2017/05/05(金) - 09:06
昨年、フランドルとルーベの市民レースを体験したフォトグラファーの宇賀神善之さんが、今年はアムステルゴールドツアーバージョンへと挑戦。思わぬトラブルに見舞われつつも、本場のライドを堪能したレポートをお届けします。
アムステルゴールドレースツアーバージョンに参加する宇賀神さん。写真はFROMBERGの下り (c)YOSHIYUKI UGAJIN
昨年、フランドルとルーベを体験した私は今年はアルデンヌにやってきた。アムステルゴールドレースツアーバージョン(AGRツアーバージョン)。緑に包まれたワロン地域の丘陵を颯爽と走り抜けるのは気持ちがいいに違いない。ところがセミクラシックを観戦するために訪れたルーベンでとんでもないことになってしまった。
無い。
ここはブラバンテピイルのパレードスタート地点、ルーベンのマルクト広場。平日にもかかわらず大勢のレースファンで賑わい4月とはいえ気温はまだまだ低いが広場は熱気があふれている。
無い。
私は辺りを見渡した。
目の前にクイックステップフロアーズのチームバス。ジルベールの写真が撮りたくて、自身のバイクをチームバス脇に有った街灯とベンチの間に駐輪した。ロックはコイル式の細ワイヤー。駐輪位置から反対側のバスのドア側でジルベールが出てくるのを待った。私と私のバイクの距離はすぐそこだが、バスに遮られ目視はできない。もちろん普段であれば目視できないところに駐輪はしない。日本でもコンビニに寄るのだって横目で外を確認しながらレジをすます。しかしながらこの時は完全に油断してしまっていた。町中が石造りで荘厳な雰囲気の中、マルクト広場には続々とチームバスがやってくる。全てが輝いて見え気分は高揚していた。
クイックステップに気を取られてしまった photo:YOSHIYUKI UGAJIN
ロンドを勝ったベルギーチャンピオンを間近で見たかった。スーパースターの登場を待った。チャンピオンはラジオのインタビューを済ますとスタートサインに向かった。写真を撮るにはちょうど駐輪した側に行くとちょうどいい。
無い。
私のバイクが無かった。ああここに停めたわけでは無いのだと思い直し、ファンに囲まれたジルベールの写真を撮った。改めて確認するとやはり私のバイクは無い。
信じたくなかったが本当に影も形もなかった。周りのバイクは何台もあったが私のバイクだけが忽然と消えていた。やられた!そう気がついた。辺りを隈なく探したがあるわけがない。警備に当たっていた警官に相談すると無線で何かやりとりしてくれたが、結局は警察署でリポートしなさいと道順を教えてくれた。
ファンに囲まれるジルベール photo:YOSHIYUKI UGAJIN
どうしようもない気持ちで、盗まれた場所のベンチに腰かけSNSに投稿した。「オレノバイクガヌスマレタ。」
アムステルゴールドレースのツアーバージョンは3日後。まさかの盗難でDNSかと脱力していると、 友人たちがいろいろコメントを寄せてくれる。そのほとんどは同情と哀れみと怒りだったが、一つポジティブなコメントがあった。「とにかくレンタルバイクを探して、ロードがなかったらホテルの貸し自転車で走るとか。リカバリの成功を祈ります!」コメントの主はクラシック取材を終え帰国に向かうCWの編集長、綾野さんだった。このユーモアのあるアドバイスが沈んだ気持ちを引っ張り上げてくれた。そうだここまで来て自分の失態で走れませんでしたは無い。どんな形でも走って楽しんで帰りたい。
すると今度は先日フランスで知り合ったばかりのオランダ在住の日本人の方からメッセージが届いた。「何かお困りでしたらご相談ください」と。そして「もしよろしければ私のロードバイクをお貸しいたしましょう」とあった。地獄に仏とはこのことか!私はこのお言葉に甘えさせていただいた。ほんの一時お会いしただけの私にこのような手を差し伸べてくれるなんて、自転車がつなぐ人の縁とは何と素晴らしいものか思い知った。本当にありがとうございます。
(こうしてレース前日にロードバイクを確保することができようやくAGRツアーバージョンの話に移ります。振りが長くてすいません。)
BHのバイクをお借りすることができました photo:YOSHIYUKI UGAJIN
