2017/08/24(木) - 16:06
日本のマーケットも意識した小さいサイズをラインナップする、レーシングスペックのシクロクロスバイクを世に送り出すプロダクトエンジニアとデザイナーにインタビュー。そしてスーパープレスティージュ開催コースで行われたテストライドのインプレッションをお届けします。
― カーボンバイク開発に至った経緯は?
これまでキャニオンにはアルミ製のINFLITEはありましたが、例えばUCIワールドカップで戦えるようなシクロクロスバイクがなかった。リアルなシクロクロスを作りたいという思いがスタッフの中に常にありました。単純に既存のINFLITEをそのままカーボン化するのではなく、ゼロから作りたかった。様々なラインナップの中で唯一欠けていたのがこのコンペティティブな(競技用の)シクロクロスだったんです。
― エンジニアとして最も大きなチャレンジだったのは?
ロードバイクとは全く異なる作り方だったことです。単純にロードバイクのタイヤクリアランスを大きくしてホイールベースを伸ばしたようなバイクでは決してありません。このバイクで障害物を飛び越えることもあれば、飛び降りたり飛び乗ったり、持ち上げたり担いだりと、全く異なるシチュエーションを想定した耐久性が必要。そのためにジオメトリーだけでなくカーボンの積層など何から何までゼロから設計を行い、様々なテストを行いました。決して簡単ではないチャレンジでした。
― マウンテンバイクの経験も生きたのでは?
確かに短めのステムなど、完成車のアッセンブルに関してはマウンテンバイクの経験が生きた点もあると思います。でもシクロクロスバイクには守るべき様々な独特のUCIルールがあって、マウンテンバイクの要素をそこまで多く注入することはできなかった。
― いわゆるグラベルバイクとの線引きは?
間違いなく言えるのは、これはグラベルバイクではなく、競技用のシクロクロスバイクであるということです。将来的にグラベルバイクをラインナップに加える可能性もありますが、ジオメトリーは全く異なるものになるでしょう。未舗装路を長時間走り続けるバイクという意味合いではエンデュレースのほうが近い。
― 特徴的なフレームデザインが生まれたきっかけは?
このシートチューブ接合部には様々な要素が詰まっています。この特徴的なデザインは、前三角に大きなスペースを作るためであるのと同時に、シートポストの露出部を伸ばすことで柔軟性を向上。同時にUCIルールにも適合しなければなりません。そしてシートクランプを内側に配置することで上部からの水や泥の侵入を防いでいます。縦に柔軟性のあるシートステーをもつフレームと低い空気圧のタイヤで十分に振動を吸収してしまうので、余計な重さが増えるVCLSシートポストは必要ありませんでした。
― 小さいサイズは日本のマーケットに歓迎されると思います
多くの日本のライダーに受け入れてもらえることを願っています。今まではどうしてもMサイズのジオメトリーにフォーカスしがちだったので、身長の低いライダーがどんな印象を持っているのか分かりづらかった。Mサイズをそのまま小さくしただけで同じフィーリングが生まれるわけがない。小さいサイズにも同じ味付けをするために、ホイール径やクランク長、ローター径を小さくするのは自然な判断でした。フレームサイズに応じたパーツ構成です。
― 挑戦的なデザインのフレームが生まれた経緯について
ひと目でキャニオンだと分かるようなバイクを作りたかった。デザインは他ブランドと争う分野ではなく、他との差別化を図ることが重要。ペイントのデザインを見てパッと目につくだけでなく、目指したのは仮にペイントが真っ黒でもキャニオンだと判別できるようなフレーム。他ブランドとの違いだけでなく、ロードバイクとマウンテンバイクとも全く違うバイクであることが瞬時に分かる見た目にしたかった。
シクロクロスはヨーロッパの伝統的な競技。そんな伝統を重んじる世界において、確かにこのデザインには賛否両論があるかもしれませんが、コンペティティブなバイク市場に飛び込むにあたって、誰の目にも明らかな先進的なバイクを投入する必要があったんです。
― 機能性とデザイン性の両立は難しかったのでは?
