2011/09/23(金) - 08:34
なにせ、最近のチネリはファンキーである。チネリと言えば、長年に渡り自転車を作り続けるイタリアの伝統的なブランド、という昔ながらのイメージが付いて回る。が、チネリ自身は、そのイメージはすでに捨て去っている。
彼らが今目指しているのは、時代に合った自転車を作りだすこと。しかも、かなりファンキーな方向で。
伝説となったフレームの最新型 レーザー
チネリに関する目下の話題は、MOMAことニューヨーク近代美術館にも展示されているという、伝説のトラックフレーム「LASER レーザー」の復活。イタリア読みだとラザルとなるこのフレームは、1980年代に200本のみ作られ、うち100本のそれぞれが、オーダーでのフルカスタム注文であり、一本として同じものが作られることはなかったという。
そのレーザーを、当時のチームを再結成し、現在のコロンバスのチューブを用いて新たに製作。その名もビルダーのアンドレア・ペゼンティ氏、デザイナーであり現在のチネリ代表であるアントニオ・コロンボ氏からなる、当時のチームを再結成し、コロンバスの最新チューブで製作。当時と同じ『レーザー』の名称で、再び限定で生産する。
というところまでなら、「伝統的なチネリを今また見直そう」という話になるのだが、ところが話はそうじゃない。伝統というより、「このレーザー自体がカッコいいだろう? 今、この時代に再びあっても、全然おかしくないだろう?」という意思表示である。
いや、実際そうですよ。いまあっても全然カッコいいフレームですもん。ヘッドチューブとBBのあたりの、フィンになっている感じとか。
おもろいオッサンだと思っていたら、現チネリの代表アントニオ・コロンボ氏だった。
というような説明を、ユーロバイクのチネリブースでぶらぶらしていた大変陽気なイタリアン親父に受けた。「このオッサンおもしれえなあ」と思い、なんとなく名刺を交換したら、実はこの人が、現在のチネリの代表、つまりコロンバスチューブとのグループ企業、グルッポの代表だってのがわかったのであった。うひゃあ。でもおもしろいので、そのまま彼からチネリのプレゼンテーションを受けてみることにした。
「ほらほら、これだ」とまず自慢げに見せられたのが、上のレーシングモデル、ストラート。版ズレとは、印刷用語で言うところの、いわゆる大失敗で、印刷物でこれが起きると、誰かが真っ青になっておしっこチビリソウになってしまうのだが、そいつを自転車フレーム、しかもトップレース系モデルに使ってくるたあ、考えもしたことなかったぜ。んじゃコロンボさん、次はなんですか?
タイムトライアルバイク、WYSIWYGを自慢げに指差す。 近くに寄ろうとすると、コロンボさん「いやいや、近くで見ちゃダメなんだ。こっちだこっち、もっと遠くに離れて」と、肩をがっしりつかんで(コロンボさんは大きいのだ)、自転車から離れさせられた。
なるほど、するとチネリのヘッドマークが見えてきたねえ。見えた見えたよコロンボさん。「だろ?」とイタリアンのドヤ顔。「そのカラーリングで、ハンドルからホイールまで、トータルで統一されているんだ」と続ける。
「次はこいつだよ」とコロンボさん。「マイク・ジャイアント、知ってるかい? タトゥ・グラフィック・アーティストなんだけど、彼がデザインしたのが、このハンドルだ」と見せてくれたのが写真左のハンドル。
「それにバーテープもそうだ。バーテープじゃないけどな。アートテープだ」確かに、自転車をレースを頂点とするスポーツとしてではなく、人生を豊かにするグッズの一つとしてとらえるなら、こういうアプローチの方が、正直、嬉しい。見て楽しくなれるものを持っていたいと思うし。
「それではコロンボさん、あなたが一番好きなチネリはなんですか?」と聞いてみた。彼の答えが、先の写真にコロンボさんと写っているトラックバイクの"ヴィゴレッリ"。どうして?
