2011/03/08(火) - 10:34
本格的な子どものロードレース定着しつつある「ロード・トゥ・キング」。その2010年度第2戦となる味の素スタジアム大会が東京・調布の味の素スタジアム ブレンディ広場特設会場で2月27日に開催された。
■今年も約90名のキッズが参加
未就学児から中学生までのキッズ世代の育成を目的とした「ロード・トゥ・キング U15ジュニアサイクルロードレース」。2011年度第2戦は「都内でのキッズクリテリウム単独開催」で話題となった昨年に続いて、再び味の素スタジアムでの開催だ。今年の「味スタ大会」には、都内をはじめ長野県、福島県、三重県、静岡県などの遠方からもキッズたちが集まった。参加者はキッズ合計で約90名。
昨年のタイムトライアルとクリテリウムに、今回は新種目として、親子1周ずつのタイム合計で競う、親子タイムトライアルが加わった。昨年はコース脇でスパルタコーチぶりを発揮していたお父さんたちも、親子TTでの自分の出走も控えて、ちょっぴりの不安と楽しそうな表情が入り交じる。試走を見る応援のお母さんや小さい弟、妹、おじいちゃん、子どもの成長を喜ぶチームの仲間たちなど、あたたかい雰囲気の会場で晴天の空の下、今年もロード・トゥ・キング味スタ大会が始まった。
大会のコンセプトや背景は昨年レポートを参照していただくとして、さっそくこの日のプログラムを紹介しよう。
レースの年齢別カテゴリーは下記の5つだ。
U-15 (対象年齢は中学生、クリテリウムの距離:25周、約10km)
U-12(小学5~6年生 15周、約6km)
U-10(小学3~4年生 10周、約4km)
U-8(小学1~2年生 4周、約1.6km)
U-6(未就学児 1周、約0.4km)
U-6を除く各カテゴリではクリテリウムの前に1周の個人TTを行い、人数の多いU-10とU-12はこのTTのタイムでそれぞれA、Bの約10人ずつの2組に分けてクリテリウムを行う。表彰対象はAクラスの上位のみ、というレース方法は昨年と基本的に同様だ。
大会前半が低学年(U-10以下)のTTとクリテリウム、後半が高学年(U-12以上)のTTとクリテリウムで、今年も前半、後半のレース前に1回ずつ、ゲスト選手のアドバイスが受けられる「クリニック」の時間が各20分ほど設けられた。
今回の先生役であるゲスト選手は、昨年までチームブリヂストンアンカーに所属し、ロードレースを中心に活躍してきた森田正美さん。昨年のゲストは男子選手のみだったが、今回の森田さんの参加は、女子のキッズたちにとっても、自分が目指す女子選手の具体的なイメージのひとつになったのではないだろうか。
「引退後のこれからは、自転車を楽しみながら、選手として培って来たものをみんなに伝えていきたい」という森田さん。
そして大会MCは、子どもにもわかりやすい説明で好評の、ツール・ド・フランス取材でもおなじみのライター・土肥志穂さんというナイスコンビでクリニックは進む。
大会前半で行われた低学年のクリニックでは、必須アイテム、ヘルメットのかぶりかたの確認から。
「ヘルメットは、まゆげのちょっと上ぐらいにかぶりましょう。正しくかぶらないと頭を守れません!」
「ストラップはきつくしすぎないで、指2本か3本入るぐらい。こうすると耳の下の金具もかっこいいね!」
そしてTTのスタートの説明だ。
「赤いジャンバーを着たお兄さんが、こうやって自転車を支えてくれます。」
「スタートの直前は、足を両方乗せて、きき足を前に、45度ぐらいの場所から踏み出すと、ここが一番強く効果的に踏めます!」
「お兄さんを信じて、両足をペダルに乗せましょう!」
大会後半の高学年のクリニックでは、走り出すときのギアを正しく選んでおくこと、そしてコーナリングのライン取りの勉強だ。6人ずつに分かれ、森田さんの通ったライン通りコースを走って実習する。「まずギアのチェックをしてね! それから、曲がり方です。まず一番最初のコーナーで大きくタイム差が出るので、このコーナーで練習してみよう! 森田さんと同じラインで森田さんについていってね!」「アウト・イン・アウトを心がけて。コーナーの遠心力をうまく使ってみましょう」
■ギャラリーも盛り上がる!
