2016/09/01(木) - 09:17
熊本県・阿蘇市で8月20日(土)21日(日)の二日間、熊本地震復興応援イベントである「La CORSA Kyusyu」が開催された。今回が初の開催となるLa CORSA Kyusyuは元プロロードレーサーの宮澤崇史さんの呼びかけにより実現した。
きっかけは東日本大震災から続く想い
「2011年に起きた東日本大震災。サイクリストとして復興の手伝いをしたかったが、当時はイタリア籍のチーム(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)に所属しており、あまり動くことができず、歯がゆかった。」と宮澤さんは語る。
そして選手引退後に起きた今年の熊本地震。以前から熊本のサイクリストとの交流も持っており、縁のある土地での天災。迷うことなく動き始めた。これに福岡県・福岡市にあるプロサイクリングショップ「正屋」の岩崎正史さんが呼応。準備を経て、今回の開催へとたどり着いた。
阿蘇・南阿蘇をめぐるライドと、宮澤さんによるセミナーという構成で開催された同イベント。ライドコースは「現在の阿蘇を見て・知ってもらいたい」とのコンセプトで作成された。コースディレクターは福岡県のフォトグラファー、丹野篤史さん。「MOZU Ride」という九州中心で展開しているエピックなライドを主催しており、阿蘇の道を熟知しているサイクリストである。震災の影響で分断されている道と道をつなぎ、宮澤さんの意見も盛り込んだコースを完成させた。
2日間で総勢160名!宮澤崇史と走る!学ぶ!遊ぶ!!
地元、熊本をはじめ、多数のサイクリストが阿蘇へ集結した。走り出す前からファンに囲まれる宮澤さん。「おかえりなさい!」の声も聞こえてくる。3グループにわけ、お待ちかねのライドスタートだ。最後尾から宮澤さんが一人ひとり声をかけて走る。最初は少し緊張していた参加者も、気さくな宮澤さんを前にすると思わず笑顔に。
世界を相手に戦ったレーサーと走る贅沢な時間。宮澤さんのキレイなフォームやビシッと芯の通ったダンシングに圧倒される。「なぜ全くブレないんだろう…?」秘密を探ろうとする参加者たち。ライドは両日ともゆったりとしたペースで進み、夏の晴天に広がる雄大な風景を十分に楽しむことができた。参加者の中には運のいいことに宮澤さんの「神の手」を体験できた人も……!
コースに組み込まれた水場では、熱くなった体を冷やすことができる。「地下水は冷たくて最高!!」
1日目の夜には宮澤さんによるサイクルセミナーが開催された。自身の経験を元にした、ユニークな解説で会場は盛り上がった。「なるほど、こんなトレーニングをしていたのか。」「あれはそんな理論だったのか。」聞いた方しかわからない表現で申し訳ないが……。
参加された方は何かを掴んで帰ることができたのではないだろうか。Q&Aコーナーでは参加者も質問を用意していたのか、宮澤さんが驚くような鋭い質問も飛んでいた。
セミナー後は交流会。テレビで見ることのできない宮澤さんの姿も見ることができた……かも?宮澤さん私物提供のジャンケン大会も。ファンなら垂涎のレアアイテムを大放出!
セミナーの舞台は「阿蘇内牧温泉 蘇山郷」。宴会・宿泊もこちら。サイクリストには有名なこの蘇山郷も被災しており、先月の7月16日から営業が再開したばかり。一時は温泉の湧出も止まり、営業再開の目途が立たないほどであったが、今は再び豊富な湯量を誇る温泉を楽しむことができる。
被災地・阿蘇を自転車で走る理由とは
地震の爪痕が大きく残る阿蘇。断層、倒壊、崩落。これらを繋いだLa CORSA Kyusyuのコース。被害にあった地域を巡るたび、参加者からは声にならない声が上がる。そこにあったはずの赤い阿蘇大橋、国道57号線。2メートル以上も隆起した断層。倒壊した阿蘇神社。底知れぬ自然の力を目の当たりにし、目に涙を浮かべる方もいる。
今回のライドでコースアドバイス・アテンドを担当した「蘇山郷」にお勤めの中尾公一さんはこう語る。
「震災の直後は崩落跡などを直視できなかった。宿の周囲を自転車で巡り、少しずつ心がほぐれていった。」
自身も熱心なサイクリストである中尾さん。阿蘇は職場でもあり、ホームコースでもある。以前から阿蘇サイクリングコースの案内を行っていた中尾さんは、案内するコースに被害箇所を加えていった。「迷ったが、みなさんが見てどう感じるか。見てもらいたい。車ではなく、自転車がいい。」
ライド後、参加者たちは何人もこう口にした。
「被害の大きい地域を訪問することに戸惑いがあった。しかし今回がいいきっかけになった。訪れてよかった。」「風化させてはいけない。今の状況を伝えないと。」
実は、筆者のルーツは熊本県・益城である。今回の地震報道で益城という地名を知った方も多いだろう。
