2018/10/27(土) - 15:29
来る2020年の東京オリンピックにて多くの自転車競技の舞台となる静岡県東部地域。注目集まるこのエリアで、五輪に向けて、そして五輪の後、スポーツサイクルツーリズムを盛り上げるためのE-MTBを使ったガイドツーリングとカンファレンスが開かれた。
開催まで2年に迫った東京オリンピックにおいて、富士スピードウェイへとフィニッシュするロードレースや、修善寺の日本CSCにて開催されるMTBやトラック競技など、多くの自転車種目が行われる静岡県東部地域。
首都圏からのアクセスも良く、走りやすいロケーションと富士山や伊豆半島といった観光資源の豊かさも相まってサイクリストからの人気が高い地域であったが、オリンピックというビッグイベントを前に、更なる盛り上がりを見せている。
世界最大級の展示台数とレンタルバイクを持つ「MERIDA X BASE」や、サイクリストフレンドリーなカフェやレンタサイクルを備えた道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」、E-BIKEの充電が可能な観光拠点ネットワークなどが次々と整備されているのだ。
それらの取り組みの中でキーワードとなるのが、E-BIKEだろう。伊豆半島にせよ、富士山の南麓にせよ、アップダウンの多い地形であるこの静岡東部地域は、既にスポーツバイクに親しむベテランライダーにとって魅力的である一方、ビギナーにとっては体力的な面でハードルが高い面もある。
そこを解決してくれるのが、スポーツタイプの電動アシストバイクであるE-BIKE。脚力差を埋めてくれるアシスト、更に航続距離に優れつつ、スポーツバイクならではの乗る楽しみや操る喜びを持つ新しいバイクこそ、この地域の魅力を初心者にも開いてくれる新たな鍵だ。
つまり、今最もホットなエリアが最もホットなバイクを使って新しい取り組みを始めているのだから、面白くないわけがない。その中でも、この9月に新たに生まれたガイドツアーが富士山の南麓に張り巡らされた林道を舞台とするE-MTBツアーだ。
地元の社会福祉法人が手掛けるE-MTBツアーへ!
富士ICから北へ20分ほど、富士山こどもの国や富士サファリパークなどの近くにある岩倉学園が今回の目的地。岩倉学園は、この地域を中心に活動する社会福祉法人「誠信会」の運営する児童養護施設であり、このE-MTBツアーも同法人が実施するもの。
福祉×健康×地域振興をテーマとする誠信会にとって、富士南麓に広がる豊かな自然を用いたツアーはまさに理念に沿う取り組み。5台のE-MTBを導入し、レンタルE-MTBガイドツアーを始めることになったという。幾つかのコースが用意されている中、今回はスタンダードな20kmほどのコースを体験することができた。
ツアーで使用されるのはミヤタのRIDGE-RUNNER。シマノのSTEPSにセミファットタイヤとブースト規格のフロントサスを組み合わせ、安定感のあるライディングフィールを実現した車体は、初心者でも安心できる1台だ。
富士山の裾野を東西方向へと走る林道は、比較的登りが少ないビギナー向けのコース。6kmで200mほどの登りとはいえ、ガレているジープロードがメインで、普通のMTBであれば結構頑張らないと登れないはず。
でもそこはE-MTBの本領発揮というところで、ただ脚を踏み下ろすだけで前へ前へと進んでいく。秋の陽気で汗まみれになることも無く、同行するメンバーと会話を楽しみながらテレテレポコポコと太いタイヤの感触を楽しみつつ登っていけるのはE-MTB様々といったところ。体力的な面でオフロードライドを楽しめないという時代は既に過去になってしまったのだ、と実感する。むしろ、楽にある程度のスピードで登れれば、オフロードらしさは登りでも楽しめる。
ところどころで富士山が見えたり、野草についてレクチャーを受けたりしつつ走っていくとあっという間に前半が終わってしまう。途中、富士山こどもの国でトイレ休憩し、待ちに待った下り区間へ。
最近の台風の影響で水が流れた跡などがあるものの、RIDGE-RUNNERのセミファットタイヤならなんのその。ドロッパーポストが標準で採用されているので、下りもラクラクだ。木の根が飛び出していたり、岩場があったりするわけではないので、ビギナーでも恐怖を覚えることなく楽しめるはずだ。
とにかく楽しい!というのが、E-MTBによる林道ツーリングの感想。ルートの難易度でいえば、グラベルロードでも十分走れるような路面だけれども、富士山麓の自然を体験するアクティビティとして林道ツーリングを捉えたときに、E-MTBは最も適した乗り物だ。ラクに登れるということは、余裕が生まれるということだし、余裕が生まれるというのは、安全に直結する。そして安全というのは、恐怖感なく楽しく走れるという意味でもある。