各回のクリニックに続いて、前半はU-8とU-10、後半はU-12とU-15のTTがスタート。「前見て! スタートでふらつくのは、ギアが重いか、目線ですね。前を見る、これは大事です!」
「できる子は、腰上げてスタートしましょう! おお~、いいですね~」「前見てね!!」
森田さんと土肥さんがスタートを見守りつつ、キッズたちにやさしくアドバイス。前カゴつきの一般車から本格レース仕様まで、乗っている自転車も競技志向かもさまざま。しかし参加するキッズたちはみな真剣そのもの。昨年同様、大人顔負けのきれいな走りを見せるキッズたちも少なくない。
「いけ!!ママチャリ! ディープリムに負けるな!!」「わーこの子、速! 何年生?!」応援する人たちも「レースを見る目」で観戦を楽しんでいる。「子どものロードレースは案外走れる機会があるけど、個人TTってそんなにないからおもしろいねー」という声も。
■観戦者をうならせていた小学生たち
そしてTTに続いて行われたのは各カテゴリのクリテリウム。中学生はある程度レベルが高くなっていて、“大人のレース”にステップアップしていく姿、現実的な将来像がかなり具体的に見えてきているグループだ。先頭交替も上手でタイムも昨年よりハイペース。走り慣れてきている選手の走りを安心して楽しめるレースとなっていた。
低年齢のカテゴリは、スポーツ車慣れしたキッズとほかのキッズの混走で、微笑ましい光景と早熟なキッズが交錯する、まだまだ未知数の楽しさがいっぱいなレースだ。
そして今回観戦席がなかなかの盛り上がりを見せたのは、この大会で真ん中の年齢層にあたる、U-10前後のカテゴリのクリテリウム。スポーツとして自転車に乗り始めての数年を経て「将来は自転車のプロになる」という気持ちを固めてきているキッズたちもいて、コース上での連携や作戦も芽生えている。体操やサッカーの選手を目指す子たちのように「小さいけど、本気」というレースが展開されているその小さな一人前ぶり、そして同時に未知の可能性も大きく持っていることも、観戦する大人たちにとってはなかなか味わい深い層だ。
U-8の優勝は渡辺耶斗くん。「自転車選手になる気はありますか?」「ありますよたっぷり!」当然のように断言し、会場の大人たちをわかせていた耶斗くん。そしてU-10の1位の鵜沼碧くん。
「思った通りに走れましたか?」と聞かれて「最初は逃げる作戦だったけど、万里王くんにどうしても前に出に出してもらえなかった…。」2位の高梨万里王くん、3位の佐藤健太くんたちともども、先頭集団の数名は小さい身体で堂々のレース展開を見せ「これ、ちゃんとレースになってるよ…」とまわりの大人たちをうならせていた。
■各カテゴリのチャンピオンたち
ひきつづき、表彰台での各カテゴリの優勝者インタビューの様子をレポートしよう。
- 碧くんは去年は3位でしたが、今日こそ優勝しようと思いましたか?」
「はい」
- 3位から追いかけていきましたね?
「スタートが遅れちゃったので」
- 自分としては、逃げ切って先行したかった?
「はい」
- スタート遅れちゃったけど、追い上げられたのはどうして?
「練習してきたからです」
日常を語るように淡々と答える碧くん。このようにU-10あたりはすでに、レース展開を語れるレベルだ。そしてU-12以上のキッズたちは、年齢が上がるにつれてかなり堂々たる優勝インタビューになってくる。
U-12優勝は石倉悠之介くん。
- 勝因は何でしょうか?
