2019/12/16(月) - 15:54
山梨県峡南エリアを舞台に行われる南アルプスロングライド。2日間で行われるイベントのなかで最長となるのが「ツール・ド・富士川」ステージだ。そのステージに最近ご無沙汰していた「あの男」が登場。しかも何やら新たな武器を持ち込むようで……。
第126代天皇徳仁の即位を祝う国民祭典のお祝いムードの余韻が残る11月中旬、今年も”南アルプスロングライド”の時期がやってきた。この大会は2日間で190kmを走り獲得標高は2,900mを超える国内屈指の山岳ロングライドイベントだ。
今日の走行コースは、大会のメインイベントとなるツール・ド・富士川ステージ。距離110km、獲得標高1900mを誇る厄介な山岳コースだ。距離はそこまで長くないものの、大きく3つの峠を登り、常にアップダウンが続くコースは予想以上の難関コースとなっている。(※大会レポートはこちら)
そんな健脚自慢のサイクリスト以外は遠慮したくなるような取材現場に、「ロードバイクには拷問でしかない山岳コースで、読者の皆さんにE-BIKEの素晴らしさを届けたい!」と意気込む男が来ている。お久し振りのメタボ会長である。
大会開催数日前、「そういえば、今年は南アルプスロングライドに行くからな!E-BIKEと荷物を積んどいてくれよ!」とまさに青天の霹靂を浴びせかけてくれたのだ。ラスト区間のヒルクライムチャレンジ用に会長のE-BIKEを拝借しようと目論んでいた私にとっては、アテにしていたE-BIKEも使えず、メタボ会長のお守もしなければならず、とあらゆる意味でバッドニュースである。
「今日は、E-BIKEの走行性能を中心にしっかりとレポート頼むで!」(いやいや、知らんがな……)と胸の内で呟きつつも、顔にはしっかりと営業スマイルを張り付かせ「もちろん任せてください!」と返すのは、悲しい社会人の処世術。
メタボ会長の愛車ミズタニ・セラフ号に組み込まれているシマノSTEPSのアシスト強度は、ECOモード、NORMALモード、HIGHモードの3段階あるが、今後のバッテリーライフ検証のために道中はHIGHモード固定で走ってもらう。ちなみにカタログによるとHIGHモードの目安航続距離は78km、山岳コースの富士川ステージ110kmでは途中でバッテリー切れになるはずだ。きっとヒルクライム区間に挑むこともなく、引き返すこととなるだろう。そうなればしめたものである。
そんな黒い思惑を隠しつつ、調子よく走り出すメタボ会長。雲一つない快晴で、絶好のサイクリング日和である。富士川を渡り、第1エイドの甲斐黄金村エイドまでは大きな登りは無い。「射撃場坂」と呼ばれる2kmほどの丘越えくらいで、あとは基本的に平坦基調だ。
普段の取材と同じくらいのペースで平坦を30km/hほどで巡航していると、気づけば背後からのプレッシャーが消えている。振り返るとぽつんと小さくなった会長の姿が。いつもはその有り余る(体重由来の)パワーで、平坦こそが一番輝けるステージだと言わんばかりにグイグイ走っているのだが……。
はぐれてしまっても取材にならないので、待つことしばし。追いついてきたメタボ会長は開口一番、「このスピードだとアシストが全然効かなくって、進まないんだよ!」と言い訳がましい台詞を吐くのだった。まあ、24km/hでアシストが切れる以上、30km/hあたりの速度ではE-BIKEも単なる重いスポーツバイクとなるのは重々承知、あえてそのペースを狙っていたのだ。(思惑通りっ……)と内心ほくそ笑む。
しかし、その余裕も射撃場坂まで。5%を越える斜度の坂が続く登りで、メタボ会長が、いや、正確にはE-BIKEが見せたパフォーマンスは圧倒的だった。中腹まで先行して撮影していた私に合流したメタボ会長の後について登り始めたのだが、速いのなんの。大体パワーウェイトレシオ4倍ほどで後ろについていると、じわじわと離されそうになる。最近メタボ編集部員の座に手をかけつつある私にとって、このペースは明らかにオーバーペースである。まだ100kmほど残っているのだ、こんなところで脚を消耗している場合ではない。
