2014/05/28(水) - 11:03
熊本は小国で開催された第4回Rapha Gentlemen's Race(RGR)。ここに参加した女性のみのチームTeam BNPのメンバー、石井美穂さん(通称「ちゅなどん=@chunadon」)による参加レポートを全4編にて紹介します。
—どうしてわたしたちは、完走できなかったんだろうな。
Rapha Gentlemen's Race Oguni。コース距離137km 獲得標高3000mは、そのスペックだけで充分苦しめそうではあるけれど、決して無理な設定ではないと思ってたのに。
主催のスタッフ、この後にスタートを控えている参加者たちに華々しく見送られ、わたしたちTeam BNPは一番手としてスタートした直後、一つ目の曲がり角の左右を間違えたところからバタバタした。その犯人はたぶんわたしで、大爆笑のスタートになった。おいおい、先が思いやられるぜ、と言ってもこのときはまだ笑っていられた。
さらにその直後、スタートでの撮影用に脱いだウィンドブレーカーを再び着るのにファスナーが壊れ、丸めて背中に入れたそいつがポケットからこぼれ落ち、リアディレイラーに絡まって停止したマリちゃん。
ライダーとして初参加の彼女は笑顔で話してはいても、どこか緊張の取れない感じで、長く生きてると誰でも経験する『今日はマリちゃんの日』になってるんだろうな、と思わせた。
それはいい意味、悪い意味両方あって、今日、この時点においてはトラブルメイカー、の意である。でも、だからといってそれがネガティブに働くかというと決してそうではない。本人の心のありようと工夫に加えて、チームの仲間の助け合いで軽々とクリアしてこの一日のライドを楽しく過ごす。それがGentlemen's Race なのだから、何もないよりはあった方が『それらしい』というのは間違いない。
リアディレイラーとスプロケの間に絡まったウィンドブレーカーは私たちの次にスタートしたガリビエ部の面々が追いつき、助けてくれた。ジェントルマンはここにいた。マリちゃんが人妻でなければ恋のひとつも芽生えたかもしれない。それがGentlemen's Race。(ちがうそうじゃない、でもそうかもしれない)
ファスナーは壊れたけど、峠の下りでは着たい局面があるだろう。前後逆にして着ればいいから、とにゃおちが優しく賢い提案をして「このウィンドブレーカーもう捨てたいわ!」と吠えるマリちゃんをたしなめる。ナイスチームプレイ。
ここで3チームがジョイン。さらにその次にスタートしたMOZU COFFEEも合わせて、少し大きな集団で最初の小さな登りに入る。狭い林道は鬱蒼として、雨上がりの湿気と土に還る落ち葉の匂い、木々から朝の気をぎゅーっと溜め込んだ空気、酸素が濃い。この濃い空気、吸えば吸うほど、身体のすみずみにまで沁み渡るようだ。みんな口々に「気持ちいいねー」「いい道だねー」と小国の朝を楽しんでいる。来て良かった。スタートしてわずか20分でそう思える。いや、スタートして20分だから、そう思えたのか。
ぎっしりと杉が密集する木立に徐々に朝日がさしてくる。美しい。手を加えた映像で見ているかのような美しい光をフィルターなしで感じている。現実を離れ、特別な世界に脚を踏み入れたような気すらしてくる。ニッポンは広い。このステキなステージに立てたことを心の底から感謝したい。
やましょうが遅れる。小さなピーク、ここで待とう、と私達は脚を止め、ここまでご一緒したガリビエたちを見送り、さらに後からスタートした蝉(CICADA United RIde)を見送る。後から後から、登ってくる他のチームの面々が立ち止まっている私達を見て「(チームメイトは)もうすぐ来ますよ」と教えてくれる。
このRapha Gentlemen's Race は各チーム5名が揃いのジャージを着るルールになっている。ロードレースの世界でチームジャージというのはあって当たり前なのだけれど、この『Race』と名前はついているものの、限りなく『チームサイクリング』のRGRに出ようか、というチームにとっては揃いのジャージ、というのもひとつのハードルであり、楽しみだ。チームによってはこの日に間に合わせるためにジャージのデザインを起こし、新調したところもある。もちろん、市販のものを5人で揃えて着るのもOKだ。
わたしたちTeam BNPは今回Rapha Japan のサポートを受け、この春夏の新作Souplesse Jerseyのブラック×ピンクを5人で着ている。前から見るとシンプル、後ろ姿のピンクのラインがとてもかっこいいジャージだ。
よって、参加者はお互い、ジャージでチームを認識する。遅れていたチームメイトが私達の仲間であることをジャージを見て教えてくれたというわけだ。やましょうが自転車を降り、押し歩いていた、ということも。
押して歩くほどのキツい勾配だったか…前半のこの時点でそれは…いやいや、先はまだ長い。今回は初参加のマリちゃんがいて、たっぷり12時間かけて完走、のプランだから、なんとかなる…?
