2013/10/07(月) - 09:47
前編でお伝えしたコロラド・ボルダーのサイクリング事情。続く今回のレポートでは、サラリーマンレーサーである中田氏が、ボルダーに居を構える自転車企業「トレーニング ピークス」と「ステージスサイクリング」社を訪問したレポートを紹介します。
世界中のパワーデータを分析するハイテク企業 トレーニング ピークス(Peaksware, LLC)
前回ご紹介したコーチングシステムを強力にサポートするのが、こちらの会社のソフトウエアです。ガンバレル貯水池に程近い企業団地内にあるこの会社が作るトレーニングの解析ソフト(Wko+)、トレーニングログを管理するクラウドサービス(TrainingPeaks.com)はアスリートとコーチがトレーニングデータを共有できるソフトウエアを主に開発しています。
エンデュランスアスリートのためのソフトウエア会社が存在すること自体が驚きですが、社内は更に驚きの連続でした。
会社に到着すると、社長のギア・フィッシャー氏と副社長のディルク・フリエル氏、そしてマーケティングマネージャのジェレミー氏が迎えてくれました。
驚きの社内ツアー
「社内ツアーに案内するよ」と言われ案内して頂いた先には「Hall of Fame(殿堂)」と呼ばれる回廊が有り、マーク・カヴェンディシュのアルカンシエルジャージを始め、たくさんのサイン入りジャージが展示されています。Sky、グリーンエッジ、サクソバンク他、各国ナショナルチームなどの選手がここのソフトを活用し数々の栄光を手にしてきた事が分かります。
さらに「補給所」と呼ばれる軽食が食べられる場所や「Pain Cave(苦しみの洞窟もしくは虎の穴?)」と呼ばれるフィットネスルームがあったりするのは、さすがアスリートが立ち上げた会社です。さらに「トレーニングピークス大学」と銘打ったコーチ・選手の教育施設まで備えています。
ちなみに日本でも割と自由な服装の方が多いソフトウエア業界ですが、ここではレーサージャージを着て仕事をしている人が居てビックリ。またデスクの横に犬を連れている人が居るのはさすがアメリカといったところ。
ツアーの後、ギア氏、ディルク氏、ジェレミー氏と会社の成り立ち、日米の自転車文化の違いやパワートレーニングの進化の歴史などについてお話して頂きました。
ギア氏
会社は90年代後半に選手・コーチ間の連絡を密にするツールが作れないかと思ったのがキッカケです。以前選手とコーチはFaxやメール、エクセルファイルなどでトレーニング内容をコーチとやり取りしていましたが、その事に私自身も不便を感じていました。
そこで私はディルクやハンター・アレン氏らと協力してトレーニングのデータをコーチと選手が共有できるシステム、そしてトレーニングの解析が出来るソフトを作ったんです。時を同じくして、パワーメーター・GPSが大きく進化し値段も手ごろになったのもあってコーチと選手のコミュニケーションがより密接にできるようになったのです。
日本人の利用者も少しずつ増えていますね。今秋にはWko+バージョン4.0が発売予定ですから楽しみにして下さい。
ディルク氏
私は90年代後半までベルギーでプロとして活動していました。アメリカ代表としてツール・ド・おきなわに出場したこともあるんですよ。引退後は父と同じコーチの道へと進み、ギアとピークスウエアLLCを立ち上げました。私の役目は会社の指針を決めると共に世界中の人々がフィットネスレベルを高めたりアスリートが最高のパフォーマンスをだせるように助けることです。
ジェレミー氏
私はセールスのマネージャーでお客さまの要望に応える商品やサービスの開発に努力しています。
彼らの経営方針は常にアスリートがそれぞれのゴールに向かって突き進む事を助ける事で、その目標がツール・ド・フランス優勝であってもダイエットであっても、しっかりとサポートしゴールへ導く事だそうです。ボウルダー郊外の大平原にポツンと存在するこの会社のサーバー内に世界中600,000以上のアスリートのワークアウトデータが集積しているというのは何とも不思議な感覚でした。