最初からチームとしてエンジニアとデザイナーが密接に関わりながら、もはやその境界がないような一つのユニットとしてプロジェクトを進めました。自分はエンジニアリングの知識もあるので、「こうすれば機能的に良い」というエンジニア側の意見と「こうすればデザイン的に良い」というデザイナーの意見がぶつかり合うことなく、双方に折り合いをつけながら形状や素材を決めていきました。
― 斬新でありながら、よく見ると細部はシンプルです
例えばこのステム一体型のインテグレートハンドルは機能的にもデザイン的にも優れています。見た目が良くて、空力性能も良く、接合部のボルトが少なく、「ウィン=ウィン」なプロダクト。フォークコラムへの固定ボルトも横ではなく後ろについており、より低い位置で固定できる利点もあります。
これはハンドルだけに言えることではありませんが、シンプルにすることを目指しました。BBの後方やフォークなど、徹底的に泥が付着しやすい箇所を減らしています。バイクは美しい乗り物です。余計なものを追加していくのではなく、自分の身体の反応を感じながらライドに集中できるようにバイクはシンプルであるべきです。
コースはダイナミックな登りと下り、そしてテクニカルなシングルトラックが組み合わされたもの。雨によって部分的に泥も浮き出ているが、路面の90%は砂地。海岸線から100km以上離れている内陸にもかかわらず森の中は砂に覆われている。
位置が上がったトップチューブの恩恵は大きい。ライダーが直立した状態で手を伸ばせば、膝や腰を曲げずともトップチューブが手のひらに収まる位置に来る。大きく取られた前三角はなるほど腕を通しやすく、バーエンドを握ってフレームを引き寄せた状態のフィット感も良い。
斜めにデザインされたトップチューブとシートチューブの接合部(クランプが内装されている部分)は肩に乗せやすいイメージだが、実際に担いでバイクを安定させるならば前三角の前方に肩がくるので、斜め部分が肩に干渉することはない。
プロダクトマネージャーを担うジュリアン・ビーファン氏の「世界のトップシーンで戦うためのバイクを作りたかった」という言葉通りハンドリングはクイックで、レース向きのアグレッシブさが特徴。言わずもがな強固なヘッドとフォーク周りが狙ったラインにフロントホイールを導いていく。リアの三角は剛性の中にも上下左右にしなやかさを感じるもので、悪路でのトラクションのかけやすさを優先している印象を受ける。
幸いなことに、身長170cmの自分は、XS(ホイール700C)だけでなく2XS(ホイール650B)をテストする機会を得た。低身長のライダーが少なかったため、フィードバックを得たいエンジニアたちが周りに集まってくる。3XSと2XSは女性ライダーのテストを含めてジオメトリーを煮詰めたという。
乗り出してすぐに分かる、650Bがもたらすレスポンスの良いハンドリング&加速を伴う走行感。小さいのにバランスが取れている。700Cを装着した小さいサイズのフレームにありがちな眠たいハンドリングが皆無だった。700CのXSと比べると安定感は欠くが、アグレッシブにコーナーを攻め、コーナーの出口で加速していく感触が心地よい。確かに唯一の欠点としてタイヤやホイールの選択肢は限られるものの、デフォルトの足回りでひとまず全て事足りると思われる。
そしてすべてのテストライドを終えてからバイクを眺めると、駆動部分を除いてフレームには砂も泥もついていない。BBの後ろ、チェーンステーの接合部に少しぐらい砂が積もっていてもおかしくないが、つるんとしたデザインが砂に乗る余地を与えていない。泥々のシチュエーションで試す機会はなかったが、泥への耐性の高さも容易に想像できる。
契約の関係で明言は避けていたが、チームの契約が切り替わる2018年1月からトップ選手への供給も予定されているという。すべての体格に合わせてデザインされ、キャニオンが2年半かけて開発したレーシングスペックのシクロクロスバイクが誕生した。
「多くの日本人ライダーに受け入れてもらえることを願っている」
ルーカス・シューフニック(プロダクトエンジニア)
― カーボンバイク開発に至った経緯は?
