2011/11/20(日) - 00:19
革のサドルやバッグなどを通して、エレガントなサイクルスタイルを提唱するブルックス。そのディレクターを務めるクリスティーナ・ブルディグさんが来日。ブルックスの今について語ってくれた。
自転車をスポーツとしてではなく、ライフスタイルとしてとらえ、その文化を普及させるため、ブランドとして前向きに取り組んでいるブルックス。革サドルやバッグなど、いわゆる『古き良き自転車文化』としてのイメージが強い製品ばかりが目立つブランドだが、その実は全く逆。現代の流れやトレンドを的確に捉え、自らが持つ歴史とイメージを使って、現在の自転車文化そのものを変えていこうとしているのである。
そんなブルックスの、ブランド・ディレクターであるブルディグさんは、そんなブルックスの歴史、現在、そしてこれからのビジョンを語ってくれた。彼女自身もとてもチャーミングな女性。ブルックスの新作である女性用ハンドバッグ(!)『ビクトリア』を片手に持ち、そのバッグは、彼女の着る黒いワンピースによく似合っていた。
――まずは、ブルックスが現在目指している方向性を、教えてもらえますか?
ブルックスは、1920年代には、2500人もの従業員のいる大きな企業でした。自転車パーツの企業の中ではもちろん最大。自転車用のサドル、サイクリングバッグ、シューズ、アクセサリーや、オートバイ用のアクセサリーも作っていました。
現在のブルックスの命題は、自転車を、そしてサイクリストを美しく着飾らせるというもの。自転車をレースやスポーツとしてとらえる人々だけでなく、通学や、買い物、自転車と生活し、それぞれのスタイルを造りだす人々をすべて、サイクリストととらえています。
そのために、創立当時のスタイルを、今、自転車を楽しんでいる人々に提供したいと思い、改めて強調していきたいと思っています。その一つが、現在打ち出している広告なのです。
――おっしゃる通り、ここ数年の自転車文化とサイクリストの層が広がり、自転車に対する常識というのもずいぶん変わりましたね。
ブルックスは、2002年にセラロイヤル社の資本に入りました。みな、「そんな古くさいブランドを、いったいどうするつもりだ」と、私たちのことをおかしいと思ったようです。スポーツサイクル用のサドルブランドを展開してきた会社が、ブルックスを買うなんて。
でも結局、私たちは、そこから自転車の文化自体が変わっていくのを目の当たりにした最初の人間だったと思っています。
というのも、それまでのブルックスは、昔の自転車文化を懐かしむ人々や、コレクターだけに興味を持たれるブランドでした。革のサドルにノスタルジーというか、ビンテージというか、そういうものを感じる人々に。そんなに昔のことではありませんよ。たかだか7、8年ほど前のこと。
でも、良いものはどんなに時が経っても、良いものとして評価されるものです。1890年に作られたスタンダードな『B-17』サドルは、100年経った今も、若い世代の人々に評価され、受け入れられています。スポーツではなく、自転車とのライフスタイルを楽しむ人々に。
そして、このトレンドは、世界的にさらに広がって来ているのを感じていますし、それを嬉しく思っています。ブルックスの提唱するスタイルを、今どきのサイクリストたちは、自分たちのスタイルやテイストと混ぜ合わせ、自転車とのライフスタイルを楽しんでいるのです。
――伝統的な製品を作り続けるというイメージのブルックスですが、最新技術を取り入れることはあるのですか?
ええ、例えば、私たちがこれまで作っていた自転車旅行用のパニアバッグは、エレガントなルックスではありますが、重いものでした。ところが、実際に自転車旅行に出る人々は、革バッグのライフスタイルやロマンティックさに惹かれているわけではありません。彼らは、軽さ、防水性など、機能的なものを欲しがっています。
これまでの私たちのパニアバッグは、日常的なライフスタイルには充分マッチしますし、それには自信を持っていますが、旅行好きな人々が必要とするものではなかったのです。
そこで、今年のユーロバイク(ヨーロッパ最大の自転車ショー)では、軽い防水素材を使ったパニアバッグを作り、発表しました。最新の接着技術を使い、リクセンカウル社のアタッチメントを採用しました。それでも、ブルックスとしてのスタイルを失わないパニアバッグです。
このバッグを見てがっかりした人も多いと聞きます。「革ではないんですか」「手作りではないんですか」「ブルックスはブルックスであることを捨ててしまったのか」、と。
でも、ブルックスの創設者であるジョン・ボルトビー・ブルックスは、いわゆる『天才』でした。サドルは木で作られるのが当たり前だった当時に、革でサドルを作ったのほどの革新的な考えを持っていた人です。
ですから、もし、彼がいま生きていたら、使う人が必要としている製品を作るために、もちろん最新の技術や素材を用いて、このバッグのようなものを作っていたことでしょう。
――最新技術と伝統的なスタイルの融合、というのが、これからのブルックスのビジョンですか?
