2017/11/28(火) - 09:06
11月18日〜20日、沖縄県の石垣島にてグレートアース石垣島が開催された。今年で10周年を迎えたロングライドイベントには同地出身のプロレーサー新城幸也も参加し、大会を盛り上げた。前夜祭からサイクリング本番の前半までをレポートしよう。
冬将軍が日本本州に猛攻を加えている最中、私は石垣空港に降り立っていた。期待していたような熱帯らしい蒸し暑さは、雲からこぼれ落ちる雨粒によりかき消されていたが、身を切り裂くような鋭い寒さは無く、湿っぽく涼やかな風が体に当たる。アウターは必要なく、薄い長袖でちょうど良いぐらい。半袖でも過ごしやすく、本州では遠い過去のようになってしまった秋を感じられる気候が心地良い。
石垣空港から島の中心地である石垣港までは、バスかタクシー、レンタカーなど自動車で移動する。約16kmと自走可能な範囲内であるが、大荷物のため今回は乗合バスをチョイス。初めて訪れる地での不安と期待が綯い交ぜになったなんとも言えない気持ちで、車窓の向こう側で流れていく子供の背丈ほどのサトウキビ畑をボーッと眺め港に到着するのを待つ。
私が選んだバスでは沖縄らしさを感じられる民謡とポップミュージックが流れていた。三線の明るい一方でどこか儚げな音色で奏でられる「涙そうそう」にあてられてしまった私は、これから楽しいライドが待っているにも関わらず、1人旅の哀愁を感じざるをえず感傷に浸ってしまう。
ハワイやサイパンのように平屋建ての家屋がポツポツと現れる田舎を抜け、高層のホテルが建つ石垣港が近づいてくる。これまでの雰囲気は南の異国かと思うような光景が広がっていたが、ヴィレッジバンガードや西松屋といった店が目に入ると、ここが日本だと改めて実感する。
さて、石垣港に到着したらいよいよグレートアースが始まる。イベントの幕を切って落とすのは立食ビュッフェパーティー式の前夜祭。石垣、ひいては日本のヒーロー新城幸也が参加すると聞いてか、会場には前夜祭史上最高の144名が駆けつけた。午後18時半という丁度夕食どきに開始されるためか、皆お腹を空かせているのかソワソワしている。違う、そうじゃない。ツール・ド・フランスを走った選手が真横にいる状況。サインや記念写真をねだって良いのか、距離感を測っているようだ。
もちろん目の前に豪華な料理とビールが並んでいれば、早く食べたい飲みたいとなってしまうのは当然のこと。普通は乾杯をしてからヨーイドンとなるのだが、堪える時間が辛いことを熟知している主催者から乾杯の練習と称し、飲み物だけ口にすることが許される。グレートアースには欠かせない存在の白戸太朗さんと片岡由衣さんからのありがたーいお告げを聞いた途端に皆さん練習を開始する。
なんと緩い、いや柔軟な対応ができるイベントなのか。乾杯前の練習が許される光景を見るのは初めてだ。しかし、あくまで練習。上手に乾杯できるように何度も何度もグラスを開ける反復練習を行うのは仕方がないのである。ストイックに練習を重ねていくうちに口角が緩み、声量がどんどん大きくなってしまっても構わない。
そろそろ皆さん出来上がったかな?というタイミングでいよいよ正式に前夜祭が幕を開ける。白戸さんと片岡さん、平野さんの3人によるジョークを交えた快活なオープニングトークから徐々に会場のボルテージが上昇していき、ユキヤの登場で最高潮に達する。ユキヤの名前が呼ばれると会場は大歓声で包まれた。
白戸さんとの掛け合いのトークでは、クシャッとした笑顔など画面越しでは中々見ることのできない姿を見せてくれる。オフシーズンにしか日本に戻ってくる機会がないグランツールレーサーから、5kg増量したとか実家はすぐそことか、普段は絶対に聞くことのできないフランクな内容が次々に出てくるだけで、前夜祭に参加して良かったと思えるほど。次から次へとコンテンツが詰まっているため、ユキヤの挨拶は手短に終わり、ツール・ド・おきなわの創始者である森兵次さんや地元の酒蔵である請福の漢那憲二さんの挨拶、そして請福の酒樽鏡開きが行われ、いよいよ立食パーティーが始まる。
一緒に石垣島来た仲間や居合わせた初対面のサイクリストとの交流や、豪華なディナーを楽しんでいると、次々とイベントが始まるのがグレートアースの前夜祭だ。琉球音楽バンドによる生演奏や、11月が誕生月の参加者を祝福したり、ユキヤが各テーブルを回りフォトセッションを行ってくれたり。