「あ、無理っす。」とあっさりギブアップを伝えると、「おっけー!」なんて軽いノリでさらに加速していくメタボ会長。なんと、あのペースは手加減されていたされていたのだ。8%くらいの坂で18km/hくらい出ていたのだけれど。「嘘やろ……」。思わず語彙が消滅した感想が口から零れ落ちる。いくら自分が過去最高に登れていないとしても、たとえメタボ会長が文明の利器を得ようとも、この距離の坂で千切られるというのは想像していなかっただけにショックが大きい……。
トボトボと残りの距離を消化して、峠の頂上にたどり着くと「遅いなー!待ってる間に体が冷えちゃったよー!」とこの上ない笑顔で話しかけてくる。そこにいるのは完全に調子に乗ったマウンティングゴリラだった。だが、完敗を喫した自分に何も言えるはずもなく、力なく「お待たせしました」と謝るしかないのであった。
さて、傷心を抱きつつ第1エイドに辿りつくと、何やらディスプレイに目を凝らすメタボ会長。どうしたのか、と思って声をかけると、「いやあ、老眼でバッテリー残量が見えなくてな。編集長に各ポイントでチェックしておけって言われてたんだが…」という。なんとも仕方ない話なので、不憫に思って代わりに確認することに。24km地点でバッテリー残量は93%、まだまだ余裕そうで何よりだ。
”ほうとう”を頂き、再出発。この先に現れるのは、大会きっての激坂区間「身延山」だ。前半の門前町を行く1km、5%の1段目を登った先に、600m17.4%の激坂が続いているのだ。先ほどの射撃場坂での結果を踏まえると、メタボ会長の写真を抑えるためには相当先行する必要がある。激坂が始まる身延山の山門の手前でいったんストップし、「2分くらい経ったら登ってきてくださいね」と言い聞かせ、激坂区間を登り始めた。
およそ300wほどで2分ほど踏み続け、一旦斜度が緩まるところで撮影に入ると、1分もたたないうちにシッティングのまま目立つシルエットの男が登ってくるではないか。しかも、なんとゲストライダーのエース栗原さんを後ろに引き連れている。シッティングで笑顔のメタボ会長に対してダンシングで苦しそうなエース栗原。「嘘やろ……」。なんとも衝撃的な光景に、一瞬シャッターボタンを押そうとした手が止まりそうになる。
なんとかシャッターを切り続ける私に向けて「このまま上まで登っちゃっていいのか―?」と能天気な声をかけるメタボ会長。皆が必死に喘ぐ激坂も、E-BIKEの前ではちょっとしたスパイス程度の存在に零落してしまう。E-BIKE恐るべし。後を追って、えっちらおっちら残りの区間を登り切った私の視界に入ってきたのは、会長の周りにできた人だかりだった。
「めちゃくちゃ楽そうに登っていくのでびっくりしましたよ!」「これがE-BIKEなんですねー、結構カッコイイじゃないですか」と会長にぶち抜かれたと思しき参加者の皆さんが、興味津々といった様子でE-BIKEの周囲に集まっているのだ。給料をもらっているわけでもないのに会長のご機嫌取りをしていただけるとは、もはや聖人の行いである。そんな心優しい皆さんの言葉に「いやあ、機材も実力の内だからね!」とガハガハ笑う男の横で、私の膝も笑っているのであった。
短いとはいえ、かなりの勾配だったのだから、バッテリーも消耗しているはず。(それがゼロになった時が貴様の命日だ……)と思いつつ、ディスプレイを覗いてみるが、意外なことに残り容量は81%。既に40km近く走ってきているのに、まだ1/5も削れていない。ちなみに登り口では88%だったとのことで、激坂区間だけで7%の電池を消費したことになる。
ここから第2エイドまでは1kmほど登ってから峠を下り、富士川沿いのフラットコースを走っていく。46km地点の富士川クラフトパークに到着時点で残り77%。このまま行くと、かなりバッテリーに余裕をもって走りきれる可能性も大きくなってきた。そして、そのままお昼ご飯の「こしべんと」を頂ける久那土中学校に到着時点で71%。61kmと全工程の半分を越えた地点で7割を残している。