残念なことに当日は雨。ところがスタート地点の朝食会場はこれから出走する人達で賑わっている。このレースの人気の程が伺える。イベントサイズは5000人以上ということだ。ロンドやパリルーベなどのライドイベント申し込みは普通11月に入ってからオープンするのだがこのイベントは違ってかなり早い10月の最終週にクローズされる。しかも申し込んでも抽選なので確実に参加出来るかは不確定。
参加希望者多数の公平性を優先してのことだろうが、日本から参加となると飛行機やホテルの手配もあり参加の可否が先送りになるのはいささか不都合だった。それならばと出走枠を保有するツアーを探したところイギリスの会社で「Sports Tours International」がヒット。プロレース観戦までの宿泊と空港までの送り迎えがセットなのもありがたい。日本語対応は全く無いが価格と内容に満足できたので申し込んだ。
マーストリヒトは観光向けのレンタサイクルが多い photo:YOSHIYUKI UGAJIN
未明に会場に向かう photo:YOSHIYUKI UGAJIN
スポーツツアーズのスタッフが1台ずつ丁寧に積載してくれる photo:YOSHIYUKI UGAJIN
雨の中準備を進める photo:YOSHIYUKI UGAJIN
そんな中親しくなったのは同じツアー参加のイギリス人のアレンさん、アメリカはテキサスからトムさん。「日本人のヨシだね。一緒に走ろう!」と声をかけてくれた。朝食会場を出ると雨がシトシト。そして早朝の朝は震えるほど寒い。そんな中、スタート地点に向け出発した。
そもそもゴール地点のVIPテントが朝食会場だったためスタート地点に行くまで逆走することになる。雨の中風景もよくわからず、急で長い坂を下っていくと、アレンさんがここがカウベルグだよと教えてくれた。おお!ここが!!と最後の最後に来るこの坂を楽しみにスタート地点を通過した。
朝食会場にて photo:YOSHIYUKI UGAJIN
ホテルのブレックファスト同様の食事 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
雨は降りやまない photo:YOSHIYUKI UGAJIN
スタート前にオランダ美人と記念撮影 (c)YOSHIYUKI UGAJIN
コースは、60km,100km,125km,150km,200km,240km,の6コースが設定されている。この6コースだが、アムステルゴールドレースならではの同じエリア内を大きく3周回する独特のコース設定により生まれるものだ。
各周回同じ道を走りながら、2周目は南に大きく3周目は南東に斜めに向かい、先ほど通過した道に合流しては、今度は交差しと非常に複雑なため、道と道をつないでいくらでもコースが生まれる。そして勝負の決め所となる名物登り坂のキモはしっかり押さえ済みだ。
続々とスタートに向かう photo:YOSHIYUKI UGAJIN
可愛らしい町を抜けて行く photo:YOSHIYUKI UGAJIN
走りやすいオランダの石畳 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
しかし複雑なコース設定は道を間違えやすい。もちろんわかりやすくコース別に色分けされた案内は出ているが、自分のコースを間違ってしまうとリカバリが難しいので注意が必要だ。
それにしても少々残念な天気だ。晴れていれば視界も良く、美しい緑に囲まれてのライドになろうが、辺りは濡れて黒く、路面はやや滑りやすい。道も小径という言葉があてはなるような細い道で、参加者が多いせいかこの小径に入る際ぐっと密集度が増し、最初のうちバラけるまでは、接触や落車に気をつけながら進んでいった。
登り入り口には坂の名前と距離、勾配の表示 (c)YOSHIYUKI UGAJIN
やけにキツイなと感じるとこの標識 (c)YOSHIYUKI UGAJIN
オランダといえば風車の風景 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
登っては下り、下っては登る (c)YOSHIYUKI UGAJIN
牧草地の中を登る (c)YOSHIYUKI UGAJIN
