なにせ、最近のチネリはファンキーである。チネリと言えば、長年に渡り自転車を作り続けるイタリアの伝統的なブランド、という昔ながらのイメージが付いて回る。が、チネリ自身は、そのイメージはすでに捨て去っている。

彼らが今目指しているのは、時代に合った自転車を作りだすこと。しかも、かなりファンキーな方向で。

伝説となったフレームの最新型 LASER レーザー伝説となったフレームの最新型 LASER レーザー (c)Pandasonic Nakamura

伝説となったフレームの最新型 レーザー

チネリに関する目下の話題は、MOMAことニューヨーク近代美術館にも展示されているという、伝説のトラックフレーム「LASER レーザー」の復活。イタリア読みだとラザルとなるこのフレームは、1980年代に200本のみ作られ、うち100本のそれぞれが、オーダーでのフルカスタム注文であり、一本として同じものが作られることはなかったという。

そのレーザーを、当時のチームを再結成し、現在のコロンバスのチューブを用いて新たに製作。その名もビルダーのアンドレア・ペゼンティ氏、デザイナーであり現在のチネリ代表であるアントニオ・コロンボ氏からなる、当時のチームを再結成し、コロンバスの最新チューブで製作。当時と同じ『レーザー』の名称で、再び限定で生産する。

というところまでなら、「伝統的なチネリを今また見直そう」という話になるのだが、ところが話はそうじゃない。伝統というより、「このレーザー自体がカッコいいだろう? 今、この時代に再びあっても、全然おかしくないだろう?」という意思表示である。
いや、実際そうですよ。いまあっても全然カッコいいフレームですもん。ヘッドチューブとBBのあたりの、フィンになっている感じとか。

陽気なイタリアのおじさん? いえ、チネリの代表アントニオ・コロンボ氏陽気なイタリアのおじさん? いえ、チネリの代表アントニオ・コロンボ氏 (c)Pandasonic Nakamura

おもろいオッサンだと思っていたら、現チネリの代表アントニオ・コロンボ氏だった。

というような説明を、ユーロバイクのチネリブースでぶらぶらしていた大変陽気なイタリアン親父に受けた。「このオッサンおもしれえなあ」と思い、なんとなく名刺を交換したら、実はこの人が、現在のチネリの代表、つまりコロンバスチューブとのグループ企業、グルッポの代表だってのがわかったのであった。うひゃあ。でもおもしろいので、そのまま彼からチネリのプレゼンテーションを受けてみることにした。

チネリのストラート、レースマシンのくせにグラフィックが遊んでるチネリのストラート、レースマシンのくせにグラフィックが遊んでる (c)Pandasonic Nakamuraは、版ズレですか? いいえ、デザインですは、版ズレですか? いいえ、デザインです (c)Pandasonic Nakamura

「ほらほら、これだ」とまず自慢げに見せられたのが、上のレーシングモデル、ストラート。版ズレとは、印刷用語で言うところの、いわゆる大失敗で、印刷物でこれが起きると、誰かが真っ青になっておしっこチビリソウになってしまうのだが、そいつを自転車フレーム、しかもトップレース系モデルに使ってくるたあ、考えもしたことなかったぜ。んじゃコロンボさん、次はなんですか?

遠くから見ると、チネリのヘッドマークが見えるデザイン遠くから見ると、チネリのヘッドマークが見えるデザイン (c)Pandasonic Nakamuraハンドルもホイールも全部トータルでカラーリング、と自慢されたハンドルもホイールも全部トータルでカラーリング、と自慢された (c)Pandasonic Nakamura

タイムトライアルバイク、WYSIWYGを自慢げに指差す。 近くに寄ろうとすると、コロンボさん「いやいや、近くで見ちゃダメなんだ。こっちだこっち、もっと遠くに離れて」と、肩をがっしりつかんで(コロンボさんは大きいのだ)、自転車から離れさせられた。
なるほど、するとチネリのヘッドマークが見えてきたねえ。見えた見えたよコロンボさん。「だろ?」とイタリアンのドヤ顔。「そのカラーリングで、ハンドルからホイールまで、トータルで統一されているんだ」と続ける。

ステムにスカル(どくろ)、タトゥ・グラフィックのハンドル・ステムステムにスカル(どくろ)、タトゥ・グラフィックのハンドル・ステム (c)Pandasonic Nakamuraバーテープにもアート系グラフィックが入るバーテープにもアート系グラフィックが入る (c)Pandasonic Nakamura

「次はこいつだよ」とコロンボさん。「マイク・ジャイアント、知ってるかい? タトゥ・グラフィック・アーティストなんだけど、彼がデザインしたのが、このハンドルだ」と見せてくれたのが写真左のハンドル。