ひっきりなしに動き続ける前夜祭に、会場となったホテルに宿泊していていたツール・ド・おきなわのチャンピオンレースで2位のカーズ・ヨルン・コース(ルーマニア、WTC de アムステル)とルーマニア・ナショナルコーチが急遽参加。石垣市長も沖縄本島での仕事終わりの足で駆けつけてくれたりと、休む間も無くゲストが登場し、前夜祭は盛り上がり続けていく。
主役はゲストから参加者へと戻り、10周年を迎えたこの大会に休むことなく10回も参加している2名のサイクリストと、今年開催の12大会全てに出走した方を表彰。コアな常連がつくということは、グレートアースが充実したライドイベントであることを表しているのではないだろうか。
石垣島大会から生まれたグレートアースも来年に11年目に突入するにあたり、運営組織に変化があることが発表された。来年からのグレートアースは、これまでエンジンとなり大会を牽引してきた坂口さんが前線を退き、アートディレクターだったカズさんが指揮を取ることに。そして高知大会を開催する予定だと明らかにした。
このようにスタッフのことを大々的に発表するイベントは中々あるものではないが、誰がイベントを開催しているのか顔をはっきりさせることで、大会参加者が安心できる部分もあるのかもしれない。グレートアースは参加者にライドの場を提供するだけではなく、参加者同士やスタッフが仲間となり一緒にイベントを楽しもうという雰囲気が伝わってくる。
片岡さんのご懐妊を祝うサプライズムービーなども上映され、いよいよ前夜祭は豪華景品がプレゼントされるジャンケン大会に移っていく。最も白熱したのはユキヤから提供されたツールのゼッケンだ。喉から手が出るほど自分のものにしたいプレゼントに会場中が大歓喜。ジャンケンの勝敗の行方で全員が一喜一憂したのはいうまでもないだろう。18時30分より開始された前夜祭もいつのまにかお開きの時間に。飲み足りない人は飲み直しに、翌日のライドに備える人は宿へと戻り、グレートアース1日目が終了するのであった。
大盛り上がりだった前夜祭から一夜明け、ついに石垣島を堪能し尽くすグレートアース本番がやってきた。日の出直後で薄暗い街中をスタート地点である舟蔵公園まで自転車を流していると、次々と参加者たちが追い越していく。皆、ウィンドブレーカーやタイツを履いた秋・冬装備を身にまとっている。そう、イベント本番当日の天気予報は雨時々曇で、肌寒いくらいの気温と風が吹いているのである。路面は所々湿っており夜中には雨が降っていた事実を嫌が応にも突きつけてくるが、幸いスタート時刻の1時間前は雨に降られていない。このまま天気が保てば良いのにと全員が思っていたことだろう。
スタートセレモニー前は方言が利いたラジオ体操を全員で行い、体と気持ちのウォーミングアップさせる。石垣市長とユキヤの挨拶、記念撮影を終えると、いよいよスタートの時を迎える。グレートアース石垣島では、舟蔵公園を飛び出し石垣島の最北端「平久保崎」を目指し、往路を引き返すピストン式ルートレイアウト。最大125kmというハードな距離だが、往路で辛くなったらいつでも進路を反転させて舟蔵公園に戻ることができる安心設計だ。
まずはスタート地点である舟蔵公園を喉元とする観音崎をグルッと周るように走る。大人の背丈ほどのサトウキビが育てられている畑や、琉球感溢れる石垣、褐色の瓦葺き屋根と白色の建物を眺めていると、南の島をサイクリングしているという実感が湧いてくる。ナビゲーターの白戸太郎さんとユキヤが一緒に走る豪華な先頭グループは、非常に小気味好いペースで巡航。この列車の種別は快速、気持ちの良いスピードで一路平久保崎を目指し突き進んでいく。
島の南北を西岸で繋ぐ県道79号線に入ると一気に車線が広くなる。片側1車線なのだが、ひとつの車線で大型バスと自転車が並走できるのではないかと思うほどだ。広いだけではなく、追い越す自動車も非常に気を遣ってくれるため、怖い思いをせずに走ることができる。路面も整えられており、自転車乗りにとっては走りやすいことこの上ない場所だ。
亜熱帯の植栽による防風林で守られたフラットロードを快速で飛ばし、名蔵アンパルという名蔵川河口にできた干潟とマングローブ林を越えると、これまでは雲からこぼれ落ちてきた僅かな水滴ぐらいの雨がしっかりと降り始めてしまった。防風林がなく道路のすぐ脇が海という眺望抜群のロケーションに出会えた感動もそこそこに、雨水がウィンドブレーカーの中に侵入してこないようジッパーをあげるのであった。
125km中約10kmで雨が本降りとなってしまったグレートアース石垣島。あいにくの雨模様だが、寒くなりすぎない気温と南国らしい光景は十分に楽しめている。雨足が強くならないことを祈りながら、ペダルを黙々と回し続ける参加者であった。ライドの後半は次回のレポートでお届けする。