非常にマズい事態である。このままだとラストのヒルクライムチャレンジも登り切ってしまう可能性がある。つまり、それは随伴の取材員である私も登らないといけないということを意味しており、今の脚の状況だと相当な苦行を強いられることは確実だからだ。「HIGHモードの航続距離は78kmじゃなかったのかよ……こんなん詐欺やろ……」と、こんな持ちの良いバッテリーを作り上げたシマノ STEPSの開発者に対して心の中で文句を垂れるのだった。
だがまだ希望はある。この先は山場である登りが待っているのだ。久那土中学校からの登りは平均斜度7%、距離約4kmの本格的な峠。それを登り切ったとき、バッテリーがどれくらい残っているのかが勝負の(というより自分の生死の)分かれ目となる。ここまでの経験から「先に出発するので、ゆっくり来てください」と告げ、走り出した。
既に相当脚が終わっていることもあり、かなりゆっくりのペースで上っていく。PWRにして3倍を割るくらいのペースで、ゆるゆると登っていくと坂が永遠に続いているように感じる。「アシスト欲しいな……」とポツリと呟いたタイミングで、後ろから「ウィンウィン」というモーター駆動音と共にメタボ会長がやってきた。つよい。
どうやら15分くらいゆっくりしたあと、今中さんたちと共に出発したのだという。しかしその割に今中さんの姿も見えない。まさかと思って尋ねると「いやー、遅いから置いてきちゃったよ!」と得意満面。なんてこった。ついにメタボ会長がツール出場のレジェンドにヒルクライムで勝ってしまったのだ。
そんな得意絶頂のメタボ会長の横で、ゼーハーと息を吐いている参加者の方が一人。「この子はすごくてな、ずっと後ろについて走ってきたんだよ!あんまり無理するなよって言ったんだけどな」と言う。聞けば、富士ヒルでは余裕でシルバーを獲得するヒルクライマーなのだとか。そりゃあ、こんな体形のおっさんに登りで抜かれたらなんとしてもついていかざるを得ないだろう。アイデンティティに関わる。
「ホントに何度か千切れそうになりました……。」と荒い息を吐きながら語ってくれたこちらの方。「E-BIKEがあったら、普段走れない人とも一緒に走れそうですけど、むしろ待たせることになりそうですね」と、貴重なコメントを頂いた。さて、そんな尊い犠牲を出しつつ登り切った結果、電池残量は71%→49%まで低下している。ついに半分以上を消費することになったわけだが、フィニッシュまでの距離は40kmと残り僅かだ。
ここからは一気に市川大門方面へと下り、絶景を誇る温泉「みたまの湯」までのアップダウンを行く。体重とディスクブレーキの恩恵を受け、下りをかっ飛ばすメタボ会長だが、そのままの勢いを活かしてハイスピードでこなすアップダウンのセクションは苦手なようで、久しぶりにロードバイク有利な区間。みたまの湯に到着するころには電池残量は49%→42%へと減っていた。
「これだけ残っていれば、最後のヒルクライムチャレンジも大丈夫そうですね」と諦め顔で告げ、みたまの湯を出発する。ここからヒルクライムチャレンジのスタート地点まではほぼフラットの高速区間。30km/hほどの巡航速度だが、メタボ会長曰く「全然ついて行けなくてここが一番きつかった」のだとか。つまりヒルクライムのほうが楽だということで、以前からは考えられない言葉である。
歴戦の猛者が集まったヒルクライムチャレンジのスタート地点で、再度バッテリー残量をチェック。42%→36%となっており、これならギリギリ持ちそうだということでスタート。メタボ会長が威勢よく登っていく姿を写真に収め、私は絞りカスのようなパワーで走っていくのだった。
ヒルクライムチャレンジは5km平均斜度9%というなかなかハードなプロフィール。もちろん場所によっては10%を余裕で越えてくる区間もある。「本当はここでE-BIKEを使ってラクしようと思ってたんだけどなあ……」などとぼんやり考えながら、歩くくらいのスピードでどんどん参加者の方に抜かされつつ上っていくと、上から「帰るぞー」という声が聞こえてくる。なんとメタボ会長が下りてきたのだ。いくらなんでも速過ぎだろう、と思っていると、「電池が無くなってUターンしてきたんだよ、電池残量が5%を切るとECOモード縛りになっちゃって、まったく登れねえよ」という。