最初の森の道の坂を抜けると次は石畳の坂に入った。石畳と言ってもきちんと目の揃った走りやすい坂道でMAASBERGとある。雨に濡れる街並みがまた綺麗でバイクを降り写真を撮った。コースを確認すると150kmコースにMAASBERGは無い。
なんとしたことか早速コースを間違えてしまった。マーショルに尋ねると道を戻るのは危ないから、125kmか200kmのコースで進むように、もしかしたらどこかでリカバリできるかもしれないとのことだったが、南側を大きく回る150kmコースと交わるところはあまり無い。後で調べるとFROMBERGからKEUTENBERG(激坂!)に抜ける道があったのだが、この時は気づかなかった。
わかりやすい表示にもかかわらずコースミスをしてしまった photo:YOSHIYUKI UGAJIN
雨のため低体温になる人も photo:YOSHIYUKI UGAJIN
エイドの定番、バナナとワッフル (c)YOSHIYUKI UGAJIN
補給は無くなることはない photo:YOSHIYUKI UGAJIN
エイドは大混雑 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
シマノのメカニックサービスに列が並ぶ photo:YOSHIYUKI UGAJIN
私は、この複雑なコースを事前に試走する予定で早めにアルデンヌ入りしたのだが、盗難事件や貸していただけるバイクの引き取り、そして自転車店を探しツールや予備チューブの買い出し、そしてクリートまで変えなければならず、事前の予習が全くおろそかになってしまったことを悔やんだが自分の失敗なのでどうしようもない。
雨は止まず、なんとも寒い。そして気づくとアレン、トムともはぐれてしまった。普段ならジャージの色や文字で判別できるところだろうが、皆レインジャケットなので非常にわかりにくい。まあゴール地点で必ず会えるだろうとのんびり一人旅に気持ちを切り替えた。それにしても150kmをロストしたのは残念だ。しかしこの雨の中200kmは辛いだろうと120kmにコース変更。今度は間違いのないよう黄色の表示を目印に走って行った。
雲が空を多い太陽を隠してしまう。走り続けていないと寒い。 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
沿道のカフェで雨宿りするライダーも多くいた。 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
可愛い小さな応援団 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
緑の小径は丘を越え街と街を紡ぐ。絵本のように可愛らしい宅地を抜け、森に入る。小鳥の鳴き声が耳に心地よく、沿道の小さな応援に手を振って答える。登り、下り、くねり、を繰り返す。
1000のカーブと35の登りがキャッチフレーズのプロレースだが、実は一つ一つ登りはさほどキツくない。本当に楽しくクイクイ登っていけるのだ。もちろんこれが35本も続けばかなりのきつさになろうが、ツアーバージョンでは240kmコースでも半分の18本。私が選んだ125kmコースではわずか8本だ。道さえ間違わなければ150kmコースで12本楽しめたことを思えばかえすがえすもったいないことをした。
FROMBERGは距離的に長く、苦しく楽しい登りだ photo:YOSHIYUKI UGAJIN
FROMBERG頂上をクリアする (c)YOSHIYUKI UGAJIN
一人雨の中のパンク修理は寂しいところ。 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
それよりも大変なのは風だ。東西南北全ての方向に走るコースは追い風、向い風、横風の全てを浴びる。丘を駆け上がれば強くなり、下りの追い風は注意しないとどんどん加速してしまう。
印象に残った坂はFROMBERG。最大勾配は8パーセントと普通の坂だがダラダラと長い。皆修行僧のように下を向き長い列を作り一漕ぎ一漕ぎ進んでいく。標高は高くはないが何もない平原の丘なので少し登ると視界が広がる。そして下りはジェットコースター!ゆるいカーブが爽快だ!
