2012/02/07(火) - 09:44
当日の朝、ものすごい風の音で目が覚めて外を見てみると・・・。薄暗い中、吹き荒れる風の気配がうかがえます。しかし、雨はそこまで強くない。なんとか天気は大丈夫そう。レースが開催されることを願いつつ、日本人選手団の集合場所のホテルへ向かいます。
スタート地点まで数十kmあるので、日本人選手団を対象に、専用の自転車輸送トラックとバスが準備されています。日本人選手団には手厚い待遇が準備されており、万が一、何かあった場合もすぐに大使館に連絡がいくシステムになっているとのこと。ありがたいお話です。
スタート地点の秀林国中の裏手にある海岸線に到着すると、まだ真っ暗な中、荷物を預けたり準備運動をしたりする選手たちを発見。雨は一応止んでいるが、かわりにものすごい風が吹き荒れている。隣に見える海は真っ黒で、その荒れ模様は飲み込まれそうな威圧感を感じるくらい。
そんな中でもどうやらレースは開催される模様。
こんな天候の中、果たして本当に走行距離90km、標高3,275m地点まで辿り着けるのだろうか・・・。こころなしか参加する選手たちの表情はそれぞれの覚悟を感じさせ、引き締まっている様子。そして何より、スタート間近だというのに集まっている参加者が少ないのだ。後から確認すると、インターナショナルクラスはスタート前のDNSが112人。たくさんの選手がこの天候のためレースを回避したことになる。
僕の方は、昨晩の充実した食事と睡眠のおかげで体調はすこぶる快調。集合場所のホテルまでの数キロの区間、あまりの風に多少心が折れかけたり、スタート地点から離れたところで車から降ろされたり、トイレに紙がなくて知らない方に恵んでもいただいたりとプチトラブルはあったものの、その程度は想定内。今は覚悟を決めて準備万端。
愛用のサイクルコンピュータ、POLAR CS500+は心拍数40を表示している。ウォーミングアップとストレッチ後しばらくして、好調時とほぼ同じ心拍数を保てている。ロッカースイッチと見やすいオーバーサイズのディスプレイのおかげで、レース中もすばやく安全に操作でき知りたい情報が見えやすいという心強い見方。
そして、今回跨るROAD BIKEはGIANT ADVANCED SL 100 LTD。3月に台湾を一周した際に、各地でお世話になったGIANTへの感謝の気持ちと、無事に台北まで戻って来れた自分へのご褒美に購入した100周年記念BIKE。タイヤもMAXXIS XENITH EQUIPE LEGERE(マキシス ゼニス エキップレジェール)に履き替え完了。ヒルクライムでは無類の強さを発揮する超軽量タイヤです。最後に現地の台北のショップでも花蓮のショップでもばっちりメンテナンスしていただいています。
身に余る装備と準備。こうなると、あとは自分自身の能力と頑張り次第。この天候なら先頭集団もそんなにスピード出さないのではないかと勝手に都合の良い予想をして、行ける所まで先頭集団についていこうとちょっと無謀な目論みを始めたりします。体調が良く機材も良く、悪いのは天候だけと考えると欲張りな心に火がつき始めます。
もちろん、僕の使命は写真を撮りつつ、この未知の領域にあるレースを実走してみて体験レポートを書くこと。このコースの生の様子を日本の皆さんにお伝えできて始めて恩返しにつながるので、無事に時間内に完走することが必須。そして、個人的に花蓮のバドミントン仲間と夜のバドミントンの約束までしており、すでに充分すぎるくらい欲張りなのですが、さらに前を走ってみようだなんて自分でもエンドレスな欲張りな性格に驚きを隠せません。
スタート5分前。雨天用の防水デジカメの準備も万端。携帯でも写真を撮っておこうと日本で愛用しているこれまた防水の携帯電話を取り出そうとすると・・・。なぜかポケットが異常に軽い。まさかの紛失!!こんな時にこんな場所でレース中の命綱になるかもしれない携帯をなくすとは。
スタート4分前。あるゆるポケットを探してみるも見つからず流石に焦る。普段は冷静沈着、中国への留学経験から、めったなことでは動じない心を手に入れ、心拍数も常に低め安定。そんな自分を信じて恐る恐るPOLAR心拍計を覗き込んでみると・・・。