「この昔ながらのトラックバイクから、今のチネリのすべてが始まったからだね。現代文化として自転車を見つめたときに、やっぱりストリート的なところから始まったセンスというのがさ、必要なんだ」
「今どきの自転車なんだから、向かう方向も、今どきのポップな感じじゃないとね(ウィンク--☆<)」だそうな。
アンドレア・ペゼンティ氏キターッ!
で、コロンボさんの独演会がおわったあとに、レーザーのビルダー、アンドレア・ペゼンティさんとお話をした。私事ではありますが、実はちょっと筆者の私、興奮しておりました。
というのも、筆者はソウル・マウンテンバイカーで、山走りとダートジャンプをこよなく愛するダートな自転車乗りにもかかわらず、生まれて初めてフレームから組んだ自転車は、なんとこのペゼンティ氏の作ったマウンテンバイク・フレームだったのでした。 20年前の当時は、そんなダートな時代だったんですよ。
というお話をペゼンティさんにしたところ、「おお、そうか。ダウンヒルとか走りやすかっただろう。クレイジーだなあ。まあ、私もダウンヒルするけどね」とペゼンティ御大。そしてさらに続ける。
「でも、いま一番好きなのは、オートバイのレースだな。2年前、オールドバイクで走るロードレースで、優勝したんだぜ、優勝。マシン? ホンダだよ。CB250。え? ドゥカティ? だめだよそんなの、ホンダじゃないと。昔の話だけど、日本に行ったときに、エンジンだけ見つけて持って帰ってきてそいつをCB250に積んだら、これがめちゃくちゃ走るんだ」
と、オートバイ話をひとしきり述べた後に、おもむろに左腕の肩口をむんずとまくる。そこにあったのは、若き日に入れたと思われる『神風』タトゥ。「人生には、スリルがなくちゃね」とペゼンティさん、にやりと笑う。
といった逸材がそろった、今どきのチネリ。自転車ブランドだと思っていたのに、なんだか、自転車を媒体としたアート集団になってたヨ。こうなると、俄然おもしろくなってくるね。ますますコロンボさんにはガンガン・イケイケで行って欲しいもんだと思った、チネリなう。
text&photo:中村パンダソニック Pandasonic Nakamura
彼らが今目指しているのは、時代に合った自転車を作りだすこと。しかも、かなりファンキーな方向で。
伝説となったフレームの最新型 レーザー
チネリに関する目下の話題は、MOMAことニューヨーク近代美術館にも展示されているという、伝説のトラックフレーム「LASER レーザー」の復活。イタリア読みだとラザルとなるこのフレームは、1980年代に200本のみ作られ、うち100本のそれぞれが、オーダーでのフルカスタム注文であり、一本として同じものが作られることはなかったという。
そのレーザーを、当時のチームを再結成し、現在のコロンバスのチューブを用いて新たに製作。その名もビルダーのアンドレア・ペゼンティ氏、デザイナーであり現在のチネリ代表であるアントニオ・コロンボ氏からなる、当時のチームを再結成し、コロンバスの最新チューブで製作。当時と同じ『レーザー』の名称で、再び限定で生産する。
というところまでなら、「伝統的なチネリを今また見直そう」という話になるのだが、ところが話はそうじゃない。伝統というより、「このレーザー自体がカッコいいだろう? 今、この時代に再びあっても、全然おかしくないだろう?」という意思表示である。
いや、実際そうですよ。いまあっても全然カッコいいフレームですもん。ヘッドチューブとBBのあたりの、フィンになっている感じとか。
おもろいオッサンだと思っていたら、現チネリの代表アントニオ・コロンボ氏だった。
というような説明を、ユーロバイクのチネリブースでぶらぶらしていた大変陽気なイタリアン親父に受けた。「このオッサンおもしれえなあ」と思い、なんとなく名刺を交換したら、実はこの人が、現在のチネリの代表、つまりコロンバスチューブとのグループ企業、グルッポの代表だってのがわかったのであった。うひゃあ。でもおもしろいので、そのまま彼からチネリのプレゼンテーションを受けてみることにした。
「ほらほら、これだ」とまず自慢げに見せられたのが、上のレーシングモデル、ストラート。版ズレとは、印刷用語で言うところの、いわゆる大失敗で、印刷物でこれが起きると、誰かが真っ青になっておしっこチビリソウになってしまうのだが、そいつを自転車フレーム、しかもトップレース系モデルに使ってくるたあ、考えもしたことなかったぜ。んじゃコロンボさん、次はなんですか?
