2017/08/07(月) - 12:05
新型Émonda SLR Discのテストとして充てがわれた時間はほぼ1日半、およそ130km。アップダウンに富むワインディングコースで試乗を通し、Émonda SLR Discの魅力、そしてその本質に迫っていきたい。
Émondaの真骨頂であろう長いヒルクライムこそ無いのが残念だが、緩やかかつ時々勾配を増す斜面が続くワインディングロードには一切の信号がなく、まさに格好のテストフィールド。昨年引退し、今はトレックのアンバサダーを務めるドイツのレジェンド、イェンス・フォイクト氏(ドイツ)が集団を引っ張ってくれる。
試乗車として充てがわれたのは、54サイズのÉmonda SLR Disc(H2ジオメトリー)にシマノR9170系DURA-ACE Di2とボントレガーAeolus 3 TLR D3 Discホイールを搭載した、現在考え得る最新最強のパーツ構成で組み上げられたバイク。当然、手に持ってみると非常に軽い。計りが無かったので厳密な数値は知りえないが、UCIレギュレーションの6.8kgを超えるか超えないか、という程度であり、この時点で従来ディスクブレーキのネックだった重量面の課題は軽くクリアしてしまっている。公表されたフレーム重量も56サイズで665gだが、一つサイズが小さいので数十グラムは軽いだろう。チューブレス仕様にセットされた28cのR3 TLRを6barに調整して、およそ20名ほどのジャーナリストグループがスタートを切った。
ペダルを回してすぐに気づいたことは、ディスクロードとは思えないほどの振りの軽さと、加速の鋭さ。一般論としてアンダー700gの軽量バイクは挙動やフレームの質感などどこかしらに危うさを秘めている(それでも5年前とは格段に進歩しているが)ものだが、このÉmondaにはそれを感じない。キャリパーブレーキの先代よりも軽くなっているのに、むしろ全体的な剛性感は上がっているのだ。これはどうやら、とんでもないバイクが現れてしまったようだ、と思い知らされる。
しかしその考えは浅はかだった。トレックにとって先代Émondaの走りはゴールではなく、ただの通過点にしか過ぎなかったのだ。新型Émondaでは特に加速力の向上が顕著で、どこから、どんな踏み方をしてもよどみなくスピードが乗っていく。先代はBB周辺のソフトな挙動ゆえ、上手く加速に繋げるために少しだけ「スイートスポット」を探した方がベターだった(慣れの範疇程度だ)が、新型ではソリッド感が増しているので、よりニュートラルで、かつすぐにバイクが反応するようになった。前に出て行くフィーリングは先代を大きく凌駕している。
硬くなったとはいえ、踏み心地はゴリゴリのマッスル系ではない。フォークからリアバックまで一体感を伴いながら僅かな横方向へのしなりがあり、BB付近でその振れ幅は一番大きくなる。カチッとしていて、ここに持ち前の軽さが加わることでダンシングの振りが軽快、かつ大パワーへの対応力も増しているので、アルベルト・コンタドール(スペイン)のようなクライマーはもちろん、ファビオ・フェッリーネ(イタリア)のようなパンチャーにもベクトルが向いたように思う。
私はロードレースには参加しておらず、スペアホイールが無い問題も関係ないので、ディスクブレーキには賛成派。特に悪コンディション下での有効性、例えば濡れた長い下りでも制動力が変わらなかったり、コントローラブル、通じて楽であることはシクロクロスで嫌というほど分かっている。ただしディスクロードに関して言えば、現在市場にあるもののほとんどが左右バランスに差があったり、フレーム末端部の硬さが目立つといったデメリットを感じて好きになれなかった。
それがÉmondaではどうだ。R9170系DURA-ACE Di2の進化にも助けられているのだろうが、ダンシングの振りやハンドリングの左右差は、100%ではないにしろほぼ払拭されている。若干フロントフォークの硬さはあるが、弾かれてしまうようなレベルでは無いのでご安心を。リアバックの快適性は先代から引き継がれていて、フロント側がコツンと伝える衝撃を、トンッといなしてくれる。コンフォートバイクのそれとは違うものの、軽さを追い求めたレースバイクとして見れば十分に乗りやすく、トレック独自のシートマストも仕事をしてくれていると感じる。
近年では「グラベルロード」という言葉はある程度知れ渡ったと思うし、筆者もロードバイクで未舗装路に入り込んだりすることもある。それでもアンダー700gのカーボンバイクで、それもハイスピードで小石がゴロゴロしている未舗装路を突破するだなんて流石に気が引けてしまうが、トレックのÉmondaに対する自信ゆえに、私はそんな体験をすることにもなった。
少なくとも40km/h以上出ている乾いた下りグラベル(結構恐怖だし、実際に海外メディアのライターはクラッシュしていた)では当然バイクは暴れるものの、28cタイヤと、それを飲み込んでもなお余裕のあるクリアランスのおかげで、よくラインを見極めていけば安定して走ることができた。Domaneのような地を這う安心感こそ感じないが、SLR Discのプロモーションムービーのような走りもあながちオーバーではないと思う(それでも跳ね石ダメージの恐怖とは対峙する必要があるが…)。
