2012/10/03(水) - 01:31
日中関係が悪化の一方を辿る中、いつものように何の用事も無いはずなのに編集部に遊びにきたメタボ会長。全くお気楽な身分が羨ましい限りである。そんな自由人に対して編集長が問いかける。「明後日の北アルプスグランフォンド取材ですが、私が担当する事になりました。会長もご一緒されますか?」
「もちろんだよ!前回、試走にお邪魔した時にも、”本番の時も是非来て下さい!”って言われたからさ。行かない訳にはいかんだろ?」真顔で応えるメタボ会長ではあるが、こんな簡単な社交辞令を真に受けるオヤジの思考回路が私には理解できない。そもそも試走の時も、別に呼ばれた訳でもないのに、単に暇だったから、担当の磯部に付いて行っただけの事なのだが・・・。
北アルプス山麓グランフォンド2012の幕開けだ。
早朝のスタート地点は多くの参加者でにぎわう。
晴天に恵まれ迎えた大会当日。もっとも、最強の晴れ男メタボ会長が来るのだから雨など降ろうはずもない事は折り込み済だ。スタート地点の鹿島槍スポーツヴィレッジ駐車場は参加者の皆さんの笑顔が溢れている。この駐車場で前泊の私たち編集部は、自家用車のリアシートに愛車を積み込んだ当日入りのメタボ会長と無事に合流を果たす。早朝3時半に東京を出てきたと言うオヤジの表情に、全く疲労の色が見えないのが残念な限りだ。
午前8時に100kmコースのスタートが始まり、私たちもこのグループと共にスタートをきる。スタートから"ぽかぽかランド美麻エイド"までの35kmは楽チンなサイクリング区間だ。青木湖畔を抜け長閑な田園地帯をのんびり走る。長野県大町地区は、信号が少なく見通しの良い道路が多いので、自転車ライドにはもってこいの地域だ。東京では考えられない交通量の少なさも魅力のひとつになっている。
恵まれた天候の下、山岳ライドのスタートだ。
「これで坂道を登れるの?」タンデムライダーに驚く。
今大会の応援ツアーは大型バスで伴走できる。
田園地帯は交通量も少なくとっても走りやすい。
恵まれた天候と長閑な風景を味わいながら走る中、先頭を走るメタボ会長からおもむろに声が掛かる。
「ところで、今日は磯部君の姿が見えないけど?ひょっとして体調不良か?」
「磯部は別件の取材に行かせました。今回は大会の公式カメラも依頼されたので私が来た次第ですが、何かまずかったですか?」質問の意図が見えていない編集長が不思議そうな表情で答えると、オヤジの表情がキラリと輝く。
「彼が居ないって事は、このコースを知ってるのは私一人だけって事だな。君たちの不安な気持ちも判るが、キッチリ案内してあげるから安心して付いて来なさい!」
私にはこの言葉が全く意味不明でしかない。私たちが不安なのはコースではなく、いつも自分勝手な行動を選択するアナタの存在だけが不安要素なのだが・・・。
途中、20km地点の"白馬エイド"で温泉うどんを堪能し、山間部で多少のアップダウンをこなしながらも順調なライドが続く。スタートから1時間半で"ぽかぽかランド美麻エイド"に到着した私たち。単純に距離だけで考えれば既に34km、行程の3分の1を消化した訳だが、コースレイアウト図によるとこのエイドからいよいよイベントが始まると考えた方がよさそうである。この先が今大会一番やっかいなの登坂区間となる。実際には距離4km標高差300mしかないのだが、メタボ会長によるとレイアウト以上に厳しく感じるらしい。もっとも、オヤジの登坂力を知る私たちは話半分にしか受け取ってはいないのだが。
朝食代わりに「温泉うどん」を流し込む。
恒例になった記念撮影に応じる。ただのオヤジが記念になります?
ここまでシンプルな標識はなかなかお目にかかれない?
ぽかぽかランド目指して一直線に下って行きます。
このエイドでバナナをガッツリ補給したメタボ会長と共にいよいよ登坂に取り掛かると、入口からいきなり10%勾配突入だ。私のギアはあっという間にインナー・ローの34-25Tまで落ち、もう後がない状況に追い込まれる。周囲の皆さんもほぼ最軽ギアを選択し登坂に挑む中、メタボ会長のギアは34-21Tに入っている。これは私にとってかなりヤバイ状況である。彼のカセットは11-28Tが装着されているため、オヤジにはまだ24T、28Tと2枚分の余裕があるのに対して私は既に崖っぷちだ。
いよいよここから登坂が始まります。頑張りましょう!
