「これに出てみたい」の“これ”とは、この秋に開催予定のツール・ド・東北2013のこと。このfacebookでの私つぶやきが、まさかこのような事態となってしまうとは...。

私、佐藤真理は都内の旅行会社で、国内外のボランティア活動や自然を体感して頂くツアーを専門に扱うセクションに所属している。あの震災から3ヶ月経った6月にはボランティア活動として会社仲間と岩手県の田野畑村を訪問し被災地の実情を知ることとなり、その夏から数回、東北ボランティアツアーを催行し自ら添乗してきた。

至る所に津波の爪痕がはっきりと残されている至る所に津波の爪痕がはっきりと残されている 津波で破壊された護岸。恐ろしいほどの自然の力を知る津波で破壊された護岸。恐ろしいほどの自然の力を知る


その体験として被災地で感じたことや学んだことは想像以上に多く、もっといろいろな視点から東北を知りたいと思っていた。そこで偶然にツール・ド・東北の存在を知り、ふと「これに出てみたい」とfacebookでつぶやいてしまった(?)のである。スポーツバイクとは全く無縁の私が。

3.11から1年後に催された慰霊祭3.11から1年後に催された慰霊祭 そしてこの私のつぶやきに対して、私が添乗した東北ツアーにご参加頂いていた“お客様”より、「メディアのレポーターとしてこの大会に参加するのはどうでしょう?これまでのボランティア経験も踏まえて、率直な気持ちをレポートできればと。必ず貴重なメッセージを伝えることができますから!」と、突然の連絡が入る。

よく分からないまま「とりあえずお話だけお伺いさせて下さい。」とお答えし、打ち合わせの機会を設けることとなった。そしてその打ち合わせの場で、この“お客様”こと福島治男さんがシクロワイアードというスポーツバイクを専門に扱う情報サイトの編集長である綾野さんと旧知の仲であり、以前レポーターを務めていたことを知る。

この福島さんは、シクロワイアード編集部がツール・ド・東北のレポーターを探していることを知っていて、どうやらこの私を推薦しようとしているらしい。

しかも単なるレポーターでは無く、ツール・ド・東北を目指して私がロードバイクに初挑戦し、サイクリストとして成長(?)していく様子を、連載企画で記事にするというとんでもない(?)構想を知らされたのだ!早速サイトも覗かせて頂くと、海外の本格的なレースから、地方のサイクリングイベントまで情報がギッシリ。このようなサイトに、連載企画として私が登場して良いものか? と本気で戸惑ってしまった。

ボランティアで回収した海岸のがれきやごみの山ボランティアで回収した海岸のがれきやごみの山 岩手・北山崎での海岸清掃岩手・北山崎での海岸清掃


「こういったレポートは、動機が明確な方に努めて頂くのが、一番良いメッセージを伝えることができます。さらに佐藤さんは、東北のみならず、国内外ボランティア経験が豊富です。その経験も活かして欲しいのです。これも大事な復興支援活動になります。つまり今回のレポーターに最もふさわしい方は、世界中探しても佐藤さんしかいません!」

4階部分まで津波にのまれたホテル、羅賀荘。その時の痕がはっきりと残っていた4階部分まで津波にのまれたホテル、羅賀荘。その時の痕がはっきりと残っていた 被災地域住民との共同での作業被災地域住民との共同での作業 …ずいぶんとお世辞が入っているなと思いつつ、こう語る福島さんの情熱に負けたか?この場であっさりと「ではよろしくお願いします。」と返事をしてしまった。

それにしてもロードバイクを知らない私にとっては、60km、100km、160kmといったイベントで用意されているコースはいずれも未知の世界。福島さんも「そうですね、レポートしながらのサイクリングだし、100kmが良いでしょうね。」とのお返事。そう、この時は確かに100kmといわれたはずだったのですが…。

第1回目の打ち合わせから3週間後、いよいよロードバイクとご対面することに。福島さんとシクロワイアード編集部まで向かう車中、突然彼の口から、悪魔のささやきが飛び出す。「佐藤さん、160km楽しみだよね。」「エッ?」ととっさに聞き返す私。

