2012/01/15(日) - 09:47
前回のインプレ現場で、メタボ会長から業務命令の名を借りた激しいパワーハラスメントを受けた我が編集部。しかしながら、我々が恥をかかないためにも、メタボ会長に「正しい乗り方を伝授していく他ない!」というのが編集部内の一致した見解となっている。
これが問題の優秀過ぎる機材。メタボ会長の愛車だ 「とにかく問題なのは会長の機材が優秀すぎるコトだよ。あのフレームにあのホイールじゃ、普通なら踏めないはずの重いギアでも踏めちゃう訳だよ。大袈裟な話抜きにツールでも勝てる機材を素人が乗り回してるのが諸悪の根源なんだよ!」
休憩時間の和やかな空気を切り裂くように、編集長から唐突に言葉が飛んできた。
その憮然とした表情からは、編集長のやり場の無い怒りがヒシヒシと伝わってくる。もっとも、私たちにとっては、イイ迷惑以外の何ものでもナイのだが。
「新調したばかりのフレームを取り上げるのは無理そうだから、せめてボーラワンだけでも履き替えさせる方法はないもんかね・・・。そうだ!ベアリングのメンテが必要だとかって適当な理由をつけて、会長のボーラワンを君たちが預かっといてくれないかな?これは業務命令ね。」
編集長が見つけたバランスウェート。1枚120g あれれ?一瞬、編集長がメタボ会長と被って見えたのは気のせいだろうか?そんな彼から弱々しい語気で言葉が続く。
「会長は柔らかいホイールが嫌いだから、重くて堅いホイールがあればイイんだけど、そんな都合よく事が進む訳ないよね。初級者なのに機材の好みがハッキリしてるから始末悪いよね。」
何とかしたいのはやまやまだが、残念なことに編集部にあるテスト用機材はグレードの高いモノばかりが揃ってしまっているのである。
「堅めのホイールの中で一番重量があるのはEASTON EA50 AEROの1786gで~す。」
部品棚を見に行った新人編集部員の磯部君から、空気を無視した明るい音色でドライな答えが返ってきた。
「う~ん。1800g弱じゃ軽すぎるね。ん?待てよ・・・」そう言い残して部品棚をゴソゴソ漁り始めた編集長が、爽やかな笑顔で戻ってきた。その手にはバランス調整用の鉛シートがしっかりと握られている。
「これ1枚で120gあるから、リアホイールにこれを全部貼りつけちゃおーよ!そうすればかなりヘビーなホイールに変身だよ!ついでにスプロケットもデュラエースから105の12-25Tとかに変えちゃえば、よりズッシリくるしトップスピードも落ちるからベターだね。」
リムにウェートを貼り付ける。1ケ所40gを3ケ所に分散して装着し、合計で120gの増量化にと成功!かなりズッシリとくる その言葉が終らないうちに、編集長の手が鉛シートを小刻みに切り分け始める。その動きはとてもスピーディかつ楽しそうに見える。
通常のロードバイクであれば、10gでも軽く仕上げるために策を講じるモノなのだが、少なくとも私には、この手のデチューンを行った経験はないので、ある種の戸惑いすら覚えるほどだ。
ただ、会長から受けてきた理不尽な振舞いを思い出すだけで、編集長のヤル気には拍車がかかるようだ。それが証拠に、デチューン作業中の編集長の表情は、真夏の太陽に負けないほどの輝きを見せている。
こうして手を尽くして出来上がったメタボ会長矯正用リアホイール。タイヤとスプロケットを装着した状態で、今までオヤジが履いていたボーラワンに比べて、前後で740gの増量に成功している。特に鉛シートによるリアホイール外周部の120g増量は数字以上に効果が期待できる。これなら流石のメタボ会長でもアウタートップ常用と云う訳にはいかない筈である。
「このホイールは剛性も高くてイイですよ!」とメタボ会長を言いくるめる編集長。けっこうワルい人である。
こうして、意気揚々と迎えた伴走当日。メタボ会長のサイクリングに付き合うのはかなり久し振りである。
新年を迎え、日本中が一気に冷え込んだ感はあるものの、日差しがとても温かい。やはりメタボ会長の晴れ男っぷりは侮れない。
「会長、おはようございます。先日お話した通り、今回のサイクリングはケイデンスを保ちながら走る練習ですから、頑張ってくださいね。今日は多摩湖を抜け出して、埼玉県飯能市にある和菓子屋さんを目指しましょう!ほぼ平坦なコースですからのんびり行きましょう!」
