2014/04/07(月) - 09:04
国内・海外でプロレーサーとして活躍した西薗良太さんを講師に「レースを楽しむためのトレーニングセミナー」が開催された。プロトン内でも理論派として知られてきた「東大卒レーサー」による貴重なイベントの模様をレポートする。
2013シーズンでプロ生活を引退した元プロロードレーサーの西薗良太さんを講師に迎え、東京・青山のお洒落なカフェを貸しきって開催された「レースを楽しむためのトレーニングセミナー」。「プロのとしての経験をフィードバックしていきたい」という思いの基に開催されたイベントだ。
主催はオーダーウェアを取り扱うチャンピオンシステム・ジャパン。本イベントが開催された経緯について「昨シーズンまでプロコンチネンタルチームのチャンピオンシステムに所属していたことから親交があり、西薗さんから”選手生活の中で得た経験や知恵を様々なサイクリストにフィードバックしたい”という話を聞いて、チャンピオンシステムが主催する形でやってみてはと打診しました。」と同社代表の棈木亮二さんは語る。
西薗さんは東京大学在学中の2009年にインカレで個人ロードレースとタイムトライアルの2冠を達成し、2011年にシマノレーシングでプロ選手としての道を歩き出す。2012年はブリヂストンアンカーで走り、全日本選手権TT王者を獲得。2013年にはチャンピオンシステムに移籍し世界を舞台に走った。現在はフルタイムワーカーとして一般企業に働きながら、チャンピオンシステムコーポーレートチームのライダーとして実業団に参戦している。
今回のイベントに集まった35名。カテゴリーやスキルの違いはあれど、多くの方がレース経験者。中には上位カテゴリーで活躍するトップレーサーや、遠路はるばる岡山県から駆けつけたという熱心な参加者も。棈木さんによれば募集開始から1日でほとんどの席が埋まったそうだ。
セミナーの趣旨は「”レースを楽しむ”=”展開の中に加わる”ためには、どの様なトレーニングをすれば良いのか」というもの。ビギナーから脱却したいホビーレーサーが主な対象だ。しかしながら、プロ選手の内でも「理論派」「研究肌」として知られた西薗さんの講義は経験豊富な上級者をも満足させる程の内容となった。
講義は「持続時間」「強度」「スキル」「戦略」の4つのファクターに分けて考え、それぞれをどの様に強化するかと展開された。「自転車競技を筋道を立てながらレクチャーするのは難しいですね」と西薗さんは前置きしながらも、その内容には「東大卒レーサー」ならではのインテリジェンスを感じる。
持続時間と強度に関する部分。やはり高額なパワーメーターやトレーニングメニューをこなしやすい走行環境が理想としながらも、現実的な環境で代替できる指標やトレーニング方法などを編み出しているという。
一方で「スキル」「戦略」には選手生活の中で培ってきた経験やノウハウも織り交ぜられた。やはりレースで強くなるためには「レースに参加すること」が重要とし、勝ち負けを考えずに逃げることを推奨する。西薗さんは「逃げ続ける方法やその時のペース配分を考えることが"レースを楽しむことに繋がる"」と言う。
講義中は西薗さんがプロ時代に計測したトレーニング中の出力(ワット)や、参考としていた研究データなどがスクリーンに映し出されていった。ボイスレコーダで録音したり、メモをとる方も多く、講義中から会場は参加者の熱気で溢れていた。
講義の最後には質疑応答が行なわれ、それぞれがトレーニングに関する悩みや疑問を解決し今回のセミナーの理解度をさらに深めることが出来たようだ。そしてチャンピオンシステムの豊富なラインナップを用いたレースに最適なウェアコーディネートのレクチャーが行なわれイベントは終了。参加者の皆さんは満足気な表情で会場を後にした。
ここからは、質疑応答の中からこのページをご覧の皆さんにもタメになる内容をピックアップしてお届けする。
ー体幹トレーニングに加え、筋力トレーニングは有効なのでしょうか?
まず、プロの場合はマシンを使ってトレーニングすることはほとんどありません。その理由は恐らく移動時間が多く常に使えるジムが無いから、そして自転車の上で筋力トレーニングを行える時間が確保しやすいからでしょう。ただ、中々トレーニング時間を捻出できない社会人レーサーであれば集中的に筋肉に負荷を掛ける時間があると、効率良く強くなれるはずです。
ーヒルクライムに合わせたトレーニングがしたいのですが、長時間中強度の実行できる場所がありません。
中時間中強度を繰り返し、坂から下ってすぐに昇り返すことで同等の効果を得ることが出来ます。練習を始める前にはレースで目標とするタイムから必要な出力を明確化します。最初は短時間でも良いその出力で走ることを心がけ、次第に必要な出力を維持しながら走れる時間を伸ばしていくと目標タイムを達成できるでしょう。これはタイムトライアルでも同じことが言えますね。とにかく、目標出力を出せることが重要です。
ーメリハリを着けたトレーニング以外にもLSDは重要なのでしょうか?