これまでキャニオンにはアルミ製のINFLITEはありましたが、例えばUCIワールドカップで戦えるようなシクロクロスバイクがなかった。リアルなシクロクロスを作りたいという思いがスタッフの中に常にありました。単純に既存のINFLITEをそのままカーボン化するのではなく、ゼロから作りたかった。様々なラインナップの中で唯一欠けていたのがこのコンペティティブな(競技用の)シクロクロスだったんです。
― エンジニアとして最も大きなチャレンジだったのは?
ロードバイクとは全く異なる作り方だったことです。単純にロードバイクのタイヤクリアランスを大きくしてホイールベースを伸ばしたようなバイクでは決してありません。このバイクで障害物を飛び越えることもあれば、飛び降りたり飛び乗ったり、持ち上げたり担いだりと、全く異なるシチュエーションを想定した耐久性が必要。そのためにジオメトリーだけでなくカーボンの積層など何から何までゼロから設計を行い、様々なテストを行いました。決して簡単ではないチャレンジでした。
― マウンテンバイクの経験も生きたのでは?
確かに短めのステムなど、完成車のアッセンブルに関してはマウンテンバイクの経験が生きた点もあると思います。でもシクロクロスバイクには守るべき様々な独特のUCIルールがあって、マウンテンバイクの要素をそこまで多く注入することはできなかった。
― いわゆるグラベルバイクとの線引きは?
間違いなく言えるのは、これはグラベルバイクではなく、競技用のシクロクロスバイクであるということです。将来的にグラベルバイクをラインナップに加える可能性もありますが、ジオメトリーは全く異なるものになるでしょう。未舗装路を長時間走り続けるバイクという意味合いではエンデュレースのほうが近い。
― 特徴的なフレームデザインが生まれたきっかけは?
このシートチューブ接合部には様々な要素が詰まっています。この特徴的なデザインは、前三角に大きなスペースを作るためであるのと同時に、シートポストの露出部を伸ばすことで柔軟性を向上。同時にUCIルールにも適合しなければなりません。そしてシートクランプを内側に配置することで上部からの水や泥の侵入を防いでいます。縦に柔軟性のあるシートステーをもつフレームと低い空気圧のタイヤで十分に振動を吸収してしまうので、余計な重さが増えるVCLSシートポストは必要ありませんでした。
― 小さいサイズは日本のマーケットに歓迎されると思います
多くの日本のライダーに受け入れてもらえることを願っています。今まではどうしてもMサイズのジオメトリーにフォーカスしがちだったので、身長の低いライダーがどんな印象を持っているのか分かりづらかった。Mサイズをそのまま小さくしただけで同じフィーリングが生まれるわけがない。小さいサイズにも同じ味付けをするために、ホイール径やクランク長、ローター径を小さくするのは自然な判断でした。フレームサイズに応じたパーツ構成です。
「ひと目でキャニオンだと分かるようなバイクを作りたかった」
ラルス・ワグナー(インダストリアルデザイナー)
― 挑戦的なデザインのフレームが生まれた経緯について
ひと目でキャニオンだと分かるようなバイクを作りたかった。デザインは他ブランドと争う分野ではなく、他との差別化を図ることが重要。ペイントのデザインを見てパッと目につくだけでなく、目指したのは仮にペイントが真っ黒でもキャニオンだと判別できるようなフレーム。他ブランドとの違いだけでなく、ロードバイクとマウンテンバイクとも全く違うバイクであることが瞬時に分かる見た目にしたかった。
シクロクロスはヨーロッパの伝統的な競技。そんな伝統を重んじる世界において、確かにこのデザインには賛否両論があるかもしれませんが、コンペティティブなバイク市場に飛び込むにあたって、誰の目にも明らかな先進的なバイクを投入する必要があったんです。
― 機能性とデザイン性の両立は難しかったのでは?