聞けば残り2km地点まで、15km/hほどで快調に登っていたのだが、一気にバッテリーを消耗してしまったのだという。「急に気温も下がってきたから、バッテリーにも影響出たのかもしれないな!」と笑っているが、アシストが無くなった瞬間に回れ右するその潔さはもはや脱帽レベルである。
「寒くなってきたし、さっさと下るぞ!」ということで、今年の南アルプスロングライドではみさき耕舎の土は踏めず、ラフランスを味わうことも出来ないままに、くるりとUターン。だが、内心「助かった……」と思っていたのはここだけの話だ。
結果として、ラストのヒルクライムチャレンジは登れなかったものの、会長はE-BIKEとともに距離にして106km、獲得標高1,750mほどをしっかり走ったことになる。体重が82kgほどあることを鑑みれば、普通の体形であればもう少し航続距離も伸びるはずで、完走できている可能性も高い。そもそもHIGHモードの公称航続距離が78kmなのだから、予想以上の性能だ。
帰る支度をしていると、会長が話しかけてくる。「正直な話、少なくともロードバイクでは全く完走が期待できないこの難コースで、ここまで走ってくれるとは思ってなかったよ!E-BIKEなら楽しめるフィールドが拡がることは間違いないな!」いつもならイベント実走後はヘロヘロで文句しか言わないのだが、その表情はとても満足げだ。
走り終わった後にも関わらず、疲れた様子も見せずに他の参加者さんと楽しそうに談笑している会長の姿を見ていると、改めてE-BIKEの無限のポテンシャルを感じさせられる。単に楽チンな道具として捉えるのではなく、ロードバイクやMTBとは異なる全く新しいスポーツのカテゴリーとして捉えた方が良さそうだ。個人的には今後もE-BIKEからは目が離せそうにない。
第126代天皇徳仁の即位を祝う国民祭典のお祝いムードの余韻が残る11月中旬、今年も”南アルプスロングライド”の時期がやってきた。この大会は2日間で190kmを走り獲得標高は2,900mを超える国内屈指の山岳ロングライドイベントだ。
今日の走行コースは、大会のメインイベントとなるツール・ド・富士川ステージ。距離110km、獲得標高1900mを誇る厄介な山岳コースだ。距離はそこまで長くないものの、大きく3つの峠を登り、常にアップダウンが続くコースは予想以上の難関コースとなっている。(※大会レポートはこちら)
そんな健脚自慢のサイクリスト以外は遠慮したくなるような取材現場に、「ロードバイクには拷問でしかない山岳コースで、読者の皆さんにE-BIKEの素晴らしさを届けたい!」と意気込む男が来ている。お久し振りのメタボ会長である。
大会開催数日前、「そういえば、今年は南アルプスロングライドに行くからな!E-BIKEと荷物を積んどいてくれよ!」とまさに青天の霹靂を浴びせかけてくれたのだ。ラスト区間のヒルクライムチャレンジ用に会長のE-BIKEを拝借しようと目論んでいた私にとっては、アテにしていたE-BIKEも使えず、メタボ会長のお守もしなければならず、とあらゆる意味でバッドニュースである。
「今日は、E-BIKEの走行性能を中心にしっかりとレポート頼むで!」(いやいや、知らんがな……)と胸の内で呟きつつも、顔にはしっかりと営業スマイルを張り付かせ「もちろん任せてください!」と返すのは、悲しい社会人の処世術。
メタボ会長の愛車ミズタニ・セラフ号に組み込まれているシマノSTEPSのアシスト強度は、ECOモード、NORMALモード、HIGHモードの3段階あるが、今後のバッテリーライフ検証のために道中はHIGHモード固定で走ってもらう。ちなみにカタログによるとHIGHモードの目安航続距離は78km、山岳コースの富士川ステージ110kmでは途中でバッテリー切れになるはずだ。きっとヒルクライム区間に挑むこともなく、引き返すこととなるだろう。そうなればしめたものである。