トレーニングピークスのHP(英語) http://home.trainingpeaks.com/
20g!のパワーメーター ステージスサイクリング(Stages Cycling, LLC)
こちらもボウルダーに拠点を置く企業です。ここは何と20gのパワーメーターの開発に成功した企業です。世界中のパワートレーニングマニアの中で注目を集めている企業の執行役員ダグ氏とパット氏に会える機会を頂きました。
滅多にないチャンスとあって緊張しながらドアを開けると・・・。
「あ~ごめん。みんなまだお昼のライドから帰って来てなくてさ。」と、ケガのため一人でお留守番していたダグ氏が迎えてくれました。拍子抜けしながらも、コチラの自転車企業の社員はかなりの割合でお昼のライドに出かけるのは知っていたので、しばらく待つことにしました。
ステージスは今年の2月に販売を始めたばかりの新しい会社で「全ての人にパワーメーターを」とのスローガンのもと、$699(約70,000円)から入手可能な安価なパワーメーターを製造販売しています(現在販売は北米およびイギリス国内のみ)。
そうこうしているうちに、ライドから帰ってきたパット氏がレーサージャージから着替えるのを待ってから、製品についてお話をお伺いしました。ステージスの製品はまず価格が安いのが最初に目に留まりますが、彼らの最大の売りは安いことではなく「コロラドで設計しアッセンブルしている事」「ヘビーユーザーが使いやすいこと」だそうです。
氏曰く、「僕らはコロラドから世界へ製品を送り出す事にプライドと意義を感じているんだ。単に安く大量に作りたいんだったら台湾や中国で作ることも可能だ。でもそれは僕らがやりたいことじゃないんだよ。」
設計もユーザーの視線に合わせられているのが特長です。「クランクの内側に付けた理由は、クラッシュしても壊れにくい位置だから。特にシクロクロスやMTBではこの位置が安全だよね。バッテリーをCR2032にしたのもユーザーがどこでも入手できて自分で交換できるためなんだよ。それに安価にしたのは複数のバイクに装着できるようにとの考えなんだ。ロードとMTB、ロードとCXという感じで2台持ちしている人も多いでしょ。要するにユーザーが常にデータを取り続けられる事に主眼を置いているんだ。」
ちなみにマニアの間で盛んに議論されている「左クランクだけでパワー計測する事の有効性」については「企業秘密で細かい事は言えないんだけど、単純に左クランクの値を2倍しているだけではなくて、ちゃんと出力の合計が出るようになってるんだよ。」と正確さには自信を見せていました。
気になる日本への入荷予定を聞いてみたところ「我々が思い描くカスタマーサービスを日本でも実現できるようになってから。」との事。「僕らは単にパワーメーターを売りたいんじゃない。ユーザーに僕らの想いを理解してもらい、僕らの製品に共感してくれたユーザーにはアメリカ国内と同じサービスを提供したいんだ。」という言葉が印象的でした。
どちらも大成功を収めている企業ですが、とにかく働いている方たちは根っからの自転車好きばかり。自転車に乗るのが大好きで、自分自身が欲しい製品を作ってみたら周りの自転車乗り達に喜ばれ、いつしかビジネスに繋がったといった感じの幸せなサイクリスト達でした。
次回はコロラドスプリングスで行なわれたパワーセミナーについて書きたいと思います。
中田尚志(なかた たかし)
1973年生まれ39歳、京都市在住、会社員
自転車歴:MBK-YAMAHAあづみの、京都岩井商会、ナカガワ、NEX-COLNAGOなどを経てTacurino.netを2007年に立ち上げ
成績など
シマノ鈴鹿チームロードB 表彰台7回
2006年 西日本チャレンジロード マスターの部優勝
日本スポーツマスターズ ロード3位
西日本実業団ポイントレース3位・昨年レース3勝など
今までのアメリカ訪問歴
1994年、学生時代に初めてカリフォルニア州バークレーに自転車留学その後、数回に渡り渡米し西海岸のPro/1/2クラスを経験
