2013/08/31(土) - 11:07
ツール・ド・フランスの1ステージを使って7月7日に開催されたエタップ・ドゥ・ツール。Raphaの女性スタッフや一般参加の女性たちと、130km獲得標高3500mのアヌシー・セムノス峠を目指す中で感じたこととは?
去る7月7日、世界中の女性サイクリストたちにそれぞれの100kmに挑戦しようと呼びかけて行われたRapha Women's 100」。この一環として、Raphaはスポルティーフイベントの世界最高峰とも言われる「エタップ・ドゥ・ツール(以下エタップ)」に女性100人を送り込んだのですが、わたしもその1人として参加しました。今回はそのレポートをお送りします。
その年のツール・ド・フランスの山岳ステージの1つがコースとして採用されるエタップ。今年はチームスカイのフルームがクインターナとロドリゲスに遅れをとりつつも優勝を確定したあのツール第20ステージがコースだった。
しかし獲得標高3500mという数字に、わたしたちRapha女子チームも緊張気味。アネシー湖湖畔のそれはステキなシャレーが今回のわたしたちの宿だったけれど、ため息の出るような美しい景色、おいしいお料理や地元名産のチーズを前に、思わず不安のため息が出てくる始末だった……。
不安を少しでも解消すべく、前日のレジストレーションまで往復20kmをバイクで走って行ったり、今回のコースの最初の小さな峠まで試走してみたりしては、「大丈夫だよね」「○○ちゃんならきっと問題ないよ!」と女子同士励まし合う。国境も言語も関係ない、どこの女子もこういうときは同じように振舞うんだなぁ、と苦笑する。
前夜はシャレーのラウンジでわいわい女子トークをしつつ、バイクやジャージにゼッケンをつけたり、携帯する補給食の数を数えたりして早めに就寝。わたしたちは1万2,000人の参加者の中のちょうどまんなかあたりの出発だ。
朝6時すぎに集合、順番にスタートを待つ。それにしても、女性が少ない。見回してみてもチラホラとしか見つけられない。女性参加者は増加傾向にあるというが、それでも去年は5%だったそうだ。エタップは一般的なライドイベントよりも敷居が高いから男性が多くなるのはある程度わかるとしても、やっぱり少ない。エタップのスポンサーでもあるRaphaが、「もっと女性参加者が増えるべきだ」と考えるのは正しいと思う。
ついにわたしたちの順番が来て、スタート! 湖畔の平坦路は時速28kmくらいの流れで、それに乗って行く。のちのちを考え、少しでも疲労を小さくしようと女子トレインを作って走る。みんな言葉少なだ。そして最初の2級山岳プジェ峠、3級のルショー峠でみんなバラバラになり、わたしも一人旅になってしまった。トップチューブに貼った勾配と距離のキューシートを見ながら、こまめにジェルなどを飲み込み、バナナを食べて走る。何より足切りが怖かったので、補給所には立ち寄らず水だけをもらって走り続けた。
今回は最後ふたつに1級山岳のルヴァー峠と超急山岳のセムノー峠が待ち構えていたので、ひたすら体力温存しつつ、無理のない範囲で早めに進もうと考えていた。なので、いま思い出そうとしても、すべてのシーンを完全には覚えていない気がする。
1級のルヴァー峠はキツかったと覚えているけれど、その後のセムノス峠が本当に超級に辛かったので、ルヴァー峠の記憶は上書き消去されてしまったような感じだ。モンブランの白い姿を見るのを楽しみにしていたけれど、うすく雲がかかっていたせいか見られなかった。あるいは見えていたかもしれないが、しっかり探すような心の余裕はなかった。
セムノス峠のふもとの補給所で時計を見ると、足切り時刻から2時間半くらいの猶予をつくれていたので、後続の仲間を待った。1時間ほどしてRapha広報でこのWomen's 100の発案者のローラと、有名ブロガーのバングスが到着。ふたりともやつれた表情でギリギリの様子だったけれど、最後のセムノスも頑張ると言う。
しばらく一緒に走ったけれど、わたしもふたりのペースに合わせるほどの余裕がなかったので、ふたりを今回のエスコート係のドミニクに託してまた一人旅で最後11kmの上りに突入した。
果たしてセムノス峠、きつかったです。平均8.3%と言っても、印象としては9%を切るとホッとする感じで、ガーミンのサイコンには11%、12%という数字が頻繁に登場していた。
中盤からは路肩には脚をひきずって自転車を押す人たちが大勢あらわれ、ゾンビの中を縫って走る気分に。自転車ごと草むらに倒れたまま突っ伏していて、かなり心配になる様子の人も…。それでもだんだん空が大きくなり、頂上が近づいているのが感じられる。最後の2kmは文字通り歯を食いしばりながら、悲鳴を上げる脚をなだめすかして、ゴール! ガーミンによると走行時間は7時間34分でした。
ふもとのRaphaテントに戻ってワインをいただいていると、ローラとバングスも完走したらしいという情報が。やった、われらがRapha女子チームは見事全員完走です!