「あのー、確か前回は100kmくらいが適当だってお話だったのでは?」と恐る恐る聞き返すと、「あれ?そうだったかな?まあどっちでもいいじゃない。大丈夫、せっかくのチャレンジなのだから、始めからハードル下げたら、面白みも半減しちゃうよ。100kmを目標にしたら、100kmまでしか走れない。160kmを目標にすれば、100kmか160kmか選択することができる。まぁ大丈夫。佐藤さんならね。私の目に狂いはないから(笑)」

「でも前回は60kmも走れないって言っていた人が、今日は100kmを走る気になっているのだから、人間の心理って面白いよね。まだロードバイクに乗ってもいないのに(笑)」どこまでも気楽な発言が続く。どうやら私はとんでもない方と知り合ってしまったらしい。どこかで断らないと本当に160kmを走るはめになってしまう…。


初めてのロードバイクFELTとご対面

メーカーさんのご好意でお貸し頂けたFELT ZW4メーカーさんのご好意でお貸し頂けたFELT ZW4
編集部に到着すると、今回一緒に走ってくれることとなるFELT ZW4の姿があった。メーカーも全くの無知だが、スタイルの良さは見た目で十分伝わった。きれいなフォルムだ。完全初心者の私に高価なカーボン製バイクを貸してくださるなんて、メーカーさんには感謝しきりだ。

私が初めてのサイクルウェアにまごまごしている間に、バイクを私の身体に合うようにセッティングする作業がスタート。テキパキとした作業とともに、私には意味不明な用語が飛び交う。自転車ってこんなにパーツがあるんだなぁと驚きと、併せてメンテナンスの不安がよぎった。「自分でできるの?!これ!!」

少しだけカーボンの模様が見えてかっこいい少しだけカーボンの模様が見えてかっこいい 女性専用の証。うまく乗りこなせることができるだろうか女性専用の証。うまく乗りこなせることができるだろうか


サドルは女性用。でもちょっとレーシーで硬いサドルは女性用。でもちょっとレーシーで硬い コンポーネントはレースでも使えるもの。私にはオーバースペックかもコンポーネントはレースでも使えるもの。私にはオーバースペックかも


そして、いよいよ私のロードバイク初ライドの準備が完了した。と言っても、そもそもFELT号の”ドロップハンドル“というもの、私にはどこを持ってい良いのやら?そしてブレーキはどうすれば良いのやら。その度に編集スタッフの磯部さんにレクチャーをして頂いた。

最初はどこを握ったら良いかも分からない...最初はどこを握ったら良いかも分からない... 真っ直ぐに伸びるトップチューブというところにまたがる。トップチューブがない一般的な自転車とは、ここからが違う。そしてハンドルは、ブラケットという部分を持って、ブレーキは指をかけて掛ける。ギアは20段と想像つかないほどだが、MT車の免許は持っているから、何とかなるかもしれない…。サドルはとりあえず高く、“選手はもっと高いよ“と言われ、なおのこと驚いた。

ここまで基本操作のレクチャーを受けて、いよいよまっすぐ走って、そして止まる練習に入った。緊張しつつも右脚に軽く体重を乗せただけで、すっと動き出す。高校時代のあの自転車の感じとは全く違う軽快さに正直とても驚いてしまった。

「止まる時はサドルから前に降りて、左脚を着くようにして下さい。日本の道路では車両は左側通行。クルマは私たちの右側を通るので、万が一倒れてしまう場合でも、左側に倒れたほうが安全です。」うーん、なるほど、でも覚えることがいっぱいで、どんどんこぼれてしまいそうだ。たくさん練習して、身体で覚えるしかなさそう。

しばらく発進と停止の練習を繰り返した後、次はカーブの練習に。軽く身体を倒すだけで曲がってくれるものの、最初はなかなか思うように曲がれない。しかし繰り返すうちに、少しずつ感覚が掴めるようになっていった。「ちょっとおもしろい・・・かも!」

簡単なレクチャーを受けてサイクリングロードに出発する簡単なレクチャーを受けてサイクリングロードに出発する いよいよサイクリングロードに出発!いよいよサイクリングロードに出発!