幼いころから何度も何度も訪問し、祖母や親類が今も暮らす益城。筆者も最初はTVの画面を直視できなかった。募金しかできない自分が歯がゆかった。
しかし、行っていいものか……邪魔になるのではないか……という考えだけが膨らみ、行動できない。今回、La CORSA Kyusyu取材の話を頂いた際、若干の葛藤があった。被災地を観光することに抵抗がないと言えば嘘になる。
だが阿蘇は観光産業が盛んな地域である。人が来ないと成り立たないのだ。それに悲惨な面だけを見るわけではない。阿蘇にしかない雄大で素晴らしい景色はまだそこにある。そう思い、行くことを決めた。もちろん配慮が必要であることは決して忘れてはいけないが。
ニュースを通してではなく、自分の目で見て、聞いて、考えることには意味がある。そこから「出来ることから」支援しよう、という想いが自然に広がっていくように感じた。
「また来てくださいね」
「来てくれてありがとう。色々買って帰ってください。帰ったら阿蘇の状況をまわりに伝えてください。そして、また遊びに来てくださいね。」阿蘇大橋の近くで出会った、倒壊家屋の片づけをしていた女性の言葉。この言葉に尽きるのではないだろうか。
「冬が来るのが怖いです。」歯科衛生士であるという彼女はこうも語った。地震により分断された土地。道は復旧しつつあるが、雪が降るとまた孤立してしまうかもしれない。生活に最低限必要な物資は思っている以上に多種である。それが滞るでのはないか。しかし、地震直後のような思いはもうしたくないし、させたくない。だから忘れないように伝えてください。笑顔のステキな彼女からは力強い意志を感じた。
去り際、宮澤さんが日の丸を背負って世界で戦った偉大な選手であったことを説明すると、とても喜んでくれた。オリンピックなどでわかるように、スポーツ選手には他人も元気にするパワーがある。「また、来ます。」宮澤さんもまた、力強く答えた。
「La CORSA Kyusyu」は今後も継続的に開催予定。雄大な山々、豊富な水、美味しい食事、パワフルな人々。地震を経てもなお、変わらず魅力的な九州・熊本を訪れてみてはいかがだろうか。
La CORSA Kyusyu
Instagram:#lacorsa9thで検索するとイベントの様子をご覧頂けます
協力:宮澤崇史・正屋・MOZUCOFFEE・VC Fukuoka・J's Factoryサイクルスクール・蘇山郷・茶のこ・ネイチャーランド・阿蘇インフォメーションセンターはな阿蘇美・ATSUSHI TANNO-PHOTOGRAPHY・Hauto
Photo:Atsushi Tanno(ATSUSHI TANNO-PHOTOGRAPHY)
Text:Junji Iwanaga
きっかけは東日本大震災から続く想い
「2011年に起きた東日本大震災。サイクリストとして復興の手伝いをしたかったが、当時はイタリア籍のチーム(ファルネーゼヴィーニ・ネーリソットリ)に所属しており、あまり動くことができず、歯がゆかった。」と宮澤さんは語る。
そして選手引退後に起きた今年の熊本地震。以前から熊本のサイクリストとの交流も持っており、縁のある土地での天災。迷うことなく動き始めた。これに福岡県・福岡市にあるプロサイクリングショップ「正屋」の岩崎正史さんが呼応。準備を経て、今回の開催へとたどり着いた。
阿蘇・南阿蘇をめぐるライドと、宮澤さんによるセミナーという構成で開催された同イベント。ライドコースは「現在の阿蘇を見て・知ってもらいたい」とのコンセプトで作成された。コースディレクターは福岡県のフォトグラファー、丹野篤史さん。「MOZU Ride」という九州中心で展開しているエピックなライドを主催しており、阿蘇の道を熟知しているサイクリストである。震災の影響で分断されている道と道をつなぎ、宮澤さんの意見も盛り込んだコースを完成させた。
2日間で総勢160名!宮澤崇史と走る!学ぶ!遊ぶ!!
地元、熊本をはじめ、多数のサイクリストが阿蘇へ集結した。走り出す前からファンに囲まれる宮澤さん。「おかえりなさい!」の声も聞こえてくる。3グループにわけ、お待ちかねのライドスタートだ。最後尾から宮澤さんが一人ひとり声をかけて走る。最初は少し緊張していた参加者も、気さくな宮澤さんを前にすると思わず笑顔に。
世界を相手に戦ったレーサーと走る贅沢な時間。宮澤さんのキレイなフォームやビシッと芯の通ったダンシングに圧倒される。「なぜ全くブレないんだろう…?」秘密を探ろうとする参加者たち。ライドは両日ともゆったりとしたペースで進み、夏の晴天に広がる雄大な風景を十分に楽しむことができた。参加者の中には運のいいことに宮澤さんの「神の手」を体験できた人も……!
