2020/04/04(土) - 09:47
大阪のシルベストサイクルが企画した奈良グラベルツーリングを帯同レポート。若草山から未舗装路で当尾(とうの)の里へ。石仏の点在する小路で浄瑠璃寺や大仏鉄道の遺構を訪ねた趣たっぷりのグラベルライド。歴史を探訪するオン&オフロードツーリングだ。(※この記事は3月22日に取材しています)
集合は近鉄奈良駅。ライドの参加メンバー16人は、ほとんどが大阪から車や電車で輪行して集合した。企画したのは大阪・梅田のショップ「シルベストサイクル」。「幻のモスクワ五輪代表選手」としておなじみ山崎敏正店長らが中心になってプランをつくったという。
シルベストサイクルのお客さんが対象のライドだが、レポーターの私・綾野(CW編集部)は中・高生時代を奈良で過ごしたこともあり、縁あって誘っていただいたのだ。参加者の皆さんは自身のグラベルロードでの参加だが、ほとんどがオフロードライド初心者ということもあり、走り方・遊び方を知るのが大事ということで企画された。
発案の山崎さんとスタッフの渕上記理子さんはロード、トライアスロンなんでもこいのサイクリストだが、昨年はグラインデューロ in信越斑尾も走っているグラベル経験者だ。予定走行ルートは約40kmの行程。距離は短めだが、オフロードの比率が非常に高く、乗車時間でいえば70%以上がグラベルや簡易舗装路というから楽しみだ。
「私としては”歴史探訪”という言葉に想いがこもっていまして、奈良を中心にぐるりと走るその道中に、いろんな時代の歴史を感じる風景や遺構が詰まっていますよ」と山崎さん。
出発した一行は、裏町の路地を通って駅からすぐにアクセスできる奈良公園へ。南大門から大仏殿への参道は、いつもなら多くの観光客でごった返して通行さえ困難な観光スポットだが、コロナの影響による訪問客の減少で閑散としていた。しかし桜が最高潮で、一足早い花見も楽しめた。
奈良公園の歴史エリアは遊歩道や参道を外れなければ自転車で通ることは可能だ(もちろん観光客が多ければ難しくなる)。春日大社やお水取りで有名な二月堂、三月堂を外から拝観し、奈良時代の風景を満喫。そして一路若草山を目指す。
奈良公園の奥まったところが始点となる春日山遊歩道は車も通行できる砂利道、いわゆるジープロードで、徐々に上り勾配になってゆく。歩いて散策するハイカーや犬の散歩の人、裏道を散策する観光客が訪れ、時おりクルマが通る。
それにしても周囲の鬱蒼とした原始林の美しさは格別だ。古代からの天然林ならではの美しさ、清潔感ある神聖な雰囲気に心が洗われる。路面は未舗装だが硬く締まっており、走るのは難しくない。
若草山の山頂からは奈良市街の眺めが楽しめる。あいにく曇りがちだったが、遠くに大阪との境をなす生駒山や二上山が眺められた。
陽の当たる山頂の芝生の広場で鹿と遊びつつの休憩を経て、再びのグラベルヒルクライムへ。世界遺産にも指定されている春日山原始林は宮内庁が管轄する神様の森であり、平安時代の遺構だ。道を外れたり、木に触ることはできない。神聖な雰囲気と、木漏れ日が美しい。
まさにグラベルと呼ぶにふさわしい砂利道には「交番所」と呼ばれる関所があり、通行車両をコントロールしている。自転車に関しても通行が認められているが、看板の注意書きによれば「危険な高速走行はしないこと」。つまり意識してゆっくり安全に走れば大丈夫だ。走行に関して疑問に思ったことは交番所で訊くことができる。
春日山原始林を通る小路は車道でもあるので、なるべく一列走行で。実際はクルマがめったに通らないので余裕を持って走ることができる。そして新若草山ドライブウェーをかすめて峠の茶屋を目指し、今回の最高標高地点(544m)を経て大慈仙町へと入る。江戸時代に柳生十兵衛が歩いた剣豪のみち柳生街道「滝坂の道」を通り、当尾の里へと下る。