いきなり35km/h巡航。追走する編集長は余裕だが私にはキツイ! 編集長が優しく声をかける。これはまさしく彼お得意のアメとムチ作戦だ。
「おぉ?何でまた和菓子屋なんだ?だけど素晴らしいアイデアだよ。やればできるじゃないか!」当のオヤジからは、まったく意味不明な返答が返ってくる。
「よーし、ちょっくら行ってみっか!75回転/分を維持すればイイんだな?」
そう言い残すや否や、同行する私たちの存在など構うことなく全開でスッ飛んで行くメタボ会長。出足からいきなりの35km/h巡航を始める始末だ。
おいおい、いくらなんでも開始早々から飛ばし過ぎじゃねぇ?編集長や新人君相手ならともかく、私にとってこの巡航速度は明らかにオーバーキャパシティである。これで故障してんのかよ!と、疑いたくなるほどのスピードだ。付き合うコチラはたまったもんじゃない。メタボ会長のデカイ背中に隠れて走っていたにも関わらず、たちまち千切られてしまう。
「こりゃ何だ?」目聡くホイールのウェイトに気づいたオヤジ 走り出してわずか30分。踏切に引っ掛かった会長に追いつくと、苦虫を噛み潰したような表情で「太ももがパンパンだぁ!」と、訴えかけてくる。そんなオヤジに間髪入れずに編集長から檄が飛ぶ。
「だからぁ!もっと軽いギアで、脚の力を一切使わずにペダルを廻して下さい。走行速度は25km/h未満で十分ですから!まずはフロントギアをインナーに落としてください。今日のサイクリングはアウター禁止!インナー縛りです!」
久し振りに聞く編集長の荒い語気に、さすがのメタボ会長も怯んだかと思えば、さにあらず、
「リアホイールに鉛が貼り付いてっけど、これ何だい?」と、不思議そうな表情を浮かべながら編集長に問いかけている。いきなりのピンチ到来だ。事の真相を知る私の動揺をよそに、編集長がサラリと答える。
「今日はアウター禁止です!」編集長の復習が始まった 「それはバランス調整用のウエイトですよ。会長のためにホイールバランスを完璧に調整しておいたんです。走りやすいでしょ?バランスが狂ってるホイールじゃ走れたモンじゃありませんからね。」
この言い訳を傍らで聞いていた私は、笑いを堪えるのに必死である。編集長の度胸の良さには心の底から敬服の念を覚えるほどだ。
「そっか~!言われてみれば確かにスイスイ進む気がするよ。剛性不足も感じないからご機嫌だよ。それにハブも赤くてカッコイイしな!」
編集長の腹黒さなど全く知る由もなく、無邪気な笑顔で答えるメタボ会長。案外、このオヤジはただのお人好しなのかもしれない。上機嫌で再び走り出した会長に対し、すかさず編集長のチェックが入る。
スピードが上がり過ぎない様、新人の磯部が前を抑える 「会長!今日はアウター禁止ですよ!」どうやらウチの編集長はメタボ会長が憎くて仕方ない様子である。そんなイジメに遭いながらも、
「おっけ~!おっけ~!今日はクルクル作戦だったな。了解~。」と、当のオヤジは何とも人を小馬鹿にしたような表情で、インナートップのギアをクルクルとまわし始める。
そもそも、インナートップの選択は機材にかかる負担を考えると決してお勧めできるモノではないのだが、現状のメタボ会長にそこまでの要求は酷と云うものだ。
今回のようなド平坦路では、必ず50-11Tを選択して60回転/分辺りで走っていた筈のメタボ会長が、34-12Tをクルクル廻しているだけでも信じられない光景なのだ。我々の意図した通り、まんまと75回転/分のテイデンスを維持しながら、28km/h近辺で巡航している。
「もっと軽いギアで回転数を上げて!」編集長のイジメは止まらない 「なぁ、ずいぶんとスピードが遅いけど、これで本当にイイんだよな?」
どうにも納得いかない様子で編集長に問いかけるメタボ会長に対し、
「イイんです!それより、リアディレイラの負担が大きすぎるので、リアを3枚ほど軽くしてください!」と、厳しい口調で突き放す編集長。
今日の彼は憎悪に駆られた悪魔のようである。そんな編集長の報復に素直に従おうとしているメタボ会長がちょっぴり可愛く見えるのは気のせいだろうか?
