2016/12/04(日) - 09:39
11月19日から20日にかけて開催された南アルプスロングライド。山梨県南西部を流れる富士川エリアを舞台に、今年から新たに登場した1日目の白州・韮崎ステージのレポートをお届けしよう。
昨年までワンデイイベントとして開催されていた「ツール・ド・富士川」が、規模を拡大してリニューアルしたのが今年の「南アルプスロングライド」。今回から2日間開催となり、1日目は完全新作コースが2つ設定された。その内の1つは前回レポートでもお伝えした「プチ・南アルプスステージ」。もう1つがプチよりもさらに北上していく、この「白州・韮崎ステージ」だ。
メイン会場である道の駅富士川をスタートし、武田勝頼家の城「新府城」がある韮崎方面へ北上、さらにウィスキーで有名な白州へ緩やかに上り折り返してくるコースレイアウト。折り返し後は下り基調の農道を八ヶ岳からの北風を利用し、気持ちよく巡航しながら帰ってこれるという訳だ。編集部が取材した約83kmのコース全行程の様子をお伝えしよう。
当日の天気は生憎の雨。寒さに震える参加者を、スタート地点に設けられた「第0」エイドで振る舞われたコーヒーが温めてくれる。また、会場には韮崎工業高校太鼓部による力強い演奏が響き渡り、参加者のテンションも徐々に上がっていくのが感じられた。会場のムードもスタートが近づくにつれ盛り上がりを見せ、その気持ちが伝わったのか、朝一では強めに降っていた雨もスタート時にはなんとか止んでくれるまでに回復した。
「白州・韮崎ステージ」にはゲストライダーとして、皆さんご存知の今中大介さんと、山梨県出身でデュアスロン日本チャンピオンでもあるエース栗原さんのお二人が参加。それぞれ第1・第2グループとともにスタートしていく。細かく区切られたグループ編成で安全面に配慮しており、各グループに2~4人のサポートライダーが付くなど、参加者が安心できる環境で走れるのもこのイベントの特徴だろう。
ボランティアでライダーを務めてくれるのは、いずれも山梨県近辺の地元サイクリストたち。先頭でのペースづくりと、安全に走るためのサポートを果たしてくれるのだ。話しかければ地元のアレコレを教えてくれるガイドさんでもある。
ロングライド大会といえば多くが走り方は自由で、バラバラになってマイペースで走るものだが、このイベントではこうして基本的にはグループでまとまって走り、ポツンと一人きりにならないようにサポートライダーが配慮してくれる。「遅い人ほど前に並んでください」と朝のスタート時に声掛けられたが、このグループは固定ではなく、離脱や違うグループへの鞍替えは自由なのだ。つまり遅い人は早くスタートして徐々に下がっていけば良い。この走り方は2日めも共通している。
第1エイドまでは富士川町から韮崎市を目指して北上。車通りの少ない道がチョイスされた、南アルプス市を南北に突っ切るルートを走っていく。沿道に植えられた木々が紅く色づき、コースを美しく彩ってくれていた。
コースの途中からは日本三大堰のひとつでもある徳島堰に沿った道を行く。徳島堰とは、江戸時代に現在の韮崎市から南アルプス市にかけ17kmにわたって建設された農業用水路で、古くよりこの地域の水田や果樹園地帯を支える水源として今なお活用されている。こういった歴史に触れられるコースを走ることができるのも、このイベントの魅力の1つだろう。
第1エイドが設けられたのは「幸福の小径(こみち)」の一角。ここは、平成27年にノーベル賞を受賞した大村智博士の中学時代の通学路だった場所だ。甲州銘菓「新府焼きごめ」と地元産のりんごが振る舞われ、イベント最初の補給を味わった。参加者同士の会話も盛り上がっており、序盤だけあってまだまだ体力は余裕そうだ。
次の第2エイドまでは七里岩ラインと呼ばれる県道17号を緩やかに登っていくセクション。ここからは市街地からも抜け、山間の道を淡々と進んでいく。登ってはいるのだが厳しい斜度もなく、女性の参加者もみな軽快に足を回しつつ軽やかに登っていた。しかし、ここまで止んでいた雨がまた振り始めてきてしまった。本来ならここを走りながら南アルプスの山々が望めるはずだったが、山に掛かる雲で今回は残念ながら見えずじまい。
