2014/02/16(日) - 09:10
新しく迎えた2014年。やはり今年も、私たち編集部の実走取材初めは”美ら島オキナワ・センチュリーラン”で幕を開ける。新年早々のリゾートライドに心躍る初業務なのだが、昨年同様に今回も重苦しい空気が漂っている。もちろん、あの男の存在が原因なのは言うまでもない。
昨年の夏以降、私たちの取材にぱったりと姿を見せなくなったメタボ会長。実は、ここ4ヶ月程はほとんど編集部に来ることも無く、稀に行く本店でもその姿を見かける事はまず無かったのだが…。そんな彼が満を持して再登場に選んだのがこのリゾートアイランド”美ら島沖縄”だ。
お約束通りの好天に恵まれた大会当日。過去あれほど悪天候に祟られてきた同大会だが、昨年に続き今回もメタボ会長が参戦する以上は天候が崩れる訳も無く、2大会連続の晴天予報だ。やはりメタボ会長の”晴れ男っぷり”は半端ない。ただし今回は北風10m/s予想のおまけ付きなのが残念ではあるが…。
早朝のスタート地点”恩納村コミュニティセンター”に参加者さんが続々と集まってくる。今年の参加は総勢2.000名超えだ。まだ薄暗い早朝7時、号砲とともに一斉にコースに飛び出す”センチュリー160kmコース”参加者の群れ。その笑顔溢れる集団を琉球太鼓が送り出してくれる。この中には編集部新人の山本の姿も紛れている。
一般参加者として走れば160kmコースも十分楽しめるのだが、実走取材となると様相は変わってくる。首からぶら下げた一眼レフがとにかく邪魔で仕方ない。とは言えシャッターチャンスを逃さない為には一眼レフをリュックに収納する訳にも行かず、良い絵柄を押さえる為に撮影ポイントではコースを行ったり来たり、おまけにエイドでは参加者さんのインタビュー取り等で、とても補給や休憩どころでは無い。つまり、余程のツワモノでも無い限り160kmの実走取材は”単なる拷問”に等しい作業なのだ。
従って、私たちベテラン編集部員が160kmコースの実走取材をそれとなく新人部員に押し付けるのも当然の成り行きと言えよう。幸いな事に、この沖縄の160kmコースはアップダウンが厳しくない事が彼にとってはせめてもの救いだろう…。そんな事情を露知らず、呑気にサムアップを繰り出しながら意気揚々とコースに躍り出る若者の後姿が哀れに思えてしまう。笑
白み始めた沖縄の空の下、160kmコースの参加者と共に遠ざかる新人山本を見送った2時間後の午前9時30分、私たちも颯爽とコースに躍り出る。もちろん、私たちベテランは今年も”古宇利島・桜100kmコース”の実走取材だ。
この100kmコースこそが、南国沖縄の魅力をたっぷりと堪能できて、難易度も高くないことから女性ライダーに大人気の素晴らしいコースなのだ。
まずは恩納村から名護を目指して海岸線を北上して行く。左側一面に広がる海岸線は国定公園にも指定されており、名だたるリゾートホテルが軒を並べている。これぞ南国沖縄に相応しい景観が私たちを迎えてくれるのだが、どうにも今回はアゲインストの風がきつい。とはいえ、やはり沖縄は暖かい。東京との温度差を思えば北風も苦にはならない。美しい海岸線を楽しみながら走る私たち。前を行く”黄色い弾丸”とも久し振りの並走である。
「会長、随分とお久し振りですね。ここしばらく、会長が取材にいらっしゃらないので、てっきり自転車には飽きられたのか思って、心から嬉し…いや心配してたんですよ。」作り笑顔で話しかける編集長に、メタボ会長が不機嫌な表情を浮かべながら応える。
「自転車に飽きるだって?飽きるどころか乗りたくてウズウズだったぞ!ほら、9月に東京五輪が決まっただろ?あれから一気に忙しくなって自転車どころじゃ無くなっちゃって、打合せやら会議やらで引っ張り廻されてたんだよ。今の建設業界は大変だからね。円安で輸入資材の価格が高騰、職人さん不足で人件費も高騰、挙句に4月からの消費税アップが重なってるもんだから、五輪関連は押し付け合いだよ。もはや誰にも解決の糸口が見えない。まったく困ったもんだろ?」