スタート3分前。なんと心拍数は160。人間驚いたり焦ると本当に心拍数が上がるのですが、まさか先ほどの4倍とは。自身のマックスの85%強度の負荷が心臓にかかっている訳です。携帯電話が僕にとってどれだけ大切かを示すデータになるかもしれない。などと、おかしな分析をし始めるくらい動揺しているのである。
スタート2分前。台湾一周の時も、たくさんの試練をいただきましたが、まさか今回もスタート前にこんな試練があるとは、自分の運命にツッコミを入れたくなります。しかし、そんな時はいつも現地の人々に助けられ、なんとかなってきた経験を思い出します。今回は完全に自分の不注意、すでにスタート体制の車列に入っており探しようもないので、開き直ってレースに集中することだけを考えます。
スタート1分前。スターターがカウントダウンを始めます。真っ黒な海は相変わらずの荒れ模様、不気味な音と吹き飛ばされそうな風の中、勇敢な選手たちの表情がより引き締まります。
そして、ついにスタート。未曾有の標高格差獲得へ未知への挑戦の火蓋が切って落とされ、勇敢な猛者たちがそれぞれの思いを胸に秘め一般道アジア最高地点を目指して駆け上ります。
しばらくの間、平坦な道を団体走行した後、太魯閣大橋を渡り渓谷に入っていきます。この太魯閣渓谷を流れる川は、まるで龍のように蛇行しながら天へと登っていくかの様。そして、ところどころ出現する岩を切り抜いたトンネルに入る際は、まるで龍の口に飛び込んで行く気分。荒天が続いたのを物語るような土砂崩れの後や、道路上を川のように流れる雨水を回避しつつ、集団はハイペースのまま登り始めます。
僕の方は、携帯紛失のショックを引きづり、160前後から落ちて来ない心拍数に顔を引きつらせつつも、集団4列目くらいから有名選手達の走りを見学させていただく作戦。コースはまるでアトラクション。カーブとトンネル、霧と雨水、そして、時々土砂の残る道路。濃霧の中を集団が空気を切り裂きながら進んでいきます。写真を撮りたいと思いつつも、あまりの濃霧に景色はぼやけっぱなし。
快調に登りながら、POLAR CS500+で高度をチェックするも、なかなか高度は稼げないものである。3275mから現在の高度を引くと、気の遠くなる残量。距離はまずまず進んでいるのにも関わらず、高度がなかなか稼げていないということは・・・。この先に更に危険な斜度が待ち構えているということなのです。
20㎞を少し過ぎたところあたりから集団のペースが速くなってきた模様。自身の心拍数を確認してみると、155前後。これから更にスピードアップされたら、とても完走できないと判断。このとんでもない選手たちは、どんなタイムでゴールするのだろうと楽しみに思いつつ、僕の無謀な挑戦はここまでにして、思い切ってサイクリングモードに変更。自分自身は分をわきまえて完走するために、ひたすら心拍数をコントロールすることに専念。
モードチェンジしたものの、景色を楽しみ写真を撮ろうにも、濃霧と高度があがるごとに強く降り始めた雨のせいで、思い通りにならず。自然と興味の対象は走っている選手たちに向けられます。よく観察してみると様々な選手が参加しており、跨っているバイクもいろいろ。
マウンテンバイクでグイグイ登っていく選手も何名かみかけて、勇気を分けてもらった気がしました。時々、同じようなペースで併走する選手とは、中国語で話をしながら、お互いのここまでの健闘を讃えあいつつ、この先の果てしない道への恐怖と不安を分かち合うのでした。
補給ポイントで自転車を降りては、後続の選手達を応援したり、現地のボランティアスタッフや選手達と言葉を交わします。もちろんストレッチしながら、自身の身体の声を聞くことも忘れません。ただ、標高が上がるごとに、当然気温も下がってくるわけで、じっとしていると体温もどんどん奪われていきます。そんな中、頑張る選手達以上に、凍えながらひたすらボトルを渡してくれる補給ポイントのスタッフさんに感謝です。
ツアーで参加している日本人選手たちには目印になる緑色のリボンが配られており、わかりやすくヘルメットの後ろに結び付けられているので、追い抜きながら声を掛け合います。すっかりサイクリングモードに切り替えて、ひたすら完走を目指す僕にとっては、一緒にこのレースに参加している皆さんは、最強の敵に一緒に挑む同志です。
補給ポイントで合流しては、だんだんと厳しさを増す斜度と凍てつく寒さに共に挑むことを誓い合います。雨や濃霧が続く中、写真を撮っても撮っても同じような靄ばかり、このままではレポートで太魯閣の素晴らしさを伝えることが難しいと心配になりつつ走っていました。そう思い始めた頃、まるで僕の心を見透かしたかのように、突如雨が上がり、虹が現れます。