やましょうは最初から「わたしは遅いけど、走り続けることはできるから、待たずに先へ行ってくれていい」と言っていた。彼女が言うその「遅い」がどれくらい遅いかを私が知ったのは本番直前だったが、彼女はこのRGRのエントリーは3度目、ハードなコース設定だったと参加者が口を揃えて言う京都を走り切っている。メンタルがタフなら、ココロが折れなければ、大丈夫なのだろう、と思い、信じた。
が、やはり放置というわけにもいかない。ピークでは脚のあるリーダーのちはるこ、わたしと脚がおなじくらいで不安のないにゃおちは脚を止め、やましょうを待つ。待つことで疲労するのが怖いマリちゃんには自分のペースで先へ行ってもらう。そんなペースができあがりつつあった。
スタートから13kmほどで最初のグラベル(未舗装路)を迎えた。私がRGRを走る上での唯一の難関だ。前回、野辺山のRGRでは約15kmのグラベルのほとんどを押し歩いてSPD-SLのクリートを石で削り、ペダルが嵌らなくなった。その反省から、少しでも早く『歩ける』ように、また歩いてクリートが削れることがないように、とマウンテンバイク用のシューズを手に入れ、ペダルをSPDに交換して小国へ臨んだ。けれど、やはりそこは自転車。乗って行けるなら乗って行ったほうが圧倒的に速い。
舗装路とグラベルでは身体の使い方がまったく違う。舗装路を自転車で走るのはどんなに登っていても、乗ってさえいれば、脚や呼吸が苦しいだけで、乗れない、登れない、ということにはならない。それがグラベルでは一変する。とにかく操作と荷重が繊細になる。路面が荒ければ荒いほど。苦しくなってダンシングしようと腰をうっかり上げようものなら、リアの荷重がすっぽぬけ、ペダルにかけた力が抜けてバランスを失う。ならば後ろ荷重のダンシングか、とハンドルを引けば勾配に負けてあわやウィリー…おっと…。
これもやはり練習、というか経験あってこそ。MTBとシクロクロスを楽しむ仲間がRGRを走るわたしたち友人に向けて設定してくれたグラベル練習会に参加させてもらい、振り返ればこの小国よりハードなグラベルを経験していたことが効果を発揮した。怖くないのだ。
分厚いゴムの土留め。見た目は鉄板のように見えるから、知らなければ脇へ避けるところだけれど、それは前輪を浮かせ気味にしてまっすぐ入れば向こうへ倒れてくれる。そういうことも、知っているのと知らないのとではストレスが違う。
これは…行けるぞ。
text:Miho.Ishii
—どうしてわたしたちは、完走できなかったんだろうな。
Rapha Gentlemen's Race Oguni。コース距離137km 獲得標高3000mは、そのスペックだけで充分苦しめそうではあるけれど、決して無理な設定ではないと思ってたのに。
主催のスタッフ、この後にスタートを控えている参加者たちに華々しく見送られ、わたしたちTeam BNPは一番手としてスタートした直後、一つ目の曲がり角の左右を間違えたところからバタバタした。その犯人はたぶんわたしで、大爆笑のスタートになった。おいおい、先が思いやられるぜ、と言ってもこのときはまだ笑っていられた。
さらにその直後、スタートでの撮影用に脱いだウィンドブレーカーを再び着るのにファスナーが壊れ、丸めて背中に入れたそいつがポケットからこぼれ落ち、リアディレイラーに絡まって停止したマリちゃん。
ライダーとして初参加の彼女は笑顔で話してはいても、どこか緊張の取れない感じで、長く生きてると誰でも経験する『今日はマリちゃんの日』になってるんだろうな、と思わせた。
それはいい意味、悪い意味両方あって、今日、この時点においてはトラブルメイカー、の意である。でも、だからといってそれがネガティブに働くかというと決してそうではない。本人の心のありようと工夫に加えて、チームの仲間の助け合いで軽々とクリアしてこの一日のライドを楽しく過ごす。それがGentlemen's Race なのだから、何もないよりはあった方が『それらしい』というのは間違いない。
リアディレイラーとスプロケの間に絡まったウィンドブレーカーは私たちの次にスタートしたガリビエ部の面々が追いつき、助けてくれた。ジェントルマンはここにいた。マリちゃんが人妻でなければ恋のひとつも芽生えたかもしれない。それがGentlemen's Race。(ちがうそうじゃない、でもそうかもしれない)
ファスナーは壊れたけど、峠の下りでは着たい局面があるだろう。前後逆にして着ればいいから、とにゃおちが優しく賢い提案をして「このウィンドブレーカーもう捨てたいわ!」と吠えるマリちゃんをたしなめる。ナイスチームプレイ。
