2014/06/11(水) - 12:02
5月9日、アメリカ・カリフォルニア州モーガンヒルのスペシャライズド本社において、同社のロードモデルのフラッグシップ、S-Works Tarmac(エスワークス・ターマック)の新モデル発表プレゼンテーションが行われた。
ウェブキャストを用いた世界同時中継という手法で行われたこの発表は、スペシャライズド本社の風洞実験棟に隣接する施設内のスタジオで世界の主要メディアとディーラー関係者を集めて行われた。
4月にベルギーで開催されたリエージュ・バストーニュ・リエージュで同社がスポンサードするプロライダーたちが駆るプロトタイプが目撃されたことから「SL5」だろうと予想されていたTarmacの新モデルがついにベールを脱いだ。
S-Works Tarmacは、オメガファーマ・クイックステップ、ティンコフ・サクソ、アスタナの3つのワールドツアーチームがメインバイクとして駆るモデルだ。プロレースのプロトンの中でもっとも存在感あるレーシングバイクの新型モデルの発表とあって、世界中の熱い視線が注がれたことだろう。
開発ディレクターのベン・ケイプロン氏、そして今回の主要開発スタッフとなったサム・ピックマン氏がステージに上り、新Tarmacの開発コンセプトを紹介した。
これは同社がエアロロードのVENGE(ヴェンジ)を開発したときからの協力関係にあるフォーミュラ1の英国マクラーレン社の開発手法にインスピレーションを得て、同社との技術協力により開発が進められたという。
つねに緻密なデータに基づいたデザイン設計を行うマクラーレン社。パイロット(ドライバー)、あるいはユーザーが抱える問題をより良く理解するために関連するデータを集め、徹底的に分析するというそのアプローチが、今回のTarmac開発のヒントになっている。
3年の歳月を費やしたという新Tarmacの“ライダー・ファースト・エンジニアード”。49〜64までのそれぞれ7つのフレームサイズごとにフレームを設計・開発。室内での開発にとどまらず、道路上での実走行テストを繰り返し、その数値などに基づいて設計を行った。フレームに歪みゲージやセンサーなどを取り付け、実走行テストを繰り返す。ライダーからのフィードバックを重視し、それをもとに開発を進めたという。
「我々はTarmacをリ・デザインした」ー そう言い表された新生Tarmac。世代を重ねる「SL5」のネーミングを止め、シンプルに『Tarmac』とだけ名づけた。アップルコンピュータにとってのiPadがそうだったように。
開発にあたったベテランエンジニアのクリス・ダルージオ氏は言う。「もし今回のTarmacに世代をつけたなら、SL10、いや25になるだろう」。
その結果、従来モデルにありがちだった「大きなサイズのバイクは剛性が不足する・コーナリング特性がダルになる」「小さなサイズのバイクは過剛性となる・ハンドリングがクイックすぎる」などの問題を解消。すべてのサイズにおいて最適な剛性やコーナリング特性などを追求。つまりサイズごとに最高の運動性能を引き出せるように設計がイチから見直されたのだ。
これまでもフレームサイズに合わせてチューブのボリュームや剛性を調整する手法はバイクメーカー各社がとってきたことだ。スペシャライズドではフレームの基本サイズを56cmとして開発し、それを基本にアップ&ダウンサイジングしてきた。しかしその方法では、異なるフレームサイズの特性を揃えようとしても、実際はそうはならないという問題がつきまとった。
新しいTarmacでは7つのフレームそれぞれで設計・開発を推し進め、それぞれのサイズでの理想の性能と乗り味を追求したという。これは、単なるアップあるいはダウンサイジングからは一歩進んだ開発手法と言うことができる。サイズごとの“テーラーメイド”とも言えるだろう。
プレゼンテーションでは、分かりやすいように小柄、中柄、大柄のライダーの場合を例にとって説明がなされた。それぞれの代表選手はアルベルト・コンタドール(小柄)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(中柄)、トム・ボーネン(大柄)を挙げて。
新Tarmacの、旧世代からの性能向上はおもに以下のようになる。
体格の違うライダーでは、それぞれが乗る異なるサイズのバイクで、理想とされるセッティングも大きく異なる。しかし“ライダー・ファースト・エンジニアード”は、バイクのサイズに関係なく、どのライダーでも同じパフォーマンスを発揮することが可能になる。言い換えれば、誰もが同じ性能を体感できるということ。