奈良・平安時代には山岳仏教の道場となったこの一帯には、道中に誓多林(せたりん)、忍辱山(にんにくせん)など、インドの聖地に見立てた仏教由来の地名が残っているのが興味深い。岩船寺を経て石仏が点在する里の小路へ。クルマではとても通れないほどの細道は簡易舗装で、ロードバイクでは走るのが厳しい荒れぐあい。でもグラベルバイクなら楽しく走れる道だ。
道端には笑い仏や眠り仏など、ユニークな石仏群が点在している。岩盤の壁面に彫られた大きな仏像はまるで小さなバーミヤンのよう。歴史好きに人気の道だから徒歩で訪れる人も多く、ハイキングやトレランスタイルで石仏めぐりを楽しむ人たちにもすれ違った。あくまでハイカーの皆さんが優先の道なので、すれ違うときにはじゅうぶん減速し、道が狭ければ停まることも心がけて。
竹林をくぐり抜け、浄瑠璃寺へ。ここでランチに。このあたりはすでに京都・木津川市だ。お寺の参道入口にある食堂で、うどんやごま豆腐、とろろ定食など、素朴な味わいの食事を楽しむ。
馬酔木の参道が美しい浄瑠璃寺には、薬師如来坐像や吉祥天女像など重要文化財が眠っている。ちなみに拝観は無料だ(京都の重文寺院としては珍しい)。
当野地区は古来より、南都仏教の影響を色濃く受けて、僧侶たちが修行に打ち込むために、都から少し離れたこの地で暮らしたと伝えられる。民家は点在すれど、クルマも通れないような細道がつなぐだけで、グラベルバイクでなければ歩くしかない道だ。
加茂の里の田畑のあぜ道を走り、「大仏鉄道」跡に沿って南下する。大仏鉄道とは、約100年ほど前、明治時代に使われていた鉄道の遺構だ。かつてイギリス製の蒸気機関車が伊勢や名古屋方面からの東大寺への参拝客を乗せてにぎわったという。今はもう線路は残っていないが、レンガ造りの橋脚や隧道などがそのままの姿で残っている。
少し天気が怪しくなってきたなか、一行は再び奈良市に帰ってきた。明治時代の名レンガ建築「旧奈良監獄(少年刑務所)」の外周をバイクに乗ったままぐるりと見学。この「美しすぎる刑務所」として有名なモダンな建物は、星野リゾートの手によって2021年じゅうに「監獄ホテル」として生まれ変わるという。
般若寺近くには、住宅地だというのに植村牧場がある。牛や羊と遊べるファミリー牧場だが、ここのソフトクリームがライドの仕上げのご褒美。高校生まで奈良在住だった私ですが、この穴場スポットは知りませんでした!
午後4時、走行距離40kmにわずか足りずに奈良駅前に戻り、ライドは終了。グラベルがたっぷりだったから、距離は短いながら走り応えもたっぷりでした。オフロードライドは舗装路のそれに比べてかなり負荷が高くなるので、その夜は筋肉痛が出たぐらい。
「オフロードを走るならマウンテンバイクでもいいんじゃないか? と思うかも知れませんが、グラベルロードはオンロードを移動するにも高い能力を持っていて、どこでも走れる万能な自転車なんです。今日はそれが良くわかるルートだったと思います」と山崎さん。なるほど、歩くには距離がある、ロードバイクでは無理、マウンテンバイクでは行動範囲が広げられなかった。絶妙なルートと難易度だった。
そしてオフロードが繰り返し現れるルートを丸く1周する間に、じつに奈良時代、平安時代、鎌倉時代、江戸時代、明治時代の歴史に想いを巡らすことができた、まさに「歴史探訪グラベルライド」だった。ロードバイクに馴染めなかったグラベルバイク初心者の女性も「これだったら続けられるかも」とニッコニコだった。
グラベルバイクはオールロードとも呼ばれる。つまり道を選ばず走ることができるバイクで、その行動範囲は道の数だけ広がる。バイクパッキングスタイルで荷物を積んで走ることにも向いているから、かつてのランドナー的なツーリングバイクとしても活躍するのだ。そんなグラベルバイクの万能性を感じることができたライドだった。