いやいや、そこまで具体的な愚痴をいきなり聞かされても、メディア事業部の私達にはコメントのしようが無い。そもそも建設業界の問題はそちらの事業部さんで解決頂きたいというのが私たちの本音だ。
「会長も案外大変なんですね。それで最終的にその問題とやらは何とかなりそうなんですか?」不用意に私が溢した一言にオヤジが噛み付く。
「案外ってなんだよ!私はいつでも大変なんだよ!でも今回の五輪事案はラチが明きそうにないから、”今後は全て社長に一任”ってことで一件落着にしたよ。そうでもしなきゃ私の身が際限無く拘束さちゃうからさ!たかだか仕事ごときで”日本一女性ライダーの多い素晴らしい大会”を欠席するなんて男としてどうなのよ?って話だろ?」
輝く笑顔で嬉しそうに語るメタボ会長ではあるが、この所業が職務放棄に当たる事だけは誰の目にも明らかだ。暫く逢わないうちに、彼の生き様でもある『他人に厳しく!自分に優しく!』と云うポリシーが更にパワーアップされている様子である。
”本当にこれで我社は大丈夫なのだろうか…?”一介のサラリーマンである私ですら疑念を禁じ得ない言動だ。そんな私の不穏な心中を慰めるかの様に、南国沖縄の暖かい日差しが私たちを包んでくれる。
名護市民会館エイドに立ち寄った私たちは本部循環道路の北上を続ける。相変わらずの向かい風が続くものの、まだまだ私たちの脚は軽い。本部大橋を越え、少し内陸に入った処で”田空の駅はーそーエイド”に立ち寄り、揚げ立てのサーターアンダギーでガッツリ栄養補給。その後も淡々と私たちは進む。いやいや今回の実走取材は恐ろしいほど順調だ。先ほどのエイドでサーターアンダーギーをたらふく補給したメタボ会長もすこぶる上機嫌のご様子だ。
具志堅交差点を通過した後も本部循環道路をひたすら進む。緩やかなアップダウンを繰り返しながら、今帰仁村役場先の”天底の坂”もすんなりクリア。それにしても今年のメタボ会長は「大人し過ぎる」のがどうにも気になる。いつもの彼なら、所々で私たち相手に”不意打ちアタック”を仕掛けてくるはずなのだが、此処までは全く動きが無い。まるで自分の身体を気遣っているかの様にも思えるほどの固定出力走法を続けるその姿がどうにも不気味だ。
平穏なサイクリングをこなした私たちはワルミ大橋脇の”橋の駅エイド”に滑り込む。このワルミ大橋こそは隠れた絶景ポイントでもあり、ここから見下ろす羽地内海と古宇利大橋は思わず見とれてしまうほどの美しい景観を醸し出してくれる。素晴らしい景観に心緩んだ私は、休憩中のメタボ会長に対し、あろうことか自然体で問いかけてしまった。「ところで、今年も会長の沖縄取材費用は消防事業部さん持ちなんですか?」そう!この言葉が後々自身を苦しめる事になるとも気付かずに。
「いいや、違うよ!君たちが書いてくれた変な記事のお陰で今年は全額自腹だよ。消防の責任者なんか怒っちゃって大変だったんだから!全く余計な記事を書いてくれるもんだから役員会で私の立場まで危うくなる所だったよ。もちろん腹いせに編集長の査定はガッツリ減点しといたけどな。ところで君は、あの迷惑極まりない記事を書いたのが誰だか知らないかな?」
メタボ会長のこの言葉に私の顔面が蒼白になった事は言うまでも無い。彼が自身に不利益を与えた犯人を知りたがっている事も明白な事実である。私の心を緩ませた”素晴らしい景観”を恨んでみた処で、後悔先に立たずの状況は変わらない。唯一の救いは、”どうやら彼は、私がメタボ担当という事実を知らない”と思える事だけである。意を決した私は消え入りそうな小声でこう答えるのが精一杯だった。
「詳しくは知りませんが、おそらく編集長か磯部あたりだと思いますが…。」
凍りつく時間の中で、ワルミ大橋から眼下に拡がる羽地内海と古宇利大橋を見つめながら”口は災いのもと”と云う諺の持つ重さをしみじみと噛みしめる私であった。
次回、”古宇利島・桜100kmコース”後編に続きます。
メタボ会長連載のバックナンバーは こちら です