入り口からいきなり10%勾配が続く。苦笑いしかできない。
登り始めて300mほどで、12km/h巡航を続けるメタボ会長が全く迷惑な弱音を吐いてくれる。「判っちゃいたけど、やっぱり此処は厳しいな!このペースが限界だから、君たちは先に行っちゃってくれ!」
君たちは先に?いやいや、3人一緒にこのペースで登りましょうよ!何ならもう少しペースを落としませんか?ここからペースアップなんて私には有り得ませんから!
そんな私の願望をあざ笑うかのような言葉が編集長から発せられる。「では、私たちは先行しますね。次のエイドで撮影しながら待ってますからノンビリ来て下さい。」
私たちは先行?もう勘弁してくださいよ編集長。これって嫌がらせじゃないでしょうね?
ひたすら登ります。スピードは12km/hが限界のようです。
それでも登り続けます。だって山岳ライドですから。汗
ダンシングでヒョイヒョイと登り始める編集長に対し、一応は負けじと私もペースアップを試みるのだが、今の私にそんな余力など有ろう筈がない。たちまち編集長は見えなくなってしまい、振り返ると真後ろには汗だくの会長が居る始末だ。
結局、メタボ会長と遜色ないペースで登り続ける私に、満面の笑みを浮かべながらオヤジが話しかけてくる。
「あれ~?先に行っても構わないんだけど?付き合う必要なんてないんだから、君は取材を優先しなきゃ!」
こんな露骨な嫌味に腹を立てる余裕すら、今の私は持ち合わせていない。受け入れ難い事ではあるが、今日の私はメタボ会長のペースに付いて行くのが精一杯という悲しい状況に追い込まれている。
この行いを世間一般では「不正行為」と呼びます。
電池切れ寸前でエイドに転がり込む。ギリギリセーフ。
距離4km標高差300mを約20分を要し走破したメタボ会長と私が”美麻エイド”に転がり込む。電池切れ寸前の私にはこのエイドが砂漠のオアシスにすら見える。とにかく疲労回復に努めるべく、補給食のテントを目指して歩いて行くと、パンク修理真っ最中の編集長に遭遇。取材中の編集長がパンクに見舞われるのは年に1度あるかないかのレアケースだ。
「面目ない。」パンク修理を手伝ってもらいます。
この男にパンク修理を手伝う気持ちは欠片もありません。
参加者さんに手伝ってもらいながらパンク修理に勤しむ編集長をぼんやり眺めていると、ふいに、”これって私に厳しくした神様からの罰ゲーム?”と云う不思議な感覚に襲われる。ただ、いち会社員である以上は上司にこの感情を悟られる訳にはいかない私は、その場をそっと離れ青空に向かって話しかけた。
「神様ありがとう!アナタは万人に平等だったのですね!」
パンク補修も無事に終了し落ち着きを取り戻した私たち。メタボ会長はと云えば、いつものように参加者さんにチョッカイをだしてみたり、記念撮影に応じてみたりと楽しい時間を過ごしているご様子だ。もちろん、ひたすら補給を繰り返す事も忘れてはいない様子だ。ただ、その表情には先程までの疲労の欠片すら見えない。全くこのオヤジの基礎体力は無尽蔵なのかと呆れてしまうほどである。
冷たいトマトとキュウリがとても美味しいんです。
ナスのカラシ漬けの前から離れられない。
オカリナ奏者さんにもしっかりチョッカイを出します。
得意げにルート説明をする。もちろんアテにはなりませんからね。
ここでも記念撮影に応じる。みなさんの笑顔の意味が理解できません。どこにでもいるただのオヤジなんですよ?