「スタミナです。最初のTTのタイムが悪かったから心配していました。(2位の)花田聖誠くんと、お互いに風よけになっていたからよかったです」
そしてU-15優勝は小野寺玲くん。
- 残り10周で単独の逃げになりましたが、作戦ですか?
「はい、計画していました。踏んだらキレのいい逃げになって逃げ切れました。」
- 最初グループ6名で、小野寺くんがリーダーになって先頭交替をまわそうという仕草をしていましたね?
「特に知っている選手というわけではないのですが、レースには出たことがあるので、その経験を生かせました」
- ふだんはどう練習していますか?
「作新学院で練習しています」
- 自転車の道に進む気持ちは?
「あります」
- 誰か好きな選手はいますか?
「ランスです。好きというか、あこがれ、目標です。日本人でもツールで勝てると証明できたらいいと思いいます!」
ちなみに最年少の未就学児クラスU-6は、TTはなく1周のクリテリウムのみ。スポーツ車と補助輪つきの自転車が混走する中、兄弟で一緒に参加したお兄ちゃんたちとお揃いのジャージに身を包み、余裕の独走で優勝したのは高梨颯樹くん。
- 優勝しようと思って走った?
「うん。」
- 思った通り走れた?
「はい。」
大きくこっくりうなずく颯樹くん。会場の大人たちの喝采をあびていた。「5歳の子にもしっかりとレース内容のインタビューするところがさすが!いいイベントだね~」という声も聞かれた。
■親子TT
今回の参加者たちのもうひとつの人気プログラム、それは親子TTだ。味スタ大会では今回初めて行われ、大会前半と後半の間に行われた。子どもの年齢別に3レースが行われ、A(中学生)に1組、B(小学4~6年生)に8組、C(小学1~3年生)に9組と、合計18組の親子が参加した。親子1周ずつ走り、親子のタイム合計で順位を決める。
「今日はタイムで息子ともガチンコだよ~!」「子どもの足引っ張らないようにしないとヤバいなあ~」出場前に談笑するお父さんたち。「いつも叱られてるけどパパ負けたらだらしないって叱ってやれよ!」最初は冗談を言い合っていたお父さんたちも、レースが近づくにつれてだんだん言葉が減り、真剣な表情になっていく。ひとりずつホルダーに支えられて、1周のTTのスタートだ。
子どものレースを見ていると、いい意味で「親の顔が見たい」と思うようなキッズたち。親のみなさんもさすがに速い。そして、みなさん走りが真剣で誠実だ。走っているさまざまな姿を見ると、きっといまは現役選手ではなかったり、仕事など大人の事情もいろいろあるのだろうなあ…と思う瞬間も。しかし負けたお父さんたちは言い訳もせずに真剣に子どもにあやまっている。なんだかいろいろな意味で心洗われる、“美しい”レースだ。
親子TT・Aの優勝は、田中月奈(るな)さん&お父さんの裕さん。
「ひと組しか出てないんで、優勝って言っても」と照れ笑いする裕さん。いつもお父さんと練習しているという月奈さん、「お父さんは速いですか?」とマイクを向けられ「たぶん、速いです!」と断言。会場から、うらやましそうなどよめきが起きる。
親子TT・Bの優勝は、石井洋輝くん&誠さん。洋輝くんは昨年のU-10の優勝者で、今年はU-12で4位。親子TT・Bの子どもタイムでも1位と頼もしい。じつは洋輝くんが先に自転車に乗っていて、お父さんも乗るようになったという誠さん。「乗ってみたら自分も速く走りたくなった?」とマイクを向けられ、「はい!」と元気な答え。そう、この大会では、キッズが先に乗りたいといってパパやママが自転車を始めた、という声をけっこう耳にするのだ。
そして親子TT・Cの優勝は、高梨万里王くん&俊雄さん。「クリテリウムで2位だったくやしさをぶつけましたか?」「はい!」「お父さんは優勝に貢献しましたか?」「はい!」と万里王くん。その隣で申し訳なさそうな顔で所在無さげにしているのは、3位の鵜沼碧くんのお父さんの誠さん。子どもタイムが1位だが、親タイムで3位に。ということでマイクを向けられる誠さん。「いつもはインタビューは1位だけなんですけど、特別にきいてみましょう!お父さん!」「もう言うことはないです…」
