カリフォルニア・モーガンヒルにあるスペシャライズド本社にて、3日間に渡り秘密裏に開催されたVENGE発表会。本編では計220kmにも及んだテストライドの模様と、数字で空力アドバンテージを体感した検証結果を交えてお伝えしよう。

3日間、220km。いざスーパーファストライドへ

アップダウンに富んだ、スペシャライズド本社周辺でのテストライドアップダウンに富んだ、スペシャライズド本社周辺でのテストライド (c)specialized
最初に断っておくと、筆者の私物ロードバイクは2014モデルのS-WORKS VENGE。それこそ自分の一部になるまで乗り込んでいるので、その走りには理解があった。もっとも性格が大きく変化していたため、比較インプレとしてはあまり意味が無いようにも思ったのだが(笑)。

プレゼンテーションの日程は、1日目が説明会と70kmのイージーライド、2日目がWIN-TUNNELと実走でのTARMACとの比較テスト、そして3日目がアップテンポでの100kmライド。思わず歓声を上げてしまいたくなるほどの素晴らしいライド環境のもとで、VENGEの得意とする平坦はもちろん、ジェットコースターのようなワインディングロード、コーナリング性能が試されるテクニカルな下り、更に少々のグラベルなど、あらゆる路面状況の道がチョイスされた。コースを選んだスタッフからは、「すべての性能を試してもらう」という意気込みが否が応でも伝わってくる。最高の環境が広がるスペシャライズド本社の周辺を、わずか6名のジャーナリストと、開発スタッフと一緒に堪能し(苦しめられ)たのであった。

インプレバイクの簡単なセッティングを記しておこう。サイズは52で、完成車パッケージとして販売されるものとほぼ同様のパーツ構成だ。コンポーネントはデュラエースDi2にS-WORKSクランクセット+QUARQのパワーメーターという組み合わせ。事前に厚木のスペシャライズドラウンジでフィッティングを受け、そのデータを送ってあったので、ハンドル周りなどに違和感を全く覚えること無くライドに集中できた。

際立つ加速力とスピード、脚を跳ね返す硬派な乗り味

短い登りならばスピードを活かした鋭い走りで乗り切れる短い登りならばスピードを活かした鋭い走りで乗り切れる (c)specialized登坂ダッシュを行うフランス人ジャーナリスト「伸びがもの凄い」登坂ダッシュを行うフランス人ジャーナリスト「伸びがもの凄い」 (c)specialized走り出してすぐに感じたのは、ほんの少しのパワーロスも無く速度を増していく加速感の強さ。先代はスプリントのように踏み込んだ際、BBを中心にバイク全体をたわませながら加速する印象を持っていたが、それとは全く異なる「剛性の塊」だ。BB周辺を筆頭にとにかく剛性が増しており、たわみやしなりは先代と比較すればほぼ皆無。ほんの僅かなロスも許さないほどにパワー伝達性能は素晴しく、「ダイレクトな進み」というキャッチフレーズを、ここまで如実に表現するバイクは今までに経験したことが無い。

一言に「剛性」と言えば重たい走りを想像してしまうかもしれないが、ペダリングフィールは軽く、FACT 11rカーボンも手伝ってか乾いた踏み応えだ。ペダルを高ケイデンスで荒く回すと足が跳ね返されてしまうが、TTやスプリントのようにトルクフルに踏んだ際のスピードの乗りは目覚ましいものがある。こういった場面では間違いなくライバルに対して優位になると思う。

だからルーラーやスプリンターにとっては最高の武器になるだろうし、脚に返る固さが増したためヒルクライム性能は先代に譲るものの、パワーで押し切れる登りであればむしろ速い。エアロを意識したことでヘッドチューブはかなり薄くなったが、剛性は先代よりも確実に増しており、フォークと相まってコーナリングやブレーキングでも不安は一切無用だった。