text&photo:Takashi NAKATA
edit:Hideaki TAKAGI
世界中のパワーデータを分析するハイテク企業 トレーニング ピークス(Peaksware, LLC)
前回ご紹介したコーチングシステムを強力にサポートするのが、こちらの会社のソフトウエアです。ガンバレル貯水池に程近い企業団地内にあるこの会社が作るトレーニングの解析ソフト(Wko+)、トレーニングログを管理するクラウドサービス(TrainingPeaks.com)はアスリートとコーチがトレーニングデータを共有できるソフトウエアを主に開発しています。
エンデュランスアスリートのためのソフトウエア会社が存在すること自体が驚きですが、社内は更に驚きの連続でした。
会社に到着すると、社長のギア・フィッシャー氏と副社長のディルク・フリエル氏、そしてマーケティングマネージャのジェレミー氏が迎えてくれました。
驚きの社内ツアー
「社内ツアーに案内するよ」と言われ案内して頂いた先には「Hall of Fame(殿堂)」と呼ばれる回廊が有り、マーク・カヴェンディシュのアルカンシエルジャージを始め、たくさんのサイン入りジャージが展示されています。Sky、グリーンエッジ、サクソバンク他、各国ナショナルチームなどの選手がここのソフトを活用し数々の栄光を手にしてきた事が分かります。
さらに「補給所」と呼ばれる軽食が食べられる場所や「Pain Cave(苦しみの洞窟もしくは虎の穴?)」と呼ばれるフィットネスルームがあったりするのは、さすがアスリートが立ち上げた会社です。さらに「トレーニングピークス大学」と銘打ったコーチ・選手の教育施設まで備えています。
ちなみに日本でも割と自由な服装の方が多いソフトウエア業界ですが、ここではレーサージャージを着て仕事をしている人が居てビックリ。またデスクの横に犬を連れている人が居るのはさすがアメリカといったところ。
ツアーの後、ギア氏、ディルク氏、ジェレミー氏と会社の成り立ち、日米の自転車文化の違いやパワートレーニングの進化の歴史などについてお話して頂きました。
ギア氏
会社は90年代後半に選手・コーチ間の連絡を密にするツールが作れないかと思ったのがキッカケです。以前選手とコーチはFaxやメール、エクセルファイルなどでトレーニング内容をコーチとやり取りしていましたが、その事に私自身も不便を感じていました。
そこで私はディルクやハンター・アレン氏らと協力してトレーニングのデータをコーチと選手が共有できるシステム、そしてトレーニングの解析が出来るソフトを作ったんです。時を同じくして、パワーメーター・GPSが大きく進化し値段も手ごろになったのもあってコーチと選手のコミュニケーションがより密接にできるようになったのです。
日本人の利用者も少しずつ増えていますね。今秋にはWko+バージョン4.0が発売予定ですから楽しみにして下さい。
ディルク氏
私は90年代後半までベルギーでプロとして活動していました。アメリカ代表としてツール・ド・おきなわに出場したこともあるんですよ。引退後は父と同じコーチの道へと進み、ギアとピークスウエアLLCを立ち上げました。私の役目は会社の指針を決めると共に世界中の人々がフィットネスレベルを高めたりアスリートが最高のパフォーマンスをだせるように助けることです。
ジェレミー氏
私はセールスのマネージャーでお客さまの要望に応える商品やサービスの開発に努力しています。
彼らの経営方針は常にアスリートがそれぞれのゴールに向かって突き進む事を助ける事で、その目標がツール・ド・フランス優勝であってもダイエットであっても、しっかりとサポートしゴールへ導く事だそうです。ボウルダー郊外の大平原にポツンと存在するこの会社のサーバー内に世界中600,000以上のアスリートのワークアウトデータが集積しているというのは何とも不思議な感覚でした。
トレーニングピークスのHP(英語) http://home.trainingpeaks.com/
20g!のパワーメーター ステージスサイクリング(Stages Cycling, LLC)