こんな誠実なお父さんたちだから、子どもたちも強くなるんだ、ということがよくわかる親子TTだった。
「勝つ意志を持って走るキッズたちに感動」 森田正美さん
全レースが終わって、森田さんに選手の目から見た大会の感想をうかがってみた。
「U15を見たのは初めてだったんですが、自転車の未来はすごく明るいように感じました。子どもたちは、ちゃんと自分が勝つという意志を持って走っている。大人のレースでは『まあいいや』って思ってしまったりしがちなんですけど。レースは最後まで何があるかわからないのに。自分の仕事が終わったからといってやめてしまったり、そういうのがない。ラップされても、最後まであきらめない。そういうところが、いいなあと思いました。
それに、女子の選手たち。落車しても『走らせてください!』っていう子もいたり、やる気を感じました。みんな続けていってくれたらなあと思います。」
■今後の予定にも注目だ
ロード・トゥ・キングの味の素スタジアムでの開催は今回が2回目だ。ロード・トゥ・キング大会事務局の中島祥元さんは「来年の会場がまた味スタになるかはまだ決まっていないのですが、都内で大会をやる意義は大きいので続けていきたいと思います。また来年もここ、味スタでやることになった場合は、今回の親子TTはぜひまたやりたいですね。」と語る。
「ロード・トゥ・キングを主催するNPO法人マイヨジョーヌは、自転車に乗れない人も乗れるようになる『初心者のための自転車安全教室』も開催しています。ロード・トゥ・キングとは別のイベントですが、ちょうど今日(2月27日)も味スタのこのすぐ隣のエリアで開催しました。そしてロード・トゥ・キング2010年度第3戦となる袖ヶ浦サーキット大会は3月19日に予定しています。イベントスケジュールは、マイヨジョーヌのwebサイト(http://www.maillotjaune.jp/index.html)でご確認ください!」
■Road to KING 2010 味の素スタジアム大会
主な競技結果
【タイムトライアル】(1周0.4km)
U-8 1位 渡辺耶斗 46.21
U-10 1位 佐藤健太 43.49
U-12 1位 花田聖誠 41.90
U-15 1位 橋本遼太 38.19
【クリテリウム】
U-6(1周0.4km)
1位 高梨颯樹 01:04.00
2位 横山侑哉 01:06.27
3位 安東真瞳 01:08.24
U-8(4周1.6km)
1位 渡辺耶斗 3:15.43
2位 古山佳和 3:30.29
3位 細谷響貴 3:34.97
U-10 A組(10周4km)
1位 鵜沼碧 7:49.63
2位 高梨万里王 7:50.35
3位 佐藤健太 8:07.74
U-12 A組(15周6km)
1位 石倉悠之介 10:58.74
2位 花田聖誠 11:01.43
3位 清水大樹 11:05.67
U-15(25周10km)
1位 小野寺玲 17:34.30
2位 古山大 17:53.57
3位 橋本遼太 18:01.08
【親子タイムトライアル】(1周0.4km+1周0.4km)
親子TT・A
1位 田中月奈/田中裕 子タイム45.77 親タイム40.39 合計1:26.16
親子TT・B
1位 石井洋輝/石井誠 42.49 39.99 1:22.48
2位 石倉悠之介/石倉康範 43.10 39.59 1:22.69
3位 中西啓/中西康輔 44.77 40.35 1:25.12
親子TT・C
1位 高梨万里王/高梨俊雄 45.50 37.55 1:23.05
2位 渡辺耶斗/渡辺拓 47.10 36.89 1:23.99
3位 鵜沼碧/鵜沼誠 44.45 41.43 1:25.88
当日の熱戦の模様はフォトギャラリーで。すべての写真を公開するpicasaウェブギャラリーも御覧ください。
