2018/02/07(水) - 08:57
自転車と鉄道、二つを愛する「テツ店長」ことバイクプラス多摩センターの河井孝介さんの輪行サイクリング紀行。ジョイフルトレインに揺られてやってきた南三陸を巡る輪行旅のレポートをお届けします。前編はこちらから
みなさんこんにちは!2018年も行きたい場所が目白押しで楽しみでならないテツ店長です(笑)
前回は福島県の被災地を北上するサイクリングの後、仙台から夢の?臨時列車に乗って、宮城県は気仙沼までやってきましたので、今回は気仙沼から南三陸を巡るサイクリングに出かけることにしましょう。
とは言っても、朝イチはまず輪行からのスタートになりますが……(笑)朝の気仙沼駅にふたたび戻ってくると、ここからはJR気仙沼線に乗車します。改札に掲げられた列車の発車標示だと、3本の路線が交わるようなカタチになっていますが、実際には内陸に向かう大船渡線1本の路線を除いて、海沿いを走っていた残り2本の路線は震災の津波被害が甚大だったため、すでにバスに転換されてしまっています。
しかし、これがバスと言ってもただの路線バスではなく、もとあった鉄道の軌道をバス専用道に転換したBRT(Bus Rapid Transit)と呼ばれるもので、日本語では『バス高速輸送システム』とも称されますが、カンタンに言うと電車の代わりに線路の上をバスが走ると言ったイメージの、新しい交通機関に生まれ変わったのでした。
というわけで、名目上はJRの鉄道線と同じ扱いとなっており、バスでも輪行が可能で、なおかつ今回のようなJRの乗り放題きっぷでも乗車できると言うのは、輪行サイクリスト的には非常にありがたいことではあります(笑)
駅に到着するとまもなく、気仙沼線BRTのホームに、見た目はごくごくふつうの路線バスが入線してきました。駅でホームを挟んでバスと鉄道車両が仲良く肩を並べる姿は、これはちょっと新しい景色ですね!
ちょうど朝の通勤通学時間帯で混雑が懸念されましたが、幸いにもラッシュというほどの混雑もなくひと安心(笑)。前日に続いてのバス輪行となりましたが、今回のように路線バスの車内に輪行で乗り込むのは、ちょっと場違いな感じでどうにも落ち着きません(汗)。まずは車内を見回して、できるだけ邪魔にならなさそうな場所に自転車を固定して、自分も着席したところでバスは気仙沼駅を発車しました。
バスは走り出すと一気にスピードを上げて、舗装された気仙沼線の(元)軌道上を走ってゆきます。バス専用道は一般道と違って信号や交差点も無いためか、けっこうなスピードで一車線道路を突っ走って行くので、一般道を走る路線バスの感覚だとちょっと怖いくらい。
バス専用道とは言っても、基本は一車線道路なのですれ違いはどうするのだろう?と思っていると、そこはしっかりと考えられていて、単線の鉄道と同じように信号のある行き違い場所で整然とすれ違うようになっていました。
他にも一般道と交わる交差点(元踏切)では、鉄道とは逆にバス専用道側に遮断機があって、バス通過時以外は一般車両が入れない様にされていたりと、観察しているといろいろ発見があります。
ただずーっと専用道を走り続けるわけでは無く、途中で一般道に出て市街地を回りながら再び専用道に戻ったり、新しい地域拠点に寄り道していったりと、バスならでは身軽な動きをしながら気仙沼線のルートを進んで行くのを見て、これもアリだなと感心しきりなテツ店長なのでした。
鉄道好き目線では、正直言って鉄路による復旧が叶わなかったのはちょっと残念ですが、実際に利用してみると、このBRTという新しい交通システムもけっこう便利なものではないかと思えてきました。
そしてバスに揺られること約1時間半、"志津川駅"という名のバス停?で途中下車して、ここから本日のサイクリングを始めることとします。ここ"志津川"は南三陸町の中核でしたが、他の三陸地域と同様に津波で壊滅的な被害を受けてしまいました。周囲を見渡すと整地された場所に真新しい建物がポツポツと存在しますが、大半はまだ土地造成中の工事現場といった趣です。
そんな殺伐とした風景の中を走り始めてすぐ、道ばたの広場?に観光バス数台が止まって、多くの人の姿が見えました。そこで気になってこちらも止まってみたのですが……。
