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午前中のプレゼンテーションでプロダクツの全貌を理解したら、さっそくテストライドだ。世界各国の「ライド重視」のメディアやディストリビューター約40人で2グループに分かれて走る。前もって伝えたマイサイズ「48」の新型シナプスが用意されていた。

テストライドで感じた新型シナプスの確かな進化

コモ湖の対岸からベラッジョへとフェリーで渡れば、マドンナ・デル・ギザッロ教会とイル・ロンバルディアの舞台だコモ湖の対岸からベラッジョへとフェリーで渡れば、マドンナ・デル・ギザッロ教会とイル・ロンバルディアの舞台だ (c)gruberimages
2日間に渡り走るエリアはミラノの北部のコモ湖周辺。サイクリストの守護聖人マドンナ・デル・ギザッロ教会が峠に建ち、イル・ロンバルディアの舞台となるソルマーノの壁など、サイクリストにとって神聖なる一帯だ。そしてロンバルディア地方の豊富なアップダウンはディスク&エンデュランスロードのテストにこれ以上ない好適地だろう。

標準装備だった30mmトップキャップ。2日目のライドは5mm厚のものに差し替えて乗った標準装備だった30mmトップキャップ。2日目のライドは5mm厚のものに差し替えて乗った じつはイタリア出発までの2週間を、キャノンデール・ジャパンに用意してもらった48サイズの現行シナプスに連日乗り込んでからこの地へとやって来た。新モデルとの差を感じとる準備を万全に整えて。

コラムのスペーサーによるハンドル高さとサドル高も同じ数値にセット。SAVEハンドルが現行モデルと違うほかは、サドルも同一形状のfabricが装着されていた。乗ったのはスラムRed eTap HDR仕様。できれば日本にデリバリーされるデュラエースDi2+油圧ブレーキ仕様を希望したが、パーツの供給遅れで間に合わなかったとのことだ。

ギザッロ教会へのワインディングをハイペースで登る新型シナプスのテストライドグループギザッロ教会へのワインディングをハイペースで登る新型シナプスのテストライドグループ (c)gruberimages
つづら折れが続く。左はキャノンデール・ドラパックのテッド・キングだつづら折れが続く。左はキャノンデール・ドラパックのテッド・キングだ (c)gruberimages乗り出してすぐに快適性に非常に優れていることが感じ取れる。タイヤにヴィットリアCORSAの28Cクリンチャーがセットされており、タイヤ自体の振動吸収性能が高いことに惑わされないように注意してインプレを行ったが、タイヤ以上にフレームの差を体感できた。快適性が大きく向上しているが、剛性も上っているのだろう、反応性の良さも同時に感じる。走りはとても軽快だ。快適性と剛性、その異なる両方の性格がそれぞれ良い方に向上していることに感心する。

実は乗り込んできた現行シナプスには少々硬さを感じていた。それ以前に乗ったことがあるリムブレーキ仕様のシナプスは非常にしなやかな乗り心地で気に入ったが、ディスク仕様のモデルはそれよりやや剛性が高まっているのか、少々シナプスらしさが失われているとも感じていた。ディスクブレーキを取り付けるためにフレーム末端の剛性が上がってしまったのだろうか。ポストマウントなどディスクキャリパー自体の変化とともに設計の古さも感じざるを得なかった。

荒れた路面にも追従する適度な剛性感と快適性

ダウンヒルではマイクロサスペンションの効果とディスクブレーキの性能がいかんなく発揮されるダウンヒルではマイクロサスペンションの効果とディスクブレーキの性能がいかんなく発揮される (c)gruberimages
新型シナプスには当然フラットマウントが採用され、12mmスルーアクスルとあわせてようやく規格の変化が落ち着いた感がある。各コンポメーカーのロード系のディスクブレーキ製品が刷新された今こそが、ディスクロードのターニングポイントになるはずだ。

新型シナプスはディスクブレーキを標準仕様として設計されたのだろう、剛性感が適度で左右バランスの崩れも感じられない。荒れた路面にもタイヤが跳ねずに追従し、シートステーが醸し出す快適性が顕著に感じられる。SAVEシステムバーの翼状ハンドルも上下方向に絶妙にしなり、快適性に大きく貢献しているのが分かる。

ギザッロ教会への厳しい登りをこなす筆者。クライミング性能は現行シナプスよりかなり向上しているギザッロ教会への厳しい登りをこなす筆者。クライミング性能は現行シナプスよりかなり向上している (c)gruberimages
「快適性が向上」と言っても、決してフレームが大きくしなるわけではない。たわみは見て分かるレベルではないし、バイブレーションのような微動をフレームに感じることは出来ない。それでも路面の細かな荒れや段差をフラットに打ち消してくれる。そのスムーズさはレーシングバイクには類を見ないものだ。乗り手に振動をいなすテクニックが無くても、たとえサドルにどっかり座っていても快適な乗り味を提供してくれるだろう。

