2009/11/04(水) - 15:00
BHブランドヒストリー&G5テクノロジー
ブエルタを5度制覇したスペインの老舗メーカー
日本のサイクリストにとって「BH」の名はここ数年で耳にするブランドだが、本国のスペインでは最古参の部類に入る自転車メーカーである。そのスタートは1909年に遡り、バスク地方のエイバルにおいて火器メーカーとして創業された。BHのブランド名は創業者であるベスタギ兄弟の頭文字をとったもである。なぜBHが自転車メーカーに転身したかというと、同社は火器に用いるバレル鋼管を回転させる技術を持ち、一歩進んだパイプ製作技術を持っていた。その当時、優れたバイクフレームを製作するには優秀なスチールチューブが必要不可欠であり、この点においてBHには大きなアドバンテージがあったのだ。
1923年にはこうして火器メーカーとして培ってきた技術を自転車製作に注ぎ込むこととなり、1931年には火器の製作を終了させ自転車専業メーカーとしての道を歩むこととなった。ちなみに、日本の宮田工業も銃火器のメーカーとしてのキャリアがあることを鑑みると、面白い共通点といえるだろう。
こうした歴史を見ても、BHはスペインの老舗自転車メーカーの1つであることが分かるだろう。そして、当時からタイヤ以外のパーツは全て自社生産をしていたというから、その積み重ねてきた技術の高さが容易に想像できる。
もちろん、スペインの中でも最も自転車競技が盛んなバスク地方で創業されたことも自転車メーカーとしての発展を大きく後押ししたのは言うまでもない。バスク地方の険しい上りと、難しいダウンヒル、そして雨が多い厳しい天候は最高のテストフィールドであり、バスク地方の熱狂的な自転車ファンたちに応えるだけの性能を秘めている。
その実績は自国最大のステージレース、ブエルタ・ア・エスパーニャを見ても明白だ。1934年、1935年、1986年、2004年、2006年と5回もの総合優勝を果たしており、その技術が世紀をまたいだ現代に置いてもなお一線級であることを示している。
また、80年代中盤から後半にかけてはBHの名を冠したプロチームがあったほどで、ツール・ド・フランスにも出場し続けステージ優勝も飾っている。それこそ、ベテランサイクリストはこの頃のイメージを持っている者も少なくない。つまりBHはスペインの自転車競技と共に歩んできたメーカーであり、今もなおプロレースと共に歩み続けることで技術革新を行なっている。
現在はロードバイクからMTBまで年間20万台を生産する大手メーカーとしてヨーロッパ諸国での人気はもちろんのこと、アメリカでもBH USAが立ち上がるなど、グローバルブランドとして成長を遂げている。
マイヨ・ジョーヌ獲得で証明されたG5の高性能
近年、BHのハイエンドモデルには「G」の名が冠されてきた。その意味は「グローバルコンセプト」、つまり世界に誇る先鋭的な技術と性能を備えたバイクという、同社の自信と誇りを現したものだ。例えば、今ではハイエンドモデルで多くのメーカーが採用するインテグレーテッドシートポストだが、その先鞭をつけた存在はBHであり、さらにはエアロシェイプのフレーム形状もいち早く採用するなど、グローバルコンセプトを掲げてからの同社は、ロードバイクのトレンドをリードしてきたメーカーの1つといっても過言ではないだろう。
BHでは2008年からフランスのプロチームAG2Rに「G4」の供給を開始したが、今年のツール・ド・フランスでは早くも最新型の「G5」が投入された。
インテグラルシートポストを搭載して880gの重量を実現し、エアロダイナミクスを内包したG4は、現在でも一線級の実力を有するモデルだが、G5はそれを凌駕し「G」の名に恥じない世界最先端のバイクに仕上げられている。
前作に比べて逞しくなったフレームのシルエットは、軽量化と高剛性の両立、そしてエアロダイナミクスを実現するために生み出された。ワンポイントファイブ径のロワーベアリングを採用したテーパードヘッドチューブにはじまり、大径のダウンチューブは、2010年のキーテクノロジーの1つである大口径ボトムブラケットシェル、BB30規格に結びつき、断面積の大きな3段階バテッドのチェーンステーに完結する。こうした“パワーライン”と呼ばれる部分に圧倒的なボリュームを与えることで、G4に比べ70gの軽量化が達成され810gという圧倒的な軽さに仕上げられたG5は、プロ選手の強烈な踏みに負けない高い剛性が維持されているのだ。
その一方、トップチューブからシートステーにかけては長距離レースの疲労を軽減する快適性を重視する役割が与えられる。トップチューブはシートチューブに向かってわずかなアールを描きながら外径が細くなる。そして、スキニーなシートステーは弓なりの形状が与えられ、この2つの形状によって路面からの振動を積極的に吸収する設計だ。
G4で採用されたエアロダイナミクスはもちろん健在だ。ダウンチューブ裏側に凹みを付けた半内蔵のシフトワイヤ、エアロシートチューブとタイヤの外郭に沿ったチューブのカットアウトなど、これらは常用速度の高いプロレースだからこそ有効性の高い仕様といえるだろう。