人々の視線の向こうに目を向けると、鉄筋の骨組みだけになった建物がポツンと立っていました。そうです、これが"南三陸町防災対策庁舎"跡だったのです!押し寄せてきた津波が、まだ職員の残る建物を呑み込んでゆく姿を、当時は遠く沖縄の地で見ていました。実際現場に立ってみて、7年前にこの地域そのものが津波で覆いつくされたのだと言う現実を体感した瞬間でした。
内陸側に目を向けると、茫漠とした荒れ地の中に、これまたポツリと気仙沼線の高架橋の一部が残っていました。前後の構造物は根こそぎ無くなってしまっており、圧倒的な自然の力をまざまざと見せつけられ、しばし呆然とその光景を眺めて固まっている自分がありました。
気を取り直して、ふたたび海沿いの国道45号を走りはじめましたが、少し内陸に入ると津波被害の及ばなかった場所からBRTの専用道がまた復活しています。しかしここからは内陸方面に向かう気仙沼線とは別れて、こちらは海沿いに国道398号を南下するコースに入ります。
複雑に入り組んだリアス式海岸に沿って走るので、アップダウンがひたすら連続しますが、高台に上る途中で時々姿を見せてくれる海の景色はやっぱり美しい!この風景だけを見ていると、すべてを破壊する津波のイメージとにわかに重なりませんが、そのどちらも現実ってことなんですよね……。
しばらく走っていると、開けた平地に出て来ました。どうやらここが北上川の河口のようです。遠くは岩手県からやってきた北上川は、さすがに大河の風格を漂わせて、河口部も雄大な景色を見せてくれました。
ここ川の上に出るまでも、いたるところで震災復興の工事が行われていましたが、いまいちピンとこないまま橋を渡ると、ふたたび目の前に見たことのある(映像で、ですが)景色が現れました!
そこにあったのは、児童74名が津波の犠牲となった旧"石巻市立大川小学校"の跡でした……。震災遺構としてそのままの姿で保存されているようですが、ここで多くの幼い命が奪われたのだと思うと、息が苦しくなるような感覚に陥ります。慰霊碑に手を合わせた後、勇気を出して建物のそばまで近寄ってみましたが、人気の無くなった校舎からは悲しみだけしか感じらず、いたたまれなくなって早々に離れることにしました。
時刻は昼を回り、雨も降り出して身も心も冷えきったままさらに走っていると、次は"雄勝"の集落が見えてきました。入り江の奥に位置していた"雄勝"の集落もまた津波で甚大な被害を受け、現在も復興工事真っただ中ですが、ここにある仮設商店街「おがつ店こ屋街」には人が集まっていて活気があり、何か人恋しさもあって、気づくと吸い寄せられていました。
体も冷えていたのと、残りの区間も上りで体力を使いそうだったので、ここは温かいうどんと海鮮丼という欲張りメニューでいったん心も体もリセットすることにしましょう。食欲が満たされて、体も温まると気持ちの切り替えもできたので、この先はまた明るい気持ちで先に進むことができそうです(笑)
ということで、再びのリアス式海岸区間となりましたが、上って下っての繰り返しの合間に姿を見せる、海と山が複雑に織りなす景色はやはり絶景です!苦しい上りは美しい景色で気を紛らわせながら一路ゴールをめざします!
最後の高台を過ぎると彼方に大きな町が見えてきました!坂を下ってゆくとそこが今回のゴール地点である"女川"でした。日本有数の漁港である女川漁港を抱える、ここ"女川"の町も例外なく東日本大震災では津波に襲われており、ほぼすべての都市機能が奪われてしまったそうです。しかし7年の時間の中で新たに港湾も整備され、周辺にも新しい施設が建って、震災の爪痕も目立たないところまで復興は着実に進んでいるように見えました。
そんな市街地のほぼ中心に、再建された"JR女川駅"がありました。ここで今回のサイクリングは切り上げることにします。今回のゴールを"女川駅"に選んだのには理由があって、ここは駅に併設して、温泉施設の"女川温泉ゆぽっぽ"が併設されているのですね!
ここで汗と泥水で汚れたカラダを清めて帰路に就けたら、サイクリングの締めとしては最高でしょう!ということで今回選ばれた輪行にオススメの駅なのでした(笑)
2015年に再建されたモダンな駅舎の白く大きな屋根は、羽ばたくウミネコをイメージしているのだそう。この後乗車する予定のJR石巻線の出発まで1時間あまりあったので、駅前で自転車をたたんだあとは、ご褒美の温泉タイムを満喫させて頂きましょう!