写真とレポート:佐藤有子
■今年も約90名のキッズが参加
未就学児から中学生までのキッズ世代の育成を目的とした「ロード・トゥ・キング U15ジュニアサイクルロードレース」。2011年度第2戦は「都内でのキッズクリテリウム単独開催」で話題となった昨年に続いて、再び味の素スタジアムでの開催だ。今年の「味スタ大会」には、都内をはじめ長野県、福島県、三重県、静岡県などの遠方からもキッズたちが集まった。参加者はキッズ合計で約90名。
昨年のタイムトライアルとクリテリウムに、今回は新種目として、親子1周ずつのタイム合計で競う、親子タイムトライアルが加わった。昨年はコース脇でスパルタコーチぶりを発揮していたお父さんたちも、親子TTでの自分の出走も控えて、ちょっぴりの不安と楽しそうな表情が入り交じる。試走を見る応援のお母さんや小さい弟、妹、おじいちゃん、子どもの成長を喜ぶチームの仲間たちなど、あたたかい雰囲気の会場で晴天の空の下、今年もロード・トゥ・キング味スタ大会が始まった。
大会のコンセプトや背景は昨年レポートを参照していただくとして、さっそくこの日のプログラムを紹介しよう。
レースの年齢別カテゴリーは下記の5つだ。
U-15 (対象年齢は中学生、クリテリウムの距離:25周、約10km)
U-12(小学5~6年生 15周、約6km)
U-10(小学3~4年生 10周、約4km)
U-8(小学1~2年生 4周、約1.6km)
U-6(未就学児 1周、約0.4km)
U-6を除く各カテゴリではクリテリウムの前に1周の個人TTを行い、人数の多いU-10とU-12はこのTTのタイムでそれぞれA、Bの約10人ずつの2組に分けてクリテリウムを行う。表彰対象はAクラスの上位のみ、というレース方法は昨年と基本的に同様だ。
大会前半が低学年(U-10以下)のTTとクリテリウム、後半が高学年(U-12以上)のTTとクリテリウムで、今年も前半、後半のレース前に1回ずつ、ゲスト選手のアドバイスが受けられる「クリニック」の時間が各20分ほど設けられた。
今回の先生役であるゲスト選手は、昨年までチームブリヂストンアンカーに所属し、ロードレースを中心に活躍してきた森田正美さん。昨年のゲストは男子選手のみだったが、今回の森田さんの参加は、女子のキッズたちにとっても、自分が目指す女子選手の具体的なイメージのひとつになったのではないだろうか。
「引退後のこれからは、自転車を楽しみながら、選手として培って来たものをみんなに伝えていきたい」という森田さん。
そして大会MCは、子どもにもわかりやすい説明で好評の、ツール・ド・フランス取材でもおなじみのライター・土肥志穂さんというナイスコンビでクリニックは進む。
大会前半で行われた低学年のクリニックでは、必須アイテム、ヘルメットのかぶりかたの確認から。
「ヘルメットは、まゆげのちょっと上ぐらいにかぶりましょう。正しくかぶらないと頭を守れません!」
「ストラップはきつくしすぎないで、指2本か3本入るぐらい。こうすると耳の下の金具もかっこいいね!」
そしてTTのスタートの説明だ。
「赤いジャンバーを着たお兄さんが、こうやって自転車を支えてくれます。」
「スタートの直前は、足を両方乗せて、きき足を前に、45度ぐらいの場所から踏み出すと、ここが一番強く効果的に踏めます!」
「お兄さんを信じて、両足をペダルに乗せましょう!」
大会後半の高学年のクリニックでは、走り出すときのギアを正しく選んでおくこと、そしてコーナリングのライン取りの勉強だ。6人ずつに分かれ、森田さんの通ったライン通りコースを走って実習する。「まずギアのチェックをしてね! それから、曲がり方です。まず一番最初のコーナーで大きくタイム差が出るので、このコーナーで練習してみよう! 森田さんと同じラインで森田さんについていってね!」「アウト・イン・アウトを心がけて。コーナーの遠心力をうまく使ってみましょう」
■ギャラリーも盛り上がる!