抜けるような青空の下、私たち4人の車列は飯能市を目指して進む。途中ですれ違ったサイクリストグループの人々の顔も皆、笑顔に満ち溢れている。やっぱり、自転車ってイイもんである。
その後も、どうにも納得のいかない様子のメタボ会長と、復讐の権化と化した編集長の間でヤリトリが続く。
「おいおい!忙しいばっかりで、全然スピードが出てないけど、本当にこれでイイのか?」
「だからぁ!イイんです!今の状況が正しい状況ですから!正しい乗り方をしっかり覚えてください!」
「そぉなのかなぁ?忙し過ぎて、かえって疲れそうな気がするんだけど?全然進んでる気がしないし・・・」
「とにかく私を信じなさい!」
冬晴れの下、すれ違う皆さんの表情はとても楽しそう
コースの途中にある岩蔵温泉。まだまだ東京都です
そんな会話を交わしながら、納得のいかない表情を浮かべたメタボ会長と共に、旧青梅街道を一路、飯能市を目指し疾走する私達であった。
次回ですか?
編集長の報復はまだまだ続きそうな予感です。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
「ポイ捨てはダメだぞ!」 メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 2年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
休憩時間の和やかな空気を切り裂くように、編集長から唐突に言葉が飛んできた。
その憮然とした表情からは、編集長のやり場の無い怒りがヒシヒシと伝わってくる。もっとも、私たちにとっては、イイ迷惑以外の何ものでもナイのだが。
「新調したばかりのフレームを取り上げるのは無理そうだから、せめてボーラワンだけでも履き替えさせる方法はないもんかね・・・。そうだ!ベアリングのメンテが必要だとかって適当な理由をつけて、会長のボーラワンを君たちが預かっといてくれないかな?これは業務命令ね。」
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「会長は柔らかいホイールが嫌いだから、重くて堅いホイールがあればイイんだけど、そんな都合よく事が進む訳ないよね。初級者なのに機材の好みがハッキリしてるから始末悪いよね。」
何とかしたいのはやまやまだが、残念なことに編集部にあるテスト用機材はグレードの高いモノばかりが揃ってしまっているのである。
「堅めのホイールの中で一番重量があるのはEASTON EA50 AEROの1786gで~す。」
部品棚を見に行った新人編集部員の磯部君から、空気を無視した明るい音色でドライな答えが返ってきた。
「う~ん。1800g弱じゃ軽すぎるね。ん?待てよ・・・」そう言い残して部品棚をゴソゴソ漁り始めた編集長が、爽やかな笑顔で戻ってきた。その手にはバランス調整用の鉛シートがしっかりと握られている。
「これ1枚で120gあるから、リアホイールにこれを全部貼りつけちゃおーよ!そうすればかなりヘビーなホイールに変身だよ!ついでにスプロケットもデュラエースから105の12-25Tとかに変えちゃえば、よりズッシリくるしトップスピードも落ちるからベターだね。」
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通常のロードバイクであれば、10gでも軽く仕上げるために策を講じるモノなのだが、少なくとも私には、この手のデチューンを行った経験はないので、ある種の戸惑いすら覚えるほどだ。
ただ、会長から受けてきた理不尽な振舞いを思い出すだけで、編集長のヤル気には拍車がかかるようだ。それが証拠に、デチューン作業中の編集長の表情は、真夏の太陽に負けないほどの輝きを見せている。
こうして手を尽くして出来上がったメタボ会長矯正用リアホイール。タイヤとスプロケットを装着した状態で、今までオヤジが履いていたボーラワンに比べて、前後で740gの増量に成功している。特に鉛シートによるリアホイール外周部の120g増量は数字以上に効果が期待できる。これなら流石のメタボ会長でもアウタートップ常用と云う訳にはいかない筈である。
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こうして、意気揚々と迎えた伴走当日。メタボ会長のサイクリングに付き合うのはかなり久し振りである。
新年を迎え、日本中が一気に冷え込んだ感はあるものの、日差しがとても温かい。やはりメタボ会長の晴れ男っぷりは侮れない。
「会長、おはようございます。先日お話した通り、今回のサイクリングはケイデンスを保ちながら走る練習ですから、頑張ってくださいね。今日は多摩湖を抜け出して、埼玉県飯能市にある和菓子屋さんを目指しましょう!ほぼ平坦なコースですからのんびり行きましょう!」