「それにバーテープもそうだ。バーテープじゃないけどな。アートテープだ」確かに、自転車をレースを頂点とするスポーツとしてではなく、人生を豊かにするグッズの一つとしてとらえるなら、こういうアプローチの方が、正直、嬉しい。見て楽しくなれるものを持っていたいと思うし。

バーテープも各種取り揃え、アートテープと呼んでいるバーテープも各種取り揃え、アートテープと呼んでいる (c)Pandasonic Nakamuraクラシックスタイルのハンドルとステムを現代に復刻クラシックスタイルのハンドルとステムを現代に復刻 (c)Pandasonic Nakamuraイタリアのアーティスト、バリー・マギーとのコラボサドルイタリアのアーティスト、バリー・マギーとのコラボサドル (c)Pandasonic Nakamura

「それではコロンボさん、あなたが一番好きなチネリはなんですか?」と聞いてみた。彼の答えが、先の写真にコロンボさんと写っているトラックバイクの"ヴィゴレッリ"。どうして? 

「この昔ながらのトラックバイクから、今のチネリのすべてが始まったからだね。現代文化として自転車を見つめたときに、やっぱりストリート的なところから始まったセンスというのがさ、必要なんだ」

「今どきの自転車なんだから、向かう方向も、今どきのポップな感じじゃないとね(ウィンク--☆<)」だそうな。

スニーカーブランドDVSとコラボしたスニーカースニーカーブランドDVSとコラボしたスニーカー (c)Pandasonic Nakamuraストリートを走るトラックバイク向けのパーツ群ストリートを走るトラックバイク向けのパーツ群 (c)Pandasonic Nakamuraアパレルブランド シュプリームとのコラボ・グローブアパレルブランド シュプリームとのコラボ・グローブ (c)Pandasonic Nakamura


アンドレア・ペゼンティ氏キターッ!

で、コロンボさんの独演会がおわったあとに、レーザーのビルダー、アンドレア・ペゼンティさんとお話をした。私事ではありますが、実はちょっと筆者の私、興奮しておりました。

というのも、筆者はソウル・マウンテンバイカーで、山走りとダートジャンプをこよなく愛するダートな自転車乗りにもかかわらず、生まれて初めてフレームから組んだ自転車は、なんとこのペゼンティ氏の作ったマウンテンバイク・フレームだったのでした。 20年前の当時は、そんなダートな時代だったんですよ。

LASER 後方からLASER 後方から (c)Pandasonic Nakamura神風TATOOをみせるアンドレア・ペゼンティ氏神風TATOOをみせるアンドレア・ペゼンティ氏 (c)Pandasonic Nakamuraそれにしても美しいLASERそれにしても美しいLASER (c)Pandasonic Nakamura

というお話をペゼンティさんにしたところ、「おお、そうか。ダウンヒルとか走りやすかっただろう。クレイジーだなあ。まあ、私もダウンヒルするけどね」とペゼンティ御大。そしてさらに続ける。

「でも、いま一番好きなのは、オートバイのレースだな。2年前、オールドバイクで走るロードレースで、優勝したんだぜ、優勝。マシン? ホンダだよ。CB250。え? ドゥカティ? だめだよそんなの、ホンダじゃないと。昔の話だけど、日本に行ったときに、エンジンだけ見つけて持って帰ってきてそいつをCB250に積んだら、これがめちゃくちゃ走るんだ」

と、オートバイ話をひとしきり述べた後に、おもむろに左腕の肩口をむんずとまくる。そこにあったのは、若き日に入れたと思われる『神風』タトゥ。「人生には、スリルがなくちゃね」とペゼンティさん、にやりと笑う。

といった逸材がそろった、今どきのチネリ。自転車ブランドだと思っていたのに、なんだか、自転車を媒体としたアート集団になってたヨ。こうなると、俄然おもしろくなってくるね。ますますコロンボさんにはガンガン・イケイケで行って欲しいもんだと思った、チネリなう。

チネリ2011パーツカタログの表紙チネリ2011パーツカタログの表紙 (c)Pandasonic Nakamuraチネリ2011自転車カタログの表紙チネリ2011自転車カタログの表紙 (c)Pandasonic Nakamura


text&photo:中村パンダソニック Pandasonic Nakamura

最新ニュース(全ジャンル)

リクセン&カウル 定番マウントシステムと扱いやすさが魅力のバイクパッキングシステム Gakuto Fujiwara 2024/11/28(木) - 16:00
新製品情報2025