そんな黒い思惑を隠しつつ、調子よく走り出すメタボ会長。雲一つない快晴で、絶好のサイクリング日和である。富士川を渡り、第1エイドの甲斐黄金村エイドまでは大きな登りは無い。「射撃場坂」と呼ばれる2kmほどの丘越えくらいで、あとは基本的に平坦基調だ。
普段の取材と同じくらいのペースで平坦を30km/hほどで巡航していると、気づけば背後からのプレッシャーが消えている。振り返るとぽつんと小さくなった会長の姿が。いつもはその有り余る(体重由来の)パワーで、平坦こそが一番輝けるステージだと言わんばかりにグイグイ走っているのだが……。
はぐれてしまっても取材にならないので、待つことしばし。追いついてきたメタボ会長は開口一番、「このスピードだとアシストが全然効かなくって、進まないんだよ!」と言い訳がましい台詞を吐くのだった。まあ、24km/hでアシストが切れる以上、30km/hあたりの速度ではE-BIKEも単なる重いスポーツバイクとなるのは重々承知、あえてそのペースを狙っていたのだ。(思惑通りっ……)と内心ほくそ笑む。
しかし、その余裕も射撃場坂まで。5%を越える斜度の坂が続く登りで、メタボ会長が、いや、正確にはE-BIKEが見せたパフォーマンスは圧倒的だった。中腹まで先行して撮影していた私に合流したメタボ会長の後について登り始めたのだが、速いのなんの。大体パワーウェイトレシオ4倍ほどで後ろについていると、じわじわと離されそうになる。最近メタボ編集部員の座に手をかけつつある私にとって、このペースは明らかにオーバーペースである。まだ100kmほど残っているのだ、こんなところで脚を消耗している場合ではない。
「あ、無理っす。」とあっさりギブアップを伝えると、「おっけー!」なんて軽いノリでさらに加速していくメタボ会長。なんと、あのペースは手加減されていたされていたのだ。8%くらいの坂で18km/hくらい出ていたのだけれど。「嘘やろ……」。思わず語彙が消滅した感想が口から零れ落ちる。いくら自分が過去最高に登れていないとしても、たとえメタボ会長が文明の利器を得ようとも、この距離の坂で千切られるというのは想像していなかっただけにショックが大きい……。
トボトボと残りの距離を消化して、峠の頂上にたどり着くと「遅いなー!待ってる間に体が冷えちゃったよー!」とこの上ない笑顔で話しかけてくる。そこにいるのは完全に調子に乗ったマウンティングゴリラだった。だが、完敗を喫した自分に何も言えるはずもなく、力なく「お待たせしました」と謝るしかないのであった。
さて、傷心を抱きつつ第1エイドに辿りつくと、何やらディスプレイに目を凝らすメタボ会長。どうしたのか、と思って声をかけると、「いやあ、老眼でバッテリー残量が見えなくてな。編集長に各ポイントでチェックしておけって言われてたんだが…」という。なんとも仕方ない話なので、不憫に思って代わりに確認することに。24km地点でバッテリー残量は93%、まだまだ余裕そうで何よりだ。
”ほうとう”を頂き、再出発。この先に現れるのは、大会きっての激坂区間「身延山」だ。前半の門前町を行く1km、5%の1段目を登った先に、600m17.4%の激坂が続いているのだ。先ほどの射撃場坂での結果を踏まえると、メタボ会長の写真を抑えるためには相当先行する必要がある。激坂が始まる身延山の山門の手前でいったんストップし、「2分くらい経ったら登ってきてくださいね」と言い聞かせ、激坂区間を登り始めた。
およそ300wほどで2分ほど踏み続け、一旦斜度が緩まるところで撮影に入ると、1分もたたないうちにシッティングのまま目立つシルエットの男が登ってくるではないか。しかも、なんとゲストライダーのエース栗原さんを後ろに引き連れている。シッティングで笑顔のメタボ会長に対してダンシングで苦しそうなエース栗原。「嘘やろ……」。なんとも衝撃的な光景に、一瞬シャッターボタンを押そうとした手が止まりそうになる。