昨年の夏以降、私たちの取材にぱったりと姿を見せなくなったメタボ会長。実は、ここ4ヶ月程はほとんど編集部に来ることも無く、稀に行く本店でもその姿を見かける事はまず無かったのだが…。そんな彼が満を持して再登場に選んだのがこのリゾートアイランド”美ら島沖縄”だ。
お約束通りの好天に恵まれた大会当日。過去あれほど悪天候に祟られてきた同大会だが、昨年に続き今回もメタボ会長が参戦する以上は天候が崩れる訳も無く、2大会連続の晴天予報だ。やはりメタボ会長の”晴れ男っぷり”は半端ない。ただし今回は北風10m/s予想のおまけ付きなのが残念ではあるが…。
早朝のスタート地点”恩納村コミュニティセンター”に参加者さんが続々と集まってくる。今年の参加は総勢2.000名超えだ。まだ薄暗い早朝7時、号砲とともに一斉にコースに飛び出す”センチュリー160kmコース”参加者の群れ。その笑顔溢れる集団を琉球太鼓が送り出してくれる。この中には編集部新人の山本の姿も紛れている。
一般参加者として走れば160kmコースも十分楽しめるのだが、実走取材となると様相は変わってくる。首からぶら下げた一眼レフがとにかく邪魔で仕方ない。とは言えシャッターチャンスを逃さない為には一眼レフをリュックに収納する訳にも行かず、良い絵柄を押さえる為に撮影ポイントではコースを行ったり来たり、おまけにエイドでは参加者さんのインタビュー取り等で、とても補給や休憩どころでは無い。つまり、余程のツワモノでも無い限り160kmの実走取材は”単なる拷問”に等しい作業なのだ。
従って、私たちベテラン編集部員が160kmコースの実走取材をそれとなく新人部員に押し付けるのも当然の成り行きと言えよう。幸いな事に、この沖縄の160kmコースはアップダウンが厳しくない事が彼にとってはせめてもの救いだろう…。そんな事情を露知らず、呑気にサムアップを繰り出しながら意気揚々とコースに躍り出る若者の後姿が哀れに思えてしまう。笑
白み始めた沖縄の空の下、160kmコースの参加者と共に遠ざかる新人山本を見送った2時間後の午前9時30分、私たちも颯爽とコースに躍り出る。もちろん、私たちベテランは今年も”古宇利島・桜100kmコース”の実走取材だ。
この100kmコースこそが、南国沖縄の魅力をたっぷりと堪能できて、難易度も高くないことから女性ライダーに大人気の素晴らしいコースなのだ。
まずは恩納村から名護を目指して海岸線を北上して行く。左側一面に広がる海岸線は国定公園にも指定されており、名だたるリゾートホテルが軒を並べている。これぞ南国沖縄に相応しい景観が私たちを迎えてくれるのだが、どうにも今回はアゲインストの風がきつい。とはいえ、やはり沖縄は暖かい。東京との温度差を思えば北風も苦にはならない。美しい海岸線を楽しみながら走る私たち。前を行く”黄色い弾丸”とも久し振りの並走である。
「会長、随分とお久し振りですね。ここしばらく、会長が取材にいらっしゃらないので、てっきり自転車には飽きられたのか思って、心から嬉し…いや心配してたんですよ。」作り笑顔で話しかける編集長に、メタボ会長が不機嫌な表情を浮かべながら応える。
「自転車に飽きるだって?飽きるどころか乗りたくてウズウズだったぞ!ほら、9月に東京五輪が決まっただろ?あれから一気に忙しくなって自転車どころじゃ無くなっちゃって、打合せやら会議やらで引っ張り廻されてたんだよ。今の建設業界は大変だからね。円安で輸入資材の価格が高騰、職人さん不足で人件費も高騰、挙句に4月からの消費税アップが重なってるもんだから、五輪関連は押し付け合いだよ。もはや誰にも解決の糸口が見えない。まったく困ったもんだろ?」
いやいや、そこまで具体的な愚痴をいきなり聞かされても、メディア事業部の私達にはコメントのしようが無い。そもそも建設業界の問題はそちらの事業部さんで解決頂きたいというのが私たちの本音だ。
「会長も案外大変なんですね。それで最終的にその問題とやらは何とかなりそうなんですか?」不用意に私が溢した一言にオヤジが噛み付く。
