2014/10/12(日) - 09:59
9月7日にロングライドイベント「北アルプス山麓グランフォンド」にCW編集部がお邪魔した。北アルプスを舞台としたハードコースを走った”ヘタレ編集部員” 藤原の体験レポートをお届けします。
9月7日の朝6時。編集部内で注目のイベント「北アルプス山麓グランフォンド」の取材のために長野県大町市の鹿島槍スポーツヴィレッジを訪れている。今回取材をさせて頂くのは120km、100km、80km、40kmという距離別に用意された4コースのうち、最も距離が長くて、唯一山岳地帯に入り込む120kmコース。もちろん貧脚ヘタレの私もそのコースに参加する。
120kmコースは鹿島槍スポーツヴィレッジからスタートし、白馬ジャンプ競技場や栂池高原、日向山高原などを時計回りに巡りながら、約2200mの標高を獲得するハードな道をたどる。イベントのメインはエイドで味わえる地域の特産物だが、コースのメインは日向山高原一帯の山岳地帯だ。そんなコースに1人不安を覚える…
そうはいっても既にスタート地点にいる私にはどうしようもない。時間とともに流れるようにしてスタート。なすがままに白馬、栂池高原エイドまでの約30kmの行程をこなし、あれよあれよという間に42km地点の神城駅付近の120kmと100・80kmコースの分岐点に到着してしまう。ここまでの行程の詳細はイベントレポートを参照頂きたい。
ここが山岳地帯へ入っていくポイントだ。朝の不安は未だに残っている。むしろ小刻みなアップダウンで既に体力を使って不安感は増していると言っていい。「ここで100kmか80kmコースに変更できたらなあ」なんて思いながら、先へと進む編集長の後にくっついて行く。
緩やかな登り勾配で山の中へと続いている県道33号線。ぐいぐいと目の前に迫ってくる青々しい森を見ると逃げたくなるばかり。「人間はポジティブシンキングが大事だ」というどこで聞いたかもおぼつかない言葉を思い出し、何かいいことを考えてみる。この先には美麻エイドのお漬物に大峰高原エイドのねぎ味噌が待っているはず!いいじゃないか。
ポジティブシンキングもつかの間。美麻トンネルを回避するために旧道へ入ると同時に勾配が厳しくなり、現実へと引き戻される。すでにギアはインナーロー、足はパンパンで重い。すでに自分のことでいっぱいいっぱいで、何も考えられない。コーナーを1つ、2つとクリアすると登り坂が無事に終わる。ほっと一息「助かった」。
頂上で待っていた「峠」という文字だけの看板と記念撮影をして、先を急ぐ。"ぽかぽかランド美麻"までは下り基調で、自転車の速度とともに私のテンションも上がる。爽やかな風を感じれるロードバイクの醍醐味を存分に味わいながら、給水所へ駆け込む。
先に到着していたグループを見送っていると、なんといきなり10%超の登り坂に突入している。「マジか…」スピードを出さないとクリートをはめられない私にとってはタチゴケの危険が最もある場面だし、それよりもその先にどんな坂が待ち受けているか不安になる。
ネガティブ思考でテンションを下げていると、編集長がサッとリンゴを差し出す。なんと補給食代わりに買ってくれたのだ。なんて良いタイミングなのだろうか、私のお腹は空っぽ寸前。ありがたくリンゴにかぶりついてしばし休憩。もしかして、これからはキツイぞ…という暗示だったのかな?
これからの行程がキツイことなんて知る由もないし、考えたくもない。これから私は目の前の10%の登り坂に挑戦するのみだ。無事クリートをはめて10%の坂をクリアし、1つ目のコーナーを曲がる。私が目にしたのは同じような勾配の登り坂。ガックリ。いくつかの九十九折を曲がっても目の前の光景は登り坂のみ。
できるだけコーナーの外側を通ったり、蛇行したりして坂に抗ってみるものの撃沈。体温も上昇してきて気分もダルくなってくるし、足が回らなくなり、うつむきがちになるとテンションも下がってくる。延々と続くようなヒルクライムを投げ出したくもなる。「やっぱり100kmコースに行きたかったな」なんて身も蓋もないことも考えてしまう。
ふと顔を上げてコーナーの先を見ると路肩に秋の風物詩コスモスが咲き、その先に視線を移すと北アルプスの山塊が見える。キレイな景色は心まで洗ってくれるのか。壮大な景色を見てちょっぴり気分が晴れた私は上がらない脚を懸命に回しながら美麻エイドへ転がり込む。
待ちに待ったお漬物。大町市のおばちゃんお手製というから美味しさも倍増だ。変わり種のカレー味を楽しんだら、古き良き日本を感じるような田畑と民家を縫うように一気に下る。
時折勾配がきつい坂もあり心が折れ掛けるが、九十九折を曲がると林道の中にもかかわらず不意に白い花が咲き乱れた蕎麦畑が飛び込んでくる。とびきりキレイな景色に出会った時にガッツポーズをしたくなるのは私だけだろうか。疲れきっていた私は片手で小さくガッツポーズ。信州らしい風景を目の前に私はここまで来てよかった。
なんとかかんとか4kmの登りをこなしたら、給水所が現れる。絶妙なタイミングで出現したことが嬉しくて、私は思わず「おおお…」と感嘆のうめき声を上げてしまった。腰を下ろしたら立ちあげれないことはわかっていたので、用意されていたスポーツドリンクをさっと2杯3杯飲みほし、アップダウン区間に突入する。
