ショップ主催のライドとはどういうものか、仙台に店舗を構える「ベルエキップ」のライドに参加した、目黒誠子さん。その目的、安全対策、当日気をつけたところと反省点や今後の展望、そして参加者の声を取材した中で気づいた、ショップライドの重要性と必要性とは?
この企画は昨年秋、ベルエキップへ遊びに行った際、オーナーの遠藤さんに、「ビギナーでも参加しやすい、おしゃれでおいしいコーヒーライドをやりましょうよ~♪オーストラリアのアデレードでは、ビギナー向けとベテラン向けのバイクショップが主催で毎週土曜日の朝やっていて、ライド後はみんなでカフェに行って、すっごくたのしいんです!」と軽~い気分でしたお話が、あれよあれよと具体的になり、春先にはあっという間に決まっていきました。
スタート前、ベルエキップ前にて。ちなみにベルエキップはフランス語で「美しいチーム」という意味です photo:Seiko.Meguro
経験に裏打ちされたライド&サポートスキル
元々ベルエキップでは、なんと仙台にオープンしてから16年もの間、毎週欠かさず(悪天候時以外)、朝練という名のライドを行っていたそう。土曜日は「激初心者練」(9時スタート)で、「乗り始めの方に安全に乗ってほしい」との願いから「自転車乗り降り、ビンディングの脱着、ブレーキ操作、ギア操作」等の練習会が開かれ、日曜日は「初心者練」(8時スタート)として20名~40名の朝練が行われていました。
日曜日の「初心者練」は、経験、体力レベルごとに分けて行われています。(ビギナーは短めのコース設定)。今回のライドの成功には、この長年にわたる経験とスキルの賜物だということが後でわかりました。
リーダーを集めてコースの説明、注意事項が再周知 photo:Seiko.Meguro
さぁ今日も安全に楽しみましょう~ photo:Seiko.Meguro
桜満開のライド
さぁライドに出発です!泉パークタウン photo:Seiko.Meguroライドが行われたのは桜が満開の4月のある日曜日。予想最高気温は15度でしたが、実際の最高気温は25.5度に!朝からさわやかな青空が広がり、絶好のライド日和。集合場所は仙台市泉区の「ベルエキップ」。7時半受付開始、7時50分集合。のはずなのですが、7時半にベルエキップ前の駐車場につくと、早くも自転車でUPする姿が。みんな早い~~!そしてたのしそう。ワクワク。
私もさっそく車から自転車を降ろし、準備に取り掛かります。この日の1週間前より、6名のリーダー&スタッフに向け、大まかなコースや信号の有無、坂の勾配
桜が満開!きれい~!すぐ立ち止まれるのも自転車の魅力 photo:Seiko.Meguro度、カーブがあるところ、コンビニ&お手洗い情報などの注意点が周知されていました。開催日2日前には遠藤さんご夫妻で、コースを最終的に下見。
天気予報と開催の有無、そしてなんと、「アスファルトの破片が散らばっていた」「道路が濡れていた」など細かな点まで事前に情報が送られました。このような情報があると、心の準備ができます。当日スタート前、参加者全員に最終的に周知され、初級と中級2つのレベル、5つのグループに分かれ、30名のライダーは時間差でしゅっぱ~つ!
このライドが目指す7つの目的
仙台市民に愛される泉ヶ岳です photo:Seiko.Meguro最初に、遠藤さんと私とで考えた今回のライドの目的をご紹介。
1:ゆるくたのしむ!
2:乗る機会を増やす
3:サイクリスト同士、横のつながりをつくる
4:実際に走ることにより交通ルールを体で覚える
5:集団走行に慣れる
6:地元のお店(カフェやレストラン等)に、自転車の特性を知ってもらう。理解してもらう。
7:よくあるサイクリングイベントの半分くらいの距離で、イベントを圧縮したような感じにし、早送りで体験してもらう
約50km、獲得標高800~900mのライドへ
雪が残る泉ヶ岳を見ながら photo:Seiko.Meguro
よくあるサイクリングイベントの半分くらいの距離として設定されたコースは約50km、獲得標高800~900m。少し長くてきつそうかなぁとも感じましたが、走ってみなければわかりません。ベルエキップを出たら、仙台のベッドタウン「泉パークタウン」南を通り、宇都宮ブリッツェン増田成幸選手が練習していた「泉ヶ岳」方面に向かって登り、「七北田(ななきた)ダム」の横を通っても登ります。
アップダウンの繰り返し!ヘアピンの長いダウンヒルのあとは2つに分かれる道を「定義山(じょうげさん)」として親しまれる浄土宗の寺院「西方寺」方面には向かわず、全国に2つしかないマルチプルアーチダムの「大倉ダム」へ。大倉ダムの横を通過後、ここでまた山を越えたと思ったらのどかな里山へ。下って赤坂団地のおしゃれな住宅地を抜け、目的地は素敵なログハウスカフェ「プラムライン」です。コースはGoogle、STRAVAでも見られるよう、遠藤さんが作成、ブログでも告知がされていました。以下がそれぞれのリンクです。
https://www.strava.com/routes/7261403
