オルタナティブバイシクル代表の北澤肯さんが、ヒマラヤ山脈を戴くネパールで行われたアジア・エンデューロシリーズに参戦。さらに世界一高い峠からのダウンヒルにチャレンジしたエクストリームライドのレポートが届きました。



素晴らしい景色を行くネパールMTBライド素晴らしい景色を行くネパールMTBライド photo:Koh.Kitazawa
ネパールにMTB(マウンテンバイク)に乗りに行ってきた。今までアジアだけでも20カ国近く行っているが、何故だかネパールだけは縁がなかった。世界の屋根と言われるヒマラヤ山脈を擁する国だ、マウンテンバイカーとしては行っておきたい。今回の旅の目的は2つ。一つはアジア・エンデューロシリーズのレースに参戦すること。もう一つは世界で一番高いと言われるトロンラ峠(標高5416m)にヘリコプターで行って、そこからのダウンヒルにチャレンジすることだ。

エンデューロは比較的新しいマウンテンバイクの競技の一つで、ここ2〜3年、世界的に盛り上がりを見せている。日本でも2014年から開催されていて、今年も全5戦が開催予定だ。エンデューロはダウンヒルに近いが、コースはそこまでは難易度が高くない。1日に2〜5のスペシャルステージ(以下SS)という下りをメインとしたタイム計測の区間があり、そのSSをつなぐリエゾンという登り区間がある。

リエゾンにはタイム計測はないが、制限時間が設けられている。そしてSSの合計タイムを競うのだ。僕は日本では一昨年と昨年、白馬で開催された大会に出場した。アジアシリーズは昨年タイのチェンマイで開催された大会に出たのだが、1日4つのSSを2日間に渡って走るので計8SS。

試走が2日間あるので、計4日間トレイルを走り回れるというボリューム感と、タイはもとよりインドネシア、マレーシア、ネパール、香港、シンガポール等、色々なアジアの国から来たマウンテンバイカー達と泥だらけになって走り回り、夜は連れ立って飲みに行くのが本当に楽しく、ハマってしまった。そして、そこで友達になったネパール大会の主催者シャムに強く誘われて、今回ネパールに行くことにした。

ブータンからの僧侶や尼さんの方々と一緒にカトマンズ空港に降り立つブータンからの僧侶や尼さんの方々と一緒にカトマンズ空港に降り立つ photo:Koh.Kitazawa 前回のチェンマイは日本からの参加は僕一人だったが(タイやインド駐在の日本人3名の参加があったが)、今回は友人の角南(すなみ)さんが日本から一緒に行くことになった。角南さんはMONORALというアウトドアのガレージブランドをやっていて、最近チタンでオリジナルのMTBフレームを作ったので、それでネパールを走りたいということで参加となった。しかし最近忙しくあまり走っていないということで出発の1週間前に一緒に山に走りに行ったら、そこでなんと転倒して鎖骨を折ってしまった。その怪我を抱えてのネパール行きとなった。忙しい中なんとか時間とお金の都合をつけて決めたネパール行きだ。簡単には諦められないのだ。

今回の僕のマシンはタイに続いてOTSO(オツォ)というウルフトゥースの展開するブランドのカーボンのファットバイク。角南さんもチタンのハードテールという、フルサスペンション(前後にサスペンションのあるMTB)が普通のアジア・エンデューロでは全く一般的でない機材となった。

出発ギリギリまで仕事をこなして、なんとか旅の準備もむりくり終え、4月1日の羽田発の深夜便で先ずはバンコクに向かう。一応は会社を経営しているのに新年度の初端から2週間も会社を閉めるのだから、どうかしていると言われても仕方がない。しかし飛行機に乗ってしまえば、もうこっちのものだ。

程なくバンコクに着く。空港内のタイ料理のレストランで早朝から揚げたカシューナッツをアテにビール。カトマンズ行きの飛行機のゲートに行くと、チベット仏教の僧侶と尼さんらしき人たちがたくさんいる。聞くとブータンから来たと言う。そのブータンの僧侶と尼さんと一緒にカトマンズに飛ぶこととなった。