タイムトライアルバイク、WYSIWYGを自慢げに指差す。 近くに寄ろうとすると、コロンボさん「いやいや、近くで見ちゃダメなんだ。こっちだこっち、もっと遠くに離れて」と、肩をがっしりつかんで(コロンボさんは大きいのだ)、自転車から離れさせられた。
なるほど、するとチネリのヘッドマークが見えてきたねえ。見えた見えたよコロンボさん。「だろ?」とイタリアンのドヤ顔。「そのカラーリングで、ハンドルからホイールまで、トータルで統一されているんだ」と続ける。
「次はこいつだよ」とコロンボさん。「マイク・ジャイアント、知ってるかい? タトゥ・グラフィック・アーティストなんだけど、彼がデザインしたのが、このハンドルだ」と見せてくれたのが写真左のハンドル。
「それにバーテープもそうだ。バーテープじゃないけどな。アートテープだ」確かに、自転車をレースを頂点とするスポーツとしてではなく、人生を豊かにするグッズの一つとしてとらえるなら、こういうアプローチの方が、正直、嬉しい。見て楽しくなれるものを持っていたいと思うし。
「それではコロンボさん、あなたが一番好きなチネリはなんですか?」と聞いてみた。彼の答えが、先の写真にコロンボさんと写っているトラックバイクの"ヴィゴレッリ"。どうして?
「この昔ながらのトラックバイクから、今のチネリのすべてが始まったからだね。現代文化として自転車を見つめたときに、やっぱりストリート的なところから始まったセンスというのがさ、必要なんだ」
「今どきの自転車なんだから、向かう方向も、今どきのポップな感じじゃないとね(ウィンク--☆<)」だそうな。
アンドレア・ペゼンティ氏キターッ!
で、コロンボさんの独演会がおわったあとに、レーザーのビルダー、アンドレア・ペゼンティさんとお話をした。私事ではありますが、実はちょっと筆者の私、興奮しておりました。
というのも、筆者はソウル・マウンテンバイカーで、山走りとダートジャンプをこよなく愛するダートな自転車乗りにもかかわらず、生まれて初めてフレームから組んだ自転車は、なんとこのペゼンティ氏の作ったマウンテンバイク・フレームだったのでした。 20年前の当時は、そんなダートな時代だったんですよ。
というお話をペゼンティさんにしたところ、「おお、そうか。ダウンヒルとか走りやすかっただろう。クレイジーだなあ。まあ、私もダウンヒルするけどね」とペゼンティ御大。そしてさらに続ける。
「でも、いま一番好きなのは、オートバイのレースだな。2年前、オールドバイクで走るロードレースで、優勝したんだぜ、優勝。マシン? ホンダだよ。CB250。え? ドゥカティ? だめだよそんなの、ホンダじゃないと。昔の話だけど、日本に行ったときに、エンジンだけ見つけて持って帰ってきてそいつをCB250に積んだら、これがめちゃくちゃ走るんだ」
と、オートバイ話をひとしきり述べた後に、おもむろに左腕の肩口をむんずとまくる。そこにあったのは、若き日に入れたと思われる『神風』タトゥ。「人生には、スリルがなくちゃね」とペゼンティさん、にやりと笑う。
といった逸材がそろった、今どきのチネリ。自転車ブランドだと思っていたのに、なんだか、自転車を媒体としたアート集団になってたヨ。こうなると、俄然おもしろくなってくるね。ますますコロンボさんにはガンガン・イケイケで行って欲しいもんだと思った、チネリなう。
text&photo:中村パンダソニック Pandasonic Nakamura
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