ワインディングの連続するダウンヒルでシナプスを操るのは快感そのものだワインディングの連続するダウンヒルでシナプスを操るのは快感そのものだ (c)gruberimages
キャノンデール・ドラパックのプロライダー、ウィリアム・クラークが一緒に走ってくれた。ウィルはパリ・ルーベをこの新型シナプスのプロトタイプ「グリーンバイク」で走った唯一の選手だ。彼にしても新型シナプスは快適性の大きな向上を体感したという(下部コラム参照)。またパリ〜ルーベは平坦の舗装区間も長く、高速レースであるため快適なだけのバイクも不利につながる。だから走らないエンデュランスバイクは選手が使いたがらないのだ。

レーシーな前傾姿勢がとりやすくなったジオメトリー

乗り込むうちに感じるのはライディングポジションの変化だ。現行シナプスと同じコラム高に合わせたが、新型はややレーシーな前傾がとれるジオメトリーに変化している。普段からエンデュランス系バイクだからといってロード(レース)ポジションから変えることをしない筆者は、上体の起きたアップライトポジションというものにやや懐疑的だった。それは前シナプスに乗り込んでも同じで、例えば他社の同系バイクにある行き過ぎたアップライトポジションは力が入りにくく、逆に腰に負担がくるようにも感じている。

コモ湖畔から高度を上げ、ソルマーノへと登っていくコモ湖畔から高度を上げ、ソルマーノへと登っていく (c)gruberimages
新型シナプスは前モデルに比べてやや前傾が深くなり、レース系の走りにも十分なスポーティなポジションがとれる。それでいてまだ余裕があるポジションだ。その差は数値にすれば僅かなのだろうが、十分に体感できるものだ。速いグループで走る時、登りで他のライダー達に着いていこうと懸命にプッシュする時、腕を引いてしっかりと上体の力を使うことができないとスピードは保てないという当たり前のことに気づく。楽な姿勢が過ぎてもスピードを上げるのが辛くなるのだ。前シナプスはやや上体が起きすぎる面はあった。もちろんそれを望む人にはそれが良いというのも正解なのだが。

アップダウンに富んだコモ湖畔の村々を抜けていく。ダンシングも軽く、反応性の良さを感じることができるアップダウンに富んだコモ湖畔の村々を抜けていく。ダンシングも軽く、反応性の良さを感じることができる (c)gruberimagesコモ湖のベラッジョからマドンナ・デル・ギザッロへのきつい急勾配、イル・ロンバルディアに登場するソルマーノの壁、そして急坂の連続するアップダウン。最高のライド環境に気分も高揚する。そのなかを走る悦びを感じられるバイクで駆け抜けるのは快感以外の何物でもない。

レースペースでは無いが、決してまったりペースではない走りに対応できるライディングポジションとハイレベルなフレーム性能は、素直に欲しいと思えるものだ。

そしてこの地を知り尽くしたテッド・キングとウィル・クラークが案内してくれたのは、ソルマーノ峠からの長い長いダウンヒル。ヴィンチェンツォ・ニーバリがロンバルディアのスウィッチバックで見せた華麗なダウンヒルシーンを思い出させるタイトコーナーの連続する下りだ。

路面に吸い付くようなスムーズさ。身体に伝わる振動が少なく、路面のギャップに弾かれないことでスピードが死なない。そしてハンドリング特性も素直でクイック。新型シナプスのダウンヒル性能は格段に向上している。ディスクブレーキの恩恵も実感できた。フラットマウントでまったくバイブレーションが発生しない。レバーを引き続けても握力を使い果たさない。フォークにブレも生じなかった。

長い下りが続くにつれて、新ジオメトリーによるポジションの有効性に気づく。下ハンドルのドロップ部を持っても余裕があり、持ち続けられる。レーシングポジションなら時々腰を伸ばさないとストレスが溜まって続かないところだ。速さを求めるならさらに低いポジションだが、長いダウンヒルにはやはり少しアップライトなポジションも良い。要は落とし所か。新型シナプスのジオメトリーは丁度良い所でしっくりきた。

ターンの連続するコモ湖へのダウンヒル。シナプスの路面追従性の良さについついスピードが上がるターンの連続するコモ湖へのダウンヒル。シナプスの路面追従性の良さについついスピードが上がる (c)gruberimages