『山の天気は変わりやすい』良く聞く言葉ですが、まさにその通り。ここから先、登れば登るほど、太魯閣が秘めるさまざまな大自然の顔を見せてくれます。
濃霧、虹、そして空の上からの景色も拝むことが出来て、幸せな気分に浸りつつ、さらに上を目指します。気分は良いのですが、流石に標高3000m近くも登ってくると、いつもとは違う身体の悲鳴が聞こえてきます。ふくらはぎの筋肉が怪しくなってきたら、もも裏の筋肉をより使うフォームに切り替えたり、骨盤の傾きや、膝の向きを少し変えたり、うまく疲労を分散させながら登っていきます。
ところが、まもなく3000mという所で、急に今までうまく誤魔化して使っていた下半身の筋肉たちから、いっせいにストライキシグナル発生。同時に両足大腿部の表と裏が攣るという激しい症状が痛みとともにやってきました。下腿もあわせると、まさかの9箇所同時痙攣。これには流石の自分にも心の折れる音が聞こえた気がしました。
それでも、まだまだ先を目指さなければならない理由が私にはあるのです。
次回は感動のゴールまでの模様をお届けします。
text:Masaharu.Okawara
photo:Makoto.Ayano Masaharu.Okawara
edit:Kenji Degawa
大河原 正晴 プロフィール
BICYCLE TRAINERS JAPAN 代表。
JCAサイクリングインストラクターを始め、上級救命技能、高齢者体力づくり支援士などの資格を有し、バドミントンと自転車を武器に日本各地、世界各国を駆け巡り、ウェルネスライフを実践するPERSONAL TRAINER。
都内フィットネスクラブ・自宅・出張にてパーソナルトレーニング指導したり、都内を拠点にパーソナルライド、パーソナルランニングセッションも実施する。
クライアントは運動未経験の女性からトップアスリートまで、年齢も子供から高齢者に至るまで、多岐に渡る。自身の身体能力を引き出すためのトレーニング、コンディショニングアドバイスを中心に、将来長く健康を維持するための生活習慣の見直しや提案、生涯スポーツへの挑戦もサポートもしてくれる。
スタート地点まで数十kmあるので、日本人選手団を対象に、専用の自転車輸送トラックとバスが準備されています。日本人選手団には手厚い待遇が準備されており、万が一、何かあった場合もすぐに大使館に連絡がいくシステムになっているとのこと。ありがたいお話です。
スタート地点の秀林国中の裏手にある海岸線に到着すると、まだ真っ暗な中、荷物を預けたり準備運動をしたりする選手たちを発見。雨は一応止んでいるが、かわりにものすごい風が吹き荒れている。隣に見える海は真っ黒で、その荒れ模様は飲み込まれそうな威圧感を感じるくらい。
そんな中でもどうやらレースは開催される模様。
こんな天候の中、果たして本当に走行距離90km、標高3,275m地点まで辿り着けるのだろうか・・・。こころなしか参加する選手たちの表情はそれぞれの覚悟を感じさせ、引き締まっている様子。そして何より、スタート間近だというのに集まっている参加者が少ないのだ。後から確認すると、インターナショナルクラスはスタート前のDNSが112人。たくさんの選手がこの天候のためレースを回避したことになる。
僕の方は、昨晩の充実した食事と睡眠のおかげで体調はすこぶる快調。集合場所のホテルまでの数キロの区間、あまりの風に多少心が折れかけたり、スタート地点から離れたところで車から降ろされたり、トイレに紙がなくて知らない方に恵んでもいただいたりとプチトラブルはあったものの、その程度は想定内。今は覚悟を決めて準備万端。
愛用のサイクルコンピュータ、POLAR CS500+は心拍数40を表示している。ウォーミングアップとストレッチ後しばらくして、好調時とほぼ同じ心拍数を保てている。ロッカースイッチと見やすいオーバーサイズのディスプレイのおかげで、レース中もすばやく安全に操作でき知りたい情報が見えやすいという心強い見方。