「彼氏に用はなし!」快くパンク修理を手伝ってくれた方に対しあり得ない無礼を働く。本当に申し訳ございません。
一方、エイドを満喫するメタボ会長に比べ、この私の体たらくぶりは情けない限りである。この程度の登坂で疲労困憊になるなどとは、ほんの1年前では想像もつかない状況に陥っている現状が悲しくてならない。たまたま今日は体調が悪いだけに違いないと己に言い聞かせるも虚しさだけが押し寄せてくる。
ただ、自身の体力低下を嘆いていても何ら解決にはならない事も私は承知している。私にはキャリアと云うプライドがある以上、たかだか3年の自転車暦しか持たないメタボ会長ごときに千切られる訳にはいかないのだ。
プライドと云う名の熱い闘志を心に秘め、かつ涼しい顔を装いながらも、周囲やメタボ会長に現状の体たらくを悟られないよう留意しながら、ひたすら密かにかつ確実に体力回復に努める私だった。
次回、後編に続きます。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
「ポイ捨てはダメだぞ!」 メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 3年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
「もちろんだよ!前回、試走にお邪魔した時にも、”本番の時も是非来て下さい!”って言われたからさ。行かない訳にはいかんだろ?」真顔で応えるメタボ会長ではあるが、こんな簡単な社交辞令を真に受けるオヤジの思考回路が私には理解できない。そもそも試走の時も、別に呼ばれた訳でもないのに、単に暇だったから、担当の磯部に付いて行っただけの事なのだが・・・。
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晴天に恵まれ迎えた大会当日。もっとも、最強の晴れ男メタボ会長が来るのだから雨など降ろうはずもない事は折り込み済だ。スタート地点の鹿島槍スポーツヴィレッジ駐車場は参加者の皆さんの笑顔が溢れている。この駐車場で前泊の私たち編集部は、自家用車のリアシートに愛車を積み込んだ当日入りのメタボ会長と無事に合流を果たす。早朝3時半に東京を出てきたと言うオヤジの表情に、全く疲労の色が見えないのが残念な限りだ。
午前8時に100kmコースのスタートが始まり、私たちもこのグループと共にスタートをきる。スタートから"ぽかぽかランド美麻エイド"までの35kmは楽チンなサイクリング区間だ。青木湖畔を抜け長閑な田園地帯をのんびり走る。長野県大町地区は、信号が少なく見通しの良い道路が多いので、自転車ライドにはもってこいの地域だ。東京では考えられない交通量の少なさも魅力のひとつになっている。
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恵まれた天候と長閑な風景を味わいながら走る中、先頭を走るメタボ会長からおもむろに声が掛かる。
「ところで、今日は磯部君の姿が見えないけど?ひょっとして体調不良か?」
「磯部は別件の取材に行かせました。今回は大会の公式カメラも依頼されたので私が来た次第ですが、何かまずかったですか?」質問の意図が見えていない編集長が不思議そうな表情で答えると、オヤジの表情がキラリと輝く。
「彼が居ないって事は、このコースを知ってるのは私一人だけって事だな。君たちの不安な気持ちも判るが、キッチリ案内してあげるから安心して付いて来なさい!」
私にはこの言葉が全く意味不明でしかない。私たちが不安なのはコースではなく、いつも自分勝手な行動を選択するアナタの存在だけが不安要素なのだが・・・。
途中、20km地点の"白馬エイド"で温泉うどんを堪能し、山間部で多少のアップダウンをこなしながらも順調なライドが続く。スタートから1時間半で"ぽかぽかランド美麻エイド"に到着した私たち。単純に距離だけで考えれば既に34km、行程の3分の1を消化した訳だが、コースレイアウト図によるとこのエイドからいよいよイベントが始まると考えた方がよさそうである。この先が今大会一番やっかいなの登坂区間となる。実際には距離4km標高差300mしかないのだが、メタボ会長によるとレイアウト以上に厳しく感じるらしい。もっとも、オヤジの登坂力を知る私たちは話半分にしか受け取ってはいないのだが。
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君たちは先に?いやいや、3人一緒にこのペースで登りましょうよ!何ならもう少しペースを落としませんか?ここからペースアップなんて私には有り得ませんから!
そんな私の願望をあざ笑うかのような言葉が編集長から発せられる。「では、私たちは先行しますね。次のエイドで撮影しながら待ってますからノンビリ来て下さい。」
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結局、メタボ会長と遜色ないペースで登り続ける私に、満面の笑みを浮かべながらオヤジが話しかけてくる。
「あれ~?先に行っても構わないんだけど?付き合う必要なんてないんだから、君は取材を優先しなきゃ!」
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距離4km標高差300mを約20分を要し走破したメタボ会長と私が”美麻エイド”に転がり込む。電池切れ寸前の私にはこのエイドが砂漠のオアシスにすら見える。とにかく疲労回復に努めるべく、補給食のテントを目指して歩いて行くと、パンク修理真っ最中の編集長に遭遇。取材中の編集長がパンクに見舞われるのは年に1度あるかないかのレアケースだ。
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「神様ありがとう!アナタは万人に平等だったのですね!」
パンク補修も無事に終了し落ち着きを取り戻した私たち。メタボ会長はと云えば、いつものように参加者さんにチョッカイをだしてみたり、記念撮影に応じてみたりと楽しい時間を過ごしているご様子だ。もちろん、ひたすら補給を繰り返す事も忘れてはいない様子だ。ただ、その表情には先程までの疲労の欠片すら見えない。全くこのオヤジの基礎体力は無尽蔵なのかと呆れてしまうほどである。
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ただ、自身の体力低下を嘆いていても何ら解決にはならない事も私は承知している。私にはキャリアと云うプライドがある以上、たかだか3年の自転車暦しか持たないメタボ会長ごときに千切られる訳にはいかないのだ。
プライドと云う名の熱い闘志を心に秘め、かつ涼しい顔を装いながらも、周囲やメタボ会長に現状の体たらくを悟られないよう留意しながら、ひたすら密かにかつ確実に体力回復に努める私だった。
次回、後編に続きます。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
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