そんな誠信会のE-MTBツアーはE-MTBとヘルメット、プロテクター、グローブのレンタルを含む1時間のガイドツアーが1,000円、3時間のガイドツアーが2,000円と破格のお値段。オフロードライドに興味があるかた、E-MTBの真価を知りたい方は、ぜひ予約してみては。(※ツアーガイドの申込みは電話(0545-38-1941)にて。 受付時間は月~土 8:30~17:30)
官民集い東静岡のMTB普及計画を語ったカンファレンス
E-MTBによる林道ツーリングを体験した後は、静岡をE-MTBを通して盛り上げるためのカンファレンスへ。会場となったのは、この秋にオープンしたばかりのMERIDA X BASE。国内で取扱われるすべてのメリダバイクが見守る中、静岡県東部を取り巻くMTB事情を巡るカンファレンスが開かれた。
まず、静岡県文化観光部の大石氏による、現在の静岡県の自転車への取り組みと体制についての概況を説明するプレゼンテーションから幕を開けた。県内各所へのバイシクルピットの設置や情報サイトの展開、さらには海外との交流を続けている現況、そして東京五輪をきっかけに、伊豆半島の多くの林道などを活用し日本のウィスラーを目指していきたいと展望を語った。
西伊豆で人気のMTBツアーであるYAMABUSHI TRAILを展開する平馬氏は、これまでどのようにしてトレイルをオープンにし、成長してきたかの経緯、そして地域に密着した取り組みについて語っていただいた。「地域の魅力を伝えることが目的で、MTBはそのための手段」だという考えこそが、同ツアーが持続的に活動出来ている秘訣だとも。
午前中のライドをアテンドしていただいた誠信会の皆さんは、同法人が畑違いのE-MTBツアーに参入した理由や、ツアービジネスを始めるにあたっての機材導入の実例(購入もしくはリースかなど)を説明。「体力的なハードルを下げてくれるE-BIKEだから出来る『散走』を広げていきたい」と意気込む。
続くは、世界中の著名なトレイルビルド会社で経験を積み、国内でTRAILLABを立ち上げた浦島氏。運営形態や費用、経済効果など世界のトレイルビルディング事情を紹介し、静岡東部でMTBパークを設立する場合の可能性について「インドネシアのバリやタイのチェンマイのように、日本初のデスティネーショントレイルとして成功するだけのポテンシャルはある」と評した。そして、そのためには、投資とトレイルビルディングへの理解、人材の確保が焦点になるとも。
一方で、伊豆へ訪れるライダーの目線からプレゼンを行ったのは自転車雑誌編集に携わる鏑木氏。昔から伊豆をパスハントしてきた自身の経験をもとに、伊豆に張り巡らされた林道ネットワークの魅力、そしてその有効利用を訴えた。保険のような入山料を徴収し、リーガルに山を楽しめるような仕組みづくりへの期待を覗かせた。
ローカルライダーの代表として登壇したのは富士市にお店を構えるミンズーバイクの古郡氏。近場のトレイルをお客さんに堂々と案内できるような環境への実現に向けて、ローカルとして何が出来るのか。「林道の整備を申し出るとか、子供向けの自転車教室を手伝うとか、いろいろとやれることはあると思います。MTBが公共の利益になる場面は思っているよりも多くあるはずです」とローカルが果たすことが出来る役割を強調した。
そして、最後に登壇したのはミヤタサイクルの営業企画部の福田氏。まず、一般社団法人の自転車協会が進めるMTBフィールド向けの助成金制度を紹介。新設フィールドでは100万円を上限に経費の半分を、既存フィールドにおいても50万円を上限に維持管理経費の半分を助成するという制度で、MTBを楽しめる場を少しでも多く広げていきたいという思いからスタートしたという。
続けてX BASEを中心としたライドコースの造成や、ガイドツアー普及についての展望を語っていただいた。「フラットな狩野川のコースから、伊豆1周まで幅広い層が楽しめるコース取りが出来る。その上、E-BIKEであれば初心者でもしっかりと伊豆を楽しむことも。ターゲットは全国350万のサイクリストではなく、年間4,500万人の伊豆へ訪れる観光客。将来的にSUPやウインドサーフィン、釣り、ダイビングといった、伊豆のアウトドアアクティビティに並ぶ存在としてスポーツサイクリングの地位を高めていきたい」と語った。