とりあえずスケジュール通りにサイクリングを終えられたので、すっかりリラックスムードで温泉につかり、上がってホームに出ると、帰りの列車がお迎えに来ていました(笑)
石巻線の終点"女川"を出発した列車は、左手に"万石浦"の静かな湖面を見ながらのんびりと、次の乗り換え駅"石巻"に向かいます。30分足らずで石巻駅に到着すると、ここから次の仙台駅までは2015年に開通したばかりの"仙石東北ライン"に乗り換えて行きます。
この"仙石東北ライン"ですが、東京にもある"湘南新宿ライン"や"上野東京ライン"と同じように、既存の仙石線と東北本線という別々の路線をつないで直通列車を通すことで、時間短縮と利便性を高めようという、今はやりの手法で生まれた新線なのです。
電化方式の異なる仙石線(直流)と東北本線(交流)を直通するために、使用されるのは電車ではなく、最新のハイブリッド式ディーゼルカーだというのも、乗りテツ的には興味深いところだったのですが……。
実際には道中の約1時間ほとんど寝て過ごしてしまい、気づくと間もなく仙台駅に到着だったという体たらくだったのはご愛敬ということで……
さて鉄道とBRTと自転車を使って、南三陸をぐるっと回って仙台まで戻ってきました!あとは新幹線に乗ってしまえば、あっという間まで東京なのですが、帰りの新幹線までは1時間弱の時間があるので、ここでこの旅最後の食事をとっておく事にしましょう。
ということで、仙台駅の3階にある「牛タン通り」に行ってみると仙台の名だたる牛たん専門店が勢揃い!最近の駅って本当に便利でステキ!どのお店にするのか目移りしてしまうところですが、今回はあまり時間に余裕も無かったので、店内が広くて回転の良さそうな"伊達の牛たん"ののれんをくぐってみることに。
連日の牛たんということで、ちょっと趣向を変えて"牛たんカレー"をチョイス!肉厚の牛たんは歯ごたえがあって、しっかりと牛たん食べてる感があり満足な一皿でした(笑)
夕食も済ませて、東北新幹線のホームまで上がると、ちょうどこれから乗車する仙台始発の"やまびこ154号"が入線してきました。事前に時刻表でしっかりと調べてあるので、予定通りに行動できるのは当たり前と言えば当たり前ですが、やはり時間に正確な日本の鉄道は、移動手段としては非常に頼りになる存在ですね!
あとは鉄道マニア的な知識と経験で、輪行に適した車両まで目星をつけられれば、プランとしてはもはや完璧といったところでしょう(笑)自転車の置き場所を確保して、自分の座席に座ってしまえば、あとは降りるまでゆったりとくつろぐだけ!輪行の旅ってメリハリがあって本当に素晴らしい(涙)
今回も登場する東北新幹線のE2系車両は、デッキに自転車がちょうど収まるスペースがあって非常に便利な存在!もともとスキー置き場として設置されたものなので、雪の無い季節はまず空いているので安心です(笑)
ちなみにJR東日本のE5、E6、E7系といった最近の新しい車両にも、最近一部座席を撤去してスーツケース置き場が設置されつつありますが、こちらだと形状的に自転車を置くのはちょっと難しそうです。もし東北・上越新幹線を利用して輪行する際には、グランクラスの付いていない10両編成がE2系になりますので、これを狙って予定を立ててみるのもよろしいかと思います。
ということで、今回も無事にミッションを終えることができて良かった……。震災からもうじき7年が経ちますが、災害の悲惨さと復興の進む現状、そして風光明媚な南東北の景色と、来て見て感じて、得るものの多いサイクリングで、やっぱり体感する事が大切だと再認識したのでした。
そんなテツ店長ですが、今年もまた鉄道旅の魅力を語りながら、全国各地を巡って行きたいと思いますので、読者の皆様もよろしくお付き合いください(笑)
それではまた!
