2014/05/23(金) - 08:58
「三船雅彦さんと行くツール・デ・フランドル観戦ツアー」の一行は、いよいよツアーメニューのメインイベント、ロンド市民レースに参加する。パヴェを自ら走って体験するという贅沢な一日だ。
この市民レースはロンド・ファン・フラーンデレン・シクロ(略してRVV Cyclo)。プロのレースの前日の土曜日に、ロンドのコースを実際に使って行われる一般市民向けのイベントだ。
コースは3つ。プロレースとほぼ同じコースを走る245km(出発はBrugge)、半分の134km、プロレースの周回部分を中心とした75km(いずれも出発はオウデナールデ)があって、今回のツアーでは全員が揃って75kmにエントリーした。75kmコースは短いながらも、プロレースで使用されるコースの前半部の舗装区間はカットして、有名なパヴェを集中的に走れる、「オイシイとこどり」のコースというわけだ。
朝7時前にブルージュのホテルを出発。バスに乗って、スタート地点のオウデナールデへと向かった。街の中心のスタート地点にレジストレーションがあり、受け付けを済ませる。それにしても信じられないぐらいの大勢の参加者が集まっている。もっとも多い245kmコースの参加者はブルージュのスタートだが、3つのクラスを合わせたイベント総参加者数は16,000人に上るという。まさに自転車大国ベルギーだ。
75kmの部も距離が短いとはいえ、コースには石畳も激坂もあるので、皆が少々緊張気味だ。スタートは準備ができた人から出発していく三々五々形式。皆で記念撮影をしてから走り出す。
日本から出発前日に、日本の自転車界の師匠とも言える森幸春さんが亡くなった。森さんに憧れて自転車選手になった三船さん、公私ともにお世話になったCW綾野、森さんとテクニック本をつくってきたバイシクルクラブの山口さんが中心となって、スタート前に森さんの追悼を行う。森さんは2008年にこの市民レースの265kmコースを走っている。今回は森さんが生前にかぶっていたヘルメットも連れてきたのだ。
天気は良いが、少し肌寒いフランドル地方らしい気候のなかスタート。我々20人のグループもゆっくりとペダルを進める。
川沿いのサイクリングロードを走るうちに身体が温まってきた。オウデナールデはロンド・ファン・フラーンデレンのゴール地点になっている街で田舎にあるので、すぐにのどかな風景が広がる。第1補給ポイントではストロープワッフルやベルギーのお菓子が登場。さっそくフランドルらしい味を楽しめた。
そしていよいよ、最初に出てくるパヴェ区間はコッペンベルグだ。このフランドルいち有名な激坂の石畳は、なかほどで急に斜度を増してサイクリストを苦しめる。プロ選手さえ足を着くシーンがTVで観られる急勾配のうえに、参加者たちで渋滞していて大変! 歩き出した人の間をすり抜けて走り、荒れた石畳の凹凸にタイヤを取られて思わずストップしてしまう。上まで登りきれるのは一握りの人だけだ。
しかし乗りきれるかどうかの腕・脚だめしを強いられているようで、この悪戦苦闘がなんとも面白い!
そして贅沢なのは三船さんによるナマのフランドル解説。過去の名勝負のシーンから、三船さんが過ごした選手時代のこと、パヴェを走りぬくテクニックや機材のことなど、生で解説してもらいながら一緒に走れるのは参加者だけの特権だ。2009年と2001年の2度のロンド出場を経験している、そしてこの地を知り尽くしている三船さんならではの話が聞けて、参加者たちも大興奮だ。
ちなみに75kmコースに登場する、主に6つのパヴェ区間は次のとおりだ。
コッペンベルグ(Koppenberg 距離600m、平均斜度11.6%、最大斜度22%)
ステーンビークドリシュ(Steenbeekdries 距離700m、平均斜度5.3%、最大斜度6.7%)
ターインベルグ(Taaienberg 距離530m、平均斜度6.6%、最大斜度15.8%)
クルイシュベルグ(Kruisberg 距離2500m、平均斜度5.0%、最大斜度9.0%
オウデクワレモント(Oude Kwaremont 距離2200m、平均斜度4.0%、最大斜度11.6%)
パーテルベルグ( Paterberg 距離360m、平均斜度12.9%、最大斜度20.3%