photo&text:Makoto.AYANO
thanks to シルベストサイクル
集合は近鉄奈良駅。ライドの参加メンバー16人は、ほとんどが大阪から車や電車で輪行して集合した。企画したのは大阪・梅田のショップ「シルベストサイクル」。「幻のモスクワ五輪代表選手」としておなじみ山崎敏正店長らが中心になってプランをつくったという。
シルベストサイクルのお客さんが対象のライドだが、レポーターの私・綾野(CW編集部)は中・高生時代を奈良で過ごしたこともあり、縁あって誘っていただいたのだ。参加者の皆さんは自身のグラベルロードでの参加だが、ほとんどがオフロードライド初心者ということもあり、走り方・遊び方を知るのが大事ということで企画された。
発案の山崎さんとスタッフの渕上記理子さんはロード、トライアスロンなんでもこいのサイクリストだが、昨年はグラインデューロ in信越斑尾も走っているグラベル経験者だ。予定走行ルートは約40kmの行程。距離は短めだが、オフロードの比率が非常に高く、乗車時間でいえば70%以上がグラベルや簡易舗装路というから楽しみだ。
「私としては”歴史探訪”という言葉に想いがこもっていまして、奈良を中心にぐるりと走るその道中に、いろんな時代の歴史を感じる風景や遺構が詰まっていますよ」と山崎さん。
出発した一行は、裏町の路地を通って駅からすぐにアクセスできる奈良公園へ。南大門から大仏殿への参道は、いつもなら多くの観光客でごった返して通行さえ困難な観光スポットだが、コロナの影響による訪問客の減少で閑散としていた。しかし桜が最高潮で、一足早い花見も楽しめた。
奈良公園の歴史エリアは遊歩道や参道を外れなければ自転車で通ることは可能だ(もちろん観光客が多ければ難しくなる)。春日大社やお水取りで有名な二月堂、三月堂を外から拝観し、奈良時代の風景を満喫。そして一路若草山を目指す。
奈良公園の奥まったところが始点となる春日山遊歩道は車も通行できる砂利道、いわゆるジープロードで、徐々に上り勾配になってゆく。歩いて散策するハイカーや犬の散歩の人、裏道を散策する観光客が訪れ、時おりクルマが通る。
それにしても周囲の鬱蒼とした原始林の美しさは格別だ。古代からの天然林ならではの美しさ、清潔感ある神聖な雰囲気に心が洗われる。路面は未舗装だが硬く締まっており、走るのは難しくない。
若草山の山頂からは奈良市街の眺めが楽しめる。あいにく曇りがちだったが、遠くに大阪との境をなす生駒山や二上山が眺められた。
陽の当たる山頂の芝生の広場で鹿と遊びつつの休憩を経て、再びのグラベルヒルクライムへ。世界遺産にも指定されている春日山原始林は宮内庁が管轄する神様の森であり、平安時代の遺構だ。道を外れたり、木に触ることはできない。神聖な雰囲気と、木漏れ日が美しい。
まさにグラベルと呼ぶにふさわしい砂利道には「交番所」と呼ばれる関所があり、通行車両をコントロールしている。自転車に関しても通行が認められているが、看板の注意書きによれば「危険な高速走行はしないこと」。つまり意識してゆっくり安全に走れば大丈夫だ。走行に関して疑問に思ったことは交番所で訊くことができる。
春日山原始林を通る小路は車道でもあるので、なるべく一列走行で。実際はクルマがめったに通らないので余裕を持って走ることができる。そして新若草山ドライブウェーをかすめて峠の茶屋を目指し、今回の最高標高地点(544m)を経て大慈仙町へと入る。江戸時代に柳生十兵衛が歩いた剣豪のみち柳生街道「滝坂の道」を通り、当尾の里へと下る。
奈良・平安時代には山岳仏教の道場となったこの一帯には、道中に誓多林(せたりん)、忍辱山(にんにくせん)など、インドの聖地に見立てた仏教由来の地名が残っているのが興味深い。岩船寺を経て石仏が点在する里の小路へ。クルマではとても通れないほどの細道は簡易舗装で、ロードバイクでは走るのが厳しい荒れぐあい。でもグラベルバイクなら楽しく走れる道だ。