道脇でライダーを応援してくれる地元の美人姉妹。こんな交流も体験できた道脇でライダーを応援してくれる地元の美人姉妹。こんな交流も体験できた photo:Koh.Kitazawa
カトマンズ空港は意外と小さかった。日本でビザを予め取って来たので、入国はスムーズ。バイクが入ったバッグを受け取り、空港の出口に向かう。すると、レースのTシャツを着た小柄でガッシリした体格の男性が近づいて来て、ネパールの布を首から掛けてくれた。彼がスタッフの一人のスンダル。そして数人の男性が僕らの荷物を車まで運んでくれる。車に行くと、香港からきたタイガーという名前の20代後半くらいの男性が座っていた。あともう一人、デンマークからのヘンリックという男性が来る予定だという。

しばらくすると僕らのバイクバッグを運んでくれた男達がチップを要求してきた。スタッフだと思っていたら、そうではなく空港にいるポーターでチップを生業にしているのだった。その時はまだ状況がわからず、雰囲気にも飲まれ、5ドルもチップを渡してしまった。おそらくその10分の1でもよかったのだろう。

聞くと角南さんは、言われるままに僕の何倍も渡してしまったようで、その後しばらく車中で呪詛の言葉を繰り返していた。ヘンリックは中々見つからなかった。バイクを持っているだろうからすぐに分かるだろうとスンダルは思っていたようだが、ヘンリックは今回カメラマンとして来ているのでバイクを持っていなかったのだ。

1時間くらい待ってやっと見つかり、レース会場のナガルコットに向かう。同乗のもう一人のスタッフはペンバ・シェルパ。ヒマラヤやエベレスト登山のポーターで有名なあのシェルパ族だ。若い頃に胸を高鳴らせて読んだ故植村直己や他の山岳小説に出て来る屈強で有名なシェルパ族に初めて会い、僕はちょっと興奮した。ナガルコットはカトマンズから車で2〜3時間くらい。カトマンズから一番近いトレッキングができる街で、外国人にも人気がある静かな小さな町だ。ここに最高のトレイルがある。

試走1日目。この時はまだ元気な角南さん。人もバイクもトラックの荷台で運びます。試走1日目。この時はまだ元気な角南さん。人もバイクもトラックの荷台で運びます。 photo:Koh.Kitazawa 日本の援助で作られたという空港から伸びる幹線道路を外れると、道はすぐさま未舗装となる。轍や水たまりで凹凸のある道を、ぐわんぐわんと車に揺られながら幾つかの村を通り過ぎる。しばらく行くと道の傾斜がきつくなる。カトマンズ盆地を抜けて山岳地帯の入り口に差し掛かったのだ。九十九折りを幾つも抜け、標高を稼いでいく。すると道すがら軍隊の演習風景をよく目にするようになった。この地域は軍隊の基地があるのだ。

一旦、峠を登りきり、しばらく下るとナガルコットの町に出た。この一帯で唯一ATMがあるちょっとした町だ。そこから2〜3km登ったところに、今回のイベントのベースとなるホテルがある。重厚な木材で作られた、雰囲気のいい清潔なホテルで、僕らはすっかり気に入ってしまった。早速シャワーを浴びて、ホテルのバーで地元のクラフトビールを飲む。シェルパ・ブリュワリー。名前がいい。うまい。

そこでイベントのスタッフとして働いているジャガンさんと知り合った。彼はグレート・ヒマラヤ・レースというヒマラヤ山脈に沿って1800km縦走するレースの覇者で、エベレストにも2回(うち一回は酸素ボンベなし)登頂している凄い人だ。角南さんとお金を出し合って彼を日本に呼んでレースに出てもらうことになった。その日は主催者のシャムや、他の参加者とも歓談して夜更けまで飲んでしまった。