https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1mt4LqQCTk050GSJXPLj_80ctMQ0&l…
事前注意事項の周知
時々注意が必要なところではリーダーから説明が photo:Seiko.Meguro事前に周知された注意事項は以下の8つ。交通ルールに関する注意喚起から、危険個所の周知まで必要な事項となりました。
1:信号は黄色になりそうなら止まります。
2:一旦停止の箇所では必ず止まりましょう。
3:初級は無理せず、休憩しながら走りましょう。
4:下りはヘアピンが連続するところがあります。車間を離しましょう。曲がっている最中のブレーキは危険です。コーナー手前の直線で減速するようにしましょう。
5:お手洗いは、大倉ダムを下りきったところ、22km付近にあります。
「のぼった~!」とのぼったところでいったん休憩 photo:Seiko.Meguro6:大倉ダムの下りから左方向、赤坂方面に折れるカーブは急です。注意しましょう。
7:プラムラインを出てからほどなく、38km地点には激坂があります。坂の頂上に信号があります。ビンディングに慣れてない方は立ちゴケに注意しましょう。
8:国道457に出てからは下りですが交通量が多いので注意しましょう。
このような注意事項が事前に知らされると、ビギナーベテラン問わず安心しますね。また、コースを知り尽くした地元バイクショップならではの配慮です。
ベテランライダーと車がつく充実のサポート体制
サポートバイクに乗った遠藤さん photo:Seiko.Meguro
奥様の圭子さん。16年の朝練で「早起きが苦じゃなくなった~」と!素晴らしい! photo:Seiko.Meguro
桜本恵津子さん(右)が一緒に走ってくれました photo:Seiko.Meguro
サポートには、ベルエキップ常連のベテランサイクリスト4名と、遠藤さんが乗るオートバイ、奥様の圭子さんによるサポートカーがつきました。私が走った初心者グループには、マウンテンバイクとロードバイクの元選手で新城幸也選手らと一緒にタイで合宿経験もある、桜本恵津子さんがご一緒!現在は3児のママでもあり、スコーン専門店をされているそう。( スコーン専門店Ema)
なんてぜいたくなライド。恵津子さんの先導を受けて、冬の間月一程度しか乗れていなかった私は、縮こまって鈍くなった体を実感していました。さっそく遅れを取ることに。恵津子さんも「実は乗るのは一年ぶり!今日久しぶりに自転車を出して、タイヤ前後を全取っ替えしてもらって~!」と明るい笑顔でゆっくり伴走してくれました。
そうそう、最初から飛ばしてしまうと後が大変なのです。完走は最低目標!久しぶりに乗るときは、最初体が慣れてくるまでキツイと感じますが、乗り始めて体もあたたまると、楽になるのですよね。自分のペースを守っての走行が大事です。
万が一の体調不良やケガにはどうすれば?
この日は桜が満開。気温も結局20度以上まで上がることに。とは言え初春の三寒四温。朝晩はまだ寒いし冬の体感に慣れているため、私も思わず冬用のウエアで向かってしまいました。乗り始めてすぐに、「これでは暑かった」ということに気がつきます。コマめに水分を取り、無理をせず、ゆっくりペースで走りました。
桜を見ながらのライドは最高です photo:Seiko.Meguro
きれいすぎて思わず立ち止まりたくなる大倉ダム photo:Seiko.Meguro
日本に二か所しかないマルチアーチプルダム photo:Seiko.Meguro
桜が満開の七北田川とまだ雪が残る美しい泉ヶ岳を仰ぎながら、上り下りを繰り返します。途中のゆるい上りで、先に行ったグループが止まっています。一人、倒れている方が。一瞬ドキっとしましたが、体調不良となってしまったそう。参加者の中にお医者さまがいらしたためその方と、バイクに乗った遠藤さんもすぐに駆けつけました。ですが、しばらく横になったあと回復され、ご本人の判断で帰宅されたとのこと。
当日、このようなことも考えられます。「無理をしない」ということも大切なポイント。大事に至らず、よかった~。この今回のライドでは、万が一に備えて参加者のための保険に入っており、スタート前には「事故や怪我等自己責任となる」署名も全員にしてもらっていました。圭子さんのサポートカーには、救急箱(消毒液、傷貼りパット、ガーゼ絆創膏など)のほか、ミネラルウォーター、OS1(経口補水液)、サボナマッスルオイル(筋肉のダメージを速やかに回復するためのオイル)が搭載されていました。
スタッフによるメカニカルサポート
パンク直しもチームワークで photo:Seiko.Meguro少し進むとまた止まっているグループが。チューブが見えるので、パンクした模様。ショップでは、パンク修理の指導も行われますが、実際にやってみないとなかなか勝手がわかりません。実践と慣れは大事。このようなライドではストアスタッフもサポートについているので、横でアドバイスしながらチームワークで和気あいあい、パパっと直していました。
地元カフェ「プラムライン」とのコラボ