道端には笑い仏や眠り仏など、ユニークな石仏群が点在している。岩盤の壁面に彫られた大きな仏像はまるで小さなバーミヤンのよう。歴史好きに人気の道だから徒歩で訪れる人も多く、ハイキングやトレランスタイルで石仏めぐりを楽しむ人たちにもすれ違った。あくまでハイカーの皆さんが優先の道なので、すれ違うときにはじゅうぶん減速し、道が狭ければ停まることも心がけて。
竹林をくぐり抜け、浄瑠璃寺へ。ここでランチに。このあたりはすでに京都・木津川市だ。お寺の参道入口にある食堂で、うどんやごま豆腐、とろろ定食など、素朴な味わいの食事を楽しむ。
馬酔木の参道が美しい浄瑠璃寺には、薬師如来坐像や吉祥天女像など重要文化財が眠っている。ちなみに拝観は無料だ(京都の重文寺院としては珍しい)。
当野地区は古来より、南都仏教の影響を色濃く受けて、僧侶たちが修行に打ち込むために、都から少し離れたこの地で暮らしたと伝えられる。民家は点在すれど、クルマも通れないような細道がつなぐだけで、グラベルバイクでなければ歩くしかない道だ。
加茂の里の田畑のあぜ道を走り、「大仏鉄道」跡に沿って南下する。大仏鉄道とは、約100年ほど前、明治時代に使われていた鉄道の遺構だ。かつてイギリス製の蒸気機関車が伊勢や名古屋方面からの東大寺への参拝客を乗せてにぎわったという。今はもう線路は残っていないが、レンガ造りの橋脚や隧道などがそのままの姿で残っている。
少し天気が怪しくなってきたなか、一行は再び奈良市に帰ってきた。明治時代の名レンガ建築「旧奈良監獄(少年刑務所)」の外周をバイクに乗ったままぐるりと見学。この「美しすぎる刑務所」として有名なモダンな建物は、星野リゾートの手によって2021年じゅうに「監獄ホテル」として生まれ変わるという。
般若寺近くには、住宅地だというのに植村牧場がある。牛や羊と遊べるファミリー牧場だが、ここのソフトクリームがライドの仕上げのご褒美。高校生まで奈良在住だった私ですが、この穴場スポットは知りませんでした!
午後4時、走行距離40kmにわずか足りずに奈良駅前に戻り、ライドは終了。グラベルがたっぷりだったから、距離は短いながら走り応えもたっぷりでした。オフロードライドは舗装路のそれに比べてかなり負荷が高くなるので、その夜は筋肉痛が出たぐらい。
「オフロードを走るならマウンテンバイクでもいいんじゃないか? と思うかも知れませんが、グラベルロードはオンロードを移動するにも高い能力を持っていて、どこでも走れる万能な自転車なんです。今日はそれが良くわかるルートだったと思います」と山崎さん。なるほど、歩くには距離がある、ロードバイクでは無理、マウンテンバイクでは行動範囲が広げられなかった。絶妙なルートと難易度だった。
そしてオフロードが繰り返し現れるルートを丸く1周する間に、じつに奈良時代、平安時代、鎌倉時代、江戸時代、明治時代の歴史に想いを巡らすことができた、まさに「歴史探訪グラベルライド」だった。ロードバイクに馴染めなかったグラベルバイク初心者の女性も「これだったら続けられるかも」とニッコニコだった。
グラベルバイクはオールロードとも呼ばれる。つまり道を選ばず走ることができるバイクで、その行動範囲は道の数だけ広がる。バイクパッキングスタイルで荷物を積んで走ることにも向いているから、かつてのランドナー的なツーリングバイクとしても活躍するのだ。そんなグラベルバイクの万能性を感じることができたライドだった。
photo&text:Makoto.AYANO
thanks to シルベストサイクル
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