その晩は、シャレーで打ち上げパーティ。「これほどおいしいシャンパンがあっただろうか?」と思う味でした。みんなも充実感たっぷりだったようで、早くも「来年もエタップ走りたいね」「モン・ヴォントゥーにこのメンバーで行かない?」という提案も飛び出すほど。
翌朝はRapha男子チームのお誘いで、アネシー湖を回る回復走へ。結局、速すぎて回復どころか筋肉にさらにシバキを入れるトレーニング状態だったけれど(笑)、楽しかった思い出を固定するのにぴったりなひと時だった。やっぱり自分の限界がどこまでなのかを試すのは最高に楽しいことだし、こうやってひとつ限界を上げれば、次にはもっと簡単に達成できるようになっていて、さらに上に手がとどくようになる。
毎年自分の年齢の数字は大きくなっていくのに、数年前にはできなかった距離や山を走れるようになっているこのヨロコビ。自転車って本当に楽しい。
今年はRaphaの呼びかけもあり、エタップの女性参加者比率もなんと1%伸びて6%に届いたという。また、Women's 100の全体としては、38ヶ国3114人の女性がFacebook経由で参加を表明、Stravaでは1710人がデータをアップ、134ヶ所でライドが呼びかけられたという。日本からもインスタグラムなどでたくさんのアップロードがあり、イギリスのRaphaスタッフに「日本の女性も楽しそうに走ってるね!」と喜ばれていた。
Raphaでは、来年もこのエタップに合わせてWomen's 100を開催する予定だという。今年はRaphaが主催した伊豆ライドや小豆島ライドのほかに、東京や京都などでもライドが呼びかけられたが、来年は普通の100kmでは物足りない人のために、エタップもびっくりの超ハード山岳女子ライドを国内で企画してみるのもいいかも……なんて妄想も芽生えています。来年もご注目を!
profile 青木陽子さん(編集者・ライター)
[img_assist|nid=109943|title=青木陽子さん(編集者・ライター)|desc=|link=node|align=left|width=180|height=]14年前、環境にやさしい交通を考えるためにクロスバイクを購入、都心で片道10kmの自転車通勤に挑戦してみたところ自転車にすっかりハマってしまった。いまやヴィンテージ3台を含む11台の自転車の世話に明け暮れる(本人曰く「乗る時間がない」)という日々を送っている。
空前の自転車ブームに湧いているロンドン郊外に在住、イギリスの自転車政策にもくわしい。ブログ『チャリジェンヌ』や、フェイスブック上のコミュニティ『自転車女子部』などを運営し、女性のための自転車情報や交流の場を提供している。
女性のための自転車コンシェルジュ チャリジェンヌ
フェイスブック 自転車女子部(女性メンバー限定)
text:Yoko.AOKI
去る7月7日、世界中の女性サイクリストたちにそれぞれの100kmに挑戦しようと呼びかけて行われたRapha Women's 100」。この一環として、Raphaはスポルティーフイベントの世界最高峰とも言われる「エタップ・ドゥ・ツール(以下エタップ)」に女性100人を送り込んだのですが、わたしもその1人として参加しました。今回はそのレポートをお送りします。
その年のツール・ド・フランスの山岳ステージの1つがコースとして採用されるエタップ。今年はチームスカイのフルームがクインターナとロドリゲスに遅れをとりつつも優勝を確定したあのツール第20ステージがコースだった。
しかし獲得標高3500mという数字に、わたしたちRapha女子チームも緊張気味。アネシー湖湖畔のそれはステキなシャレーが今回のわたしたちの宿だったけれど、ため息の出るような美しい景色、おいしいお料理や地元名産のチーズを前に、思わず不安のため息が出てくる始末だった……。
不安を少しでも解消すべく、前日のレジストレーションまで往復20kmをバイクで走って行ったり、今回のコースの最初の小さな峠まで試走してみたりしては、「大丈夫だよね」「○○ちゃんならきっと問題ないよ!」と女子同士励まし合う。国境も言語も関係ない、どこの女子もこういうときは同じように振舞うんだなぁ、と苦笑する。
前夜はシャレーのラウンジでわいわい女子トークをしつつ、バイクやジャージにゼッケンをつけたり、携帯する補給食の数を数えたりして早めに就寝。わたしたちは1万2,000人の参加者の中のちょうどまんなかあたりの出発だ。
朝6時すぎに集合、順番にスタートを待つ。それにしても、女性が少ない。見回してみてもチラホラとしか見つけられない。女性参加者は増加傾向にあるというが、それでも去年は5%だったそうだ。エタップは一般的なライドイベントよりも敷居が高いから男性が多くなるのはある程度わかるとしても、やっぱり少ない。エタップのスポンサーでもあるRaphaが、「もっと女性参加者が増えるべきだ」と考えるのは正しいと思う。
ついにわたしたちの順番が来て、スタート! 湖畔の平坦路は時速28kmくらいの流れで、それに乗って行く。のちのちを考え、少しでも疲労を小さくしようと女子トレインを作って走る。みんな言葉少なだ。そして最初の2級山岳プジェ峠、3級のルショー峠でみんなバラバラになり、わたしも一人旅になってしまった。トップチューブに貼った勾配と距離のキューシートを見ながら、こまめにジェルなどを飲み込み、バナナを食べて走る。何より足切りが怖かったので、補給所には立ち寄らず水だけをもらって走り続けた。