ヘアピンのダウンヒルの後、鮮やかな青色の大倉ダムを抜けます。下ったと思ったらまた上り。さすがグランツールをはじめヨーロッパで経験のある遠藤さん選定の、「どうやって見つけるの~??」というマニアックな山道で、走りがいがあります。緑が深くマイナスイオンたっぷり。山道を抜けたらのどかな里山が広がります。
目的地「プラムライン」に続々と到着! photo:Seiko.Meguro
おしゃれなお家が立ち並ぶ住宅地を抜けて、目指すはログハウスカフェ「プラムライン」。プラムラインの佐川貴子さんは、遠藤さんご夫妻と同じ町内会。なにげなく話すうちに、佐川さんが実は隠れ自転車ファンだということがわかり、今回のコラボ企画となりました。プラムラインは素敵なログハウスカフェ。カフェでふつうにご飯をいただくのかと思いきや、裏庭に通され広がっていたのは、目がハートになるようなおしゃれでハイセンスなドリンクとフードの数々……!
ドリンクの種類も豊富で、フルーツとハーブのデトックスウォーターにレモン麦茶、アイス甘酒といった変わり種から、オレンジティとアイスコーヒーも用意されていました。フードはもっとバラエティ豊かで、メインとなるものでも生ハムのお寿司の柚子こしょう塗り、つぼみ菜の和えものやお野菜パンケーキのチキンのせ、そしてサイクリスト定番(?)のあんぱん。スイーツもいちごジャムパンケーキ、クレープチョコバナナ、クレープいちご、あんコーヒーゼリー、ショコラケーキ、バニラアイス、フルーツ盛り合わせ(オレンジ&グレープ with ミント)と、これでもか!と言わんばかりのラインアップ。
「ひゃ~?」気持ちが上がるフードの数々 photo:Seiko.Meguro
大人気「生ハムお寿司柚子胡椒のせ」 photo:Seiko.Meguro
みんな大喜びで素敵な笑顔~! photo:Seiko.Meguro
目にも鮮やかなデトックスウォーター。作り方を聞いているライダーも photo:Seiko.Meguro
プラムラインの佐川さん(左)とベルエキップ遠藤さん(中央) photo:Seiko.Meguro
これらのメニューはすべて佐川さんが考案し、すべて手作り。サイクリストが食べやすいよう、ひとつひとつをできるだけ小さく、そして数を多めにし、たくさんのメニューをたのしんでもらいたい、という思いが込められていました。炭水化物、糖分、アミノ酸、クエン酸、ビタミンCなど、サイクリングに必要で、女性にはうれしい美肌のための栄養素も網羅。これはうれしい~!出されたすべてが好評でしたが特に大好評だったのは、ご飯ものと塩分が体に染みる「生ハムのお寿司」、絶妙なコラボが見事にマッチ「あんコーヒーゼリー」、良質なアミノ酸が取れる「甘酒」。
ドリンク、フードとともに、「あっ!」という間にすべてがなくなってしまいました。佐川さんは、「自宅前をサイクリストがたびたび通り、かっこいいなぁ~!」と思っていたそうで、今回は夢の実現企画となったそうです。目にもたのしく食べてもおいしいバラエティ豊かなフードのおかげで、これまでの山越え谷越えダム越えてのきつさも、すっかり忘れてしまいました!モチベーションが上がる要素は不可欠ですね。
クリートによるキズ防止
クリートで傷がつかないようにビニールシートが。自転車の特性を知りお互いが気持ちよく。 photo:Seiko.Meguro
ログハウスカフェ「プラムライン」 photo:Seiko.Meguro
プラムラインはログハウス。ビンディングシューズのクリートによる傷はできるだけ避けたいもの。サイクリストもそれがわかっています。お手洗い前の入口にはビニールシートが敷かれ、シューズを脱いでスリッパに履き替えます。お互いに気持ちよく過ごすためのやさしい配慮がされていました。
危険な箇所は事前に周知
プラムラインを後にし、残すは坂ひとつ。ここがけっこうな難関で、勾配約12度。交通量もけっこう多いのですが、なんと頂上に信号があり、油断をすると、ビンディングをつけたまま立ちゴケしてしまう可能性あり。それも事前に周知されていたので、心の準備をしながら無事登ることができました。最後の坂も冬明けにはけっこうきつかったけれど、さぁあとは下るだけです。
さぁあとはベルエキップへ帰ります photo:Seiko.Meguro
補給のあとは帰り道の注意箇所を最終的に周知 photo:Seiko.Meguro
自転車が会話のきっかけに
平坦平和なベルエキップまでの帰り道、自転車に荷物をたくさんかかげ、少し変わった風貌の外国人とすれ違いました。恵津子さんと顔を見合わせ「え??あの人、これからどこに行くんだろう??」ムクムクと私の好奇心が湧き上がってきました。元選手の本領発揮!恵津子さんが俊足で追いかけてくれました。速い速い……さすが元選手……。
偶然会った、アンディさん。これから湧き水を汲みに! photo:Seiko.Meguro追いついて止めてくれ、話を伺うことができました。名前はAndyy Waddington(アンディ・ワディントン)さん。イギリス人で仙台市在住の英語の先生で、これから泉ヶ岳スプリングバレー近くに、「湧水を汲みにいく」とのこと。泉ヶ岳スプリングバレーって、ここから30kmくらいあります。しかも山。ロードバイクの軽装備で上がってもきつかったのに、この重装備で山を登るなんて……、すごいです!アンディさんの夢は、自転車で北海道からシベリアを通って、母国イギリスまで行くことだそう!応援しています!自転車がきっかけで、今日も会話が広がりました。