「案外ってなんだよ!私はいつでも大変なんだよ!でも今回の五輪事案はラチが明きそうにないから、”今後は全て社長に一任”ってことで一件落着にしたよ。そうでもしなきゃ私の身が際限無く拘束さちゃうからさ!たかだか仕事ごときで”日本一女性ライダーの多い素晴らしい大会”を欠席するなんて男としてどうなのよ?って話だろ?」
輝く笑顔で嬉しそうに語るメタボ会長ではあるが、この所業が職務放棄に当たる事だけは誰の目にも明らかだ。暫く逢わないうちに、彼の生き様でもある『他人に厳しく!自分に優しく!』と云うポリシーが更にパワーアップされている様子である。
”本当にこれで我社は大丈夫なのだろうか…?”一介のサラリーマンである私ですら疑念を禁じ得ない言動だ。そんな私の不穏な心中を慰めるかの様に、南国沖縄の暖かい日差しが私たちを包んでくれる。
名護市民会館エイドに立ち寄った私たちは本部循環道路の北上を続ける。相変わらずの向かい風が続くものの、まだまだ私たちの脚は軽い。本部大橋を越え、少し内陸に入った処で”田空の駅はーそーエイド”に立ち寄り、揚げ立てのサーターアンダギーでガッツリ栄養補給。その後も淡々と私たちは進む。いやいや今回の実走取材は恐ろしいほど順調だ。先ほどのエイドでサーターアンダーギーをたらふく補給したメタボ会長もすこぶる上機嫌のご様子だ。
具志堅交差点を通過した後も本部循環道路をひたすら進む。緩やかなアップダウンを繰り返しながら、今帰仁村役場先の”天底の坂”もすんなりクリア。それにしても今年のメタボ会長は「大人し過ぎる」のがどうにも気になる。いつもの彼なら、所々で私たち相手に”不意打ちアタック”を仕掛けてくるはずなのだが、此処までは全く動きが無い。まるで自分の身体を気遣っているかの様にも思えるほどの固定出力走法を続けるその姿がどうにも不気味だ。
平穏なサイクリングをこなした私たちはワルミ大橋脇の”橋の駅エイド”に滑り込む。このワルミ大橋こそは隠れた絶景ポイントでもあり、ここから見下ろす羽地内海と古宇利大橋は思わず見とれてしまうほどの美しい景観を醸し出してくれる。素晴らしい景観に心緩んだ私は、休憩中のメタボ会長に対し、あろうことか自然体で問いかけてしまった。「ところで、今年も会長の沖縄取材費用は消防事業部さん持ちなんですか?」そう!この言葉が後々自身を苦しめる事になるとも気付かずに。
「いいや、違うよ!君たちが書いてくれた変な記事のお陰で今年は全額自腹だよ。消防の責任者なんか怒っちゃって大変だったんだから!全く余計な記事を書いてくれるもんだから役員会で私の立場まで危うくなる所だったよ。もちろん腹いせに編集長の査定はガッツリ減点しといたけどな。ところで君は、あの迷惑極まりない記事を書いたのが誰だか知らないかな?」
メタボ会長のこの言葉に私の顔面が蒼白になった事は言うまでも無い。彼が自身に不利益を与えた犯人を知りたがっている事も明白な事実である。私の心を緩ませた”素晴らしい景観”を恨んでみた処で、後悔先に立たずの状況は変わらない。唯一の救いは、”どうやら彼は、私がメタボ担当という事実を知らない”と思える事だけである。意を決した私は消え入りそうな小声でこう答えるのが精一杯だった。
「詳しくは知りませんが、おそらく編集長か磯部あたりだと思いますが…。」
凍りつく時間の中で、ワルミ大橋から眼下に拡がる羽地内海と古宇利大橋を見つめながら”口は災いのもと”と云う諺の持つ重さをしみじみと噛みしめる私であった。
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メタボ会長
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 4年
当サイト運営法人の代表取締役。平成元年に現法人を設立し平成17年に社長を引退。平成20年よりメディア事業部にて当サイトの運営責任者兼務となったことをキッカケに自転車に乗り始める。ゴルフと暴飲暴食をこよなく愛し、タバコは人生の栄養剤と豪語する根っからの愛煙家。
身長 : 172cm 体重 : 82kg 自転車歴 : 4年
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