OCLVカーボンの番号も700と変わらず、ルックス上の大きな変化を伴わないモデルチェンジは、マーケティング的には地味かもしれない。しかしそれは先代の開発意図が今も古びていないことへの証明でもあるし、見た目が似通っているにも関わらず、大幅な性能向上を果たした部分に、黎明期からカーボンを研究し続けているトレックの技術力の高さを感じざるを得ない。
渡米前はDomaneに始まり、Madoneにも採用されたIsospeedテクノロジーを加えた「全部盛りロード」に姿を変えるんじゃなかろうか、とも考えていた。しかしÉmondaはÉmondaのままだったし、重量増を嫌ってフロントのブレーキホースを外装式にするなど、あくまで軽量バイクであることを突き詰め、トレックロード三種の神器が掲げる「Choose your weapon」たるコンセプトをより明確に、そして強固にしてきた。
そしてディスクロードというジャンルにおいては、Émondaが新たな時代を切り開いたと考えている。重量問題を軽く克服したことはもちろん、走りにおいてもリムブレーキと何ら遜色はないし、これによってディスクブレーキ本来のメリットがより活きてくる。R9170系DURA-ACEや、R8170系ULTEGRAが発表された今こそディスクロードの「本当の買い時」であるし、これだけの性能を有したÉmonda SLR Discは、これから他社にとってのベンチマークに坐るだろう。
試乗中に欠点という欠点は見つけられなかったが、強いて言えば切れ味がシャープになったことで、先代の乗り味の個性が若干薄まったことくらい。価格的にもヨーロピアンブランドと比較すれば常識的な範疇で、市場での価値はより際立って見える。
惜しむらくはリムブレーキモデルの試乗が叶わなかったことだが、そんなことを忘れるくらい、Émonda SLR Discのポテンシャルは感動ですらあった。ディスクロードに新時代を告げる、エポックメイキングな一台を是非試して欲しいと思う。
2日間、130km。いざÉmonda SLR Discのテストライドへ
2日間に渡って与えられたテストの機会。初日はプレゼンテーションが開催されたウォータールーのトレック本社からホテルまで、そして2日目は朝からバスで移動し、山中のコテージを拠点に100kmほどのテストライドを行うことになった。Émondaの真骨頂であろう長いヒルクライムこそ無いのが残念だが、緩やかかつ時々勾配を増す斜面が続くワインディングロードには一切の信号がなく、まさに格好のテストフィールド。昨年引退し、今はトレックのアンバサダーを務めるドイツのレジェンド、イェンス・フォイクト氏(ドイツ)が集団を引っ張ってくれる。
試乗車として充てがわれたのは、54サイズのÉmonda SLR Disc(H2ジオメトリー)にシマノR9170系DURA-ACE Di2とボントレガーAeolus 3 TLR D3 Discホイールを搭載した、現在考え得る最新最強のパーツ構成で組み上げられたバイク。当然、手に持ってみると非常に軽い。計りが無かったので厳密な数値は知りえないが、UCIレギュレーションの6.8kgを超えるか超えないか、という程度であり、この時点で従来ディスクブレーキのネックだった重量面の課題は軽くクリアしてしまっている。公表されたフレーム重量も56サイズで665gだが、一つサイズが小さいので数十グラムは軽いだろう。チューブレス仕様にセットされた28cのR3 TLRを6barに調整して、およそ20名ほどのジャーナリストグループがスタートを切った。
ペダルを回してすぐに気づいたことは、ディスクロードとは思えないほどの振りの軽さと、加速の鋭さ。一般論としてアンダー700gの軽量バイクは挙動やフレームの質感などどこかしらに危うさを秘めている(それでも5年前とは格段に進歩しているが)ものだが、このÉmondaにはそれを感じない。キャリパーブレーキの先代よりも軽くなっているのに、むしろ全体的な剛性感は上がっているのだ。これはどうやら、とんでもないバイクが現れてしまったようだ、と思い知らされる。
先代Émondaを遥かに超える走り
渡米前には予習のためにトレック・ジャパンから先代Émonda SLRを1週間借り受けていた。しなりを効かせながらスピードを乗せていく感覚、登りでの軽快感などその走りは登場から3年が経った今でもトップクラスであり、正直に言えば、既に先代の時点で軽量バイクとしての性能限界に達しているので、どのように走りのフィーリングを変えてくるかに注目したい、と思っていた。しかしその考えは浅はかだった。トレックにとって先代Émondaの走りはゴールではなく、ただの通過点にしか過ぎなかったのだ。新型Émondaでは特に加速力の向上が顕著で、どこから、どんな踏み方をしてもよどみなくスピードが乗っていく。先代はBB周辺のソフトな挙動ゆえ、上手く加速に繋げるために少しだけ「スイートスポット」を探した方がベターだった(慣れの範疇程度だ)が、新型ではソリッド感が増しているので、よりニュートラルで、かつすぐにバイクが反応するようになった。前に出て行くフィーリングは先代を大きく凌駕している。