官民が一同に会し、意見を交換しあったカンファレンスもここで終了。来る東京オリンピックをフックに、どのようにレガシーを活用していくか。伊豆や富士山がMTBの聖地として全国から多くのライダーが集まる地となるのか、期待していきたい。
text&photo:Naoki.Yasuoka
開催まで2年に迫った東京オリンピックにおいて、富士スピードウェイへとフィニッシュするロードレースや、修善寺の日本CSCにて開催されるMTBやトラック競技など、多くの自転車種目が行われる静岡県東部地域。
首都圏からのアクセスも良く、走りやすいロケーションと富士山や伊豆半島といった観光資源の豊かさも相まってサイクリストからの人気が高い地域であったが、オリンピックというビッグイベントを前に、更なる盛り上がりを見せている。
世界最大級の展示台数とレンタルバイクを持つ「MERIDA X BASE」や、サイクリストフレンドリーなカフェやレンタサイクルを備えた道の駅「伊豆ゲートウェイ函南」、E-BIKEの充電が可能な観光拠点ネットワークなどが次々と整備されているのだ。
それらの取り組みの中でキーワードとなるのが、E-BIKEだろう。伊豆半島にせよ、富士山の南麓にせよ、アップダウンの多い地形であるこの静岡東部地域は、既にスポーツバイクに親しむベテランライダーにとって魅力的である一方、ビギナーにとっては体力的な面でハードルが高い面もある。
そこを解決してくれるのが、スポーツタイプの電動アシストバイクであるE-BIKE。脚力差を埋めてくれるアシスト、更に航続距離に優れつつ、スポーツバイクならではの乗る楽しみや操る喜びを持つ新しいバイクこそ、この地域の魅力を初心者にも開いてくれる新たな鍵だ。
つまり、今最もホットなエリアが最もホットなバイクを使って新しい取り組みを始めているのだから、面白くないわけがない。その中でも、この9月に新たに生まれたガイドツアーが富士山の南麓に張り巡らされた林道を舞台とするE-MTBツアーだ。
地元の社会福祉法人が手掛けるE-MTBツアーへ!
富士ICから北へ20分ほど、富士山こどもの国や富士サファリパークなどの近くにある岩倉学園が今回の目的地。岩倉学園は、この地域を中心に活動する社会福祉法人「誠信会」の運営する児童養護施設であり、このE-MTBツアーも同法人が実施するもの。
福祉×健康×地域振興をテーマとする誠信会にとって、富士南麓に広がる豊かな自然を用いたツアーはまさに理念に沿う取り組み。5台のE-MTBを導入し、レンタルE-MTBガイドツアーを始めることになったという。幾つかのコースが用意されている中、今回はスタンダードな20kmほどのコースを体験することができた。
ツアーで使用されるのはミヤタのRIDGE-RUNNER。シマノのSTEPSにセミファットタイヤとブースト規格のフロントサスを組み合わせ、安定感のあるライディングフィールを実現した車体は、初心者でも安心できる1台だ。
富士山の裾野を東西方向へと走る林道は、比較的登りが少ないビギナー向けのコース。6kmで200mほどの登りとはいえ、ガレているジープロードがメインで、普通のMTBであれば結構頑張らないと登れないはず。
でもそこはE-MTBの本領発揮というところで、ただ脚を踏み下ろすだけで前へ前へと進んでいく。秋の陽気で汗まみれになることも無く、同行するメンバーと会話を楽しみながらテレテレポコポコと太いタイヤの感触を楽しみつつ登っていけるのはE-MTB様々といったところ。体力的な面でオフロードライドを楽しめないという時代は既に過去になってしまったのだ、と実感する。むしろ、楽にある程度のスピードで登れれば、オフロードらしさは登りでも楽しめる。
ところどころで富士山が見えたり、野草についてレクチャーを受けたりしつつ走っていくとあっという間に前半が終わってしまう。途中、富士山こどもの国でトイレ休憩し、待ちに待った下り区間へ。
最近の台風の影響で水が流れた跡などがあるものの、RIDGE-RUNNERのセミファットタイヤならなんのその。ドロッパーポストが標準で採用されているので、下りもラクラクだ。木の根が飛び出していたり、岩場があったりするわけではないので、ビギナーでも恐怖を覚えることなく楽しめるはずだ。
とにかく楽しい!というのが、E-MTBによる林道ツーリングの感想。ルートの難易度でいえば、グラベルロードでも十分走れるような路面だけれども、富士山麓の自然を体験するアクティビティとして林道ツーリングを捉えたときに、E-MTBは最も適した乗り物だ。ラクに登れるということは、余裕が生まれるということだし、余裕が生まれるというのは、安全に直結する。そして安全というのは、恐怖感なく楽しく走れるという意味でもある。