そして、新たなトライを試みているのがフロントフォークだ。近年、カーボンコンポジット技術で高い評価を得ているアメリカのエッジコンポーネンツとのコラボレートにより製作されたそのフォークは、エンドに至るまでカーボンで作られており筋肉質のフォルムからは想像できない330gという軽量性を誇っている。こうした流行をいち早く察知して取り入れている柔軟性を持っているのもBHの大きな特徴といえるだろう。
当然のことながら2010年のハイエンドモデルで必須事項である電動コンポーネントへの対応についても、ダウンチューブ下部にバッテリーの直付け台座を装備するなどぬかりはない。
まさに最新テクノロジーの粋を集めたロードバイク、それがG5であり、そのスペックは2010年以降のベンチマークになる1台といえるだろう。もちろん、スペックだけでなく性能も抜かりないのはいうまでもない。デビューレースとなったツール・ド・フランスではリナルド・ノチェンティーニが第7ステージでマイヨ・ジョーヌを獲得し、以降8日間に渡るジャージの死守をサポートしたのだ。その事実がG5の性能の全てを雄弁に物語っているといっていい。
インプレッション
09年夏にデビューを飾った新モデルG5、フラッグシップとして君臨してきたG4、ロングライド向けのキャラクターがあるというスピードロムの3台に、インプレに関してはこの上なくウルサイ2人のバイクジャーナリストが徹底試乗した。インプレは各モデル紹介部をクリック!インプレライダー紹介
吉本 司(よしもと つかさ)自転車専門誌の編集部員を経てフリーの自転車ジャーナリストとなる。ロードバイクを中心に執筆するが、執筆範囲はMTBから電動アシスト自転車まで幅広い。主にハードウエアのインプレッション、製品記事を得意とし、現在も自転車専門誌で試乗記事を担当する。
仲沢 隆(なかざわ たかし)
ツール・ド・フランスやクラシックレースなどの取材、バイク工房の取材、バイクショーの取材などを通じて、国内外のロードバイク事情に精通する自転車ジャーナリスト。07年からは大学院にも籍を置き、自転車競技や自転車産業を文化人類学の観点から研究中。
INDEX
その軽さに最新テクノロジーをすべて詰め込んだ
G5
サイズ/55、60、64
カラー/ブルー、レッド(限定)
フレームセット価格/33万6000円
今年のツール・ド・フランスでデビューを飾ったBHのフラッグシップが《G5》だ。滑らかなシルエットが印象的なそのフレームは、直線的なデザインの「G4」とは一線を画す。ハイエンドモデルでブレイクしているBB30規格のハンガーシェルや、ヘッドパーツの下部ベアリングをワンポイントファイブ規格としたテーバーヘッドチューブの採用により、より一層の高剛性化が図られている。そして、ユニディレクショナルハイモジュラスカーボンを新たに採用し、形状だけでなく素材の見直しもいちから行ない、G4に比べて約70gの軽量化が達成されている。その結果、フレーム単体で810g(未塗装、ディレーラーハンガー未装備、XSサイズ)という重量を達成し、また1つ新たな次元に進化を遂げている。その他、電動コンポーネントに対応したバッテリー台座、エアロダイナミクスを高め、乗り心地を追求したフレーム形状など、最新と思われるフレーム設計がすべて取り入れられている。まさに2010年モデルを象徴する1台といっていい。でありながら、その価格は35万円を大きく下回る。これはハイエンドモデルとしては異例ともいえる安価な価格設定だ。[→インプレッションへ]
カラー/ブルー、レッド(限定)
フレームセット価格/33万6000円
今年のツール・ド・フランスでデビューを飾ったBHのフラッグシップが《G5》だ。滑らかなシルエットが印象的なそのフレームは、直線的なデザインの「G4」とは一線を画す。ハイエンドモデルでブレイクしているBB30規格のハンガーシェルや、ヘッドパーツの下部ベアリングをワンポイントファイブ規格としたテーバーヘッドチューブの採用により、より一層の高剛性化が図られている。そして、ユニディレクショナルハイモジュラスカーボンを新たに採用し、形状だけでなく素材の見直しもいちから行ない、G4に比べて約70gの軽量化が達成されている。その結果、フレーム単体で810g(未塗装、ディレーラーハンガー未装備、XSサイズ)という重量を達成し、また1つ新たな次元に進化を遂げている。その他、電動コンポーネントに対応したバッテリー台座、エアロダイナミクスを高め、乗り心地を追求したフレーム形状など、最新と思われるフレーム設計がすべて取り入れられている。まさに2010年モデルを象徴する1台といっていい。でありながら、その価格は35万円を大きく下回る。これはハイエンドモデルとしては異例ともいえる安価な価格設定だ。[→インプレッションへ]
掟破りの価格でプロスペックが手に入る
G4
サイズ/55、60、65
カラー/チームブルー