今回は最後ふたつに1級山岳のルヴァー峠と超急山岳のセムノー峠が待ち構えていたので、ひたすら体力温存しつつ、無理のない範囲で早めに進もうと考えていた。なので、いま思い出そうとしても、すべてのシーンを完全には覚えていない気がする。
1級のルヴァー峠はキツかったと覚えているけれど、その後のセムノス峠が本当に超級に辛かったので、ルヴァー峠の記憶は上書き消去されてしまったような感じだ。モンブランの白い姿を見るのを楽しみにしていたけれど、うすく雲がかかっていたせいか見られなかった。あるいは見えていたかもしれないが、しっかり探すような心の余裕はなかった。
セムノス峠のふもとの補給所で時計を見ると、足切り時刻から2時間半くらいの猶予をつくれていたので、後続の仲間を待った。1時間ほどしてRapha広報でこのWomen's 100の発案者のローラと、有名ブロガーのバングスが到着。ふたりともやつれた表情でギリギリの様子だったけれど、最後のセムノスも頑張ると言う。
しばらく一緒に走ったけれど、わたしもふたりのペースに合わせるほどの余裕がなかったので、ふたりを今回のエスコート係のドミニクに託してまた一人旅で最後11kmの上りに突入した。
果たしてセムノス峠、きつかったです。平均8.3%と言っても、印象としては9%を切るとホッとする感じで、ガーミンのサイコンには11%、12%という数字が頻繁に登場していた。
中盤からは路肩には脚をひきずって自転車を押す人たちが大勢あらわれ、ゾンビの中を縫って走る気分に。自転車ごと草むらに倒れたまま突っ伏していて、かなり心配になる様子の人も…。それでもだんだん空が大きくなり、頂上が近づいているのが感じられる。最後の2kmは文字通り歯を食いしばりながら、悲鳴を上げる脚をなだめすかして、ゴール! ガーミンによると走行時間は7時間34分でした。
ふもとのRaphaテントに戻ってワインをいただいていると、ローラとバングスも完走したらしいという情報が。やった、われらがRapha女子チームは見事全員完走です!
その晩は、シャレーで打ち上げパーティ。「これほどおいしいシャンパンがあっただろうか?」と思う味でした。みんなも充実感たっぷりだったようで、早くも「来年もエタップ走りたいね」「モン・ヴォントゥーにこのメンバーで行かない?」という提案も飛び出すほど。
翌朝はRapha男子チームのお誘いで、アネシー湖を回る回復走へ。結局、速すぎて回復どころか筋肉にさらにシバキを入れるトレーニング状態だったけれど(笑)、楽しかった思い出を固定するのにぴったりなひと時だった。やっぱり自分の限界がどこまでなのかを試すのは最高に楽しいことだし、こうやってひとつ限界を上げれば、次にはもっと簡単に達成できるようになっていて、さらに上に手がとどくようになる。
毎年自分の年齢の数字は大きくなっていくのに、数年前にはできなかった距離や山を走れるようになっているこのヨロコビ。自転車って本当に楽しい。
今年はRaphaの呼びかけもあり、エタップの女性参加者比率もなんと1%伸びて6%に届いたという。また、Women's 100の全体としては、38ヶ国3114人の女性がFacebook経由で参加を表明、Stravaでは1710人がデータをアップ、134ヶ所でライドが呼びかけられたという。日本からもインスタグラムなどでたくさんのアップロードがあり、イギリスのRaphaスタッフに「日本の女性も楽しそうに走ってるね!」と喜ばれていた。
Raphaでは、来年もこのエタップに合わせてWomen's 100を開催する予定だという。今年はRaphaが主催した伊豆ライドや小豆島ライドのほかに、東京や京都などでもライドが呼びかけられたが、来年は普通の100kmでは物足りない人のために、エタップもびっくりの超ハード山岳女子ライドを国内で企画してみるのもいいかも……なんて妄想も芽生えています。来年もご注目を!
profile 青木陽子さん(編集者・ライター)
[img_assist|nid=109943|title=青木陽子さん(編集者・ライター)|desc=|link=node|align=left|width=180|height=]14年前、環境にやさしい交通を考えるためにクロスバイクを購入、都心で片道10kmの自転車通勤に挑戦してみたところ自転車にすっかりハマってしまった。いまやヴィンテージ3台を含む11台の自転車の世話に明け暮れる(本人曰く「乗る時間がない」)という日々を送っている。
空前の自転車ブームに湧いているロンドン郊外に在住、イギリスの自転車政策にもくわしい。ブログ『チャリジェンヌ』や、フェイスブック上のコミュニティ『自転車女子部』などを運営し、女性のための自転車情報や交流の場を提供している。
女性のための自転車コンシェルジュ チャリジェンヌ
フェイスブック 自転車女子部(女性メンバー限定)
text:Yoko.AOKI
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