緩い登り基調の道が続き、気づけば高台の絶壁の上を走っている。この岩の高台の地形は韮崎から長野まで約30km続いている。古代の八ヶ岳の爆発により細長く流れた溶岩が固まったことでできた地形だとか(上から眺めるとニラの葉のように長いことから”韮崎”の語源になったという)。
ちょうどお昼時に合わせて第2エイドである武川中学校に到着、ここで昼食だ。玄関では主催者であるやまなしサイクルプロジェクトの理事長を務める青木さんがメガホンを持って元気よく「お疲れ様です!」と迎えてくれた。こういった一言が疲れたときには大変嬉しい。
地元でも人気の集まる3つの飲食店、中村農場・カフェ明治学校・mountain*mountainが手がけたお弁当がそれぞれ用意され、参加者は自分の好きなものを選べる形式のランチとなった。お弁当を配ってくれるのは、エイドとなった武川中学校の生徒さん達。彼らの明るい声に、雨に降られた参加者にも元気が湧いてくる。
お昼ご飯を食べ、満腹感と疲労がないまぜになった眠気がやってきそうな時間帯だが、そうは問屋が卸さないのがこのコース。走りだすとすぐ登りが始まるのだ。相変わらず降り続く雨の中、平均勾配3%、6kmほど続く登りを昼ご飯で重くなった体で進んでいく。グループ内でも走力の違いは出るので各々のペースで走るものの、グループから遅れてもサポートライダーがマンツーマンで付いてくれるのでコースを逸れる心配もない。
最高標高地点となる680m地点まで登ったところで、今日のコースのちょうど半分。ここからの折り返しは下り基調で進んでいく。バラけていたグループもここで一つにまとまり、集団のチカラで自然と巡航速度も上がっていく。なだらかに進む平坦な道では、緊張感も溶けたライダー同士の会話が聞かれ、今中さんやエース栗原さんにライディングのアドバイスをもらう参加者の姿も見られた。
走りやすい道だからだろうか、折り返してから20kmも走ったとは思えないほどスピーディに次の第3エイドへ。地元の喫茶店「珈音(かのん)」の駐車場に設置されたテント内では、自慢のコーヒーとパウンドケーキが用意されホッと一息付くことができた。小袋に分けられたケーキは、その場で食べずとも背中のポケットに入れて、帰ってから頂いた方もいただろう。
最終第4エイドまでの道のりで、取り上げて置かなければならないのが通称「白根ループ橋」として知られる桃花橋だ。夜には甲府盆地の夜景を楽しめると言う高台から、ぐるりと360°円を描くように道が作られ、そこを下っていく。なんとも珍しい構造で、今日のコース一番の見所と言ってもいいだろう。
ループ橋を背に進む一行がたどり着いたのは、地元のまちの駅「ほたるみ館」。ここが最後のエイドだ。甘い饅頭からしょっぱい味噌おでんまで用意され、その時の気分で味を選べるのは非常に嬉しかった。種類豊富な食べ物を前に、ゴールへ急ぐ足を止めたライダーも多いことだろう。
雨は小降りになり、山の風景が覗くが、あいにくパノラマが開けなかったのは残念だ。晴れていれば正面に富士山がそびえたち、右に赤石山脈、左手に八ヶ岳山麓が見渡せる絶景の道になるという。
流れるように市街地を抜け、程なくして見えてきたゴール道の駅富士川。終始曇りの天気ながらも、ゴールする人々の表情はみな晴れやかだったのが、このコースの満足度を表しているだろう。最後には雲の切れ間から青空も見え始め、充実した1日目を振り返りながら、2日目への期待も膨らまずにはいられなかった。
道の駅富士川へのフィニッシュは2時頃。走り終わって雨で冷えた身体は温泉で温めたいもの。参加者には地域一帯の温泉の割引入浴券が配布されるのが嬉しい。そして夜は甲州ワインとステーキで有名なレストランでディナー。こういった地元グルメも楽しめるのが2日間開催のイベントの良いところ。
今回は残念ながら雨模様のためこのコースの特色である山岳のパノラマ風景が十分には楽しめなかった。それは来年のお楽しみにとっておくことにしよう。