なんとかシャッターを切り続ける私に向けて「このまま上まで登っちゃっていいのか―?」と能天気な声をかけるメタボ会長。皆が必死に喘ぐ激坂も、E-BIKEの前ではちょっとしたスパイス程度の存在に零落してしまう。E-BIKE恐るべし。後を追って、えっちらおっちら残りの区間を登り切った私の視界に入ってきたのは、会長の周りにできた人だかりだった。
「めちゃくちゃ楽そうに登っていくのでびっくりしましたよ!」「これがE-BIKEなんですねー、結構カッコイイじゃないですか」と会長にぶち抜かれたと思しき参加者の皆さんが、興味津々といった様子でE-BIKEの周囲に集まっているのだ。給料をもらっているわけでもないのに会長のご機嫌取りをしていただけるとは、もはや聖人の行いである。そんな心優しい皆さんの言葉に「いやあ、機材も実力の内だからね!」とガハガハ笑う男の横で、私の膝も笑っているのであった。
短いとはいえ、かなりの勾配だったのだから、バッテリーも消耗しているはず。(それがゼロになった時が貴様の命日だ……)と思いつつ、ディスプレイを覗いてみるが、意外なことに残り容量は81%。既に40km近く走ってきているのに、まだ1/5も削れていない。ちなみに登り口では88%だったとのことで、激坂区間だけで7%の電池を消費したことになる。
ここから第2エイドまでは1kmほど登ってから峠を下り、富士川沿いのフラットコースを走っていく。46km地点の富士川クラフトパークに到着時点で残り77%。このまま行くと、かなりバッテリーに余裕をもって走りきれる可能性も大きくなってきた。そして、そのままお昼ご飯の「こしべんと」を頂ける久那土中学校に到着時点で71%。61kmと全工程の半分を越えた地点で7割を残している。
非常にマズい事態である。このままだとラストのヒルクライムチャレンジも登り切ってしまう可能性がある。つまり、それは随伴の取材員である私も登らないといけないということを意味しており、今の脚の状況だと相当な苦行を強いられることは確実だからだ。「HIGHモードの航続距離は78kmじゃなかったのかよ……こんなん詐欺やろ……」と、こんな持ちの良いバッテリーを作り上げたシマノ STEPSの開発者に対して心の中で文句を垂れるのだった。
だがまだ希望はある。この先は山場である登りが待っているのだ。久那土中学校からの登りは平均斜度7%、距離約4kmの本格的な峠。それを登り切ったとき、バッテリーがどれくらい残っているのかが勝負の(というより自分の生死の)分かれ目となる。ここまでの経験から「先に出発するので、ゆっくり来てください」と告げ、走り出した。
既に相当脚が終わっていることもあり、かなりゆっくりのペースで上っていく。PWRにして3倍を割るくらいのペースで、ゆるゆると登っていくと坂が永遠に続いているように感じる。「アシスト欲しいな……」とポツリと呟いたタイミングで、後ろから「ウィンウィン」というモーター駆動音と共にメタボ会長がやってきた。つよい。
どうやら15分くらいゆっくりしたあと、今中さんたちと共に出発したのだという。しかしその割に今中さんの姿も見えない。まさかと思って尋ねると「いやー、遅いから置いてきちゃったよ!」と得意満面。なんてこった。ついにメタボ会長がツール出場のレジェンドにヒルクライムで勝ってしまったのだ。
そんな得意絶頂のメタボ会長の横で、ゼーハーと息を吐いている参加者の方が一人。「この子はすごくてな、ずっと後ろについて走ってきたんだよ!あんまり無理するなよって言ったんだけどな」と言う。聞けば、富士ヒルでは余裕でシルバーを獲得するヒルクライマーなのだとか。そりゃあ、こんな体形のおっさんに登りで抜かれたらなんとしてもついていかざるを得ないだろう。アイデンティティに関わる。