各回のクリニックに続いて、前半はU-8とU-10、後半はU-12とU-15のTTがスタート。「前見て! スタートでふらつくのは、ギアが重いか、目線ですね。前を見る、これは大事です!」
「できる子は、腰上げてスタートしましょう! おお~、いいですね~」「前見てね!!」
森田さんと土肥さんがスタートを見守りつつ、キッズたちにやさしくアドバイス。前カゴつきの一般車から本格レース仕様まで、乗っている自転車も競技志向かもさまざま。しかし参加するキッズたちはみな真剣そのもの。昨年同様、大人顔負けのきれいな走りを見せるキッズたちも少なくない。
「いけ!!ママチャリ! ディープリムに負けるな!!」「わーこの子、速! 何年生?!」応援する人たちも「レースを見る目」で観戦を楽しんでいる。「子どものロードレースは案外走れる機会があるけど、個人TTってそんなにないからおもしろいねー」という声も。
■観戦者をうならせていた小学生たち
そしてTTに続いて行われたのは各カテゴリのクリテリウム。中学生はある程度レベルが高くなっていて、“大人のレース”にステップアップしていく姿、現実的な将来像がかなり具体的に見えてきているグループだ。先頭交替も上手でタイムも昨年よりハイペース。走り慣れてきている選手の走りを安心して楽しめるレースとなっていた。
低年齢のカテゴリは、スポーツ車慣れしたキッズとほかのキッズの混走で、微笑ましい光景と早熟なキッズが交錯する、まだまだ未知数の楽しさがいっぱいなレースだ。
そして今回観戦席がなかなかの盛り上がりを見せたのは、この大会で真ん中の年齢層にあたる、U-10前後のカテゴリのクリテリウム。スポーツとして自転車に乗り始めての数年を経て「将来は自転車のプロになる」という気持ちを固めてきているキッズたちもいて、コース上での連携や作戦も芽生えている。体操やサッカーの選手を目指す子たちのように「小さいけど、本気」というレースが展開されているその小さな一人前ぶり、そして同時に未知の可能性も大きく持っていることも、観戦する大人たちにとってはなかなか味わい深い層だ。
U-8の優勝は渡辺耶斗くん。「自転車選手になる気はありますか?」「ありますよたっぷり!」当然のように断言し、会場の大人たちをわかせていた耶斗くん。そしてU-10の1位の鵜沼碧くん。
「思った通りに走れましたか?」と聞かれて「最初は逃げる作戦だったけど、万里王くんにどうしても前に出に出してもらえなかった…。」2位の高梨万里王くん、3位の佐藤健太くんたちともども、先頭集団の数名は小さい身体で堂々のレース展開を見せ「これ、ちゃんとレースになってるよ…」とまわりの大人たちをうならせていた。
■各カテゴリのチャンピオンたち
ひきつづき、表彰台での各カテゴリの優勝者インタビューの様子をレポートしよう。
- 碧くんは去年は3位でしたが、今日こそ優勝しようと思いましたか?」
「はい」
- 3位から追いかけていきましたね?
「スタートが遅れちゃったので」
- 自分としては、逃げ切って先行したかった?
「はい」
- スタート遅れちゃったけど、追い上げられたのはどうして?
「練習してきたからです」
日常を語るように淡々と答える碧くん。このようにU-10あたりはすでに、レース展開を語れるレベルだ。そしてU-12以上のキッズたちは、年齢が上がるにつれてかなり堂々たる優勝インタビューになってくる。
U-12優勝は石倉悠之介くん。
- 勝因は何でしょうか?
「スタミナです。最初のTTのタイムが悪かったから心配していました。(2位の)花田聖誠くんと、お互いに風よけになっていたからよかったです」
そしてU-15優勝は小野寺玲くん。
- 残り10周で単独の逃げになりましたが、作戦ですか?