そして、今回跨るROAD BIKEはGIANT ADVANCED SL 100 LTD。3月に台湾を一周した際に、各地でお世話になったGIANTへの感謝の気持ちと、無事に台北まで戻って来れた自分へのご褒美に購入した100周年記念BIKE。タイヤもMAXXIS XENITH EQUIPE LEGERE(マキシス ゼニス エキップレジェール)に履き替え完了。ヒルクライムでは無類の強さを発揮する超軽量タイヤです。最後に現地の台北のショップでも花蓮のショップでもばっちりメンテナンスしていただいています。
身に余る装備と準備。こうなると、あとは自分自身の能力と頑張り次第。この天候なら先頭集団もそんなにスピード出さないのではないかと勝手に都合の良い予想をして、行ける所まで先頭集団についていこうとちょっと無謀な目論みを始めたりします。体調が良く機材も良く、悪いのは天候だけと考えると欲張りな心に火がつき始めます。
もちろん、僕の使命は写真を撮りつつ、この未知の領域にあるレースを実走してみて体験レポートを書くこと。このコースの生の様子を日本の皆さんにお伝えできて始めて恩返しにつながるので、無事に時間内に完走することが必須。そして、個人的に花蓮のバドミントン仲間と夜のバドミントンの約束までしており、すでに充分すぎるくらい欲張りなのですが、さらに前を走ってみようだなんて自分でもエンドレスな欲張りな性格に驚きを隠せません。
スタート5分前。雨天用の防水デジカメの準備も万端。携帯でも写真を撮っておこうと日本で愛用しているこれまた防水の携帯電話を取り出そうとすると・・・。なぜかポケットが異常に軽い。まさかの紛失!!こんな時にこんな場所でレース中の命綱になるかもしれない携帯をなくすとは。
スタート4分前。あるゆるポケットを探してみるも見つからず流石に焦る。普段は冷静沈着、中国への留学経験から、めったなことでは動じない心を手に入れ、心拍数も常に低め安定。そんな自分を信じて恐る恐るPOLAR心拍計を覗き込んでみると・・・。
スタート3分前。なんと心拍数は160。人間驚いたり焦ると本当に心拍数が上がるのですが、まさか先ほどの4倍とは。自身のマックスの85%強度の負荷が心臓にかかっている訳です。携帯電話が僕にとってどれだけ大切かを示すデータになるかもしれない。などと、おかしな分析をし始めるくらい動揺しているのである。
スタート2分前。台湾一周の時も、たくさんの試練をいただきましたが、まさか今回もスタート前にこんな試練があるとは、自分の運命にツッコミを入れたくなります。しかし、そんな時はいつも現地の人々に助けられ、なんとかなってきた経験を思い出します。今回は完全に自分の不注意、すでにスタート体制の車列に入っており探しようもないので、開き直ってレースに集中することだけを考えます。
スタート1分前。スターターがカウントダウンを始めます。真っ黒な海は相変わらずの荒れ模様、不気味な音と吹き飛ばされそうな風の中、勇敢な選手たちの表情がより引き締まります。
そして、ついにスタート。未曾有の標高格差獲得へ未知への挑戦の火蓋が切って落とされ、勇敢な猛者たちがそれぞれの思いを胸に秘め一般道アジア最高地点を目指して駆け上ります。
しばらくの間、平坦な道を団体走行した後、太魯閣大橋を渡り渓谷に入っていきます。この太魯閣渓谷を流れる川は、まるで龍のように蛇行しながら天へと登っていくかの様。そして、ところどころ出現する岩を切り抜いたトンネルに入る際は、まるで龍の口に飛び込んで行く気分。荒天が続いたのを物語るような土砂崩れの後や、道路上を川のように流れる雨水を回避しつつ、集団はハイペースのまま登り始めます。
僕の方は、携帯紛失のショックを引きづり、160前後から落ちて来ない心拍数に顔を引きつらせつつも、集団4列目くらいから有名選手達の走りを見学させていただく作戦。コースはまるでアトラクション。カーブとトンネル、霧と雨水、そして、時々土砂の残る道路。濃霧の中を集団が空気を切り裂きながら進んでいきます。写真を撮りたいと思いつつも、あまりの濃霧に景色はぼやけっぱなし。
快調に登りながら、POLAR CS500+で高度をチェックするも、なかなか高度は稼げないものである。3275mから現在の高度を引くと、気の遠くなる残量。距離はまずまず進んでいるのにも関わらず、高度がなかなか稼げていないということは・・・。この先に更に危険な斜度が待ち構えているということなのです。