硬くなったとはいえ、踏み心地はゴリゴリのマッスル系ではない。フォークからリアバックまで一体感を伴いながら僅かな横方向へのしなりがあり、BB付近でその振れ幅は一番大きくなる。カチッとしていて、ここに持ち前の軽さが加わることでダンシングの振りが軽快、かつ大パワーへの対応力も増しているので、アルベルト・コンタドール(スペイン)のようなクライマーはもちろん、ファビオ・フェッリーネ(イタリア)のようなパンチャーにもベクトルが向いたように思う。
私はロードレースには参加しておらず、スペアホイールが無い問題も関係ないので、ディスクブレーキには賛成派。特に悪コンディション下での有効性、例えば濡れた長い下りでも制動力が変わらなかったり、コントローラブル、通じて楽であることはシクロクロスで嫌というほど分かっている。ただしディスクロードに関して言えば、現在市場にあるもののほとんどが左右バランスに差があったり、フレーム末端部の硬さが目立つといったデメリットを感じて好きになれなかった。
それがÉmondaではどうだ。R9170系DURA-ACE Di2の進化にも助けられているのだろうが、ダンシングの振りやハンドリングの左右差は、100%ではないにしろほぼ払拭されている。若干フロントフォークの硬さはあるが、弾かれてしまうようなレベルでは無いのでご安心を。リアバックの快適性は先代から引き継がれていて、フロント側がコツンと伝える衝撃を、トンッといなしてくれる。コンフォートバイクのそれとは違うものの、軽さを追い求めたレースバイクとして見れば十分に乗りやすく、トレック独自のシートマストも仕事をしてくれていると感じる。
近年では「グラベルロード」という言葉はある程度知れ渡ったと思うし、筆者もロードバイクで未舗装路に入り込んだりすることもある。それでもアンダー700gのカーボンバイクで、それもハイスピードで小石がゴロゴロしている未舗装路を突破するだなんて流石に気が引けてしまうが、トレックのÉmondaに対する自信ゆえに、私はそんな体験をすることにもなった。
少なくとも40km/h以上出ている乾いた下りグラベル(結構恐怖だし、実際に海外メディアのライターはクラッシュしていた)では当然バイクは暴れるものの、28cタイヤと、それを飲み込んでもなお余裕のあるクリアランスのおかげで、よくラインを見極めていけば安定して走ることができた。Domaneのような地を這う安心感こそ感じないが、SLR Discのプロモーションムービーのような走りもあながちオーバーではないと思う(それでも跳ね石ダメージの恐怖とは対峙する必要があるが…)。
ディスクロードの常識を覆し、新時代到来を告げる一台
いやはや、Émondaがここまでトータル性能を上げてくるとは思わなかった。先代のヒルクライム性能は3年間というモデルライフ中に知れ渡った事実だが、新型は1枚、もしくは2枚上回る実力を、シンプルなÉmonda然としたフォルムに落とし込んできた。OCLVカーボンの番号も700と変わらず、ルックス上の大きな変化を伴わないモデルチェンジは、マーケティング的には地味かもしれない。しかしそれは先代の開発意図が今も古びていないことへの証明でもあるし、見た目が似通っているにも関わらず、大幅な性能向上を果たした部分に、黎明期からカーボンを研究し続けているトレックの技術力の高さを感じざるを得ない。
渡米前はDomaneに始まり、Madoneにも採用されたIsospeedテクノロジーを加えた「全部盛りロード」に姿を変えるんじゃなかろうか、とも考えていた。しかしÉmondaはÉmondaのままだったし、重量増を嫌ってフロントのブレーキホースを外装式にするなど、あくまで軽量バイクであることを突き詰め、トレックロード三種の神器が掲げる「Choose your weapon」たるコンセプトをより明確に、そして強固にしてきた。
そしてディスクロードというジャンルにおいては、Émondaが新たな時代を切り開いたと考えている。重量問題を軽く克服したことはもちろん、走りにおいてもリムブレーキと何ら遜色はないし、これによってディスクブレーキ本来のメリットがより活きてくる。R9170系DURA-ACEや、R8170系ULTEGRAが発表された今こそディスクロードの「本当の買い時」であるし、これだけの性能を有したÉmonda SLR Discは、これから他社にとってのベンチマークに坐るだろう。
試乗中に欠点という欠点は見つけられなかったが、強いて言えば切れ味がシャープになったことで、先代の乗り味の個性が若干薄まったことくらい。価格的にもヨーロピアンブランドと比較すれば常識的な範疇で、市場での価値はより際立って見える。
惜しむらくはリムブレーキモデルの試乗が叶わなかったことだが、そんなことを忘れるくらい、Émonda SLR Discのポテンシャルは感動ですらあった。ディスクロードに新時代を告げる、エポックメイキングな一台を是非試して欲しいと思う。
提供:トレックジャパン text:So.Isobe