コースに組み込まれた水場では、熱くなった体を冷やすことができる。「地下水は冷たくて最高!!」
1日目の夜には宮澤さんによるサイクルセミナーが開催された。自身の経験を元にした、ユニークな解説で会場は盛り上がった。「なるほど、こんなトレーニングをしていたのか。」「あれはそんな理論だったのか。」聞いた方しかわからない表現で申し訳ないが……。
参加された方は何かを掴んで帰ることができたのではないだろうか。Q&Aコーナーでは参加者も質問を用意していたのか、宮澤さんが驚くような鋭い質問も飛んでいた。
セミナー後は交流会。テレビで見ることのできない宮澤さんの姿も見ることができた……かも?宮澤さん私物提供のジャンケン大会も。ファンなら垂涎のレアアイテムを大放出!
セミナーの舞台は「阿蘇内牧温泉 蘇山郷」。宴会・宿泊もこちら。サイクリストには有名なこの蘇山郷も被災しており、先月の7月16日から営業が再開したばかり。一時は温泉の湧出も止まり、営業再開の目途が立たないほどであったが、今は再び豊富な湯量を誇る温泉を楽しむことができる。
被災地・阿蘇を自転車で走る理由とは
地震の爪痕が大きく残る阿蘇。断層、倒壊、崩落。これらを繋いだLa CORSA Kyusyuのコース。被害にあった地域を巡るたび、参加者からは声にならない声が上がる。そこにあったはずの赤い阿蘇大橋、国道57号線。2メートル以上も隆起した断層。倒壊した阿蘇神社。底知れぬ自然の力を目の当たりにし、目に涙を浮かべる方もいる。
今回のライドでコースアドバイス・アテンドを担当した「蘇山郷」にお勤めの中尾公一さんはこう語る。
「震災の直後は崩落跡などを直視できなかった。宿の周囲を自転車で巡り、少しずつ心がほぐれていった。」
自身も熱心なサイクリストである中尾さん。阿蘇は職場でもあり、ホームコースでもある。以前から阿蘇サイクリングコースの案内を行っていた中尾さんは、案内するコースに被害箇所を加えていった。「迷ったが、みなさんが見てどう感じるか。見てもらいたい。車ではなく、自転車がいい。」
ライド後、参加者たちは何人もこう口にした。
「被害の大きい地域を訪問することに戸惑いがあった。しかし今回がいいきっかけになった。訪れてよかった。」「風化させてはいけない。今の状況を伝えないと。」
実は、筆者のルーツは熊本県・益城である。今回の地震報道で益城という地名を知った方も多いだろう。
幼いころから何度も何度も訪問し、祖母や親類が今も暮らす益城。筆者も最初はTVの画面を直視できなかった。募金しかできない自分が歯がゆかった。
しかし、行っていいものか……邪魔になるのではないか……という考えだけが膨らみ、行動できない。今回、La CORSA Kyusyu取材の話を頂いた際、若干の葛藤があった。被災地を観光することに抵抗がないと言えば嘘になる。
だが阿蘇は観光産業が盛んな地域である。人が来ないと成り立たないのだ。それに悲惨な面だけを見るわけではない。阿蘇にしかない雄大で素晴らしい景色はまだそこにある。そう思い、行くことを決めた。もちろん配慮が必要であることは決して忘れてはいけないが。
ニュースを通してではなく、自分の目で見て、聞いて、考えることには意味がある。そこから「出来ることから」支援しよう、という想いが自然に広がっていくように感じた。
「また来てくださいね」
「来てくれてありがとう。色々買って帰ってください。帰ったら阿蘇の状況をまわりに伝えてください。そして、また遊びに来てくださいね。」阿蘇大橋の近くで出会った、倒壊家屋の片づけをしていた女性の言葉。この言葉に尽きるのではないだろうか。
「冬が来るのが怖いです。」歯科衛生士であるという彼女はこうも語った。地震により分断された土地。道は復旧しつつあるが、雪が降るとまた孤立してしまうかもしれない。生活に最低限必要な物資は思っている以上に多種である。それが滞るでのはないか。しかし、地震直後のような思いはもうしたくないし、させたくない。だから忘れないように伝えてください。笑顔のステキな彼女からは力強い意志を感じた。
去り際、宮澤さんが日の丸を背負って世界で戦った偉大な選手であったことを説明すると、とても喜んでくれた。オリンピックなどでわかるように、スポーツ選手には他人も元気にするパワーがある。「また、来ます。」宮澤さんもまた、力強く答えた。
「La CORSA Kyusyu」は今後も継続的に開催予定。雄大な山々、豊富な水、美味しい食事、パワフルな人々。地震を経てもなお、変わらず魅力的な九州・熊本を訪れてみてはいかがだろうか。
La CORSA Kyusyu
Instagram:#lacorsa9thで検索するとイベントの様子をご覧頂けます
協力:宮澤崇史・正屋・MOZUCOFFEE・VC Fukuoka・J's Factoryサイクルスクール・蘇山郷・茶のこ・ネイチャーランド・阿蘇インフォメーションセンターはな阿蘇美・ATSUSHI TANNO-PHOTOGRAPHY・Hauto
Photo:Atsushi Tanno(ATSUSHI TANNO-PHOTOGRAPHY)
Text:Junji Iwanaga
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