text:Yuto.Murata,Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO
昨年までワンデイイベントとして開催されていた「ツール・ド・富士川」が、規模を拡大してリニューアルしたのが今年の「南アルプスロングライド」。今回から2日間開催となり、1日目は完全新作コースが2つ設定された。その内の1つは前回レポートでもお伝えした「プチ・南アルプスステージ」。もう1つがプチよりもさらに北上していく、この「白州・韮崎ステージ」だ。
メイン会場である道の駅富士川をスタートし、武田勝頼家の城「新府城」がある韮崎方面へ北上、さらにウィスキーで有名な白州へ緩やかに上り折り返してくるコースレイアウト。折り返し後は下り基調の農道を八ヶ岳からの北風を利用し、気持ちよく巡航しながら帰ってこれるという訳だ。編集部が取材した約83kmのコース全行程の様子をお伝えしよう。
当日の天気は生憎の雨。寒さに震える参加者を、スタート地点に設けられた「第0」エイドで振る舞われたコーヒーが温めてくれる。また、会場には韮崎工業高校太鼓部による力強い演奏が響き渡り、参加者のテンションも徐々に上がっていくのが感じられた。会場のムードもスタートが近づくにつれ盛り上がりを見せ、その気持ちが伝わったのか、朝一では強めに降っていた雨もスタート時にはなんとか止んでくれるまでに回復した。
「白州・韮崎ステージ」にはゲストライダーとして、皆さんご存知の今中大介さんと、山梨県出身でデュアスロン日本チャンピオンでもあるエース栗原さんのお二人が参加。それぞれ第1・第2グループとともにスタートしていく。細かく区切られたグループ編成で安全面に配慮しており、各グループに2~4人のサポートライダーが付くなど、参加者が安心できる環境で走れるのもこのイベントの特徴だろう。
ボランティアでライダーを務めてくれるのは、いずれも山梨県近辺の地元サイクリストたち。先頭でのペースづくりと、安全に走るためのサポートを果たしてくれるのだ。話しかければ地元のアレコレを教えてくれるガイドさんでもある。
ロングライド大会といえば多くが走り方は自由で、バラバラになってマイペースで走るものだが、このイベントではこうして基本的にはグループでまとまって走り、ポツンと一人きりにならないようにサポートライダーが配慮してくれる。「遅い人ほど前に並んでください」と朝のスタート時に声掛けられたが、このグループは固定ではなく、離脱や違うグループへの鞍替えは自由なのだ。つまり遅い人は早くスタートして徐々に下がっていけば良い。この走り方は2日めも共通している。
第1エイドまでは富士川町から韮崎市を目指して北上。車通りの少ない道がチョイスされた、南アルプス市を南北に突っ切るルートを走っていく。沿道に植えられた木々が紅く色づき、コースを美しく彩ってくれていた。
コースの途中からは日本三大堰のひとつでもある徳島堰に沿った道を行く。徳島堰とは、江戸時代に現在の韮崎市から南アルプス市にかけ17kmにわたって建設された農業用水路で、古くよりこの地域の水田や果樹園地帯を支える水源として今なお活用されている。こういった歴史に触れられるコースを走ることができるのも、このイベントの魅力の1つだろう。
第1エイドが設けられたのは「幸福の小径(こみち)」の一角。ここは、平成27年にノーベル賞を受賞した大村智博士の中学時代の通学路だった場所だ。甲州銘菓「新府焼きごめ」と地元産のりんごが振る舞われ、イベント最初の補給を味わった。参加者同士の会話も盛り上がっており、序盤だけあってまだまだ体力は余裕そうだ。
次の第2エイドまでは七里岩ラインと呼ばれる県道17号を緩やかに登っていくセクション。ここからは市街地からも抜け、山間の道を淡々と進んでいく。登ってはいるのだが厳しい斜度もなく、女性の参加者もみな軽快に足を回しつつ軽やかに登っていた。しかし、ここまで止んでいた雨がまた振り始めてきてしまった。本来ならここを走りながら南アルプスの山々が望めるはずだったが、山に掛かる雲で今回は残念ながら見えずじまい。