納車後はじめてのロングライド
ロードバイクではじめてのロングライド。「たのしかったのでまたやってほしい」と阿部さん photo:Seiko.Meguroこんなことをしていたので、ベルエキップ到着は最終走者となってしまいました。恵津子さんが一緒に走ってくれたのでたのしく安心して走ることができました。ほとんどの方が帰られたあとだったのですが、「ついひと月前に自転車を買ったばかり!」という阿部さんにお話を伺うことができました。
地元仙台でIT系の会社にお勤めの阿部さん。今回は後輩2名と参加。小さい頃は野球をしていて、2年前からハーフマラソンなど参加するように。会社には自転車部もあって興味があり、先に自転車を始めていた後輩からも「たのしいですよ~。やりましょうよ~」と声をかけられ、「よし!やってみよう!」とベルエキップへ。
値段とデザインとで決めたのが、105を採用するメリダのカーボンバイク。3月12日に納車してから、自宅の近くでビンディングの練習を兼ねて2回ほど乗ってみたそうで、今回が3回目のライドで記念すべき初長距離ライドだそう!「下りはけっこうみなさんスピードが出ていて、少し焦ったけど、たのしかった!」と満面の笑顔でした。「ひとりで走っているとわからないこともあるし不安もあります。こういうライドの機会があると、いいですね。また参加したい!」とのことでした。6月には「ツール・ド・さくらんぼ」120kmへエントリー。「10月には宮城県丸森町で行われる『サイクルフェスタ丸森』のロングコースも走りたいので、山をたくさん走り込みたい。どんどん乗りたい。」とおっしゃっていました。
反省点と今後の対策、メリット
今回のライドは30名による小規模なライドでしたが、反省点と今後の対策、そしてライドをこれからも続けるメリットについて、遠藤さんとまとめてみました。
・慣れないコースでは、体調不良やケガ、万が一の備えとして保険加入は必須。当日、スタート前に署名をいただくこと。
・初春なのに気温が急に上がり暑くなったが、気温については十分な考慮をしていなかった。ミネラルウォーターの数の確認、小まめに水分補給することを促す。
・サポートカーもいいが、バイクは機動的でとても有効。大きなイベントではバイクを増やすといいことがわかった。
・警察にコースマップを提出すると良い。今後のつながりやつなぎにもなり、礼儀正しくマナーがよいライダーが増えれば、車、自転車、歩行者共存による交通安全文化の醸成につながる。警察も行政も地元も理解を示してくれるようになる。
・地元カフェやレストランとコラボすることにより、サイクリングが「自分ごと」となりお互いの理解が深まる。
・「見せ方」は重要。目にもたのしくおいしい補給があることによって、サイクリングのモチベーションアップ、客層が広がり、新規客層の開拓にもつながる。
・ショップがライドを行えば、ショップを訪れていただく機会も増えるしスタッフとのコミニュケーションも深まる。
・ライド参加者の横のつながりができ、個々でライドを楽しむようになる。
たのしむ姿はまわりに飛び火します。たのしいライドとなりました! photo:Seiko.Meguro
ショップライドの重要性とこれから
今回日本ではじめてショップが主催のライドに参加しましたが、今回のように、地元のバイクショップが小さなライドを数多く、そしてマナーを守って行うことに大きな意味があると思いました。自転車は、言わずもがな、私たちにとって一番身近な交通手段。身近であるからこそ、自転車に乗る姿は、小さな子供から大人まで見ています。
ひとりひとりが正しく、そして楽しく乗る姿が飛び火することで、地元や警察、行政の理解が深まるきっかけとなり、大きく見れば日本の今後の自転車業界や「豊かなまちづくり」の鍵までにぎるものではないかと思いました。と最後は少し難しくなりましたが、単純にたのしかったのでまた参加したいです!
目黒 誠子(めぐろせいこ) 筆者プロフィール 目黒 誠子(めぐろせいこ)
ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、自転車とまちづくり・インフラ・環境・スポーツの側面から、企業や行政、レースオーガナイザーとのプロジェクトを手掛けている。クリーン工房アドバイザー、宮城インバウンドDMOアドバイザー。 https://global-wifi.com/go-beyonder/067.html
この企画は昨年秋、ベルエキップへ遊びに行った際、オーナーの遠藤さんに、「ビギナーでも参加しやすい、おしゃれでおいしいコーヒーライドをやりましょうよ~♪オーストラリアのアデレードでは、ビギナー向けとベテラン向けのバイクショップが主催で毎週土曜日の朝やっていて、ライド後はみんなでカフェに行って、すっごくたのしいんです!」と軽~い気分でしたお話が、あれよあれよと具体的になり、春先にはあっという間に決まっていきました。