参加者たちは今回リドレー・ベルギー本社の用意したレンタルバイクを駆って走っている。多くがヘリウムというモデルで、カンパのEPSを始めとした上級グレードのコンポつき車種! だからタフな石畳走行にもばっちり対応してくれる。(レンタル料は150ユーロだったが、これはちなみに日本からバイクを運ぶ往復輸送量よりもすいぶん安い)
パヴェをこなすうち、参加者たちも走り方のコツを体得してきたようだ。三船さんには前夜にペダリングや空気圧セットのコツを伝授してもらったから、その言葉どおりの走りで上達が早いようだった。
日差しはさんさんと降り注ぐが、気温が低くてウインドブレイカーを脱ぐことがななかなできない。石畳に苦戦しながらも、順調に進む。距離が短いので完走できるかどうかを心配することはないので、皆が余裕たっぷりで走っている。
エイドステーションに到着すると、三船さんを見つけて駆け寄ってきた人が。なんとその人はヨハン・ムセーウ! ロンド・ファン・フラーンデレンとパリ〜ルーベをそれぞれ3回制覇している「フランドルのライオン」の異名をとるレジェンドだ。しばし談笑しながら近況を話しあう2人。ムセーウ自身が三船さんを見つけて駆け寄ってくるあたり、三船さんが現役時代に選手としてムセーウにも認められていたことがわかる。
ムセーウは自身の仲間たちのクラブチームを率いて走っていた。明日の本番のプロレースではもちろんレジェンドとしてTVに出演したりロンドのアンバサダー役としての役割があるが、前日の市民レースはこうして仲間たちと走って楽しむというのがいつものスタイルとのことだ。
ムセーウのグループと一緒にしばらく走る。ベルギーのサイクリストたちは皆陽気で、しかも速い! 曲がりくねった細道で参加者の後藤さんが路肩の段差にタイヤを取られて落車してしまう。
幸い怪我は大したことなかったけれど、どうやら後藤さん、すぐ前を走るムセーウに気を取られてしまっていたみたいだ。
ダメージを受けてパンクしたタイヤを修理して再び走りだす。いよりよオウデクワレモントに取りつき、ここから先はロンド・ファン・フラーンデレンのハイライトの周回コースだ(ただし回るのは1周)。
2.2㎞と距離が長い登りのパヴェのオウデクワレモントをこなし、続くはロンドの最後の勝負どころとなるパーテルベルグ。昨年のレースのカンチェラーラがサガンを引き離すシーンを思い出しながら、思わず「スパルタクスごっこ」よろしくアタックを掛けてみる。勾配を体感すれば、プロレーサーたちのフィジカルの強さやテクニックの凄さを身を持って理解できる。
パーテルベルグを越えると、後は8kmの平坦路をこなしてゴールへ。もちろん最後はお約束のスプリントごっこ。明日のプロレースのゴール地点の設置はすでに終わり、選手と同じアングルでゴールに飛び込むことができる。気分は最高だ。
しかし、市民レースのゴール地点はここではなく、少し離れたスタート地点近く。そこに行くまでにコースの「→」サインを見逃してしまい、7人で走っていたグループ全員が少々道に迷うことに(笑)。
ぐるりと遠回りをしてゴールしたオウデナールデの街の中心部では、走り終えた参加者たちがバーのオープンテラスや広場に思い思いに陣取って、ベルギービールを片手に楽しくワイワイやっている。
広場では表彰台が設置され、そのポディウムに上っての記念撮影サービスがある。なんとレースクイーンによる両脇からビズー(キッス)つきだ。
三船さんはここでもMCに大々的に紹介され、この地での有名度を証明してくれた。僕たちはRVV博物館のすぐ隣りのレストランに入り、乾杯。このレストランの店内にはレトロなレーサージャージが飾られていた。
心地よい疲労とベルギービールによるほろ良い気分に身を任せ、食事を終えた一行はすぐ隣りのCentrum RVVへ。この「ロンド・ファン・フラーンデレン博物館」は、自転車博物館というだけでなく、レースのロンド・ファン・フラーンデレンについての博物館。ロンドの歴史は言うに及ばず、歴代の優勝選手の系譜や、自転車、昔使われたジャージや用品、報道陣の装備や機材など、ロンドについてのありとあらゆることがわかる博物館だ。いちレースの博物館があるベルギーはやっぱり自転車大国だ!