「はい、計画していました。踏んだらキレのいい逃げになって逃げ切れました。」
- 最初グループ6名で、小野寺くんがリーダーになって先頭交替をまわそうという仕草をしていましたね?
「特に知っている選手というわけではないのですが、レースには出たことがあるので、その経験を生かせました」
- ふだんはどう練習していますか?
「作新学院で練習しています」
- 自転車の道に進む気持ちは?
「あります」
- 誰か好きな選手はいますか?
「ランスです。好きというか、あこがれ、目標です。日本人でもツールで勝てると証明できたらいいと思いいます!」
ちなみに最年少の未就学児クラスU-6は、TTはなく1周のクリテリウムのみ。スポーツ車と補助輪つきの自転車が混走する中、兄弟で一緒に参加したお兄ちゃんたちとお揃いのジャージに身を包み、余裕の独走で優勝したのは高梨颯樹くん。
- 優勝しようと思って走った?
「うん。」
- 思った通り走れた?
「はい。」
大きくこっくりうなずく颯樹くん。会場の大人たちの喝采をあびていた。「5歳の子にもしっかりとレース内容のインタビューするところがさすが!いいイベントだね~」という声も聞かれた。
■親子TT
今回の参加者たちのもうひとつの人気プログラム、それは親子TTだ。味スタ大会では今回初めて行われ、大会前半と後半の間に行われた。子どもの年齢別に3レースが行われ、A(中学生)に1組、B(小学4~6年生)に8組、C(小学1~3年生)に9組と、合計18組の親子が参加した。親子1周ずつ走り、親子のタイム合計で順位を決める。
「今日はタイムで息子ともガチンコだよ~!」「子どもの足引っ張らないようにしないとヤバいなあ~」出場前に談笑するお父さんたち。「いつも叱られてるけどパパ負けたらだらしないって叱ってやれよ!」最初は冗談を言い合っていたお父さんたちも、レースが近づくにつれてだんだん言葉が減り、真剣な表情になっていく。ひとりずつホルダーに支えられて、1周のTTのスタートだ。
子どものレースを見ていると、いい意味で「親の顔が見たい」と思うようなキッズたち。親のみなさんもさすがに速い。そして、みなさん走りが真剣で誠実だ。走っているさまざまな姿を見ると、きっといまは現役選手ではなかったり、仕事など大人の事情もいろいろあるのだろうなあ…と思う瞬間も。しかし負けたお父さんたちは言い訳もせずに真剣に子どもにあやまっている。なんだかいろいろな意味で心洗われる、“美しい”レースだ。
親子TT・Aの優勝は、田中月奈(るな)さん&お父さんの裕さん。
「ひと組しか出てないんで、優勝って言っても」と照れ笑いする裕さん。いつもお父さんと練習しているという月奈さん、「お父さんは速いですか?」とマイクを向けられ「たぶん、速いです!」と断言。会場から、うらやましそうなどよめきが起きる。
親子TT・Bの優勝は、石井洋輝くん&誠さん。洋輝くんは昨年のU-10の優勝者で、今年はU-12で4位。親子TT・Bの子どもタイムでも1位と頼もしい。じつは洋輝くんが先に自転車に乗っていて、お父さんも乗るようになったという誠さん。「乗ってみたら自分も速く走りたくなった?」とマイクを向けられ、「はい!」と元気な答え。そう、この大会では、キッズが先に乗りたいといってパパやママが自転車を始めた、という声をけっこう耳にするのだ。
そして親子TT・Cの優勝は、高梨万里王くん&俊雄さん。「クリテリウムで2位だったくやしさをぶつけましたか?」「はい!」「お父さんは優勝に貢献しましたか?」「はい!」と万里王くん。その隣で申し訳なさそうな顔で所在無さげにしているのは、3位の鵜沼碧くんのお父さんの誠さん。子どもタイムが1位だが、親タイムで3位に。ということでマイクを向けられる誠さん。「いつもはインタビューは1位だけなんですけど、特別にきいてみましょう!お父さん!」「もう言うことはないです…」
こんな誠実なお父さんたちだから、子どもたちも強くなるんだ、ということがよくわかる親子TTだった。