経験に裏打ちされたライド&サポートスキル
元々ベルエキップでは、なんと仙台にオープンしてから16年もの間、毎週欠かさず(悪天候時以外)、朝練という名のライドを行っていたそう。土曜日は「激初心者練」(9時スタート)で、「乗り始めの方に安全に乗ってほしい」との願いから「自転車乗り降り、ビンディングの脱着、ブレーキ操作、ギア操作」等の練習会が開かれ、日曜日は「初心者練」(8時スタート)として20名~40名の朝練が行われていました。
日曜日の「初心者練」は、経験、体力レベルごとに分けて行われています。(ビギナーは短めのコース設定)。今回のライドの成功には、この長年にわたる経験とスキルの賜物だということが後でわかりました。


桜満開のライド

私もさっそく車から自転車を降ろし、準備に取り掛かります。この日の1週間前より、6名のリーダー&スタッフに向け、大まかなコースや信号の有無、坂の勾配

天気予報と開催の有無、そしてなんと、「アスファルトの破片が散らばっていた」「道路が濡れていた」など細かな点まで事前に情報が送られました。このような情報があると、心の準備ができます。当日スタート前、参加者全員に最終的に周知され、初級と中級2つのレベル、5つのグループに分かれ、30名のライダーは時間差でしゅっぱ~つ!
このライドが目指す7つの目的