text&photo:Gakuto.Fujiwara
冬将軍が日本本州に猛攻を加えている最中、私は石垣空港に降り立っていた。期待していたような熱帯らしい蒸し暑さは、雲からこぼれ落ちる雨粒によりかき消されていたが、身を切り裂くような鋭い寒さは無く、湿っぽく涼やかな風が体に当たる。アウターは必要なく、薄い長袖でちょうど良いぐらい。半袖でも過ごしやすく、本州では遠い過去のようになってしまった秋を感じられる気候が心地良い。
石垣空港から島の中心地である石垣港までは、バスかタクシー、レンタカーなど自動車で移動する。約16kmと自走可能な範囲内であるが、大荷物のため今回は乗合バスをチョイス。初めて訪れる地での不安と期待が綯い交ぜになったなんとも言えない気持ちで、車窓の向こう側で流れていく子供の背丈ほどのサトウキビ畑をボーッと眺め港に到着するのを待つ。
私が選んだバスでは沖縄らしさを感じられる民謡とポップミュージックが流れていた。三線の明るい一方でどこか儚げな音色で奏でられる「涙そうそう」にあてられてしまった私は、これから楽しいライドが待っているにも関わらず、1人旅の哀愁を感じざるをえず感傷に浸ってしまう。
ハワイやサイパンのように平屋建ての家屋がポツポツと現れる田舎を抜け、高層のホテルが建つ石垣港が近づいてくる。これまでの雰囲気は南の異国かと思うような光景が広がっていたが、ヴィレッジバンガードや西松屋といった店が目に入ると、ここが日本だと改めて実感する。
さて、石垣港に到着したらいよいよグレートアースが始まる。イベントの幕を切って落とすのは立食ビュッフェパーティー式の前夜祭。石垣、ひいては日本のヒーロー新城幸也が参加すると聞いてか、会場には前夜祭史上最高の144名が駆けつけた。午後18時半という丁度夕食どきに開始されるためか、皆お腹を空かせているのかソワソワしている。違う、そうじゃない。ツール・ド・フランスを走った選手が真横にいる状況。サインや記念写真をねだって良いのか、距離感を測っているようだ。
もちろん目の前に豪華な料理とビールが並んでいれば、早く食べたい飲みたいとなってしまうのは当然のこと。普通は乾杯をしてからヨーイドンとなるのだが、堪える時間が辛いことを熟知している主催者から乾杯の練習と称し、飲み物だけ口にすることが許される。グレートアースには欠かせない存在の白戸太朗さんと片岡由衣さんからのありがたーいお告げを聞いた途端に皆さん練習を開始する。
なんと緩い、いや柔軟な対応ができるイベントなのか。乾杯前の練習が許される光景を見るのは初めてだ。しかし、あくまで練習。上手に乾杯できるように何度も何度もグラスを開ける反復練習を行うのは仕方がないのである。ストイックに練習を重ねていくうちに口角が緩み、声量がどんどん大きくなってしまっても構わない。
そろそろ皆さん出来上がったかな?というタイミングでいよいよ正式に前夜祭が幕を開ける。白戸さんと片岡さん、平野さんの3人によるジョークを交えた快活なオープニングトークから徐々に会場のボルテージが上昇していき、ユキヤの登場で最高潮に達する。ユキヤの名前が呼ばれると会場は大歓声で包まれた。
白戸さんとの掛け合いのトークでは、クシャッとした笑顔など画面越しでは中々見ることのできない姿を見せてくれる。オフシーズンにしか日本に戻ってくる機会がないグランツールレーサーから、5kg増量したとか実家はすぐそことか、普段は絶対に聞くことのできないフランクな内容が次々に出てくるだけで、前夜祭に参加して良かったと思えるほど。次から次へとコンテンツが詰まっているため、ユキヤの挨拶は手短に終わり、ツール・ド・おきなわの創始者である森兵次さんや地元の酒蔵である請福の漢那憲二さんの挨拶、そして請福の酒樽鏡開きが行われ、いよいよ立食パーティーが始まる。
一緒に石垣島来た仲間や居合わせた初対面のサイクリストとの交流や、豪華なディナーを楽しんでいると、次々とイベントが始まるのがグレートアースの前夜祭だ。琉球音楽バンドによる生演奏や、11月が誕生月の参加者を祝福したり、ユキヤが各テーブルを回りフォトセッションを行ってくれたり。
ひっきりなしに動き続ける前夜祭に、会場となったホテルに宿泊していていたツール・ド・おきなわのチャンピオンレースで2位のカーズ・ヨルン・コース(ルーマニア、WTC de アムステル)とルーマニア・ナショナルコーチが急遽参加。石垣市長も沖縄本島での仕事終わりの足で駆けつけてくれたりと、休む間も無くゲストが登場し、前夜祭は盛り上がり続けていく。