「勝つ意志を持って走るキッズたちに感動」 森田正美さん
全レースが終わって、森田さんに選手の目から見た大会の感想をうかがってみた。
「U15を見たのは初めてだったんですが、自転車の未来はすごく明るいように感じました。子どもたちは、ちゃんと自分が勝つという意志を持って走っている。大人のレースでは『まあいいや』って思ってしまったりしがちなんですけど。レースは最後まで何があるかわからないのに。自分の仕事が終わったからといってやめてしまったり、そういうのがない。ラップされても、最後まであきらめない。そういうところが、いいなあと思いました。
それに、女子の選手たち。落車しても『走らせてください!』っていう子もいたり、やる気を感じました。みんな続けていってくれたらなあと思います。」
■今後の予定にも注目だ
ロード・トゥ・キングの味の素スタジアムでの開催は今回が2回目だ。ロード・トゥ・キング大会事務局の中島祥元さんは「来年の会場がまた味スタになるかはまだ決まっていないのですが、都内で大会をやる意義は大きいので続けていきたいと思います。また来年もここ、味スタでやることになった場合は、今回の親子TTはぜひまたやりたいですね。」と語る。
「ロード・トゥ・キングを主催するNPO法人マイヨジョーヌは、自転車に乗れない人も乗れるようになる『初心者のための自転車安全教室』も開催しています。ロード・トゥ・キングとは別のイベントですが、ちょうど今日(2月27日)も味スタのこのすぐ隣のエリアで開催しました。そしてロード・トゥ・キング2010年度第3戦となる袖ヶ浦サーキット大会は3月19日に予定しています。イベントスケジュールは、マイヨジョーヌのwebサイト(http://www.maillotjaune.jp/index.html)でご確認ください!」
■Road to KING 2010 味の素スタジアム大会
主な競技結果
【タイムトライアル】(1周0.4km)
U-8 1位 渡辺耶斗 46.21
U-10 1位 佐藤健太 43.49
U-12 1位 花田聖誠 41.90
U-15 1位 橋本遼太 38.19
【クリテリウム】
U-6(1周0.4km)
1位 高梨颯樹 01:04.00
2位 横山侑哉 01:06.27
3位 安東真瞳 01:08.24
U-8(4周1.6km)
1位 渡辺耶斗 3:15.43
2位 古山佳和 3:30.29
3位 細谷響貴 3:34.97
U-10 A組(10周4km)
1位 鵜沼碧 7:49.63
2位 高梨万里王 7:50.35
3位 佐藤健太 8:07.74
U-12 A組(15周6km)
1位 石倉悠之介 10:58.74
2位 花田聖誠 11:01.43
3位 清水大樹 11:05.67
U-15(25周10km)
1位 小野寺玲 17:34.30
2位 古山大 17:53.57
3位 橋本遼太 18:01.08
【親子タイムトライアル】(1周0.4km+1周0.4km)
親子TT・A
1位 田中月奈/田中裕 子タイム45.77 親タイム40.39 合計1:26.16
親子TT・B
1位 石井洋輝/石井誠 42.49 39.99 1:22.48
2位 石倉悠之介/石倉康範 43.10 39.59 1:22.69
3位 中西啓/中西康輔 44.77 40.35 1:25.12
親子TT・C
1位 高梨万里王/高梨俊雄 45.50 37.55 1:23.05
2位 渡辺耶斗/渡辺拓 47.10 36.89 1:23.99
3位 鵜沼碧/鵜沼誠 44.45 41.43 1:25.88
当日の熱戦の模様はフォトギャラリーで。すべての写真を公開するpicasaウェブギャラリーも御覧ください。
写真とレポート:佐藤有子
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