LSDは確実に有効ですね。高負荷トレーニングでは「○○○wで○分」と目標を設定しても実際には続かずに失敗することが多いですが、低負荷長時間は比較的成功しやすいというのが、その理由です。目標とした値に対する成功率が低くすぎる結果としてトレーニングの質自体が低下することも有ります。
また、低負荷の場合には理想的なライディングポジションを維持することができ、結果的には体幹トレーニングにもなります。恐らくプロ選手が冬場に乗り込むのも、結果的に体幹が鍛えられるからだと思います。
ー体重管理に関する基本的な考え方や工夫を教えて下さい。
沢山トレーニングをすれば、美味しくて健康的なものであれば何を食べても問題ないです。プロ選手は節制して味気ない食事をしていると思われがちですが、実際にはそんなことは無いですし、疲労によって食べれなくなることのほうが問題です。しかし、社会人レーサーの場合には消費カロリーが少なくなるので、コントロールは必要でしょう。
基本的にはカロリー収支がマイナスになっていることが必須です。それでもお腹はへりますから、同じカロリーで如何にボリュームを稼いで満足感を高めるかを工夫してみると良いでしょう。ちなみに数値での管理は気が狂いそうになるのでオススメしません(笑)し、プロでも数値管理できている選手は中々いません。
西薗良太、伊藤杏菜が加り体制を強化したチャンピオンシステムコーポレートチーム
イベントの冒頭では今季のチャンピオンシステムコーポレートチームの体制発表が行なわれた。西薗良太と、Ready Go Japanから移籍の伊藤杏菜がサポートライダーとして新規加入。春から秋にかけてはE1からE3まで7人体制でJBCFロードレースに、冬は数名がシクロクロスに参戦する。活動の詳細はチーム公式サイト、もしくはチャンピオンシステムジャパンのFacebookページから確認することができる。
大盛況のうちに終わった「レースを楽しむためのトレーニングセミナー」。講義の内容はもちろんのこと、最新のトレーニングに精通する西薗さんとの質疑応答は非常に有益だと感じた。今後は都内を中心に年2~3回程の開催を予定しているとのこと。次回開催時には奮って参加してみては如何だろうか。
text&photo:Yuya.Yamamoto
2013シーズンでプロ生活を引退した元プロロードレーサーの西薗良太さんを講師に迎え、東京・青山のお洒落なカフェを貸しきって開催された「レースを楽しむためのトレーニングセミナー」。「プロのとしての経験をフィードバックしていきたい」という思いの基に開催されたイベントだ。
主催はオーダーウェアを取り扱うチャンピオンシステム・ジャパン。本イベントが開催された経緯について「昨シーズンまでプロコンチネンタルチームのチャンピオンシステムに所属していたことから親交があり、西薗さんから”選手生活の中で得た経験や知恵を様々なサイクリストにフィードバックしたい”という話を聞いて、チャンピオンシステムが主催する形でやってみてはと打診しました。」と同社代表の棈木亮二さんは語る。
西薗さんは東京大学在学中の2009年にインカレで個人ロードレースとタイムトライアルの2冠を達成し、2011年にシマノレーシングでプロ選手としての道を歩き出す。2012年はブリヂストンアンカーで走り、全日本選手権TT王者を獲得。2013年にはチャンピオンシステムに移籍し世界を舞台に走った。現在はフルタイムワーカーとして一般企業に働きながら、チャンピオンシステムコーポーレートチームのライダーとして実業団に参戦している。
今回のイベントに集まった35名。カテゴリーやスキルの違いはあれど、多くの方がレース経験者。中には上位カテゴリーで活躍するトップレーサーや、遠路はるばる岡山県から駆けつけたという熱心な参加者も。棈木さんによれば募集開始から1日でほとんどの席が埋まったそうだ。
セミナーの趣旨は「”レースを楽しむ”=”展開の中に加わる”ためには、どの様なトレーニングをすれば良いのか」というもの。ビギナーから脱却したいホビーレーサーが主な対象だ。しかしながら、プロ選手の内でも「理論派」「研究肌」として知られた西薗さんの講義は経験豊富な上級者をも満足させる程の内容となった。
講義は「持続時間」「強度」「スキル」「戦略」の4つのファクターに分けて考え、それぞれをどの様に強化するかと展開された。「自転車競技を筋道を立てながらレクチャーするのは難しいですね」と西薗さんは前置きしながらも、その内容には「東大卒レーサー」ならではのインテリジェンスを感じる。
持続時間と強度に関する部分。やはり高額なパワーメーターやトレーニングメニューをこなしやすい走行環境が理想としながらも、現実的な環境で代替できる指標やトレーニング方法などを編み出しているという。