こちらもボウルダーに拠点を置く企業です。ここは何と20gのパワーメーターの開発に成功した企業です。世界中のパワートレーニングマニアの中で注目を集めている企業の執行役員ダグ氏とパット氏に会える機会を頂きました。
滅多にないチャンスとあって緊張しながらドアを開けると・・・。
「あ~ごめん。みんなまだお昼のライドから帰って来てなくてさ。」と、ケガのため一人でお留守番していたダグ氏が迎えてくれました。拍子抜けしながらも、コチラの自転車企業の社員はかなりの割合でお昼のライドに出かけるのは知っていたので、しばらく待つことにしました。
ステージスは今年の2月に販売を始めたばかりの新しい会社で「全ての人にパワーメーターを」とのスローガンのもと、$699(約70,000円)から入手可能な安価なパワーメーターを製造販売しています(現在販売は北米およびイギリス国内のみ)。
そうこうしているうちに、ライドから帰ってきたパット氏がレーサージャージから着替えるのを待ってから、製品についてお話をお伺いしました。ステージスの製品はまず価格が安いのが最初に目に留まりますが、彼らの最大の売りは安いことではなく「コロラドで設計しアッセンブルしている事」「ヘビーユーザーが使いやすいこと」だそうです。
氏曰く、「僕らはコロラドから世界へ製品を送り出す事にプライドと意義を感じているんだ。単に安く大量に作りたいんだったら台湾や中国で作ることも可能だ。でもそれは僕らがやりたいことじゃないんだよ。」
設計もユーザーの視線に合わせられているのが特長です。「クランクの内側に付けた理由は、クラッシュしても壊れにくい位置だから。特にシクロクロスやMTBではこの位置が安全だよね。バッテリーをCR2032にしたのもユーザーがどこでも入手できて自分で交換できるためなんだよ。それに安価にしたのは複数のバイクに装着できるようにとの考えなんだ。ロードとMTB、ロードとCXという感じで2台持ちしている人も多いでしょ。要するにユーザーが常にデータを取り続けられる事に主眼を置いているんだ。」
ちなみにマニアの間で盛んに議論されている「左クランクだけでパワー計測する事の有効性」については「企業秘密で細かい事は言えないんだけど、単純に左クランクの値を2倍しているだけではなくて、ちゃんと出力の合計が出るようになってるんだよ。」と正確さには自信を見せていました。
気になる日本への入荷予定を聞いてみたところ「我々が思い描くカスタマーサービスを日本でも実現できるようになってから。」との事。「僕らは単にパワーメーターを売りたいんじゃない。ユーザーに僕らの想いを理解してもらい、僕らの製品に共感してくれたユーザーにはアメリカ国内と同じサービスを提供したいんだ。」という言葉が印象的でした。
どちらも大成功を収めている企業ですが、とにかく働いている方たちは根っからの自転車好きばかり。自転車に乗るのが大好きで、自分自身が欲しい製品を作ってみたら周りの自転車乗り達に喜ばれ、いつしかビジネスに繋がったといった感じの幸せなサイクリスト達でした。
次回はコロラドスプリングスで行なわれたパワーセミナーについて書きたいと思います。
中田尚志(なかた たかし)
1973年生まれ39歳、京都市在住、会社員
自転車歴:MBK-YAMAHAあづみの、京都岩井商会、ナカガワ、NEX-COLNAGOなどを経てTacurino.netを2007年に立ち上げ
成績など
シマノ鈴鹿チームロードB 表彰台7回
2006年 西日本チャレンジロード マスターの部優勝
日本スポーツマスターズ ロード3位
西日本実業団ポイントレース3位・昨年レース3勝など
今までのアメリカ訪問歴
1994年、学生時代に初めてカリフォルニア州バークレーに自転車留学その後、数回に渡り渡米し西海岸のPro/1/2クラスを経験
text&photo:Takashi NAKATA
edit:Hideaki TAKAGI
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