最初からチームとしてエンジニアとデザイナーが密接に関わりながら、もはやその境界がないような一つのユニットとしてプロジェクトを進めました。自分はエンジニアリングの知識もあるので、「こうすれば機能的に良い」というエンジニア側の意見と「こうすればデザイン的に良い」というデザイナーの意見がぶつかり合うことなく、双方に折り合いをつけながら形状や素材を決めていきました。
― 斬新でありながら、よく見ると細部はシンプルです
例えばこのステム一体型のインテグレートハンドルは機能的にもデザイン的にも優れています。見た目が良くて、空力性能も良く、接合部のボルトが少なく、「ウィン=ウィン」なプロダクト。フォークコラムへの固定ボルトも横ではなく後ろについており、より低い位置で固定できる利点もあります。
これはハンドルだけに言えることではありませんが、シンプルにすることを目指しました。BBの後方やフォークなど、徹底的に泥が付着しやすい箇所を減らしています。バイクは美しい乗り物です。余計なものを追加していくのではなく、自分の身体の反応を感じながらライドに集中できるようにバイクはシンプルであるべきです。
スーパープレスティージュの難コースでテストライド
前ページでお伝えした通り、スーパープレスティージュの一戦が開催されるゾンホーフェンの周回コースで徹底的にバイクを試す機会を得た。ライド前のワッフルとチョコレート、そしてライド後のフリット(フライドポテト)とベルギービールももちろん用意され、万全の体制(?)でジャーナリストたちが雨のコースに繰り出していく。コースはダイナミックな登りと下り、そしてテクニカルなシングルトラックが組み合わされたもの。雨によって部分的に泥も浮き出ているが、路面の90%は砂地。海岸線から100km以上離れている内陸にもかかわらず森の中は砂に覆われている。
位置が上がったトップチューブの恩恵は大きい。ライダーが直立した状態で手を伸ばせば、膝や腰を曲げずともトップチューブが手のひらに収まる位置に来る。大きく取られた前三角はなるほど腕を通しやすく、バーエンドを握ってフレームを引き寄せた状態のフィット感も良い。
斜めにデザインされたトップチューブとシートチューブの接合部(クランプが内装されている部分)は肩に乗せやすいイメージだが、実際に担いでバイクを安定させるならば前三角の前方に肩がくるので、斜め部分が肩に干渉することはない。
プロダクトマネージャーを担うジュリアン・ビーファン氏の「世界のトップシーンで戦うためのバイクを作りたかった」という言葉通りハンドリングはクイックで、レース向きのアグレッシブさが特徴。言わずもがな強固なヘッドとフォーク周りが狙ったラインにフロントホイールを導いていく。リアの三角は剛性の中にも上下左右にしなやかさを感じるもので、悪路でのトラクションのかけやすさを優先している印象を受ける。
幸いなことに、身長170cmの自分は、XS(ホイール700C)だけでなく2XS(ホイール650B)をテストする機会を得た。低身長のライダーが少なかったため、フィードバックを得たいエンジニアたちが周りに集まってくる。3XSと2XSは女性ライダーのテストを含めてジオメトリーを煮詰めたという。
乗り出してすぐに分かる、650Bがもたらすレスポンスの良いハンドリング&加速を伴う走行感。小さいのにバランスが取れている。700Cを装着した小さいサイズのフレームにありがちな眠たいハンドリングが皆無だった。700CのXSと比べると安定感は欠くが、アグレッシブにコーナーを攻め、コーナーの出口で加速していく感触が心地よい。確かに唯一の欠点としてタイヤやホイールの選択肢は限られるものの、デフォルトの足回りでひとまず全て事足りると思われる。
そしてすべてのテストライドを終えてからバイクを眺めると、駆動部分を除いてフレームには砂も泥もついていない。BBの後ろ、チェーンステーの接合部に少しぐらい砂が積もっていてもおかしくないが、つるんとしたデザインが砂に乗る余地を与えていない。泥々のシチュエーションで試す機会はなかったが、泥への耐性の高さも容易に想像できる。
契約の関係で明言は避けていたが、チームの契約が切り替わる2018年1月からトップ選手への供給も予定されているという。すべての体格に合わせてデザインされ、キャニオンが2年半かけて開発したレーシングスペックのシクロクロスバイクが誕生した。
text:Kei Tsuji photo:Kei Tsuji, René Zieger
提供:キャニオン・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部
提供:キャニオン・ジャパン 制作:シクロワイアード編集部