最も有名なCAUBERG。最後の登りを楽しむ (c)YOSHIYUKI UGAJIN
全てのコースが最後に合流するカウベルグ前は大渋滞。 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
AGRといえばここカウベルグ!たまらず下りてしまう人も。 photo:YOSHIYUKI UGAJIN
100km近く走り、残り25km楽しもうと思った矢先、突然見覚えのある坂が現れた。カウべルグだ?あれっ?またしてもどこかで道間違えをしたようで100kmコースを走っていたようだ。なんとも最初から最後まで噛み合わないままの雨のアムステルゴールド。もうしょうがない。精一杯ゴール目指してペダルを踏見込んだ。
ゴール後は、アレンさんトムさんと無事合流。今朝食事をした場所はなんと巨大バールと化しており、暖かい食事と共にアムステルゴールドビールが飲み放題!私達はホテルまで送迎付きツアーのおかげで安心して飲食を楽しむことができる。トラブルはあったものの終わってしまえば嬉しさがこみ上げる。アムステルゴールドビールで乾杯だ、チアーズ!
ゴール直前。いろんな方にお世話になりました。ありがとうございました (c)YOSHIYUKI UGAJIN
いよいよフィニッシュ photo:YOSHIYUKI UGAJIN
メダルをゲット! photo:YOSHIYUKI UGAJIN
今回の旅は危機管理意識の低さが露呈。今までの「慣れ」もあり大切な荷物から目を離さないという海外旅行の基本の基を忘れてしまっていた。本当にどうかしていたとしか言いようがないが、それ以上に人の親切が身に染みた。オランダ在住の日本人Mさん夫妻には感謝してもしきれないほどの思いです。本当にありがとうございました。
ビッグパーティ会場さながら photo:YOSHIYUKI UGAJIN
何リットルのビールを用意してあるのか!? photo:YOSHIYUKI UGAJIN
飲んでも飲んでも誰か持ってくる photo:YOSHIYUKI UGAJIN
宇賀神善之さん photo:KAZUMASA SHINDOプロフィール
宇賀神善之(うがじんよしゆき)
出版広告制作会社の撮影部を経て現在はフリーランスフォトグラファー。
ロード、MTB、シクロクロスと一年中自転車遊びを楽しみ、写真を通じてサイクルスポーツの素晴らしさを伝えたいと意気込む。主な仕事に「月刊SPRIDE」(下野新聞社発行)。宇都宮ブリッツェンと共に栃木の全てのスポーツ選手を応援しています。
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昨年、フランドルとルーベを体験した私は今年はアルデンヌにやってきた。アムステルゴールドレースツアーバージョン(AGRツアーバージョン)。緑に包まれたワロン地域の丘陵を颯爽と走り抜けるのは気持ちがいいに違いない。ところがセミクラシックを観戦するために訪れたルーベンでとんでもないことになってしまった。
無い。
ここはブラバンテピイルのパレードスタート地点、ルーベンのマルクト広場。平日にもかかわらず大勢のレースファンで賑わい4月とはいえ気温はまだまだ低いが広場は熱気があふれている。
無い。
私は辺りを見渡した。
目の前にクイックステップフロアーズのチームバス。ジルベールの写真が撮りたくて、自身のバイクをチームバス脇に有った街灯とベンチの間に駐輪した。ロックはコイル式の細ワイヤー。駐輪位置から反対側のバスのドア側でジルベールが出てくるのを待った。私と私のバイクの距離はすぐそこだが、バスに遮られ目視はできない。もちろん普段であれば目視できないところに駐輪はしない。日本でもコンビニに寄るのだって横目で外を確認しながらレジをすます。しかしながらこの時は完全に油断してしまっていた。町中が石造りで荘厳な雰囲気の中、マルクト広場には続々とチームバスがやってくる。全てが輝いて見え気分は高揚していた。
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ロンドを勝ったベルギーチャンピオンを間近で見たかった。スーパースターの登場を待った。チャンピオンはラジオのインタビューを済ますとスタートサインに向かった。写真を撮るにはちょうど駐輪した側に行くとちょうどいい。
無い。
私のバイクが無かった。ああここに停めたわけでは無いのだと思い直し、ファンに囲まれたジルベールの写真を撮った。改めて確認するとやはり私のバイクは無い。