旅する人 河井孝介プロフィール
バイクプラス多摩センターの店長を務める49歳。前職で足かけ10年にわたる勤務を鉄道の無い(モノレール除く)沖縄県で過ごした反動からか、帰京後は輪行サイクリングの虜となり、現在は鉄道と自転車を組み合わせ、鉄道廃線跡や未成線など鉄道の歴史を辿るサイクリングをライフワークとする。鉄道趣味のジャンルは「乗り鉄」。旧国鉄型車両を心から愛し、ひそかにJR全線乗車にチャレンジ中。非常勤の防衛省職員である予備三等陸曹の身分も合わせ持っている。
みなさんこんにちは!2018年も行きたい場所が目白押しで楽しみでならないテツ店長です(笑)
前回は福島県の被災地を北上するサイクリングの後、仙台から夢の?臨時列車に乗って、宮城県は気仙沼までやってきましたので、今回は気仙沼から南三陸を巡るサイクリングに出かけることにしましょう。
とは言っても、朝イチはまず輪行からのスタートになりますが……(笑)朝の気仙沼駅にふたたび戻ってくると、ここからはJR気仙沼線に乗車します。改札に掲げられた列車の発車標示だと、3本の路線が交わるようなカタチになっていますが、実際には内陸に向かう大船渡線1本の路線を除いて、海沿いを走っていた残り2本の路線は震災の津波被害が甚大だったため、すでにバスに転換されてしまっています。
しかし、これがバスと言ってもただの路線バスではなく、もとあった鉄道の軌道をバス専用道に転換したBRT(Bus Rapid Transit)と呼ばれるもので、日本語では『バス高速輸送システム』とも称されますが、カンタンに言うと電車の代わりに線路の上をバスが走ると言ったイメージの、新しい交通機関に生まれ変わったのでした。
というわけで、名目上はJRの鉄道線と同じ扱いとなっており、バスでも輪行が可能で、なおかつ今回のようなJRの乗り放題きっぷでも乗車できると言うのは、輪行サイクリスト的には非常にありがたいことではあります(笑)
駅に到着するとまもなく、気仙沼線BRTのホームに、見た目はごくごくふつうの路線バスが入線してきました。駅でホームを挟んでバスと鉄道車両が仲良く肩を並べる姿は、これはちょっと新しい景色ですね!
ちょうど朝の通勤通学時間帯で混雑が懸念されましたが、幸いにもラッシュというほどの混雑もなくひと安心(笑)。前日に続いてのバス輪行となりましたが、今回のように路線バスの車内に輪行で乗り込むのは、ちょっと場違いな感じでどうにも落ち着きません(汗)。まずは車内を見回して、できるだけ邪魔にならなさそうな場所に自転車を固定して、自分も着席したところでバスは気仙沼駅を発車しました。
バスは走り出すと一気にスピードを上げて、舗装された気仙沼線の(元)軌道上を走ってゆきます。バス専用道は一般道と違って信号や交差点も無いためか、けっこうなスピードで一車線道路を突っ走って行くので、一般道を走る路線バスの感覚だとちょっと怖いくらい。
バス専用道とは言っても、基本は一車線道路なのですれ違いはどうするのだろう?と思っていると、そこはしっかりと考えられていて、単線の鉄道と同じように信号のある行き違い場所で整然とすれ違うようになっていました。
他にも一般道と交わる交差点(元踏切)では、鉄道とは逆にバス専用道側に遮断機があって、バス通過時以外は一般車両が入れない様にされていたりと、観察しているといろいろ発見があります。
ただずーっと専用道を走り続けるわけでは無く、途中で一般道に出て市街地を回りながら再び専用道に戻ったり、新しい地域拠点に寄り道していったりと、バスならでは身軽な動きをしながら気仙沼線のルートを進んで行くのを見て、これもアリだなと感心しきりなテツ店長なのでした。
鉄道好き目線では、正直言って鉄路による復旧が叶わなかったのはちょっと残念ですが、実際に利用してみると、このBRTという新しい交通システムもけっこう便利なものではないかと思えてきました。
そしてバスに揺られること約1時間半、"志津川駅"という名のバス停?で途中下車して、ここから本日のサイクリングを始めることとします。ここ"志津川"は南三陸町の中核でしたが、他の三陸地域と同様に津波で壊滅的な被害を受けてしまいました。周囲を見渡すと整地された場所に真新しい建物がポツポツと存在しますが、大半はまだ土地造成中の工事現場といった趣です。
そんな殺伐とした風景の中を走り始めてすぐ、道ばたの広場?に観光バス数台が止まって、多くの人の姿が見えました。そこで気になってこちらも止まってみたのですが……。