緩い登り基調の道が続き、気づけば高台の絶壁の上を走っている。この岩の高台の地形は韮崎から長野まで約30km続いている。古代の八ヶ岳の爆発により細長く流れた溶岩が固まったことでできた地形だとか(上から眺めるとニラの葉のように長いことから”韮崎”の語源になったという)。
ちょうどお昼時に合わせて第2エイドである武川中学校に到着、ここで昼食だ。玄関では主催者であるやまなしサイクルプロジェクトの理事長を務める青木さんがメガホンを持って元気よく「お疲れ様です!」と迎えてくれた。こういった一言が疲れたときには大変嬉しい。
地元でも人気の集まる3つの飲食店、中村農場・カフェ明治学校・mountain*mountainが手がけたお弁当がそれぞれ用意され、参加者は自分の好きなものを選べる形式のランチとなった。お弁当を配ってくれるのは、エイドとなった武川中学校の生徒さん達。彼らの明るい声に、雨に降られた参加者にも元気が湧いてくる。
お昼ご飯を食べ、満腹感と疲労がないまぜになった眠気がやってきそうな時間帯だが、そうは問屋が卸さないのがこのコース。走りだすとすぐ登りが始まるのだ。相変わらず降り続く雨の中、平均勾配3%、6kmほど続く登りを昼ご飯で重くなった体で進んでいく。グループ内でも走力の違いは出るので各々のペースで走るものの、グループから遅れてもサポートライダーがマンツーマンで付いてくれるのでコースを逸れる心配もない。
最高標高地点となる680m地点まで登ったところで、今日のコースのちょうど半分。ここからの折り返しは下り基調で進んでいく。バラけていたグループもここで一つにまとまり、集団のチカラで自然と巡航速度も上がっていく。なだらかに進む平坦な道では、緊張感も溶けたライダー同士の会話が聞かれ、今中さんやエース栗原さんにライディングのアドバイスをもらう参加者の姿も見られた。
走りやすい道だからだろうか、折り返してから20kmも走ったとは思えないほどスピーディに次の第3エイドへ。地元の喫茶店「珈音(かのん)」の駐車場に設置されたテント内では、自慢のコーヒーとパウンドケーキが用意されホッと一息付くことができた。小袋に分けられたケーキは、その場で食べずとも背中のポケットに入れて、帰ってから頂いた方もいただろう。
最終第4エイドまでの道のりで、取り上げて置かなければならないのが通称「白根ループ橋」として知られる桃花橋だ。夜には甲府盆地の夜景を楽しめると言う高台から、ぐるりと360°円を描くように道が作られ、そこを下っていく。なんとも珍しい構造で、今日のコース一番の見所と言ってもいいだろう。
ループ橋を背に進む一行がたどり着いたのは、地元のまちの駅「ほたるみ館」。ここが最後のエイドだ。甘い饅頭からしょっぱい味噌おでんまで用意され、その時の気分で味を選べるのは非常に嬉しかった。種類豊富な食べ物を前に、ゴールへ急ぐ足を止めたライダーも多いことだろう。
雨は小降りになり、山の風景が覗くが、あいにくパノラマが開けなかったのは残念だ。晴れていれば正面に富士山がそびえたち、右に赤石山脈、左手に八ヶ岳山麓が見渡せる絶景の道になるという。
流れるように市街地を抜け、程なくして見えてきたゴール道の駅富士川。終始曇りの天気ながらも、ゴールする人々の表情はみな晴れやかだったのが、このコースの満足度を表しているだろう。最後には雲の切れ間から青空も見え始め、充実した1日目を振り返りながら、2日目への期待も膨らまずにはいられなかった。
道の駅富士川へのフィニッシュは2時頃。走り終わって雨で冷えた身体は温泉で温めたいもの。参加者には地域一帯の温泉の割引入浴券が配布されるのが嬉しい。そして夜は甲州ワインとステーキで有名なレストランでディナー。こういった地元グルメも楽しめるのが2日間開催のイベントの良いところ。
今回は残念ながら雨模様のためこのコースの特色である山岳のパノラマ風景が十分には楽しめなかった。それは来年のお楽しみにとっておくことにしよう。
text:Yuto.Murata,Makoto.AYANO
photo:Makoto.AYANO
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