このパニアバッグは、ユーロバイク・アワードで金賞を取りました。ブルックスのスタイルを保ちながらも、大変機能的であることを、評価してもらいました。これは、私たちの中でも、価値ある成功だと考えています。
ブルックスが進もうとする次のステップを、サイクリストたちにも喜んでもらえたということだからです。私たちにとっても、品質と機能は、ビンテージな見た目以上に大切。ブルックスは、けっして『ビンテージ・ブランド』ではありませんから。
ブルックスは、これまでの歴史に敬意を払っていますし、今後もこの歴史が歩んできた道のりを進み続けていきます。でも、いいものを提供するために、いつでも革新を続けていくことも忘れていません。使ってくれる人々は、100年前とは違っていますからね。持ち物も変わっています。
今なら、コンピュータを持つための、スマートフォンやiPadのようなタブレットを持つためのバッグが必要です。雨の日は、濡れるものではなく、できる限り濡れないことが常識になってきています。ですから、それが人々が欲しいものなら、それを作るというのが、私たちの使命です。そのための最新技術を取り入れる準備は、既にできています。
――ということであれば、ブルックスのサドルにも、次のステップがあるのかも?
スタンダードな革サドル、B17は、もう100年もこの形なので、これからもこの形であり続けるでしょう。今年は、カラーをいくつかリファインしましたが、サドルとしてみれば、ほとんど変わるところはありませんし、変わってはいけないと思っています。今でもバーミンガムの工場で作っていますし。
でも、もしかしたらいつの日か、私たちはなにか新しいチャレンジをするかもしれません。革命的なサドル、ですね。確かなことは今は言えませんが、少しずつ、ものごとは進み始めています。でも、ブルックスは、ブルックスでありつづけることは、確かです。
次回、ブルックス代表クリスティーナ・ブルディグさんインタビューvol.2 「英国の伝統スタイルを、今ならではのテイストで。」に続く。
interview:中村パンダソニック Pandasonic Nakamura
協力:ダイアテック・プロダクツ
自転車をスポーツとしてではなく、ライフスタイルとしてとらえ、その文化を普及させるため、ブランドとして前向きに取り組んでいるブルックス。革サドルやバッグなど、いわゆる『古き良き自転車文化』としてのイメージが強い製品ばかりが目立つブランドだが、その実は全く逆。現代の流れやトレンドを的確に捉え、自らが持つ歴史とイメージを使って、現在の自転車文化そのものを変えていこうとしているのである。
そんなブルックスの、ブランド・ディレクターであるブルディグさんは、そんなブルックスの歴史、現在、そしてこれからのビジョンを語ってくれた。彼女自身もとてもチャーミングな女性。ブルックスの新作である女性用ハンドバッグ(!)『ビクトリア』を片手に持ち、そのバッグは、彼女の着る黒いワンピースによく似合っていた。
――まずは、ブルックスが現在目指している方向性を、教えてもらえますか?
ブルックスは、1920年代には、2500人もの従業員のいる大きな企業でした。自転車パーツの企業の中ではもちろん最大。自転車用のサドル、サイクリングバッグ、シューズ、アクセサリーや、オートバイ用のアクセサリーも作っていました。
現在のブルックスの命題は、自転車を、そしてサイクリストを美しく着飾らせるというもの。自転車をレースやスポーツとしてとらえる人々だけでなく、通学や、買い物、自転車と生活し、それぞれのスタイルを造りだす人々をすべて、サイクリストととらえています。
そのために、創立当時のスタイルを、今、自転車を楽しんでいる人々に提供したいと思い、改めて強調していきたいと思っています。その一つが、現在打ち出している広告なのです。
――おっしゃる通り、ここ数年の自転車文化とサイクリストの層が広がり、自転車に対する常識というのもずいぶん変わりましたね。
ブルックスは、2002年にセラロイヤル社の資本に入りました。みな、「そんな古くさいブランドを、いったいどうするつもりだ」と、私たちのことをおかしいと思ったようです。スポーツサイクル用のサドルブランドを展開してきた会社が、ブルックスを買うなんて。
でも結局、私たちは、そこから自転車の文化自体が変わっていくのを目の当たりにした最初の人間だったと思っています。
というのも、それまでのブルックスは、昔の自転車文化を懐かしむ人々や、コレクターだけに興味を持たれるブランドでした。革のサドルにノスタルジーというか、ビンテージというか、そういうものを感じる人々に。そんなに昔のことではありませんよ。たかだか7、8年ほど前のこと。
でも、良いものはどんなに時が経っても、良いものとして評価されるものです。1890年に作られたスタンダードな『B-17』サドルは、100年経った今も、若い世代の人々に評価され、受け入れられています。スポーツではなく、自転車とのライフスタイルを楽しむ人々に。
そして、このトレンドは、世界的にさらに広がって来ているのを感じていますし、それを嬉しく思っています。ブルックスの提唱するスタイルを、今どきのサイクリストたちは、自分たちのスタイルやテイストと混ぜ合わせ、自転車とのライフスタイルを楽しんでいるのです。
――伝統的な製品を作り続けるというイメージのブルックスですが、最新技術を取り入れることはあるのですか?