人々の視線の向こうに目を向けると、鉄筋の骨組みだけになった建物がポツンと立っていました。そうです、これが"南三陸町防災対策庁舎"跡だったのです!押し寄せてきた津波が、まだ職員の残る建物を呑み込んでゆく姿を、当時は遠く沖縄の地で見ていました。実際現場に立ってみて、7年前にこの地域そのものが津波で覆いつくされたのだと言う現実を体感した瞬間でした。
内陸側に目を向けると、茫漠とした荒れ地の中に、これまたポツリと気仙沼線の高架橋の一部が残っていました。前後の構造物は根こそぎ無くなってしまっており、圧倒的な自然の力をまざまざと見せつけられ、しばし呆然とその光景を眺めて固まっている自分がありました。
気を取り直して、ふたたび海沿いの国道45号を走りはじめましたが、少し内陸に入ると津波被害の及ばなかった場所からBRTの専用道がまた復活しています。しかしここからは内陸方面に向かう気仙沼線とは別れて、こちらは海沿いに国道398号を南下するコースに入ります。
複雑に入り組んだリアス式海岸に沿って走るので、アップダウンがひたすら連続しますが、高台に上る途中で時々姿を見せてくれる海の景色はやっぱり美しい!この風景だけを見ていると、すべてを破壊する津波のイメージとにわかに重なりませんが、そのどちらも現実ってことなんですよね……。
しばらく走っていると、開けた平地に出て来ました。どうやらここが北上川の河口のようです。遠くは岩手県からやってきた北上川は、さすがに大河の風格を漂わせて、河口部も雄大な景色を見せてくれました。
ここ川の上に出るまでも、いたるところで震災復興の工事が行われていましたが、いまいちピンとこないまま橋を渡ると、ふたたび目の前に見たことのある(映像で、ですが)景色が現れました!
そこにあったのは、児童74名が津波の犠牲となった旧"石巻市立大川小学校"の跡でした……。震災遺構としてそのままの姿で保存されているようですが、ここで多くの幼い命が奪われたのだと思うと、息が苦しくなるような感覚に陥ります。慰霊碑に手を合わせた後、勇気を出して建物のそばまで近寄ってみましたが、人気の無くなった校舎からは悲しみだけしか感じらず、いたたまれなくなって早々に離れることにしました。
時刻は昼を回り、雨も降り出して身も心も冷えきったままさらに走っていると、次は"雄勝"の集落が見えてきました。入り江の奥に位置していた"雄勝"の集落もまた津波で甚大な被害を受け、現在も復興工事真っただ中ですが、ここにある仮設商店街「おがつ店こ屋街」には人が集まっていて活気があり、何か人恋しさもあって、気づくと吸い寄せられていました。
体も冷えていたのと、残りの区間も上りで体力を使いそうだったので、ここは温かいうどんと海鮮丼という欲張りメニューでいったん心も体もリセットすることにしましょう。食欲が満たされて、体も温まると気持ちの切り替えもできたので、この先はまた明るい気持ちで先に進むことができそうです(笑)
ということで、再びのリアス式海岸区間となりましたが、上って下っての繰り返しの合間に姿を見せる、海と山が複雑に織りなす景色はやはり絶景です!苦しい上りは美しい景色で気を紛らわせながら一路ゴールをめざします!
最後の高台を過ぎると彼方に大きな町が見えてきました!坂を下ってゆくとそこが今回のゴール地点である"女川"でした。日本有数の漁港である女川漁港を抱える、ここ"女川"の町も例外なく東日本大震災では津波に襲われており、ほぼすべての都市機能が奪われてしまったそうです。しかし7年の時間の中で新たに港湾も整備され、周辺にも新しい施設が建って、震災の爪痕も目立たないところまで復興は着実に進んでいるように見えました。
そんな市街地のほぼ中心に、再建された"JR女川駅"がありました。ここで今回のサイクリングは切り上げることにします。今回のゴールを"女川駅"に選んだのには理由があって、ここは駅に併設して、温泉施設の"女川温泉ゆぽっぽ"が併設されているのですね!
ここで汗と泥水で汚れたカラダを清めて帰路に就けたら、サイクリングの締めとしては最高でしょう!ということで今回選ばれた輪行にオススメの駅なのでした(笑)
2015年に再建されたモダンな駅舎の白く大きな屋根は、羽ばたくウミネコをイメージしているのだそう。この後乗車する予定のJR石巻線の出発まで1時間あまりあったので、駅前で自転車をたたんだあとは、ご褒美の温泉タイムを満喫させて頂きましょう!