ロンド・ファン・フラーンデレン博物館を見学
駆け足の見物を終え、ブルージュのホテルに帰った一行は完走祝いに夜のブルージュへ。参加者の中には新婚さんカップルもいるので、少し奮発して有名・高級レストランに皆で行こうということになった。
夜景のとびっきり綺麗なブルージュ。そのなかでもとくに有名な運河の隣にあるレストランへ。フランドル風牛肉のビール煮などの美味しいコース料理を堪能しつつ、楽しい夜はふけるのだった。話題は明日のプロレースで誰が勝つのか? 三船さんの解説・予想を聞きながら、コースのどの場所で観戦しようかと楽しく相談しあうのだった。
photo&text:Makoto.AYANO
フォトギャラリー2(picasaアルバム)
この市民レースはロンド・ファン・フラーンデレン・シクロ(略してRVV Cyclo)。プロのレースの前日の土曜日に、ロンドのコースを実際に使って行われる一般市民向けのイベントだ。
コースは3つ。プロレースとほぼ同じコースを走る245km(出発はBrugge)、半分の134km、プロレースの周回部分を中心とした75km(いずれも出発はオウデナールデ)があって、今回のツアーでは全員が揃って75kmにエントリーした。75kmコースは短いながらも、プロレースで使用されるコースの前半部の舗装区間はカットして、有名なパヴェを集中的に走れる、「オイシイとこどり」のコースというわけだ。
朝7時前にブルージュのホテルを出発。バスに乗って、スタート地点のオウデナールデへと向かった。街の中心のスタート地点にレジストレーションがあり、受け付けを済ませる。それにしても信じられないぐらいの大勢の参加者が集まっている。もっとも多い245kmコースの参加者はブルージュのスタートだが、3つのクラスを合わせたイベント総参加者数は16,000人に上るという。まさに自転車大国ベルギーだ。
75kmの部も距離が短いとはいえ、コースには石畳も激坂もあるので、皆が少々緊張気味だ。スタートは準備ができた人から出発していく三々五々形式。皆で記念撮影をしてから走り出す。
日本から出発前日に、日本の自転車界の師匠とも言える森幸春さんが亡くなった。森さんに憧れて自転車選手になった三船さん、公私ともにお世話になったCW綾野、森さんとテクニック本をつくってきたバイシクルクラブの山口さんが中心となって、スタート前に森さんの追悼を行う。森さんは2008年にこの市民レースの265kmコースを走っている。今回は森さんが生前にかぶっていたヘルメットも連れてきたのだ。
天気は良いが、少し肌寒いフランドル地方らしい気候のなかスタート。我々20人のグループもゆっくりとペダルを進める。
川沿いのサイクリングロードを走るうちに身体が温まってきた。オウデナールデはロンド・ファン・フラーンデレンのゴール地点になっている街で田舎にあるので、すぐにのどかな風景が広がる。第1補給ポイントではストロープワッフルやベルギーのお菓子が登場。さっそくフランドルらしい味を楽しめた。
そしていよいよ、最初に出てくるパヴェ区間はコッペンベルグだ。このフランドルいち有名な激坂の石畳は、なかほどで急に斜度を増してサイクリストを苦しめる。プロ選手さえ足を着くシーンがTVで観られる急勾配のうえに、参加者たちで渋滞していて大変! 歩き出した人の間をすり抜けて走り、荒れた石畳の凹凸にタイヤを取られて思わずストップしてしまう。上まで登りきれるのは一握りの人だけだ。
しかし乗りきれるかどうかの腕・脚だめしを強いられているようで、この悪戦苦闘がなんとも面白い!
そして贅沢なのは三船さんによるナマのフランドル解説。過去の名勝負のシーンから、三船さんが過ごした選手時代のこと、パヴェを走りぬくテクニックや機材のことなど、生で解説してもらいながら一緒に走れるのは参加者だけの特権だ。2009年と2001年の2度のロンド出場を経験している、そしてこの地を知り尽くしている三船さんならではの話が聞けて、参加者たちも大興奮だ。
ちなみに75kmコースに登場する、主に6つのパヴェ区間は次のとおりだ。
コッペンベルグ(Koppenberg 距離600m、平均斜度11.6%、最大斜度22%)
ステーンビークドリシュ(Steenbeekdries 距離700m、平均斜度5.3%、最大斜度6.7%)
ターインベルグ(Taaienberg 距離530m、平均斜度6.6%、最大斜度15.8%)
クルイシュベルグ(Kruisberg 距離2500m、平均斜度5.0%、最大斜度9.0%
オウデクワレモント(Oude Kwaremont 距離2200m、平均斜度4.0%、最大斜度11.6%)
パーテルベルグ( Paterberg 距離360m、平均斜度12.9%、最大斜度20.3%