振動吸収性に関しては、シートステーとシートチューブの交点が下へと移動したため、リアバック全体が板バネのように働き、大きな衝撃をいなしているように感じる。TARMACのようにしなやかな路面追従性は期待できないが、レース機材として見れば問題無いレベルだろう。専用のS-WORKS Turboタイヤも表示こそ22c(前)、24c(後)という組み合わせだが、リム外幅約30mmのCLX 64ホイールに取り付けるともう少しワイドになるため、この部分で衝撃を和らげてくれる。もちろんタイヤの性能自体はトッププロが好んで使っている通りで、前後幅が違うことも理に叶っていると感じた。

小高い丘からの超高速ダウンヒル。VENGEが得意とする分野だ小高い丘からの超高速ダウンヒル。VENGEが得意とする分野だ (c)specialized
アップダウン区間で加速するイタリア人ジャーナリストアップダウン区間で加速するイタリア人ジャーナリスト (c)specialized終止ハイペースでテストライドは進行した終止ハイペースでテストライドは進行した (c)specialized

気になるブレーキだが、制動力はとても高い。(ただしホイールのシュー当たり面までラウンド形状なので、当たりが出るまでやや時間が掛かった)。レバーの握り込みは渋めで「こんなものだろう」と思っていたのだが、開発者であるダルージオ氏のバイクはデュラエース同等の極上タッチにまで仕上げられていた。特別な工作は何もしていないと語っていたので、慣れたメカニックの手に掛かれば一切不満の無いレベルになるのだろう。乗り手として、数ある専用ブレーキの中ではトップクラスの扱いやすさだと感じることができる。

ただしスピードを最重要視したことで、かなりスパルタンな性格であることも否めない。まず乗り心地の硬さ故に乗り手を選ぶし、性能を引き出すなら脚力はあればあっただけ良い。私物バイクと同じように踏んでいても早めに脚が終わってしまう(その分スピードも出ているのだが)ので、このバイクでロングライドに、サイクリングに、という想像は全く湧いてこない。反対にクリテリウムやタイムトライアルではこの上ない武器になるはずだ。

またエアロフォルムとホイールの組み合わせのためかバイクが直立しようとする「立ち」が強いため、直進安定性が素晴しい反面コーナリングでは慣れないとアンダーステアが出やすい。フォークの突っ張りゆえに何も考えずに走っていると、あっと言う間に上半身が疲れてしまうこともあった。ただし裏を返せば、路面からのインフォメーションを掴みやすく、ライントレースを行いやすいことで走りそのものに集中できるということだ。

ツール・ド・フランス第7ステージのスプリントを制したマーク・カヴェンディッシュ。ペーター・サガンもVENGEでスプリントに臨んだツール・ド・フランス第7ステージのスプリントを制したマーク・カヴェンディッシュ。ペーター・サガンもVENGEでスプリントに臨んだ photo:Kei Tsuji
しかしツール・ド・フランスを見ていると、ペーター・サガンやマーク・カヴェンディッシュはフラットなスプリントステージではまだ慣れていないはずの新型をチョイスしていた。つまり、ピタリとハマる場面でのアドバンテージはプロ選手も認める部分なのだろう。VENGEはひたすらに速く走るための「レース機材」そのものだし、その意味合いは先代よりもかなり強く、そして鋭利になっている。

乗り比べで浮かび上がる、VENGEの類い稀なるアドバンテージ

さて、VENGE最大の特徴であるエアロ性能だが、これほどインプレッションをする上で頭を悩ませることも他に無い。VENGEは確かにスピードが乗るし、高速巡航も確実に速い。しかし体感でその差を性格に測りとるのは難儀である。そこでプレゼンテーション2日目に行われたのが、19kmの個人TTを2回計測し、最初にTARMACと通常のヘルメットとジャージの組み合わせ(トラディショナル)、そして2回目にVENGEとスキンスーツ、EVADEヘルメットの組み合わせ(エアロ、シューズは用意が間に合わなかったため私物)でタイムを計り、差を可視化するというもの。(詳しいセッティングは以下の図を確認して欲しい)

WIN-TUNNELで空力データを採取するWIN-TUNNELで空力データを採取する (c)specializedWIN-TUNNELでは正面、左右10°ずつ角度を変更して数値を集めたWIN-TUNNELでは正面、左右10°ずつ角度を変更して数値を集めた (c)specialized