1:ゆるくたのしむ!
2:乗る機会を増やす
3:サイクリスト同士、横のつながりをつくる
4:実際に走ることにより交通ルールを体で覚える
5:集団走行に慣れる
6:地元のお店(カフェやレストラン等)に、自転車の特性を知ってもらう。理解してもらう。
7:よくあるサイクリングイベントの半分くらいの距離で、イベントを圧縮したような感じにし、早送りで体験してもらう
約50km、獲得標高800~900mのライドへ

よくあるサイクリングイベントの半分くらいの距離として設定されたコースは約50km、獲得標高800~900m。少し長くてきつそうかなぁとも感じましたが、走ってみなければわかりません。ベルエキップを出たら、仙台のベッドタウン「泉パークタウン」南を通り、宇都宮ブリッツェン増田成幸選手が練習していた「泉ヶ岳」方面に向かって登り、「七北田(ななきた)ダム」の横を通っても登ります。
アップダウンの繰り返し!ヘアピンの長いダウンヒルのあとは2つに分かれる道を「定義山(じょうげさん)」として親しまれる浄土宗の寺院「西方寺」方面には向かわず、全国に2つしかないマルチプルアーチダムの「大倉ダム」へ。大倉ダムの横を通過後、ここでまた山を越えたと思ったらのどかな里山へ。下って赤坂団地のおしゃれな住宅地を抜け、目的地は素敵なログハウスカフェ「プラムライン」です。コースはGoogle、STRAVAでも見られるよう、遠藤さんが作成、ブログでも告知がされていました。以下がそれぞれのリンクです。
https://www.strava.com/routes/7261403
https://www.google.com/maps/d/viewer?mid=1mt4LqQCTk050GSJXPLj_80ctMQ0&l…
事前注意事項の周知

1:信号は黄色になりそうなら止まります。
2:一旦停止の箇所では必ず止まりましょう。
3:初級は無理せず、休憩しながら走りましょう。
4:下りはヘアピンが連続するところがあります。車間を離しましょう。曲がっている最中のブレーキは危険です。コーナー手前の直線で減速するようにしましょう。
5:お手洗いは、大倉ダムを下りきったところ、22km付近にあります。

7:プラムラインを出てからほどなく、38km地点には激坂があります。坂の頂上に信号があります。ビンディングに慣れてない方は立ちゴケに注意しましょう。
8:国道457に出てからは下りですが交通量が多いので注意しましょう。
このような注意事項が事前に知らされると、ビギナーベテラン問わず安心しますね。また、コースを知り尽くした地元バイクショップならではの配慮です。
ベテランライダーと車がつく充実のサポート体制



サポートには、ベルエキップ常連のベテランサイクリスト4名と、遠藤さんが乗るオートバイ、奥様の圭子さんによるサポートカーがつきました。私が走った初心者グループには、マウンテンバイクとロードバイクの元選手で新城幸也選手らと一緒にタイで合宿経験もある、桜本恵津子さんがご一緒!現在は3児のママでもあり、スコーン専門店をされているそう。( スコーン専門店Ema)
なんてぜいたくなライド。恵津子さんの先導を受けて、冬の間月一程度しか乗れていなかった私は、縮こまって鈍くなった体を実感していました。さっそく遅れを取ることに。恵津子さんも「実は乗るのは一年ぶり!今日久しぶりに自転車を出して、タイヤ前後を全取っ替えしてもらって~!」と明るい笑顔でゆっくり伴走してくれました。
そうそう、最初から飛ばしてしまうと後が大変なのです。完走は最低目標!久しぶりに乗るときは、最初体が慣れてくるまでキツイと感じますが、乗り始めて体もあたたまると、楽になるのですよね。自分のペースを守っての走行が大事です。
万が一の体調不良やケガにはどうすれば?
この日は桜が満開。気温も結局20度以上まで上がることに。とは言え初春の三寒四温。朝晩はまだ寒いし冬の体感に慣れているため、私も思わず冬用のウエアで向かってしまいました。乗り始めてすぐに、「これでは暑かった」ということに気がつきます。コマめに水分を取り、無理をせず、ゆっくりペースで走りました。