ここで3チームがジョイン。さらにその次にスタートしたMOZU COFFEEも合わせて、少し大きな集団で最初の小さな登りに入る。狭い林道は鬱蒼として、雨上がりの湿気と土に還る落ち葉の匂い、木々から朝の気をぎゅーっと溜め込んだ空気、酸素が濃い。この濃い空気、吸えば吸うほど、身体のすみずみにまで沁み渡るようだ。みんな口々に「気持ちいいねー」「いい道だねー」と小国の朝を楽しんでいる。来て良かった。スタートしてわずか20分でそう思える。いや、スタートして20分だから、そう思えたのか。
ぎっしりと杉が密集する木立に徐々に朝日がさしてくる。美しい。手を加えた映像で見ているかのような美しい光をフィルターなしで感じている。現実を離れ、特別な世界に脚を踏み入れたような気すらしてくる。ニッポンは広い。このステキなステージに立てたことを心の底から感謝したい。
やましょうが遅れる。小さなピーク、ここで待とう、と私達は脚を止め、ここまでご一緒したガリビエたちを見送り、さらに後からスタートした蝉(CICADA United RIde)を見送る。後から後から、登ってくる他のチームの面々が立ち止まっている私達を見て「(チームメイトは)もうすぐ来ますよ」と教えてくれる。
このRapha Gentlemen's Race は各チーム5名が揃いのジャージを着るルールになっている。ロードレースの世界でチームジャージというのはあって当たり前なのだけれど、この『Race』と名前はついているものの、限りなく『チームサイクリング』のRGRに出ようか、というチームにとっては揃いのジャージ、というのもひとつのハードルであり、楽しみだ。チームによってはこの日に間に合わせるためにジャージのデザインを起こし、新調したところもある。もちろん、市販のものを5人で揃えて着るのもOKだ。
わたしたちTeam BNPは今回Rapha Japan のサポートを受け、この春夏の新作Souplesse Jerseyのブラック×ピンクを5人で着ている。前から見るとシンプル、後ろ姿のピンクのラインがとてもかっこいいジャージだ。
よって、参加者はお互い、ジャージでチームを認識する。遅れていたチームメイトが私達の仲間であることをジャージを見て教えてくれたというわけだ。やましょうが自転車を降り、押し歩いていた、ということも。
押して歩くほどのキツい勾配だったか…前半のこの時点でそれは…いやいや、先はまだ長い。今回は初参加のマリちゃんがいて、たっぷり12時間かけて完走、のプランだから、なんとかなる…?
やましょうは最初から「わたしは遅いけど、走り続けることはできるから、待たずに先へ行ってくれていい」と言っていた。彼女が言うその「遅い」がどれくらい遅いかを私が知ったのは本番直前だったが、彼女はこのRGRのエントリーは3度目、ハードなコース設定だったと参加者が口を揃えて言う京都を走り切っている。メンタルがタフなら、ココロが折れなければ、大丈夫なのだろう、と思い、信じた。
が、やはり放置というわけにもいかない。ピークでは脚のあるリーダーのちはるこ、わたしと脚がおなじくらいで不安のないにゃおちは脚を止め、やましょうを待つ。待つことで疲労するのが怖いマリちゃんには自分のペースで先へ行ってもらう。そんなペースができあがりつつあった。
スタートから13kmほどで最初のグラベル(未舗装路)を迎えた。私がRGRを走る上での唯一の難関だ。前回、野辺山のRGRでは約15kmのグラベルのほとんどを押し歩いてSPD-SLのクリートを石で削り、ペダルが嵌らなくなった。その反省から、少しでも早く『歩ける』ように、また歩いてクリートが削れることがないように、とマウンテンバイク用のシューズを手に入れ、ペダルをSPDに交換して小国へ臨んだ。けれど、やはりそこは自転車。乗って行けるなら乗って行ったほうが圧倒的に速い。
舗装路とグラベルでは身体の使い方がまったく違う。舗装路を自転車で走るのはどんなに登っていても、乗ってさえいれば、脚や呼吸が苦しいだけで、乗れない、登れない、ということにはならない。それがグラベルでは一変する。とにかく操作と荷重が繊細になる。路面が荒ければ荒いほど。苦しくなってダンシングしようと腰をうっかり上げようものなら、リアの荷重がすっぽぬけ、ペダルにかけた力が抜けてバランスを失う。ならば後ろ荷重のダンシングか、とハンドルを引けば勾配に負けてあわやウィリー…おっと…。
これもやはり練習、というか経験あってこそ。MTBとシクロクロスを楽しむ仲間がRGRを走るわたしたち友人に向けて設定してくれたグラベル練習会に参加させてもらい、振り返ればこの小国よりハードなグラベルを経験していたことが効果を発揮した。怖くないのだ。
分厚いゴムの土留め。見た目は鉄板のように見えるから、知らなければ脇へ避けるところだけれど、それは前輪を浮かせ気味にしてまっすぐ入れば向こうへ倒れてくれる。そういうことも、知っているのと知らないのとではストレスが違う。
これは…行けるぞ。
text:Miho.Ishii
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