実走テストと同時に風量計で風のデータを採取。この数値を反映させ、テスト結果を明確化させていく実走テストと同時に風量計で風のデータを採取。この数値を反映させ、テスト結果を明確化させていく (c)specializedマクラーレン社のスタッフがデータを一人ずつ解析するマクラーレン社のスタッフがデータを一人ずつ解析する (c)specialized

更にこの実験の精度を高めるため、事前にWIN-TUNNELにおいて2パターンの空力データを取り、更に2007年からパートナーシップを組む空力のエキスパート・マクラーレン社の解析ソフト「MIDAS(=McLAREN INTEGRATED DATA ANALYSIS AND SIMULATION)」を使い、実際の状況に限りなく近づけるというプロセスも加えられた。

新製品の開発時ならいざ知らず、発表会でメディア一人ずつWIN-TUNNELを動かし、このために渡米したマクラーレンスタッフ陣によるデータ解析を行うとは、なんと贅沢なメディア発表会だろう!

このテストに当たって強く言われたのは次の3つ。1.タレると検証にならないのでイージーペースを徹底すること、2.ポジションはリラックスしたブラケットポジション固定、3.ダンシング禁止。コースは緩やかな下りと平坦が半分で、残りが小高い丘を越えるもの。登りでは250Wで淡々と踏み、1回目と2回目がバラつかないよう心掛けてみた。

エアロ(左)と、トラディショナル(右)の装備と空力の差が見て取れるエアロ(左)と、トラディショナル(右)の装備と空力の差が見て取れる (c)specialized12人のテストライダーによる結果のまとめ。19kmコースの平均で120秒短縮するという結果になった12人のテストライダーによる結果のまとめ。19kmコースの平均で120秒短縮するという結果になった (c)specialized

筆者のテスト結果。上のオレンジ線が出力、中央のラインがスピード(オレンジがトラディショナル、青がエアロ)、下のラインはコース断面図。常に青ライン(エアロ)が若干上回っていることが分かる筆者のテスト結果。上のオレンジ線が出力、中央のラインがスピード(オレンジがトラディショナル、青がエアロ)、下のラインはコース断面図。常に青ライン(エアロ)が若干上回っていることが分かる (c)specialized
すると結果的に、1回目では37分16秒だったタイムが、2回目には34分29秒5と、何と167秒も減。平均時速では2.64km/hも上昇するという数値が出た。2回目の計測時には風が強く吹いたこと、そして横を走るクルマが多く信号にも引っかかったためペダリングがバラついたので完全に正確とは言えないが、この結果には当の本人も大変驚かされた。計12名の平均値ではもう少し低く120秒マイナスだったが、私の結果で言えば距離40kmで5分(300秒)という謳い文句と大きく外れていないため、妥当な数値と言えるかもしれない。

#aeroiseverythng 全てはただスピードのためだけに

3日間テストに乗り倒したVENGE。日本での発売が楽しみだ3日間テストに乗り倒したVENGE。日本での発売が楽しみだ
一言でVENGEを表現するならば、とにかく硬く、そして速いピュアレーシングマシン。正直言えば、筆者レベルでは本当の性能を引き出すなんて到底不可能だ。しかしそれでも速い。

諸刃の剣のような鋭い乗り味、オーダーや組み付けの難易度。しかしそれでもエアロを優先させて専用パーツをフル導入し、VENGE専用のフィッティングソフトを作ってしまうあたりに、スペシャライズドの本気ぶりを思い知らされる。これも全て、WIN-TUNNELと開発陣の熱意があったからこそなのだろう。

全てのライダーにオススメできるとは言えないが、ひたすらにスピードを追い求めたい方、機材フリークの方、こんなにも尖ったバイクを市販したスペシャライズドをリスペクトする方には、値段以上の価値が間違いなく存在するだろう。全てはただスピードのためだけに。#aeroiseverythng を体現する、エアロロード時代の大本命を体感した3日感となった。

提供:スペシャライズド・ジャパン 製作:シクロワイアード編集部