小刻みに登っては下り、登っては下り…を繰り返す。一本登り切る度に達成感を味うが、下りから登り返しが見える度に意気消沈といった風に気分も上げ下げを繰り返す。何本かアップダウンを繰り返すと、いつまでたっても下りが見えない登り坂を登っていた。
「あれ?」と思った時にはもう足は回らず、足をついてしまった。疲れを悟られないようにカメラを構えて後続から来る参加者さんの写真を撮る。どうやら思っていたよりも疲れていたみたいだ。足をマッサージしてからソロリソロリと再出発。5分か10分か。正確な時間は分からないが、延々続くとも感じた坂道がついに終わる。
平坦な道を惰性で自転車を転がしていると、北アルプスの山塊と町並みが見えるパノラマが出現。これまでに見てきた信州の景色の中では1番と言っていいほどの大絶景だ。途中足をついてしまったからか、高地に辿り着いた達成感もこれまで以上だ。ここまでこれてよかった。素直にそう思える。
120kmコースのハイライトである大峰高原エイドに転がり込んで、ねぎ味噌おにぎりを食べた後はイベントは終盤戦。松川エイド、大町温泉郷エイドを経て大峰高原よりも標高が高い鹿島槍SVまで戻っていく。実はゴール地点は大峰高原よりも標高が高く、私は延べ26kmにわたって平均2%の登り勾配でジワジワと高度を稼ぐ県道325号を行かなければならないのだ。これがまた足にくる。
そして、最後に待っているのはヒルクライム三昧の1日をプレイバックさせるかのような斜度がキツい登り坂だ。最後にひと踏ん張りをしてフィニッシュを切る。ゴール後たまたまタイミングよく現れた鹿島槍ヶ岳の頂を見ると、不意に大会がリフレインしてきた。
どのエイドへ行っても普段はなかなか味わえない信州の味覚と絶景、そしておもてなしが待っていた北アルプス山麓グランフォンド。「次は何が食べれるのかな」「どんなおばちゃんが待ってるのかな」「どんな景色が出てくるのだろう」と楽しめるものが多いからこそ走り切れたのかもしれない。
文:ヘタレ藤原
9月7日の朝6時。編集部内で注目のイベント「北アルプス山麓グランフォンド」の取材のために長野県大町市の鹿島槍スポーツヴィレッジを訪れている。今回取材をさせて頂くのは120km、100km、80km、40kmという距離別に用意された4コースのうち、最も距離が長くて、唯一山岳地帯に入り込む120kmコース。もちろん貧脚ヘタレの私もそのコースに参加する。
120kmコースは鹿島槍スポーツヴィレッジからスタートし、白馬ジャンプ競技場や栂池高原、日向山高原などを時計回りに巡りながら、約2200mの標高を獲得するハードな道をたどる。イベントのメインはエイドで味わえる地域の特産物だが、コースのメインは日向山高原一帯の山岳地帯だ。そんなコースに1人不安を覚える…
そうはいっても既にスタート地点にいる私にはどうしようもない。時間とともに流れるようにしてスタート。なすがままに白馬、栂池高原エイドまでの約30kmの行程をこなし、あれよあれよという間に42km地点の神城駅付近の120kmと100・80kmコースの分岐点に到着してしまう。ここまでの行程の詳細はイベントレポートを参照頂きたい。
ここが山岳地帯へ入っていくポイントだ。朝の不安は未だに残っている。むしろ小刻みなアップダウンで既に体力を使って不安感は増していると言っていい。「ここで100kmか80kmコースに変更できたらなあ」なんて思いながら、先へと進む編集長の後にくっついて行く。
緩やかな登り勾配で山の中へと続いている県道33号線。ぐいぐいと目の前に迫ってくる青々しい森を見ると逃げたくなるばかり。「人間はポジティブシンキングが大事だ」というどこで聞いたかもおぼつかない言葉を思い出し、何かいいことを考えてみる。この先には美麻エイドのお漬物に大峰高原エイドのねぎ味噌が待っているはず!いいじゃないか。
ポジティブシンキングもつかの間。美麻トンネルを回避するために旧道へ入ると同時に勾配が厳しくなり、現実へと引き戻される。すでにギアはインナーロー、足はパンパンで重い。すでに自分のことでいっぱいいっぱいで、何も考えられない。コーナーを1つ、2つとクリアすると登り坂が無事に終わる。ほっと一息「助かった」。
頂上で待っていた「峠」という文字だけの看板と記念撮影をして、先を急ぐ。"ぽかぽかランド美麻"までは下り基調で、自転車の速度とともに私のテンションも上がる。爽やかな風を感じれるロードバイクの醍醐味を存分に味わいながら、給水所へ駆け込む。
先に到着していたグループを見送っていると、なんといきなり10%超の登り坂に突入している。「マジか…」スピードを出さないとクリートをはめられない私にとってはタチゴケの危険が最もある場面だし、それよりもその先にどんな坂が待ち受けているか不安になる。
ネガティブ思考でテンションを下げていると、編集長がサッとリンゴを差し出す。なんと補給食代わりに買ってくれたのだ。なんて良いタイミングなのだろうか、私のお腹は空っぽ寸前。ありがたくリンゴにかぶりついてしばし休憩。もしかして、これからはキツイぞ…という暗示だったのかな?