感覚を掴んだ頃合いをみて、実際に外に出て編集部でのレクチャーを実践的におさらいすることとなった。向かったのは編集部からほど近い多摩湖サイクリングロード。梅雨時期とは思えないほどの好天で、豊かな緑がとても心地よい。

驚くほど軽い走行感に驚いた。思わず笑顔になってしまう驚くほど軽い走行感に驚いた。思わず笑顔になってしまう ちょっと戸惑い気味だったコーナーリングも、不安なくこなせるようになり、ちょっとFELTと仲良くなれたような気がしてきていた。

適度なアップダウンのあるサイクリングロードを走る適度なアップダウンのあるサイクリングロードを走る 先導する磯部さんは、走りながら前方の道路状況や、ハンドサインやギアのチェンジのポイントを教えてくれる。カーブでは、手元ではなくコーナーの先方に視線を置くようになど、細かいHOW TOが盛りだくさんだ。さらに走りながら一眼レフカメラでの写真撮影なんて、さすがはシクロワイアード編集部スタッフ。私はどれだけ練習したら、あれくらいの余裕をもって走ることができるのだろう?

コースは初心者の私には程よいアップダウンが連続する。短い丘ならFELTは難なく登ってしまうし、ちょっときつめの登りも、幅広いギアがセッティング用意されているから安心だ。次第に勾配に合わせてギアを選ぶ感覚も掴めてきた。

風の音、鳥の声、木々の匂いを全身で感じる。自転車ってこんなに気持ちのよいものだったかな、と考えているうちに、あっという間に多摩湖一周のサイクリングはゴール地点へと到着した。いやはや、今までの自転車の概念が見事に覆された。もちろん良い意味で。

この日の初ライドには、今回参加する「ツール・ド・東北」主催者のYAHOO株式会社の広報の方が同行してくださっていた。広報の佐藤さん、安田さんも何度も東北に足を運ばれた方々だ。初ライドの合間合間に、今回のイベントへの思いを伺う時間があり、大会開催の意味や東北を自転車で走ることの意味を考えさせられていた。

“自転車”だから感じることができる、東北・三陸地方の風や匂い、そして景色。PRの動画にある「復興へ踏み出すペダル」という言葉の意味…。安田さんの「160kmに参加して、海岸沿いのあの場所を走ってほしい」という言葉で気持ちが決まった。「160km走ります!」と自信を持って宣言できた。

たくさんの方の思いが詰まった大会と、きっかけをもらった私。これまで感じていた「160km」も決して未知の世界ではない、そんな気持ちになっていた。「走ります!」宣言と同時に、記念すべき初RIDE&レッスン、取材は終了。あと4か月・・きっと走れる。走り切る!

活動後の集合写真。津波に飲まれたトンネルの前で。活動後の集合写真。津波に飲まれたトンネルの前で。 三陸の風光明媚な海。この地を自転車で走ってみたい三陸の風光明媚な海。この地を自転車で走ってみたい


編集部に戻り着替えを済ませ、FELTと共に家路へとつく。帰り際、福島さんから大川小学校や南三陸町の防災対策庁舎に、ロードバイクで行くことができるのか、ご自身も正直ちょっと戸惑っていたことを聞いた。みんな、それぞれの思いがある。でも、このペダルを踏み出すことにきっと意味があるとお客様も私も、参加するサイクリストたちもきっと思っていると信じている。

編集部から1時間ほどのドライブで我が家に到着、いよいよ私のFELTとの同棲生活がスタートした。あと4か月の同棲生活。仲良くなれるようにがんばります。


というわけでこの続きはまた。次回は初めてのビンディング編です!


photo:Mari.Sato(被災地の写真),Haruo.Fukushima
Edit:Haruo.Fukushima


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