信じたくなかったが本当に影も形もなかった。周りのバイクは何台もあったが私のバイクだけが忽然と消えていた。やられた!そう気がついた。辺りを隈なく探したがあるわけがない。警備に当たっていた警官に相談すると無線で何かやりとりしてくれたが、結局は警察署でリポートしなさいと道順を教えてくれた。
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どうしようもない気持ちで、盗まれた場所のベンチに腰かけSNSに投稿した。「オレノバイクガヌスマレタ。」
アムステルゴールドレースのツアーバージョンは3日後。まさかの盗難でDNSかと脱力していると、 友人たちがいろいろコメントを寄せてくれる。そのほとんどは同情と哀れみと怒りだったが、一つポジティブなコメントがあった。「とにかくレンタルバイクを探して、ロードがなかったらホテルの貸し自転車で走るとか。リカバリの成功を祈ります!」コメントの主はクラシック取材を終え帰国に向かうCWの編集長、綾野さんだった。このユーモアのあるアドバイスが沈んだ気持ちを引っ張り上げてくれた。そうだここまで来て自分の失態で走れませんでしたは無い。どんな形でも走って楽しんで帰りたい。
すると今度は先日フランスで知り合ったばかりのオランダ在住の日本人の方からメッセージが届いた。「何かお困りでしたらご相談ください」と。そして「もしよろしければ私のロードバイクをお貸しいたしましょう」とあった。地獄に仏とはこのことか!私はこのお言葉に甘えさせていただいた。ほんの一時お会いしただけの私にこのような手を差し伸べてくれるなんて、自転車がつなぐ人の縁とは何と素晴らしいものか思い知った。本当にありがとうございます。
(こうしてレース前日にロードバイクを確保することができようやくAGRツアーバージョンの話に移ります。振りが長くてすいません。)
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残念なことに当日は雨。ところがスタート地点の朝食会場はこれから出走する人達で賑わっている。このレースの人気の程が伺える。イベントサイズは5000人以上ということだ。ロンドやパリルーベなどのライドイベント申し込みは普通11月に入ってからオープンするのだがこのイベントは違ってかなり早い10月の最終週にクローズされる。しかも申し込んでも抽選なので確実に参加出来るかは不確定。
参加希望者多数の公平性を優先してのことだろうが、日本から参加となると飛行機やホテルの手配もあり参加の可否が先送りになるのはいささか不都合だった。それならばと出走枠を保有するツアーを探したところイギリスの会社で「Sports Tours International」がヒット。プロレース観戦までの宿泊と空港までの送り迎えがセットなのもありがたい。日本語対応は全く無いが価格と内容に満足できたので申し込んだ。
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そんな中親しくなったのは同じツアー参加のイギリス人のアレンさん、アメリカはテキサスからトムさん。「日本人のヨシだね。一緒に走ろう!」と声をかけてくれた。朝食会場を出ると雨がシトシト。そして早朝の朝は震えるほど寒い。そんな中、スタート地点に向け出発した。
そもそもゴール地点のVIPテントが朝食会場だったためスタート地点に行くまで逆走することになる。雨の中風景もよくわからず、急で長い坂を下っていくと、アレンさんがここがカウベルグだよと教えてくれた。おお!ここが!!と最後の最後に来るこの坂を楽しみにスタート地点を通過した。
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コースは、60km,100km,125km,150km,200km,240km,の6コースが設定されている。この6コースだが、アムステルゴールドレースならではの同じエリア内を大きく3周回する独特のコース設定により生まれるものだ。
各周回同じ道を走りながら、2周目は南に大きく3周目は南東に斜めに向かい、先ほど通過した道に合流しては、今度は交差しと非常に複雑なため、道と道をつないでいくらでもコースが生まれる。そして勝負の決め所となる名物登り坂のキモはしっかり押さえ済みだ。
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最初の森の道の坂を抜けると次は石畳の坂に入った。石畳と言ってもきちんと目の揃った走りやすい坂道でMAASBERGとある。雨に濡れる街並みがまた綺麗でバイクを降り写真を撮った。コースを確認すると150kmコースにMAASBERGは無い。