新型シナプスは、速く、気持ちのいい、ターゲットゾーンが広いバイク

新型シナプスは快適なだけでなく、速く、気持ちのいいバイクだ。ターゲットユーザーのストライクゾーンはかなり広いだろう。これだけのスムーズさを、サスペンションやリンクなどの機構を組み込むのではなく、あくまでフレームの素材や形状、デザインによって生み出したキャノンデール開発陣の勝利だと感じた。

今回のライドではグラベル(砂利道)には行かなかったが、28Cタイヤにシナプスの柔軟性があればラフな道も十分スムーズに走れる予感がする。一緒に走ったスタッフやテッド・キングらは30Cなど太めのタイヤを装着したSEエディションに乗っており、「グラベルも楽しい」と話している。

30Cのタイヤで走る開発者のジェームズ・ラロンデ氏。「良いタイヤが出てきたからそれほど大きなデメリットは無いし、グラベルが楽しい」と話す30Cのタイヤで走る開発者のジェームズ・ラロンデ氏。「良いタイヤが出てきたからそれほど大きなデメリットは無いし、グラベルが楽しい」と話す (c)gruberimages舗装路でも30Cタイヤの女性ライダーが男性陣に遜色なく走れていたのには驚いたが、タイヤが太いことのデメリットはそれほど無いと話してくれた。今は太めの魅力的なタイヤが多く出てきたのも、シナプスが変わった理由のひとつと言えそうだ。また、SEはカラーを含めて渋いクールさがある。パーツアッセンブルとフレームカラーが変わるとガラリと雰囲気を変えるのもシナプスの多様性だ。

マドンナ・デル・ギザッロ教会にソルマーノ、そしてコモ湖を取り囲むようにそびえるロンバルディアの山地。素晴らしい環境を走りながら、素晴らしいバイクに乗るライディングの愉しみを味わえた2日間だった。

アンディ・シュミット氏を始め、開発の主要人物らともおしゃべりをしながら走った。細かな話もしたが、走り屋の彼らが欲するモノを素直に造り出していると感じた。「サスペンションなどの機構で解決するのでなく、あくまでカーボンの素材や造形をどう活かすかで性能を出すのがキャノンデールのやり方」という彼らの言葉は納得できるものだった。

2日間、プロ2人が引くファーストグループに入れてもらい、遅れそうになって待ってもらうこともしばしばだったが、なんとかハング・オン(ぶら下がった)。そして脚を使い果たすほどに走り尽くした。
昔はレースにも出たけれど、今は競わない。それならばシナプスのようなバイクが丁度いい。たとえまたレースに出るとしても、クリテリウムは別だけれど、コイツを相棒にすればいい。そう思えた。(綾野 真)

新型シナプスのプロトでパリ〜ルーベを走ったウィリアム・クラーク

キャノンデール・ドラパックのオージーライダー、ウィリアム・クラークは新型シナプスのプロトタイプを駆ってパリ〜ルーベを走った。自身2度めの完走で、リザルトは70位だった。今回のテストライドを走ったクラークのバイクはラボに保管されていたためパリ〜ルーベの泥と、ナンバープレートがついたまま。セッティングもそのままだった。

新型シナプスのプロトタイプでパリ〜ルーベを走ったウィリアム・クラーク(キャノンデール・ドラパック)はルーベの泥がそのままの実車で参加してくれた新型シナプスのプロトタイプでパリ〜ルーベを走ったウィリアム・クラーク(キャノンデール・ドラパック)はルーベの泥がそのままの実車で参加してくれた photo:Makoto.AYANO
パリ〜ルーベ2017を新型シナプスで走ったウィリアム・クラーク(キャノンデール・ドラパック)パリ〜ルーベ2017を新型シナプスで走ったウィリアム・クラーク(キャノンデール・ドラパック) (c)gruberimagesウィルは言う。「開発バイクとサイズが近かったためチームでも僕ひとりだけがシナプスに乗った。ライディングポジションは普段乗っているSUPERSIX EVOと同一になるように、前下がりのステムなどで調整した。このステムも選手用の既製品であるため、さらにハンドル位置を下げるためにフォークコラムのトップキャップは除去してスペーサーは使用しなかった。乗り心地は今まで乗ったバイクのどれよりコンフォートで、パヴェを走るには最高だった。シナプスの進化は確かに感じた。疲労が少なく、1度目のルーベより速く・楽に走れたのは確かだね」。

ディスクブレーキ仕様のホイールは同時にスルーアクスル仕様でもあり、パンクの際のホイール交換の心配があったが、パンクは一度もしなかったと言う。チームがスペアバイクを用意していたこと、ニュートラルサポートのマヴィックもスルーアクスル&ディスクブレーキ仕様のスペアホイールを用意していたことでとくに心配はしていなかったと言う。
提供:キャノンデール・ジャパン Photo&Report : Makoto.AYANO