完成車価格/37万5900円
供給プロチームのAG2Rによって2009年ジロ・デ・イタリアまで使われた第一線のレーシングモデルが《G4》だ。ナノテクノロジーカーボンを使用して880gの軽さと高剛性を両立したこのモデルは、その軽量性とスペイン・バスク地方出身ゆえに山岳モデルと思いがちだが、さにあらず。ティアドロップ形状のチューブやワイヤの内蔵工作によりエアロダイナミクスを追求し、アーチシェイプのシートステーが乗り心地を高めるというようにG4は走る場所を限定しない。そして、72°という非常に寝たシートアングル(60、65サイズ)が用意されるのも大きな特徴だ。インテグラルシートポストの直上にサドルを置いてフレームのバランスが適正化され、その分シート角を寝かせてダウンヒルにおける高い安定性が追求されている。こうした高性能でAG2Rの数々の勝利に貢献したG4だが、2010年モデルは完成車での販売となる。しかも驚かされるのがその価格。シマノ・105のコンポととはいえ、昨年までの最上級モデルが完成車で40万円を大幅に下回るとは掟破りといえるだろう。完成車での販売は限定モデルとなるので手に入れるなら早めが吉だ。[→インプレッションへ]
カラー/チームブルー
完成車価格/37万5900円
供給プロチームのAG2Rによって2009年ジロ・デ・イタリアまで使われた第一線のレーシングモデルが《G4》だ。ナノテクノロジーカーボンを使用して880gの軽さと高剛性を両立したこのモデルは、その軽量性とスペイン・バスク地方出身ゆえに山岳モデルと思いがちだが、さにあらず。ティアドロップ形状のチューブやワイヤの内蔵工作によりエアロダイナミクスを追求し、アーチシェイプのシートステーが乗り心地を高めるというようにG4は走る場所を限定しない。そして、72°という非常に寝たシートアングル(60、65サイズ)が用意されるのも大きな特徴だ。インテグラルシートポストの直上にサドルを置いてフレームのバランスが適正化され、その分シート角を寝かせてダウンヒルにおける高い安定性が追求されている。こうした高性能でAG2Rの数々の勝利に貢献したG4だが、2010年モデルは完成車での販売となる。しかも驚かされるのがその価格。シマノ・105のコンポととはいえ、昨年までの最上級モデルが完成車で40万円を大幅に下回るとは掟破りといえるだろう。完成車での販売は限定モデルとなるので手に入れるなら早めが吉だ。[→インプレッションへ]
ハイモジュラスカーボンを使用した贅沢な入門機
SPEEDROM
サイズ/44、48
カラー/ブルー、レッド
フレームセット価格/14万9100円
カーボンフレームのエントリーモデルとして存在するのが《スピードロム》。15万円を下回る手ごろな価格が魅力だが、その内容も価格以上に充実している。フレーム素材は上位モデルでも使われることが多い、ユニディレクショナルのハイモジュラスカーボン。単一方向のカーボン繊維は高額ではあるが、ねらった部分にしっかりと剛性を与えることができる。これにより剛性レベルを高めて軽い踏み出しと、優れた安全性が追求されている。また、ワンピースモノコックの工法を用いることで、生産性を向上させ高いコストパフォーマンスを誇っている。しかも上位機種と同じバックステーを採用しているので、高い快適性が追求されているのも見逃せない点だ。アルミフレームに乗っているが、カーボンフレームへアップグレードをねらっているライダーもよし。また、フレームを選んで新たにバイクを完成させたい場合も、フレーム選びで浮いた予算でコンポやホイールにワングレード高いモデルを組み合わせるのも楽しいだろう。高いポテンシャルを秘めているので、夢のふくらむフレームといえるだろう。[→インプレッションへ]
カラー/ブルー、レッド
フレームセット価格/14万9100円
カーボンフレームのエントリーモデルとして存在するのが《スピードロム》。15万円を下回る手ごろな価格が魅力だが、その内容も価格以上に充実している。フレーム素材は上位モデルでも使われることが多い、ユニディレクショナルのハイモジュラスカーボン。単一方向のカーボン繊維は高額ではあるが、ねらった部分にしっかりと剛性を与えることができる。これにより剛性レベルを高めて軽い踏み出しと、優れた安全性が追求されている。また、ワンピースモノコックの工法を用いることで、生産性を向上させ高いコストパフォーマンスを誇っている。しかも上位機種と同じバックステーを採用しているので、高い快適性が追求されているのも見逃せない点だ。アルミフレームに乗っているが、カーボンフレームへアップグレードをねらっているライダーもよし。また、フレームを選んで新たにバイクを完成させたい場合も、フレーム選びで浮いた予算でコンポやホイールにワングレード高いモデルを組み合わせるのも楽しいだろう。高いポテンシャルを秘めているので、夢のふくらむフレームといえるだろう。[→インプレッションへ]
提供:JPスポーツグループ 企画/制作:シクロワイアード