そんな誠信会のE-MTBツアーはE-MTBとヘルメット、プロテクター、グローブのレンタルを含む1時間のガイドツアーが1,000円、3時間のガイドツアーが2,000円と破格のお値段。オフロードライドに興味があるかた、E-MTBの真価を知りたい方は、ぜひ予約してみては。(※ツアーガイドの申込みは電話(0545-38-1941)にて。 受付時間は月~土 8:30~17:30)
官民集い東静岡のMTB普及計画を語ったカンファレンス
E-MTBによる林道ツーリングを体験した後は、静岡をE-MTBを通して盛り上げるためのカンファレンスへ。会場となったのは、この秋にオープンしたばかりのMERIDA X BASE。国内で取扱われるすべてのメリダバイクが見守る中、静岡県東部を取り巻くMTB事情を巡るカンファレンスが開かれた。
まず、静岡県文化観光部の大石氏による、現在の静岡県の自転車への取り組みと体制についての概況を説明するプレゼンテーションから幕を開けた。県内各所へのバイシクルピットの設置や情報サイトの展開、さらには海外との交流を続けている現況、そして東京五輪をきっかけに、伊豆半島の多くの林道などを活用し日本のウィスラーを目指していきたいと展望を語った。
西伊豆で人気のMTBツアーであるYAMABUSHI TRAILを展開する平馬氏は、これまでどのようにしてトレイルをオープンにし、成長してきたかの経緯、そして地域に密着した取り組みについて語っていただいた。「地域の魅力を伝えることが目的で、MTBはそのための手段」だという考えこそが、同ツアーが持続的に活動出来ている秘訣だとも。
午前中のライドをアテンドしていただいた誠信会の皆さんは、同法人が畑違いのE-MTBツアーに参入した理由や、ツアービジネスを始めるにあたっての機材導入の実例(購入もしくはリースかなど)を説明。「体力的なハードルを下げてくれるE-BIKEだから出来る『散走』を広げていきたい」と意気込む。
続くは、世界中の著名なトレイルビルド会社で経験を積み、国内でTRAILLABを立ち上げた浦島氏。運営形態や費用、経済効果など世界のトレイルビルディング事情を紹介し、静岡東部でMTBパークを設立する場合の可能性について「インドネシアのバリやタイのチェンマイのように、日本初のデスティネーショントレイルとして成功するだけのポテンシャルはある」と評した。そして、そのためには、投資とトレイルビルディングへの理解、人材の確保が焦点になるとも。
一方で、伊豆へ訪れるライダーの目線からプレゼンを行ったのは自転車雑誌編集に携わる鏑木氏。昔から伊豆をパスハントしてきた自身の経験をもとに、伊豆に張り巡らされた林道ネットワークの魅力、そしてその有効利用を訴えた。保険のような入山料を徴収し、リーガルに山を楽しめるような仕組みづくりへの期待を覗かせた。
ローカルライダーの代表として登壇したのは富士市にお店を構えるミンズーバイクの古郡氏。近場のトレイルをお客さんに堂々と案内できるような環境への実現に向けて、ローカルとして何が出来るのか。「林道の整備を申し出るとか、子供向けの自転車教室を手伝うとか、いろいろとやれることはあると思います。MTBが公共の利益になる場面は思っているよりも多くあるはずです」とローカルが果たすことが出来る役割を強調した。
そして、最後に登壇したのはミヤタサイクルの営業企画部の福田氏。まず、一般社団法人の自転車協会が進めるMTBフィールド向けの助成金制度を紹介。新設フィールドでは100万円を上限に経費の半分を、既存フィールドにおいても50万円を上限に維持管理経費の半分を助成するという制度で、MTBを楽しめる場を少しでも多く広げていきたいという思いからスタートしたという。
続けてX BASEを中心としたライドコースの造成や、ガイドツアー普及についての展望を語っていただいた。「フラットな狩野川のコースから、伊豆1周まで幅広い層が楽しめるコース取りが出来る。その上、E-BIKEであれば初心者でもしっかりと伊豆を楽しむことも。ターゲットは全国350万のサイクリストではなく、年間4,500万人の伊豆へ訪れる観光客。将来的にSUPやウインドサーフィン、釣り、ダイビングといった、伊豆のアウトドアアクティビティに並ぶ存在としてスポーツサイクリングの地位を高めていきたい」と語った。
官民が一同に会し、意見を交換しあったカンファレンスもここで終了。来る東京オリンピックをフックに、どのようにレガシーを活用していくか。伊豆や富士山がMTBの聖地として全国から多くのライダーが集まる地となるのか、期待していきたい。
text&photo:Naoki.Yasuoka