「ホントに何度か千切れそうになりました……。」と荒い息を吐きながら語ってくれたこちらの方。「E-BIKEがあったら、普段走れない人とも一緒に走れそうですけど、むしろ待たせることになりそうですね」と、貴重なコメントを頂いた。さて、そんな尊い犠牲を出しつつ登り切った結果、電池残量は71%→49%まで低下している。ついに半分以上を消費することになったわけだが、フィニッシュまでの距離は40kmと残り僅かだ。
ここからは一気に市川大門方面へと下り、絶景を誇る温泉「みたまの湯」までのアップダウンを行く。体重とディスクブレーキの恩恵を受け、下りをかっ飛ばすメタボ会長だが、そのままの勢いを活かしてハイスピードでこなすアップダウンのセクションは苦手なようで、久しぶりにロードバイク有利な区間。みたまの湯に到着するころには電池残量は49%→42%へと減っていた。
「これだけ残っていれば、最後のヒルクライムチャレンジも大丈夫そうですね」と諦め顔で告げ、みたまの湯を出発する。ここからヒルクライムチャレンジのスタート地点まではほぼフラットの高速区間。30km/hほどの巡航速度だが、メタボ会長曰く「全然ついて行けなくてここが一番きつかった」のだとか。つまりヒルクライムのほうが楽だということで、以前からは考えられない言葉である。
歴戦の猛者が集まったヒルクライムチャレンジのスタート地点で、再度バッテリー残量をチェック。42%→36%となっており、これならギリギリ持ちそうだということでスタート。メタボ会長が威勢よく登っていく姿を写真に収め、私は絞りカスのようなパワーで走っていくのだった。
ヒルクライムチャレンジは5km平均斜度9%というなかなかハードなプロフィール。もちろん場所によっては10%を余裕で越えてくる区間もある。「本当はここでE-BIKEを使ってラクしようと思ってたんだけどなあ……」などとぼんやり考えながら、歩くくらいのスピードでどんどん参加者の方に抜かされつつ上っていくと、上から「帰るぞー」という声が聞こえてくる。なんとメタボ会長が下りてきたのだ。いくらなんでも速過ぎだろう、と思っていると、「電池が無くなってUターンしてきたんだよ、電池残量が5%を切るとECOモード縛りになっちゃって、まったく登れねえよ」という。
聞けば残り2km地点まで、15km/hほどで快調に登っていたのだが、一気にバッテリーを消耗してしまったのだという。「急に気温も下がってきたから、バッテリーにも影響出たのかもしれないな!」と笑っているが、アシストが無くなった瞬間に回れ右するその潔さはもはや脱帽レベルである。
「寒くなってきたし、さっさと下るぞ!」ということで、今年の南アルプスロングライドではみさき耕舎の土は踏めず、ラフランスを味わうことも出来ないままに、くるりとUターン。だが、内心「助かった……」と思っていたのはここだけの話だ。
結果として、ラストのヒルクライムチャレンジは登れなかったものの、会長はE-BIKEとともに距離にして106km、獲得標高1,750mほどをしっかり走ったことになる。体重が82kgほどあることを鑑みれば、普通の体形であればもう少し航続距離も伸びるはずで、完走できている可能性も高い。そもそもHIGHモードの公称航続距離が78kmなのだから、予想以上の性能だ。
帰る支度をしていると、会長が話しかけてくる。「正直な話、少なくともロードバイクでは全く完走が期待できないこの難コースで、ここまで走ってくれるとは思ってなかったよ!E-BIKEなら楽しめるフィールドが拡がることは間違いないな!」いつもならイベント実走後はヘロヘロで文句しか言わないのだが、その表情はとても満足げだ。
走り終わった後にも関わらず、疲れた様子も見せずに他の参加者さんと楽しそうに談笑している会長の姿を見ていると、改めてE-BIKEの無限のポテンシャルを感じさせられる。単に楽チンな道具として捉えるのではなく、ロードバイクやMTBとは異なる全く新しいスポーツのカテゴリーとして捉えた方が良さそうだ。個人的には今後もE-BIKEからは目が離せそうにない。
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