リエゾンはこんな風にトラックでワイルドに移動。悪路で、ちゃんと掴まってないと本当に怪我します。リエゾンはこんな風にトラックでワイルドに移動。悪路で、ちゃんと掴まってないと本当に怪我します。 photo:Koh.Kitazawa
翌朝、早速試走にいく。ブルネイからきた10人くらいのグループと一緒だ。公式の試走は翌日からなのだが、特別に1日目のSS1~3を走らせてもらうことになった。トラックの荷台にバイクを積み、そのまま荷台に乗り込んでコースの入り口の少し下の広場で降ろしてもらう。そこからSS1のスタートまではウォーミングアップのために自走で登るのだ。20分くらいかけて登り、峠の頂上のお茶屋さんの脇の入り口からトレイルに入る。30秒も走るとスタートのゲートが見えてきた。

SS2の急斜面の下り。かなり怖い。SS2の急斜面の下り。かなり怖い。 photo:Koh.Kitazawa地元のライダーの先導でドロップイン!いきなりドロップオフ(石や根っこの段差)に突っ込む。ドロップオフと細かいコーナーが続くテクニカルなコースだ。と思ったら、いきなり3mは急角度で落ちる箇所があり、前のライダーに釣られて下りてしまったが、普段なら躊躇してしまうような斜度だ。日本だったら絶対にレースでは採用されないだろう。ウハー、怖かった。そこからまたテクニカルなコースが続く。SS1の最後は、緩やかな傾斜のハイスピードコースだ。岩が滑って怖い。大きなコーナーで何度かオーバースピードで突っ込みそうになりながら、なんとかクリアしてゴール。凄くダイナミックなコースだ。

下でトラックが待っていてくれてさっきのスタートの峠の茶屋まで運んでくれた。同じ入り口から入って、少し右に行くとSS2の入り口がある。このコースもテクニカルでとにかく長い。ドッカンドッカンのドロップオフとコーナーと馬の背が続き、息が上がる。これまた日本だったら躊躇してバイクを降りてしまうようなドロップオフも、勢いで行ってしまう。ネパールに来て、いきなり自分の中の「ヤバい」のハードルが下がったようだ。

SS2の後のリエゾン区間は、村人の生活道でもあるジープロードだ。道端の畑でお母さんが稲刈りしてたり、収穫した大根を家族総出で洗っていたり、牛がいたり、積まれた化学肥料か何かの袋の山に座り込んだ美人姉妹が手を振ってくれたり、ネパールの村の様子が垣間見れてとても楽しい。途中スタッフが、そのジープロードに下りてくる斜面にコースを作っているところに遭遇。マジか!こんな斜度を下りてくるのか!SS5の出口だというが、こんなの無理だろと思う。

アップダウンのあるジープロードを4kmほど走り、待っていてくれたトラックに乗ってSS3に向かう。SS3はネパールに来て初めてノンビリと走れるコースで、比較的穏やかな傾斜のトレイルをスピードを出して走り抜ける楽しいコースだ。と思っていたら、いきなり左に曲がり、ものすごい傾斜になる。しかも、傾斜が最もきつくなる入り口に丸太があって、それをバニーホップ(フロントタイヤ、次にリアタイヤを持ち上げて障害物を飛び越えて避けるテクニック)で飛んで急斜面に入るという恐ろしいつくりだ。ウヒャーと叫び声をあげながらも、なんとかクリアして、ゴール。はー。怖かった。そしてホテルに戻ってビールで乾杯。各国から続々と参加者が来る。昨年のタイ以来となる、香港やシンガポールからの友達と再開を祝う。アジアエンデューロ最高だな!

試走2日目。シンガポールのアキル、フィリピンのジャノ、香港在住のフランス人ステファンと。試走2日目。シンガポールのアキル、フィリピンのジャノ、香港在住のフランス人ステファンと。 photo:Koh.Kitazawa
試走2日目。この日から公式な試走が始まる。一緒のトラックになったのはシンガポールのアキル、フィリピンのジャノ、タイでも一緒だった香港在住フランス人のステファン、そして角南さん。前の日に走ったSS1、SS2、SS3を走るが、昨日の雨でコースはツルツルでヒヤヒヤ。そして今回のレースで一番難しいSS5。斜度が半端ない。前を走るフランシスが斜面を転がり落ちて行く。そして、いよいよ最後の急斜面。作ったばかりのコースなので、土が雨を適度に含んで、意外とグリップする。なんとかファットバイクの太いタイヤのグリップを生かし、クリア!大満足でホテルに戻り、またみんなでビールで乾杯!