一方で「スキル」「戦略」には選手生活の中で培ってきた経験やノウハウも織り交ぜられた。やはりレースで強くなるためには「レースに参加すること」が重要とし、勝ち負けを考えずに逃げることを推奨する。西薗さんは「逃げ続ける方法やその時のペース配分を考えることが"レースを楽しむことに繋がる"」と言う。
講義中は西薗さんがプロ時代に計測したトレーニング中の出力(ワット)や、参考としていた研究データなどがスクリーンに映し出されていった。ボイスレコーダで録音したり、メモをとる方も多く、講義中から会場は参加者の熱気で溢れていた。
講義の最後には質疑応答が行なわれ、それぞれがトレーニングに関する悩みや疑問を解決し今回のセミナーの理解度をさらに深めることが出来たようだ。そしてチャンピオンシステムの豊富なラインナップを用いたレースに最適なウェアコーディネートのレクチャーが行なわれイベントは終了。参加者の皆さんは満足気な表情で会場を後にした。
ここからは、質疑応答の中からこのページをご覧の皆さんにもタメになる内容をピックアップしてお届けする。
ー体幹トレーニングに加え、筋力トレーニングは有効なのでしょうか?
まず、プロの場合はマシンを使ってトレーニングすることはほとんどありません。その理由は恐らく移動時間が多く常に使えるジムが無いから、そして自転車の上で筋力トレーニングを行える時間が確保しやすいからでしょう。ただ、中々トレーニング時間を捻出できない社会人レーサーであれば集中的に筋肉に負荷を掛ける時間があると、効率良く強くなれるはずです。
ーヒルクライムに合わせたトレーニングがしたいのですが、長時間中強度の実行できる場所がありません。
中時間中強度を繰り返し、坂から下ってすぐに昇り返すことで同等の効果を得ることが出来ます。練習を始める前にはレースで目標とするタイムから必要な出力を明確化します。最初は短時間でも良いその出力で走ることを心がけ、次第に必要な出力を維持しながら走れる時間を伸ばしていくと目標タイムを達成できるでしょう。これはタイムトライアルでも同じことが言えますね。とにかく、目標出力を出せることが重要です。
ーメリハリを着けたトレーニング以外にもLSDは重要なのでしょうか?
LSDは確実に有効ですね。高負荷トレーニングでは「○○○wで○分」と目標を設定しても実際には続かずに失敗することが多いですが、低負荷長時間は比較的成功しやすいというのが、その理由です。目標とした値に対する成功率が低くすぎる結果としてトレーニングの質自体が低下することも有ります。
また、低負荷の場合には理想的なライディングポジションを維持することができ、結果的には体幹トレーニングにもなります。恐らくプロ選手が冬場に乗り込むのも、結果的に体幹が鍛えられるからだと思います。
ー体重管理に関する基本的な考え方や工夫を教えて下さい。
沢山トレーニングをすれば、美味しくて健康的なものであれば何を食べても問題ないです。プロ選手は節制して味気ない食事をしていると思われがちですが、実際にはそんなことは無いですし、疲労によって食べれなくなることのほうが問題です。しかし、社会人レーサーの場合には消費カロリーが少なくなるので、コントロールは必要でしょう。
基本的にはカロリー収支がマイナスになっていることが必須です。それでもお腹はへりますから、同じカロリーで如何にボリュームを稼いで満足感を高めるかを工夫してみると良いでしょう。ちなみに数値での管理は気が狂いそうになるのでオススメしません(笑)し、プロでも数値管理できている選手は中々いません。
西薗良太、伊藤杏菜が加り体制を強化したチャンピオンシステムコーポレートチーム
イベントの冒頭では今季のチャンピオンシステムコーポレートチームの体制発表が行なわれた。西薗良太と、Ready Go Japanから移籍の伊藤杏菜がサポートライダーとして新規加入。春から秋にかけてはE1からE3まで7人体制でJBCFロードレースに、冬は数名がシクロクロスに参戦する。活動の詳細はチーム公式サイト、もしくはチャンピオンシステムジャパンのFacebookページから確認することができる。
大盛況のうちに終わった「レースを楽しむためのトレーニングセミナー」。講義の内容はもちろんのこと、最新のトレーニングに精通する西薗さんとの質疑応答は非常に有益だと感じた。今後は都内を中心に年2~3回程の開催を予定しているとのこと。次回開催時には奮って参加してみては如何だろうか。
text&photo:Yuya.Yamamoto
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