ええ、例えば、私たちがこれまで作っていた自転車旅行用のパニアバッグは、エレガントなルックスではありますが、重いものでした。ところが、実際に自転車旅行に出る人々は、革バッグのライフスタイルやロマンティックさに惹かれているわけではありません。彼らは、軽さ、防水性など、機能的なものを欲しがっています。
これまでの私たちのパニアバッグは、日常的なライフスタイルには充分マッチしますし、それには自信を持っていますが、旅行好きな人々が必要とするものではなかったのです。
そこで、今年のユーロバイク(ヨーロッパ最大の自転車ショー)では、軽い防水素材を使ったパニアバッグを作り、発表しました。最新の接着技術を使い、リクセンカウル社のアタッチメントを採用しました。それでも、ブルックスとしてのスタイルを失わないパニアバッグです。
このバッグを見てがっかりした人も多いと聞きます。「革ではないんですか」「手作りではないんですか」「ブルックスはブルックスであることを捨ててしまったのか」、と。
でも、ブルックスの創設者であるジョン・ボルトビー・ブルックスは、いわゆる『天才』でした。サドルは木で作られるのが当たり前だった当時に、革でサドルを作ったのほどの革新的な考えを持っていた人です。
ですから、もし、彼がいま生きていたら、使う人が必要としている製品を作るために、もちろん最新の技術や素材を用いて、このバッグのようなものを作っていたことでしょう。
――最新技術と伝統的なスタイルの融合、というのが、これからのブルックスのビジョンですか?
このパニアバッグは、ユーロバイク・アワードで金賞を取りました。ブルックスのスタイルを保ちながらも、大変機能的であることを、評価してもらいました。これは、私たちの中でも、価値ある成功だと考えています。
ブルックスが進もうとする次のステップを、サイクリストたちにも喜んでもらえたということだからです。私たちにとっても、品質と機能は、ビンテージな見た目以上に大切。ブルックスは、けっして『ビンテージ・ブランド』ではありませんから。
ブルックスは、これまでの歴史に敬意を払っていますし、今後もこの歴史が歩んできた道のりを進み続けていきます。でも、いいものを提供するために、いつでも革新を続けていくことも忘れていません。使ってくれる人々は、100年前とは違っていますからね。持ち物も変わっています。
今なら、コンピュータを持つための、スマートフォンやiPadのようなタブレットを持つためのバッグが必要です。雨の日は、濡れるものではなく、できる限り濡れないことが常識になってきています。ですから、それが人々が欲しいものなら、それを作るというのが、私たちの使命です。そのための最新技術を取り入れる準備は、既にできています。
――ということであれば、ブルックスのサドルにも、次のステップがあるのかも?
スタンダードな革サドル、B17は、もう100年もこの形なので、これからもこの形であり続けるでしょう。今年は、カラーをいくつかリファインしましたが、サドルとしてみれば、ほとんど変わるところはありませんし、変わってはいけないと思っています。今でもバーミンガムの工場で作っていますし。
でも、もしかしたらいつの日か、私たちはなにか新しいチャレンジをするかもしれません。革命的なサドル、ですね。確かなことは今は言えませんが、少しずつ、ものごとは進み始めています。でも、ブルックスは、ブルックスでありつづけることは、確かです。
次回、ブルックス代表クリスティーナ・ブルディグさんインタビューvol.2 「英国の伝統スタイルを、今ならではのテイストで。」に続く。
interview:中村パンダソニック Pandasonic Nakamura
協力:ダイアテック・プロダクツ
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