試走3日目。朝起きると角南さんがお腹の具合が悪いという。薬を飲むときについウッカリ水道水を飲んでしまったらしい。それはヤバい。かなりヘロヘロの様子だが、せっかくだから試走には出るという。SS4は登り返しが難しいコース。ちゃんと登り返しの場所を予見して準備していないとギア比とサドル位置が間に合わずに登りきれない。他のトレイルと違い全般的に妙にウェットだし、根っこが滑るし上りも多く、いやらしいコースだ。ゴールしてからの押しも辛い。

次のSS6は途中まではSS3と同じコースで楽しいコーナーが続く。後半は急斜面となり、またコースが分かりづらいのでミスコースし易く要注意だ。ゴールし、SS7のスタートまでは短い急な押し上げ。SS7はスタートから洗濯板のハイスピードな箇所が続く。そのあとは、シングルトラック、畑のあぜ道、ジープロード、民家の脇を通る様々なトレイルを駆け下る等のバラエティに富んだコース。具合の悪い角南さんは、ここで道に迷い、ミスコースから2m下の畑に落ちるというアクシデント。折れた鎖骨にもダメージがあり、お腹の調子も悪いので、ここでリタイヤし、ホテルに戻ることに。

村人の生活道を使ったリエゾン。村人の生活の様子が見られて面白い。村人の生活道を使ったリエゾン。村人の生活の様子が見られて面白い。 photo:Koh.Kitazawa
香港のスポーツインストラクターのハワードもお腹を壊したらしく、道端で吐いている。トラックに乗って僕は次のSS8に進み、タイムアタックとなる。翌日のレースの出走順を決めるのだ。30秒ごとにスタートするのだが、速いライダーの後だと追いつかれて嫌だから後半からスタートする。シングルトラックとジープロードを組み合わせたコースで比較的やさしいコースだが、コースのマークが分かりづらく二度もミスコース。登り返しの前でミスコースしてしまいバイクをおりて押し上げたため、かなりタイムをロスしてしまう。まあしょうがない。

ホテルに戻りシャワーを浴びて、レースのブリーフィングに向かう。角南さんはまだベッドで、他にも香港のマイケルやハワードもお腹を壊して医者に診てもらったりしている。ブリーフィング前のレセプションでは、女性たちによるネパールの伝統舞踊が披露されたり、ネパールの伝統的な帽子が参加者にプレゼントされたり、参加しているライダーの国が紹介されたりと、かなりの盛り上がり。ルール説明ではインドネシアのライダーから安全面の説明がなされた。抜かれる時、抜くときの声掛けの仕方。またもし転んでいる人がいて具合が悪そうだったらレースは捨てて、その人を助けて欲しいと。その時、会場のみんなが拍手をしたのは、とても素敵だった。

ブリーフィング前のパーティーでは参加者にネパールの伝統的な帽子が配られた。ブリーフィング前のパーティーでは参加者にネパールの伝統的な帽子が配られた。 photo:Koh.Kitazawa
ブリーフィングが終わり夕食を食べている時、ついに僕にも来た。激しい腹痛と下痢の症状だ。部屋に戻り、トレイに直行。うー、かなり痛い。この日から合流したインド駐在の日本人Iさん(仕事の関係で本名はNG)がスタッフに相談してくれて、脱水防止のORS(経口補水液)の粉末と抗生剤を手に入れることができた。結局、下痢と腹痛でその夜はほとんど一睡もできなかった。

口に入れるものには気をつけていて、ホテルのサラダも食べなかったが、峠の茶屋で食べたサモサか、試走中にどうしても泥が跳ねて口に入るので、それが原因だろう。特にリエゾンで使うジープロードは牛や羊などの家畜が行き交い糞をするので、それが泥と一緒に口に入って感染症をもらってしまうのだ。レースの後のトロンラ峠ツアーもあるので、翌日のレースはキャンセルして、体調を整えようと決め、朝を待った。

text&photo:Koh.Kitazawa

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