なんとしたことか早速コースを間違えてしまった。マーショルに尋ねると道を戻るのは危ないから、125kmか200kmのコースで進むように、もしかしたらどこかでリカバリできるかもしれないとのことだったが、南側を大きく回る150kmコースと交わるところはあまり無い。後で調べるとFROMBERGからKEUTENBERG(激坂!)に抜ける道があったのだが、この時は気づかなかった。
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私は、この複雑なコースを事前に試走する予定で早めにアルデンヌ入りしたのだが、盗難事件や貸していただけるバイクの引き取り、そして自転車店を探しツールや予備チューブの買い出し、そしてクリートまで変えなければならず、事前の予習が全くおろそかになってしまったことを悔やんだが自分の失敗なのでどうしようもない。
雨は止まず、なんとも寒い。そして気づくとアレン、トムともはぐれてしまった。普段ならジャージの色や文字で判別できるところだろうが、皆レインジャケットなので非常にわかりにくい。まあゴール地点で必ず会えるだろうとのんびり一人旅に気持ちを切り替えた。それにしても150kmをロストしたのは残念だ。しかしこの雨の中200kmは辛いだろうと120kmにコース変更。今度は間違いのないよう黄色の表示を目印に走って行った。
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緑の小径は丘を越え街と街を紡ぐ。絵本のように可愛らしい宅地を抜け、森に入る。小鳥の鳴き声が耳に心地よく、沿道の小さな応援に手を振って答える。登り、下り、くねり、を繰り返す。
1000のカーブと35の登りがキャッチフレーズのプロレースだが、実は一つ一つ登りはさほどキツくない。本当に楽しくクイクイ登っていけるのだ。もちろんこれが35本も続けばかなりのきつさになろうが、ツアーバージョンでは240kmコースでも半分の18本。私が選んだ125kmコースではわずか8本だ。道さえ間違わなければ150kmコースで12本楽しめたことを思えばかえすがえすもったいないことをした。
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それよりも大変なのは風だ。東西南北全ての方向に走るコースは追い風、向い風、横風の全てを浴びる。丘を駆け上がれば強くなり、下りの追い風は注意しないとどんどん加速してしまう。
印象に残った坂はFROMBERG。最大勾配は8パーセントと普通の坂だがダラダラと長い。皆修行僧のように下を向き長い列を作り一漕ぎ一漕ぎ進んでいく。標高は高くはないが何もない平原の丘なので少し登ると視界が広がる。そして下りはジェットコースター!ゆるいカーブが爽快だ!
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

100km近く走り、残り25km楽しもうと思った矢先、突然見覚えのある坂が現れた。カウべルグだ?あれっ?またしてもどこかで道間違えをしたようで100kmコースを走っていたようだ。なんとも最初から最後まで噛み合わないままの雨のアムステルゴールド。もうしょうがない。精一杯ゴール目指してペダルを踏見込んだ。
ゴール後は、アレンさんトムさんと無事合流。今朝食事をした場所はなんと巨大バールと化しており、暖かい食事と共にアムステルゴールドビールが飲み放題!私達はホテルまで送迎付きツアーのおかげで安心して飲食を楽しむことができる。トラブルはあったものの終わってしまえば嬉しさがこみ上げる。アムステルゴールドビールで乾杯だ、チアーズ!



今回の旅は危機管理意識の低さが露呈。今までの「慣れ」もあり大切な荷物から目を離さないという海外旅行の基本の基を忘れてしまっていた。本当にどうかしていたとしか言いようがないが、それ以上に人の親切が身に染みた。オランダ在住の日本人Mさん夫妻には感謝してもしきれないほどの思いです。本当にありがとうございました。


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宇賀神善之(うがじんよしゆき)
出版広告制作会社の撮影部を経て現在はフリーランスフォトグラファー。
ロード、MTB、シクロクロスと一年中自転車遊びを楽しみ、写真を通じてサイクルスポーツの素晴らしさを伝えたいと意気込む。主な仕事に「月刊SPRIDE」(下野新聞社発行)。宇都宮ブリッツェンと共に栃木の全てのスポーツ選手を応援しています。
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