とりあえずスケジュール通りにサイクリングを終えられたので、すっかりリラックスムードで温泉につかり、上がってホームに出ると、帰りの列車がお迎えに来ていました(笑)
石巻線の終点"女川"を出発した列車は、左手に"万石浦"の静かな湖面を見ながらのんびりと、次の乗り換え駅"石巻"に向かいます。30分足らずで石巻駅に到着すると、ここから次の仙台駅までは2015年に開通したばかりの"仙石東北ライン"に乗り換えて行きます。
この"仙石東北ライン"ですが、東京にもある"湘南新宿ライン"や"上野東京ライン"と同じように、既存の仙石線と東北本線という別々の路線をつないで直通列車を通すことで、時間短縮と利便性を高めようという、今はやりの手法で生まれた新線なのです。
電化方式の異なる仙石線(直流)と東北本線(交流)を直通するために、使用されるのは電車ではなく、最新のハイブリッド式ディーゼルカーだというのも、乗りテツ的には興味深いところだったのですが……。
実際には道中の約1時間ほとんど寝て過ごしてしまい、気づくと間もなく仙台駅に到着だったという体たらくだったのはご愛敬ということで……
さて鉄道とBRTと自転車を使って、南三陸をぐるっと回って仙台まで戻ってきました!あとは新幹線に乗ってしまえば、あっという間まで東京なのですが、帰りの新幹線までは1時間弱の時間があるので、ここでこの旅最後の食事をとっておく事にしましょう。
ということで、仙台駅の3階にある「牛タン通り」に行ってみると仙台の名だたる牛たん専門店が勢揃い!最近の駅って本当に便利でステキ!どのお店にするのか目移りしてしまうところですが、今回はあまり時間に余裕も無かったので、店内が広くて回転の良さそうな"伊達の牛たん"ののれんをくぐってみることに。
連日の牛たんということで、ちょっと趣向を変えて"牛たんカレー"をチョイス!肉厚の牛たんは歯ごたえがあって、しっかりと牛たん食べてる感があり満足な一皿でした(笑)
夕食も済ませて、東北新幹線のホームまで上がると、ちょうどこれから乗車する仙台始発の"やまびこ154号"が入線してきました。事前に時刻表でしっかりと調べてあるので、予定通りに行動できるのは当たり前と言えば当たり前ですが、やはり時間に正確な日本の鉄道は、移動手段としては非常に頼りになる存在ですね!
あとは鉄道マニア的な知識と経験で、輪行に適した車両まで目星をつけられれば、プランとしてはもはや完璧といったところでしょう(笑)自転車の置き場所を確保して、自分の座席に座ってしまえば、あとは降りるまでゆったりとくつろぐだけ!輪行の旅ってメリハリがあって本当に素晴らしい(涙)
今回も登場する東北新幹線のE2系車両は、デッキに自転車がちょうど収まるスペースがあって非常に便利な存在!もともとスキー置き場として設置されたものなので、雪の無い季節はまず空いているので安心です(笑)
ちなみにJR東日本のE5、E6、E7系といった最近の新しい車両にも、最近一部座席を撤去してスーツケース置き場が設置されつつありますが、こちらだと形状的に自転車を置くのはちょっと難しそうです。もし東北・上越新幹線を利用して輪行する際には、グランクラスの付いていない10両編成がE2系になりますので、これを狙って予定を立ててみるのもよろしいかと思います。
ということで、今回も無事にミッションを終えることができて良かった……。震災からもうじき7年が経ちますが、災害の悲惨さと復興の進む現状、そして風光明媚な南東北の景色と、来て見て感じて、得るものの多いサイクリングで、やっぱり体感する事が大切だと再認識したのでした。
そんなテツ店長ですが、今年もまた鉄道旅の魅力を語りながら、全国各地を巡って行きたいと思いますので、読者の皆様もよろしくお付き合いください(笑)
それではまた!
旅する人 河井孝介プロフィール
バイクプラス多摩センターの店長を務める49歳。前職で足かけ10年にわたる勤務を鉄道の無い(モノレール除く)沖縄県で過ごした反動からか、帰京後は輪行サイクリングの虜となり、現在は鉄道と自転車を組み合わせ、鉄道廃線跡や未成線など鉄道の歴史を辿るサイクリングをライフワークとする。鉄道趣味のジャンルは「乗り鉄」。旧国鉄型車両を心から愛し、ひそかにJR全線乗車にチャレンジ中。非常勤の防衛省職員である予備三等陸曹の身分も合わせ持っている。
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