参加者たちは今回リドレー・ベルギー本社の用意したレンタルバイクを駆って走っている。多くがヘリウムというモデルで、カンパのEPSを始めとした上級グレードのコンポつき車種! だからタフな石畳走行にもばっちり対応してくれる。(レンタル料は150ユーロだったが、これはちなみに日本からバイクを運ぶ往復輸送量よりもすいぶん安い)
パヴェをこなすうち、参加者たちも走り方のコツを体得してきたようだ。三船さんには前夜にペダリングや空気圧セットのコツを伝授してもらったから、その言葉どおりの走りで上達が早いようだった。
日差しはさんさんと降り注ぐが、気温が低くてウインドブレイカーを脱ぐことがななかなできない。石畳に苦戦しながらも、順調に進む。距離が短いので完走できるかどうかを心配することはないので、皆が余裕たっぷりで走っている。
エイドステーションに到着すると、三船さんを見つけて駆け寄ってきた人が。なんとその人はヨハン・ムセーウ! ロンド・ファン・フラーンデレンとパリ〜ルーベをそれぞれ3回制覇している「フランドルのライオン」の異名をとるレジェンドだ。しばし談笑しながら近況を話しあう2人。ムセーウ自身が三船さんを見つけて駆け寄ってくるあたり、三船さんが現役時代に選手としてムセーウにも認められていたことがわかる。
ムセーウは自身の仲間たちのクラブチームを率いて走っていた。明日の本番のプロレースではもちろんレジェンドとしてTVに出演したりロンドのアンバサダー役としての役割があるが、前日の市民レースはこうして仲間たちと走って楽しむというのがいつものスタイルとのことだ。
ムセーウのグループと一緒にしばらく走る。ベルギーのサイクリストたちは皆陽気で、しかも速い! 曲がりくねった細道で参加者の後藤さんが路肩の段差にタイヤを取られて落車してしまう。
幸い怪我は大したことなかったけれど、どうやら後藤さん、すぐ前を走るムセーウに気を取られてしまっていたみたいだ。
ダメージを受けてパンクしたタイヤを修理して再び走りだす。いよりよオウデクワレモントに取りつき、ここから先はロンド・ファン・フラーンデレンのハイライトの周回コースだ(ただし回るのは1周)。
2.2㎞と距離が長い登りのパヴェのオウデクワレモントをこなし、続くはロンドの最後の勝負どころとなるパーテルベルグ。昨年のレースのカンチェラーラがサガンを引き離すシーンを思い出しながら、思わず「スパルタクスごっこ」よろしくアタックを掛けてみる。勾配を体感すれば、プロレーサーたちのフィジカルの強さやテクニックの凄さを身を持って理解できる。
パーテルベルグを越えると、後は8kmの平坦路をこなしてゴールへ。もちろん最後はお約束のスプリントごっこ。明日のプロレースのゴール地点の設置はすでに終わり、選手と同じアングルでゴールに飛び込むことができる。気分は最高だ。
しかし、市民レースのゴール地点はここではなく、少し離れたスタート地点近く。そこに行くまでにコースの「→」サインを見逃してしまい、7人で走っていたグループ全員が少々道に迷うことに(笑)。
ぐるりと遠回りをしてゴールしたオウデナールデの街の中心部では、走り終えた参加者たちがバーのオープンテラスや広場に思い思いに陣取って、ベルギービールを片手に楽しくワイワイやっている。
広場では表彰台が設置され、そのポディウムに上っての記念撮影サービスがある。なんとレースクイーンによる両脇からビズー(キッス)つきだ。
三船さんはここでもMCに大々的に紹介され、この地での有名度を証明してくれた。僕たちはRVV博物館のすぐ隣りのレストランに入り、乾杯。このレストランの店内にはレトロなレーサージャージが飾られていた。
心地よい疲労とベルギービールによるほろ良い気分に身を任せ、食事を終えた一行はすぐ隣りのCentrum RVVへ。この「ロンド・ファン・フラーンデレン博物館」は、自転車博物館というだけでなく、レースのロンド・ファン・フラーンデレンについての博物館。ロンドの歴史は言うに及ばず、歴代の優勝選手の系譜や、自転車、昔使われたジャージや用品、報道陣の装備や機材など、ロンドについてのありとあらゆることがわかる博物館だ。いちレースの博物館があるベルギーはやっぱり自転車大国だ!
ロンド・ファン・フラーンデレン博物館を見学
駆け足の見物を終え、ブルージュのホテルに帰った一行は完走祝いに夜のブルージュへ。参加者の中には新婚さんカップルもいるので、少し奮発して有名・高級レストランに皆で行こうということになった。
夜景のとびっきり綺麗なブルージュ。そのなかでもとくに有名な運河の隣にあるレストランへ。フランドル風牛肉のビール煮などの美味しいコース料理を堪能しつつ、楽しい夜はふけるのだった。話題は明日のプロレースで誰が勝つのか? 三船さんの解説・予想を聞きながら、コースのどの場所で観戦しようかと楽しく相談しあうのだった。
photo&text:Makoto.AYANO
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