この新Tarmacはジロ・デ・イタリアでオメガファーマ・クイックステップ、ティンコフ・サクソ、アスタナの3チームが使用。リゴベルト・ウラン(オメガファーマ・クイックステップ)の総合2位、ファビオ・アル(アスタナ)のステージ勝利と新人賞、長難関山岳モンテ・ゾンコランを制したマイケル・ロジャース(ティンコフ・サクソ)のステージ2勝という大活躍を遂げた。
また、7月のツール・ド・フランスではMcLarenの名を冠したモデルがデビューする予定だという。
ウェブキャストにより世界に同時配信されたプレゼンを終えると、開発陣と同社の創業者・会長のマイク・シンヤード氏がハイファイブを交わす。
壇上にはディスクブレーキ搭載モデルの新Tarmacも並べられたが、この30分間のプレゼンテーションでは、具体的な新構造やテクノロジー、カーボン組成、フレーム重量などの詳細や数値データは説明されず、“ライダー・ファースト・エンジニアード”による開発プロセスとそのコンセプトのみが披露された。
これはこのクラスのフラッグシップモデルのプレゼンとしては極めて異例のことで、かつ潔いものだった。まるでスティーブ・ジョブズの姿が脳裏に浮かぶようなプレゼンだった。
新構造やテクノロジーの詳細、そして開発過程については、じつはこのプレゼンの数日前にカリフォルニア州はサンタクルズにおいて、世界の代表的サイクルメディアを招待したメディアキャンプで語られていた。カリフォルニア郊外において新Tarmacを駆り、その性能を体感する3日間のテストライディングツアーと同時に。
今回、貴重にもその機会を得たCW編集部では、ここにその詳細をレポートしてゆく。次項では開発の裏側やそのコンセプトをエンジニアたちの言葉でつづろう。
ウェブキャストを用いた世界同時中継という手法で行われたこの発表は、スペシャライズド本社の風洞実験棟に隣接する施設内のスタジオで世界の主要メディアとディーラー関係者を集めて行われた。
4月にベルギーで開催されたリエージュ・バストーニュ・リエージュで同社がスポンサードするプロライダーたちが駆るプロトタイプが目撃されたことから「SL5」だろうと予想されていたTarmacの新モデルがついにベールを脱いだ。
S-Works Tarmacは、オメガファーマ・クイックステップ、ティンコフ・サクソ、アスタナの3つのワールドツアーチームがメインバイクとして駆るモデルだ。プロレースのプロトンの中でもっとも存在感あるレーシングバイクの新型モデルの発表とあって、世界中の熱い視線が注がれたことだろう。
開発ディレクターのベン・ケイプロン氏、そして今回の主要開発スタッフとなったサム・ピックマン氏がステージに上り、新Tarmacの開発コンセプトを紹介した。
2015 Tarmac Rider-First Engineered™ キーフィーチャー
マクラーレン社の開発手法から発想を得た“ライダー・ファースト・エンジニアード”
今回の開発にあたり、同社が掲げたコンセプトは「ライダー・ファースト・エンジニアード」。つまり「ライダーを第一にした開発」ということ。この新しいアプローチは、ライダーの声を聞き、エンジニアとの密接なやりとりをもとに製品を開発していくという手法で、開発にあたっては実走行テストを重視し、エンジニアとライダーがやりとりしながらテストを繰り返して製品開発を進めた。これは同社がエアロロードのVENGE(ヴェンジ)を開発したときからの協力関係にあるフォーミュラ1の英国マクラーレン社の開発手法にインスピレーションを得て、同社との技術協力により開発が進められたという。
つねに緻密なデータに基づいたデザイン設計を行うマクラーレン社。パイロット(ドライバー)、あるいはユーザーが抱える問題をより良く理解するために関連するデータを集め、徹底的に分析するというそのアプローチが、今回のTarmac開発のヒントになっている。
3年の歳月を費やしたという新Tarmacの“ライダー・ファースト・エンジニアード”。49〜64までのそれぞれ7つのフレームサイズごとにフレームを設計・開発。室内での開発にとどまらず、道路上での実走行テストを繰り返し、その数値などに基づいて設計を行った。フレームに歪みゲージやセンサーなどを取り付け、実走行テストを繰り返す。ライダーからのフィードバックを重視し、それをもとに開発を進めたという。
「我々はTarmacをリ・デザインした」ー そう言い表された新生Tarmac。世代を重ねる「SL5」のネーミングを止め、シンプルに『Tarmac』とだけ名づけた。アップルコンピュータにとってのiPadがそうだったように。