桜が満開の七北田川とまだ雪が残る美しい泉ヶ岳を仰ぎながら、上り下りを繰り返します。途中のゆるい上りで、先に行ったグループが止まっています。一人、倒れている方が。一瞬ドキっとしましたが、体調不良となってしまったそう。参加者の中にお医者さまがいらしたためその方と、バイクに乗った遠藤さんもすぐに駆けつけました。ですが、しばらく横になったあと回復され、ご本人の判断で帰宅されたとのこと。
当日、このようなことも考えられます。「無理をしない」ということも大切なポイント。大事に至らず、よかった~。この今回のライドでは、万が一に備えて参加者のための保険に入っており、スタート前には「事故や怪我等自己責任となる」署名も全員にしてもらっていました。圭子さんのサポートカーには、救急箱(消毒液、傷貼りパット、ガーゼ絆創膏など)のほか、ミネラルウォーター、OS1(経口補水液)、サボナマッスルオイル(筋肉のダメージを速やかに回復するためのオイル)が搭載されていました。
スタッフによるメカニカルサポート

地元カフェ「プラムライン」とのコラボ
ヘアピンのダウンヒルの後、鮮やかな青色の大倉ダムを抜けます。下ったと思ったらまた上り。さすがグランツールをはじめヨーロッパで経験のある遠藤さん選定の、「どうやって見つけるの~??」というマニアックな山道で、走りがいがあります。緑が深くマイナスイオンたっぷり。山道を抜けたらのどかな里山が広がります。

おしゃれなお家が立ち並ぶ住宅地を抜けて、目指すはログハウスカフェ「プラムライン」。プラムラインの佐川貴子さんは、遠藤さんご夫妻と同じ町内会。なにげなく話すうちに、佐川さんが実は隠れ自転車ファンだということがわかり、今回のコラボ企画となりました。プラムラインは素敵なログハウスカフェ。カフェでふつうにご飯をいただくのかと思いきや、裏庭に通され広がっていたのは、目がハートになるようなおしゃれでハイセンスなドリンクとフードの数々……!
ドリンクの種類も豊富で、フルーツとハーブのデトックスウォーターにレモン麦茶、アイス甘酒といった変わり種から、オレンジティとアイスコーヒーも用意されていました。フードはもっとバラエティ豊かで、メインとなるものでも生ハムのお寿司の柚子こしょう塗り、つぼみ菜の和えものやお野菜パンケーキのチキンのせ、そしてサイクリスト定番(?)のあんぱん。スイーツもいちごジャムパンケーキ、クレープチョコバナナ、クレープいちご、あんコーヒーゼリー、ショコラケーキ、バニラアイス、フルーツ盛り合わせ(オレンジ&グレープ with ミント)と、これでもか!と言わんばかりのラインアップ。





これらのメニューはすべて佐川さんが考案し、すべて手作り。サイクリストが食べやすいよう、ひとつひとつをできるだけ小さく、そして数を多めにし、たくさんのメニューをたのしんでもらいたい、という思いが込められていました。炭水化物、糖分、アミノ酸、クエン酸、ビタミンCなど、サイクリングに必要で、女性にはうれしい美肌のための栄養素も網羅。これはうれしい~!出されたすべてが好評でしたが特に大好評だったのは、ご飯ものと塩分が体に染みる「生ハムのお寿司」、絶妙なコラボが見事にマッチ「あんコーヒーゼリー」、良質なアミノ酸が取れる「甘酒」。
ドリンク、フードとともに、「あっ!」という間にすべてがなくなってしまいました。佐川さんは、「自宅前をサイクリストがたびたび通り、かっこいいなぁ~!」と思っていたそうで、今回は夢の実現企画となったそうです。目にもたのしく食べてもおいしいバラエティ豊かなフードのおかげで、これまでの山越え谷越えダム越えてのきつさも、すっかり忘れてしまいました!モチベーションが上がる要素は不可欠ですね。
クリートによるキズ防止


プラムラインはログハウス。ビンディングシューズのクリートによる傷はできるだけ避けたいもの。サイクリストもそれがわかっています。お手洗い前の入口にはビニールシートが敷かれ、シューズを脱いでスリッパに履き替えます。お互いに気持ちよく過ごすためのやさしい配慮がされていました。
危険な箇所は事前に周知
プラムラインを後にし、残すは坂ひとつ。ここがけっこうな難関で、勾配約12度。交通量もけっこう多いのですが、なんと頂上に信号があり、油断をすると、ビンディングをつけたまま立ちゴケしてしまう可能性あり。それも事前に周知されていたので、心の準備をしながら無事登ることができました。最後の坂も冬明けにはけっこうきつかったけれど、さぁあとは下るだけです。