主役はゲストから参加者へと戻り、10周年を迎えたこの大会に休むことなく10回も参加している2名のサイクリストと、今年開催の12大会全てに出走した方を表彰。コアな常連がつくということは、グレートアースが充実したライドイベントであることを表しているのではないだろうか。
石垣島大会から生まれたグレートアースも来年に11年目に突入するにあたり、運営組織に変化があることが発表された。来年からのグレートアースは、これまでエンジンとなり大会を牽引してきた坂口さんが前線を退き、アートディレクターだったカズさんが指揮を取ることに。そして高知大会を開催する予定だと明らかにした。
このようにスタッフのことを大々的に発表するイベントは中々あるものではないが、誰がイベントを開催しているのか顔をはっきりさせることで、大会参加者が安心できる部分もあるのかもしれない。グレートアースは参加者にライドの場を提供するだけではなく、参加者同士やスタッフが仲間となり一緒にイベントを楽しもうという雰囲気が伝わってくる。
片岡さんのご懐妊を祝うサプライズムービーなども上映され、いよいよ前夜祭は豪華景品がプレゼントされるジャンケン大会に移っていく。最も白熱したのはユキヤから提供されたツールのゼッケンだ。喉から手が出るほど自分のものにしたいプレゼントに会場中が大歓喜。ジャンケンの勝敗の行方で全員が一喜一憂したのはいうまでもないだろう。18時30分より開始された前夜祭もいつのまにかお開きの時間に。飲み足りない人は飲み直しに、翌日のライドに備える人は宿へと戻り、グレートアース1日目が終了するのであった。
大盛り上がりだった前夜祭から一夜明け、ついに石垣島を堪能し尽くすグレートアース本番がやってきた。日の出直後で薄暗い街中をスタート地点である舟蔵公園まで自転車を流していると、次々と参加者たちが追い越していく。皆、ウィンドブレーカーやタイツを履いた秋・冬装備を身にまとっている。そう、イベント本番当日の天気予報は雨時々曇で、肌寒いくらいの気温と風が吹いているのである。路面は所々湿っており夜中には雨が降っていた事実を嫌が応にも突きつけてくるが、幸いスタート時刻の1時間前は雨に降られていない。このまま天気が保てば良いのにと全員が思っていたことだろう。
スタートセレモニー前は方言が利いたラジオ体操を全員で行い、体と気持ちのウォーミングアップさせる。石垣市長とユキヤの挨拶、記念撮影を終えると、いよいよスタートの時を迎える。グレートアース石垣島では、舟蔵公園を飛び出し石垣島の最北端「平久保崎」を目指し、往路を引き返すピストン式ルートレイアウト。最大125kmというハードな距離だが、往路で辛くなったらいつでも進路を反転させて舟蔵公園に戻ることができる安心設計だ。
まずはスタート地点である舟蔵公園を喉元とする観音崎をグルッと周るように走る。大人の背丈ほどのサトウキビが育てられている畑や、琉球感溢れる石垣、褐色の瓦葺き屋根と白色の建物を眺めていると、南の島をサイクリングしているという実感が湧いてくる。ナビゲーターの白戸太郎さんとユキヤが一緒に走る豪華な先頭グループは、非常に小気味好いペースで巡航。この列車の種別は快速、気持ちの良いスピードで一路平久保崎を目指し突き進んでいく。
島の南北を西岸で繋ぐ県道79号線に入ると一気に車線が広くなる。片側1車線なのだが、ひとつの車線で大型バスと自転車が並走できるのではないかと思うほどだ。広いだけではなく、追い越す自動車も非常に気を遣ってくれるため、怖い思いをせずに走ることができる。路面も整えられており、自転車乗りにとっては走りやすいことこの上ない場所だ。
亜熱帯の植栽による防風林で守られたフラットロードを快速で飛ばし、名蔵アンパルという名蔵川河口にできた干潟とマングローブ林を越えると、これまでは雲からこぼれ落ちてきた僅かな水滴ぐらいの雨がしっかりと降り始めてしまった。防風林がなく道路のすぐ脇が海という眺望抜群のロケーションに出会えた感動もそこそこに、雨水がウィンドブレーカーの中に侵入してこないようジッパーをあげるのであった。
125km中約10kmで雨が本降りとなってしまったグレートアース石垣島。あいにくの雨模様だが、寒くなりすぎない気温と南国らしい光景は十分に楽しめている。雨足が強くならないことを祈りながら、ペダルを黙々と回し続ける参加者であった。ライドの後半は次回のレポートでお届けする。
text&photo:Gakuto.Fujiwara
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