開発にあたったベテランエンジニアのクリス・ダルージオ氏は言う。「もし今回のTarmacに世代をつけたなら、SL10、いや25になるだろう」。
7つのサイズごとにフレームを設計・開発
新Tarmacの開発で主眼に置かれたのは、サイズごとにフレームを設計・開発するということ。体格の異なるライダーごとに、それぞれ必要とされるフレーム特性は違う。体格、タイプの違うテストライダーごと、ライディングテストからそれぞれのフレームへの入力データを計測する。それらのフレーム全体・各部の剛性や加速性、振動吸収性、路面追従性など、それぞれのフレームサイズごとに適正な目標値が設定され、それぞれのサイズごとにフレームの開発・設計が進められた。その結果、従来モデルにありがちだった「大きなサイズのバイクは剛性が不足する・コーナリング特性がダルになる」「小さなサイズのバイクは過剛性となる・ハンドリングがクイックすぎる」などの問題を解消。すべてのサイズにおいて最適な剛性やコーナリング特性などを追求。つまりサイズごとに最高の運動性能を引き出せるように設計がイチから見直されたのだ。
これまでもフレームサイズに合わせてチューブのボリュームや剛性を調整する手法はバイクメーカー各社がとってきたことだ。スペシャライズドではフレームの基本サイズを56cmとして開発し、それを基本にアップ&ダウンサイジングしてきた。しかしその方法では、異なるフレームサイズの特性を揃えようとしても、実際はそうはならないという問題がつきまとった。
新しいTarmacでは7つのフレームそれぞれで設計・開発を推し進め、それぞれのサイズでの理想の性能と乗り味を追求したという。これは、単なるアップあるいはダウンサイジングからは一歩進んだ開発手法と言うことができる。サイズごとの“テーラーメイド”とも言えるだろう。
プレゼンテーションでは、分かりやすいように小柄、中柄、大柄のライダーの場合を例にとって説明がなされた。それぞれの代表選手はアルベルト・コンタドール(小柄)、ヴィンチェンツォ・ニーバリ(中柄)、トム・ボーネン(大柄)を挙げて。
新Tarmacの、旧世代からの性能向上はおもに以下のようになる。
小柄なライダーのメリット | 中柄なライダーのメリット | 大柄なライダーのメリット |
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体格の違うライダーでは、それぞれが乗る異なるサイズのバイクで、理想とされるセッティングも大きく異なる。しかし“ライダー・ファースト・エンジニアード”は、バイクのサイズに関係なく、どのライダーでも同じパフォーマンスを発揮することが可能になる。言い換えれば、誰もが同じ性能を体感できるということ。
この新Tarmacはジロ・デ・イタリアでオメガファーマ・クイックステップ、ティンコフ・サクソ、アスタナの3チームが使用。リゴベルト・ウラン(オメガファーマ・クイックステップ)の総合2位、ファビオ・アル(アスタナ)のステージ勝利と新人賞、長難関山岳モンテ・ゾンコランを制したマイケル・ロジャース(ティンコフ・サクソ)のステージ2勝という大活躍を遂げた。
また、7月のツール・ド・フランスではMcLarenの名を冠したモデルがデビューする予定だという。
ウェブキャストにより世界に同時配信されたプレゼンを終えると、開発陣と同社の創業者・会長のマイク・シンヤード氏がハイファイブを交わす。
壇上にはディスクブレーキ搭載モデルの新Tarmacも並べられたが、この30分間のプレゼンテーションでは、具体的な新構造やテクノロジー、カーボン組成、フレーム重量などの詳細や数値データは説明されず、“ライダー・ファースト・エンジニアード”による開発プロセスとそのコンセプトのみが披露された。
これはこのクラスのフラッグシップモデルのプレゼンとしては極めて異例のことで、かつ潔いものだった。まるでスティーブ・ジョブズの姿が脳裏に浮かぶようなプレゼンだった。
新構造やテクノロジーの詳細、そして開発過程については、じつはこのプレゼンの数日前にカリフォルニア州はサンタクルズにおいて、世界の代表的サイクルメディアを招待したメディアキャンプで語られていた。カリフォルニア郊外において新Tarmacを駆り、その性能を体感する3日間のテストライディングツアーと同時に。
今回、貴重にもその機会を得たCW編集部では、ここにその詳細をレポートしてゆく。次項では開発の裏側やそのコンセプトをエンジニアたちの言葉でつづろう。
新Tarmacプレゼンテーション 録画ライブ全編(英語)
提供:スペシャライズド・ジャパン 取材・レポート:綾野 真(シクロワイアード編集部)