイクになっています。レース性能に全てを捧げた一台に仕上がっている。
小西:そう、もう一踏み目から漕ぎの軽さを感じます。ゼロ発進だけでなく、高速域からの加速でも軽い。こんな全速度域で軽いバイクというのはなかなかお目にかかれません。カーボンのレイアップを変更するだけで、ここまで違う世界を作り出せるのかと思うと感動すら覚えますね。60gという数字以上の鋭さを得ています。
逆に言えばレーシングに振った味付けなので、乗り手を選ぶ側面はあるかもしれません。オリジナルのF10以上の軽さ、究極のキレ味を持ったバイクが欲しい、DOGMAをヒルクライムで使いたいという方はXlightを検討してもよいと思います。一方で、オリジナルのF10の方が良いと感じる面もあります。
上萩:そうですね、クイックなフィーリングはロングライドだと疲れにつながることもあります。不安になるようなヒラヒラとした走りではないのですが、オリジナルのF10の方が、バランスが良く扱いやすい性格ではありますね。まさしく「ピュアレーシング」という言葉がぴったりなスペシャルバイクがXlightと言えるでしょう。
エンデュランスレーサーを凌駕する安定感が際立つF10 Disk
上萩:Xlightがレーシングに振る一方で、F10Diskはまた違う方向へしっかり性格が分けられているのが面白いですよね。個人的にはとても好きな乗り味です。一言で言っちゃうと、グランツーリングスポーツモデルですね。とても安定感のあるフィーリングで、僕みたいなちょっと年配のライダーが、いいバイクでしっかり長距離を楽しく走りたいというのに、最高にマッチしてくれる。とにかく速く!勝つために!という雰囲気じゃなくて、もっとラグジュアリーな感覚に包まれるような、余裕を感じさせる一台です。剛性面ではF10同様しっかりとしていますし、ホイールはスルーアクスル仕様なので、より一体感があるのですが、どこかマイルドな印象で最高に乗り心地が良い。
ディスクブレーキモデルというと、スルーアクスル化やブレーキ台座周辺の剛性強化の影響で、乗り心地が硬くなるバイクばかりだったので、正直F10 Diskのマイルドな演出にはかなり驚かされました。いい意味で裏切られましたね。
小西:ディスクローターやスルーアクスルによって重量が増しているのもあって、オリジナルのF10やXlightに比べると、少し重さを感じるのは否めません。個人的には、レーシングモデルであるF10シリーズという扱いでなくてもいいのではないか、と感じるほどコンフォート性能に優れたバイクでした。
正直、エンデュランスレーサーのK10 Diskですと言われても、きっと納得して絶賛していたでしょう。ある意味、カテゴライズやネーミングについては違和感もありますが、バイク自体の性能を純粋に評価するのであれば、とても優れたグランフォンドバイクというところでしょうか。
上萩:このF10 Diskの乗り味は、大多数のホビーサイクリストの使い方に対してはXlightよりもフィットする方向性だと思います。でも、日本だとどうしてもレーシングモデルが最上で、エンデュランスモデルはちょっと格下のような扱いをする、ちょっと見栄っ張りな風潮があることは否めない。そういう意味ではこのバイクがK10 Diskじゃなく、F10 Diskとしてリリースされたのは、見栄と性能の良いとこどりが出来て嬉しいという人も多いでしょう。
小西:確かにそういう考え方もありますね。先ほどのXlightもそうですが、ほぼ同じ形状、同じ材質でありながらディスクブレーキ化するだけで、これほど性格が変わるというのは本当に興味深くて、面白い。逆に言えば、ユーザー側も似て非なるバイクなのだという認識を持って選んだ方がいいとは思います。
上萩:そう、3車種がそれぞれ異なる世界を持っていて、得意なフィールドがそれぞれ違うというのは、しっかりと把握していた方がいいでしょうね。とはいえ、迷っているのならば、トータルバランスに優れたオリジナルのF10を選んでおけばまず間違いはないと思います。本当に懐の広いバイクですから、レースからツーリングまで最高のライド体験を与えてくれるでしょう。
小西:確かにオリジナルのF10で不満が出る人というのは、かなり限られた人ではあると思います。とはいえ、究極の軽さやレーシング性能を求めるのであれば、Xlightは検討に値する一台となるでしょう。「60g・20万円」という差を妥当だと感じるのであれば、ぜひチャレンジしてほしいですね。
上萩:一方で、ロングライドに重きを置く人にはF10 Diskが向いているでしょうね。オリジナルモデルより安定志向でストレスフリーなラグジュアリーバイク、しかもディスクブレーキでオールウェザーに対応するのは大きなメリットです。とにかく上質な走りを楽しみたいというオトナにオススメの一台です。
インプレッションライダープロフィール
上萩泰司(カミハギサイクル )
愛知県下に3店舗を展開するカミハギサイクルの代表取締役を務める。20年以上のショップ歴を持つベテラン店長だ。ロードバイクのみならず、MTBやシクロクロスなど様々な自転車の楽しみ方をエンジョイしている。中でも最近はトライアスロンに没頭しているとのことで、フランクフルトのアイアンマンレースで完走するなど、その走力は折り紙つき。ショップのテーマは"RIDE with Us"。お客さんと共に自転車を楽しむことができるお店づくりがモットー。
CWレコメンドショップページ
カミハギサイクル
小西裕介(なるしまフレンド)
なるしまフレンド神宮店メカニックチーフ。長年実業団登録選手として活躍し、国内トップレベルのレーサーとしてホビーレースで数多くの優勝経験を持つ。レース歴は20年以上に及び走れるスタッフとして信頼を集めながらも、メカニックの知識も豊富で走りからメカまで幅広いアドバイスをお客さんに提供する。脚質はサーキットコースを得意とするスピードマンだ。
CWレコメンドショップページ
なるしまフレンド
ピナレロ DOGMA F10
サイズ | 42、44、46.5、47、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5、62 |
カラー | 167 Black LAVA、166 Red MAGMA、905 Team Sky、170 BOB、165 Sideral White、168 Sulfur Yellow、169 Asteroid Red、906 Team WIGGINS、909 RHINO 2017 |
価格 | 680,000円(税抜、スタンダードカラー)、760,000円(税抜、MY WAYカラー) |
ピナレロ DOGMA F10 DISK
サイズ | 44、46.5、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5、62 |
カラー | 915/MARS ORANGE、916/BLACK LAVA、917/BOB、918/RED MAGMA、920/TEAM SKY |
価格 | 700,000円(税抜、スタンダードカラー)、780,000円(税抜、MY WAYカラー) |
ピナレロ DOGMA F10 Xlight
サイズ | 42、44、46.5、47、50、51.5、53、54、55、56、57.5、59.5、62 |
カラー | 922/TEAM SKY、923/RED LINE、925/BLACK MATT、703/BOB、927/BLACK TDF RHINO、930/BLACK TDF |
価格 | 900,000円(税抜) |
※全て2018年2月1日からの新価格表記
提供:ピナレロジャパン 制作:シクロワイアード編集部