20㎞を少し過ぎたところあたりから集団のペースが速くなってきた模様。自身の心拍数を確認してみると、155前後。これから更にスピードアップされたら、とても完走できないと判断。このとんでもない選手たちは、どんなタイムでゴールするのだろうと楽しみに思いつつ、僕の無謀な挑戦はここまでにして、思い切ってサイクリングモードに変更。自分自身は分をわきまえて完走するために、ひたすら心拍数をコントロールすることに専念。
モードチェンジしたものの、景色を楽しみ写真を撮ろうにも、濃霧と高度があがるごとに強く降り始めた雨のせいで、思い通りにならず。自然と興味の対象は走っている選手たちに向けられます。よく観察してみると様々な選手が参加しており、跨っているバイクもいろいろ。
マウンテンバイクでグイグイ登っていく選手も何名かみかけて、勇気を分けてもらった気がしました。時々、同じようなペースで併走する選手とは、中国語で話をしながら、お互いのここまでの健闘を讃えあいつつ、この先の果てしない道への恐怖と不安を分かち合うのでした。
補給ポイントで自転車を降りては、後続の選手達を応援したり、現地のボランティアスタッフや選手達と言葉を交わします。もちろんストレッチしながら、自身の身体の声を聞くことも忘れません。ただ、標高が上がるごとに、当然気温も下がってくるわけで、じっとしていると体温もどんどん奪われていきます。そんな中、頑張る選手達以上に、凍えながらひたすらボトルを渡してくれる補給ポイントのスタッフさんに感謝です。
ツアーで参加している日本人選手たちには目印になる緑色のリボンが配られており、わかりやすくヘルメットの後ろに結び付けられているので、追い抜きながら声を掛け合います。すっかりサイクリングモードに切り替えて、ひたすら完走を目指す僕にとっては、一緒にこのレースに参加している皆さんは、最強の敵に一緒に挑む同志です。
補給ポイントで合流しては、だんだんと厳しさを増す斜度と凍てつく寒さに共に挑むことを誓い合います。雨や濃霧が続く中、写真を撮っても撮っても同じような靄ばかり、このままではレポートで太魯閣の素晴らしさを伝えることが難しいと心配になりつつ走っていました。そう思い始めた頃、まるで僕の心を見透かしたかのように、突如雨が上がり、虹が現れます。
『山の天気は変わりやすい』良く聞く言葉ですが、まさにその通り。ここから先、登れば登るほど、太魯閣が秘めるさまざまな大自然の顔を見せてくれます。
濃霧、虹、そして空の上からの景色も拝むことが出来て、幸せな気分に浸りつつ、さらに上を目指します。気分は良いのですが、流石に標高3000m近くも登ってくると、いつもとは違う身体の悲鳴が聞こえてきます。ふくらはぎの筋肉が怪しくなってきたら、もも裏の筋肉をより使うフォームに切り替えたり、骨盤の傾きや、膝の向きを少し変えたり、うまく疲労を分散させながら登っていきます。
ところが、まもなく3000mという所で、急に今までうまく誤魔化して使っていた下半身の筋肉たちから、いっせいにストライキシグナル発生。同時に両足大腿部の表と裏が攣るという激しい症状が痛みとともにやってきました。下腿もあわせると、まさかの9箇所同時痙攣。これには流石の自分にも心の折れる音が聞こえた気がしました。
それでも、まだまだ先を目指さなければならない理由が私にはあるのです。
次回は感動のゴールまでの模様をお届けします。
text:Masaharu.Okawara
photo:Makoto.Ayano Masaharu.Okawara
edit:Kenji Degawa
大河原 正晴 プロフィール
BICYCLE TRAINERS JAPAN 代表。
JCAサイクリングインストラクターを始め、上級救命技能、高齢者体力づくり支援士などの資格を有し、バドミントンと自転車を武器に日本各地、世界各国を駆け巡り、ウェルネスライフを実践するPERSONAL TRAINER。
都内フィットネスクラブ・自宅・出張にてパーソナルトレーニング指導したり、都内を拠点にパーソナルライド、パーソナルランニングセッションも実施する。
クライアントは運動未経験の女性からトップアスリートまで、年齢も子供から高齢者に至るまで、多岐に渡る。自身の身体能力を引き出すためのトレーニング、コンディショニングアドバイスを中心に、将来長く健康を維持するための生活習慣の見直しや提案、生涯スポーツへの挑戦もサポートもしてくれる。
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