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「おぉ?何でまた和菓子屋なんだ?だけど素晴らしいアイデアだよ。やればできるじゃないか!」当のオヤジからは、まったく意味不明な返答が返ってくる。
「よーし、ちょっくら行ってみっか!75回転/分を維持すればイイんだな?」
そう言い残すや否や、同行する私たちの存在など構うことなく全開でスッ飛んで行くメタボ会長。出足からいきなりの35km/h巡航を始める始末だ。
おいおい、いくらなんでも開始早々から飛ばし過ぎじゃねぇ?編集長や新人君相手ならともかく、私にとってこの巡航速度は明らかにオーバーキャパシティである。これで故障してんのかよ!と、疑いたくなるほどのスピードだ。付き合うコチラはたまったもんじゃない。メタボ会長のデカイ背中に隠れて走っていたにも関わらず、たちまち千切られてしまう。
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「だからぁ!もっと軽いギアで、脚の力を一切使わずにペダルを廻して下さい。走行速度は25km/h未満で十分ですから!まずはフロントギアをインナーに落としてください。今日のサイクリングはアウター禁止!インナー縛りです!」
久し振りに聞く編集長の荒い語気に、さすがのメタボ会長も怯んだかと思えば、さにあらず、
「リアホイールに鉛が貼り付いてっけど、これ何だい?」と、不思議そうな表情を浮かべながら編集長に問いかけている。いきなりのピンチ到来だ。事の真相を知る私の動揺をよそに、編集長がサラリと答える。
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この言い訳を傍らで聞いていた私は、笑いを堪えるのに必死である。編集長の度胸の良さには心の底から敬服の念を覚えるほどだ。
「そっか~!言われてみれば確かにスイスイ進む気がするよ。剛性不足も感じないからご機嫌だよ。それにハブも赤くてカッコイイしな!」
編集長の腹黒さなど全く知る由もなく、無邪気な笑顔で答えるメタボ会長。案外、このオヤジはただのお人好しなのかもしれない。上機嫌で再び走り出した会長に対し、すかさず編集長のチェックが入る。
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「おっけ~!おっけ~!今日はクルクル作戦だったな。了解~。」と、当のオヤジは何とも人を小馬鹿にしたような表情で、インナートップのギアをクルクルとまわし始める。
そもそも、インナートップの選択は機材にかかる負担を考えると決してお勧めできるモノではないのだが、現状のメタボ会長にそこまでの要求は酷と云うものだ。
今回のようなド平坦路では、必ず50-11Tを選択して60回転/分辺りで走っていた筈のメタボ会長が、34-12Tをクルクル廻しているだけでも信じられない光景なのだ。我々の意図した通り、まんまと75回転/分のテイデンスを維持しながら、28km/h近辺で巡航している。
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どうにも納得いかない様子で編集長に問いかけるメタボ会長に対し、
「イイんです!それより、リアディレイラの負担が大きすぎるので、リアを3枚ほど軽くしてください!」と、厳しい口調で突き放す編集長。
今日の彼は憎悪に駆られた悪魔のようである。そんな編集長の報復に素直に従おうとしているメタボ会長がちょっぴり可愛く見えるのは気のせいだろうか?
抜けるような青空の下、私たち4人の車列は飯能市を目指して進む。途中ですれ違ったサイクリストグループの人々の顔も皆、笑顔に満ち溢れている。やっぱり、自転車ってイイもんである。
その後も、どうにも納得のいかない様子のメタボ会長と、復讐の権化と化した編集長の間でヤリトリが続く。
「おいおい!忙しいばっかりで、全然スピードが出てないけど、本当にこれでイイのか?」
「だからぁ!イイんです!今の状況が正しい状況ですから!正しい乗り方をしっかり覚えてください!」
「そぉなのかなぁ?忙し過ぎて、かえって疲れそうな気がするんだけど?全然進んでる気がしないし・・・」
「とにかく私を信じなさい!」
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そんな会話を交わしながら、納得のいかない表情を浮かべたメタボ会長と共に、旧青梅街道を一路、飯能市を目指し疾走する私達であった。
次回ですか?
編集長の報復はまだまだ続きそうな予感です。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
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身長 : 172cm 体重 : 87kg→79kg→85kg
自転車歴 : 2年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。