これからの行程がキツイことなんて知る由もないし、考えたくもない。これから私は目の前の10%の登り坂に挑戦するのみだ。無事クリートをはめて10%の坂をクリアし、1つ目のコーナーを曲がる。私が目にしたのは同じような勾配の登り坂。ガックリ。いくつかの九十九折を曲がっても目の前の光景は登り坂のみ。
できるだけコーナーの外側を通ったり、蛇行したりして坂に抗ってみるものの撃沈。体温も上昇してきて気分もダルくなってくるし、足が回らなくなり、うつむきがちになるとテンションも下がってくる。延々と続くようなヒルクライムを投げ出したくもなる。「やっぱり100kmコースに行きたかったな」なんて身も蓋もないことも考えてしまう。
ふと顔を上げてコーナーの先を見ると路肩に秋の風物詩コスモスが咲き、その先に視線を移すと北アルプスの山塊が見える。キレイな景色は心まで洗ってくれるのか。壮大な景色を見てちょっぴり気分が晴れた私は上がらない脚を懸命に回しながら美麻エイドへ転がり込む。
待ちに待ったお漬物。大町市のおばちゃんお手製というから美味しさも倍増だ。変わり種のカレー味を楽しんだら、古き良き日本を感じるような田畑と民家を縫うように一気に下る。
時折勾配がきつい坂もあり心が折れ掛けるが、九十九折を曲がると林道の中にもかかわらず不意に白い花が咲き乱れた蕎麦畑が飛び込んでくる。とびきりキレイな景色に出会った時にガッツポーズをしたくなるのは私だけだろうか。疲れきっていた私は片手で小さくガッツポーズ。信州らしい風景を目の前に私はここまで来てよかった。
なんとかかんとか4kmの登りをこなしたら、給水所が現れる。絶妙なタイミングで出現したことが嬉しくて、私は思わず「おおお…」と感嘆のうめき声を上げてしまった。腰を下ろしたら立ちあげれないことはわかっていたので、用意されていたスポーツドリンクをさっと2杯3杯飲みほし、アップダウン区間に突入する。
小刻みに登っては下り、登っては下り…を繰り返す。一本登り切る度に達成感を味うが、下りから登り返しが見える度に意気消沈といった風に気分も上げ下げを繰り返す。何本かアップダウンを繰り返すと、いつまでたっても下りが見えない登り坂を登っていた。
「あれ?」と思った時にはもう足は回らず、足をついてしまった。疲れを悟られないようにカメラを構えて後続から来る参加者さんの写真を撮る。どうやら思っていたよりも疲れていたみたいだ。足をマッサージしてからソロリソロリと再出発。5分か10分か。正確な時間は分からないが、延々続くとも感じた坂道がついに終わる。
平坦な道を惰性で自転車を転がしていると、北アルプスの山塊と町並みが見えるパノラマが出現。これまでに見てきた信州の景色の中では1番と言っていいほどの大絶景だ。途中足をついてしまったからか、高地に辿り着いた達成感もこれまで以上だ。ここまでこれてよかった。素直にそう思える。
120kmコースのハイライトである大峰高原エイドに転がり込んで、ねぎ味噌おにぎりを食べた後はイベントは終盤戦。松川エイド、大町温泉郷エイドを経て大峰高原よりも標高が高い鹿島槍SVまで戻っていく。実はゴール地点は大峰高原よりも標高が高く、私は延べ26kmにわたって平均2%の登り勾配でジワジワと高度を稼ぐ県道325号を行かなければならないのだ。これがまた足にくる。
そして、最後に待っているのはヒルクライム三昧の1日をプレイバックさせるかのような斜度がキツい登り坂だ。最後にひと踏ん張りをしてフィニッシュを切る。ゴール後たまたまタイミングよく現れた鹿島槍ヶ岳の頂を見ると、不意に大会がリフレインしてきた。
どのエイドへ行っても普段はなかなか味わえない信州の味覚と絶景、そしておもてなしが待っていた北アルプス山麓グランフォンド。「次は何が食べれるのかな」「どんなおばちゃんが待ってるのかな」「どんな景色が出てくるのだろう」と楽しめるものが多いからこそ走り切れたのかもしれない。
文:ヘタレ藤原
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