自転車が会話のきっかけに
平坦平和なベルエキップまでの帰り道、自転車に荷物をたくさんかかげ、少し変わった風貌の外国人とすれ違いました。恵津子さんと顔を見合わせ「え??あの人、これからどこに行くんだろう??」ムクムクと私の好奇心が湧き上がってきました。元選手の本領発揮!恵津子さんが俊足で追いかけてくれました。速い速い……さすが元選手……。

納車後はじめてのロングライド

地元仙台でIT系の会社にお勤めの阿部さん。今回は後輩2名と参加。小さい頃は野球をしていて、2年前からハーフマラソンなど参加するように。会社には自転車部もあって興味があり、先に自転車を始めていた後輩からも「たのしいですよ~。やりましょうよ~」と声をかけられ、「よし!やってみよう!」とベルエキップへ。
値段とデザインとで決めたのが、105を採用するメリダのカーボンバイク。3月12日に納車してから、自宅の近くでビンディングの練習を兼ねて2回ほど乗ってみたそうで、今回が3回目のライドで記念すべき初長距離ライドだそう!「下りはけっこうみなさんスピードが出ていて、少し焦ったけど、たのしかった!」と満面の笑顔でした。「ひとりで走っているとわからないこともあるし不安もあります。こういうライドの機会があると、いいですね。また参加したい!」とのことでした。6月には「ツール・ド・さくらんぼ」120kmへエントリー。「10月には宮城県丸森町で行われる『サイクルフェスタ丸森』のロングコースも走りたいので、山をたくさん走り込みたい。どんどん乗りたい。」とおっしゃっていました。
反省点と今後の対策、メリット
今回のライドは30名による小規模なライドでしたが、反省点と今後の対策、そしてライドをこれからも続けるメリットについて、遠藤さんとまとめてみました。
・慣れないコースでは、体調不良やケガ、万が一の備えとして保険加入は必須。当日、スタート前に署名をいただくこと。
・初春なのに気温が急に上がり暑くなったが、気温については十分な考慮をしていなかった。ミネラルウォーターの数の確認、小まめに水分補給することを促す。
・サポートカーもいいが、バイクは機動的でとても有効。大きなイベントではバイクを増やすといいことがわかった。
・警察にコースマップを提出すると良い。今後のつながりやつなぎにもなり、礼儀正しくマナーがよいライダーが増えれば、車、自転車、歩行者共存による交通安全文化の醸成につながる。警察も行政も地元も理解を示してくれるようになる。
・地元カフェやレストランとコラボすることにより、サイクリングが「自分ごと」となりお互いの理解が深まる。
・「見せ方」は重要。目にもたのしくおいしい補給があることによって、サイクリングのモチベーションアップ、客層が広がり、新規客層の開拓にもつながる。
・ショップがライドを行えば、ショップを訪れていただく機会も増えるしスタッフとのコミニュケーションも深まる。
・ライド参加者の横のつながりができ、個々でライドを楽しむようになる。

ショップライドの重要性とこれから
今回日本ではじめてショップが主催のライドに参加しましたが、今回のように、地元のバイクショップが小さなライドを数多く、そしてマナーを守って行うことに大きな意味があると思いました。自転車は、言わずもがな、私たちにとって一番身近な交通手段。身近であるからこそ、自転車に乗る姿は、小さな子供から大人まで見ています。
ひとりひとりが正しく、そして楽しく乗る姿が飛び火することで、地元や警察、行政の理解が深まるきっかけとなり、大きく見れば日本の今後の自転車業界や「豊かなまちづくり」の鍵までにぎるものではないかと思いました。と最後は少し難しくなりましたが、単純にたのしかったのでまた参加したいです!

ツアー・オブ・ジャパンでは海外チームの招待・連絡を担当。2006年ジャパンカップサイクルロードレースに業務で携わってからロードレースの世界に魅了される。海外の自転車事情やライフスタイルを取材しながら、自転車とまちづくり・インフラ・環境・スポーツの側面から、企業や行政、レースオーガナイザーとのプロジェクトを手掛けている。クリーン工房アドバイザー、宮城インバウンドDMOアドバイザー。 https://global-wifi.com/go-beyonder/067.html
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