2012/09/24(月) - 11:00
落車、メカトラ、落車…。相次ぐトラブルで日本チームは徐々に人数を失った。最終周回のカウベルグで飛び出したのは、優勝候補の大本命フィリップ・ジルベール(ベルギー)。抜群のタイミングで飛び出す王道の走りで、キャリア初のアルカンシェルを手にした。
小雨降るマーストリヒトをスタート
1週間にわたって開催されたロード世界選手権が、9月23日、最終日を迎えた。最後を締めくくるのはエリート男子のロードレースだ。
リンブルフ州の中心都市マーストリヒトを発ち、丘陵地帯を106km走ってから16.1kmの周回コースに入る。カウベルグとベメレルベルグを含んだ周回コースを10周。267kmのアップダウンコースが今年の世界一を導き出す。
アムステル・ゴールドレースと同じマーストリヒト・マルクト広場のスタート地点に集まったのは、48カ国・207名の選手たち。
「グローバリゼーションを象徴するチーム」という紹介とともに、日本ナショナルジャージに身を包んだ新城幸也(ユーロップカー)、別府史之(オリカ・グリーンエッジ)、土井雪広(アルゴス・シマノ)、宮澤崇史(サクソバンク)、福島晋一(トレンガヌ)、畑中勇介(シマノレーシング)がステージに上がる。
小雨がパラつく気温12度前後の空気と、世界一を決める独特の緊張感に包まれながら、ディフェンディングチャンピオン擁するイギリスを先頭に207名がスタートした。
連続する落車により歯車が狂い始める
しばらくのアタック合戦の後、ダリオ・カタルド(イタリア)やジェローム・コッペル(フランス)を含む11名が飛び出す。
ファルケンブルフを起点とした16.1kmの周回コースに差し掛かる頃、先頭グループとメイン集団のタイム差は4分前後を推移。ディフェンディングチャンピオンの証である「1」をつけたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が献身的にメイン集団を牽引し、先頭グループとのタイム差を抑え込んだ。
そして、この日2回目のカウベルグで次なる動きが生まれる。フアンアントニオ・フレチャ(スペイン)やリナルド・ノチェンティーニ(イタリア)らが登りで飛び出し、これにすかさず別府が反応した。
「もともとはレース終盤に動く予定でしたが、ちょうどアタックが掛かった時に周りに動ける日本チームのメンバーがいなかった。いい選手が人数を揃えて飛び出したので、『これは絶対マストだ』と判断して自分から動きました」と別府。
しかしここで日本チームにトラブルが発生する。カウベルグの頂上付近で、新城が前走のナイロ・クインターナ(コロンビア)と絡んで落車。フロントホイールを破損してしまう。
その場に居合わせた畑中がすぐに駆け寄り、新城にホイールを差し出したが、このトラブルによって新城はメイン集団から1分ほどのビハインドを食ってしまう。
ここから、止まって再スタートを待った福島と、ニュートラルサポートからフロントホイールを受け取った畑中が強力に新城をリードした。2人の力を借りた新城は1分の遅れを挽回し、その周回のうちにメイン集団に復帰する。一方「日本のチームカーが周りにおらず、フルもがきでユキヤを引っ張りました」と話す畑中は、他国のチームカーに衝突してしまい単独で落車。走り出したものの、2周目完了時にリタイアしている。
大歓声に後押しされたジルベールが決死のアタック
ハイペースで周回をこなした別府を含む9名の追走グループは、やがて先頭の11名を捉えた。一方、ベルギーが強力に牽引するメイン集団の中から、4周目のカウベルグでブエルタ・ア・エスパーニャの覇者アルベルト・コンタドール(スペイン)がアタックする。
ジルベールとボーネン擁するベルギーに対し、この日最も攻撃的に動いたのはスペイン。コンタドールの動きにはロバート・ヘーシンク(オランダ)やトマ・ヴォクレール(フランス)らが反応し、新たに20名ほどの強力な追走グループを組織する。コンタドールらは別府を含む20名の先頭グループにすぐさま追いついた。
レースが徐々に加熱するこの頃、「レース前半から良いポジションで走れていた」と話す土井がメカトラに見舞われる。落車した新城の集団復帰に力を使った福島も集団から脱落。2人はゴールまで5周回を残してバイクを降りている。
スペインが積極的にペースを作る逃げグループからは別府が脱落。追撃するメイン集団は、開催国オランダや、ジョン・デゲンコルブのスプリントに持ち込みたいドイツが牽引する。
落車で右の脛を打ち、「体調は良かったのに登りで踏めなかった」と語る新城がここから遅れ始め、メイン集団に残っている日本人選手は宮澤だけとなる。
結局メイン集団はゴールまで30kmを残して逃げを全てキャッチ。レースは勝負の残り2周に突入した。
緩いベメレルベルグの登りでアンドリュー・タランスキー(アメリカ)とイアン・スタナード(イギリス)が飛び出して先行したが、最終周回突入前のカウベルグで吸収。メイン集団は30名ほどに絞られた状態で最終周回突入の鐘を聞く。
何度か遅れながらも集団内で走っていた宮澤は、カウベルグで遅れ、45秒遅れで最終周回に入った。「(登りで)かかると分かっていたのにダメだった。残り2周のカウベルグで遅れたときはなんとか追いついたけど、残り1周で遅れた時には、もう追いつけなかった」。
スペイン、イタリア、ベルギー、ドイツ、ノルウェーが人数を揃えて集団前方に上がり、最後のカウベルグに向けたポジション争いを展開する。主導権を得たのはイタリアで、ルーカ・パオリーニ(イタリア)がリードする形でカウベルグに突入。すると、その後ろからエースのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)が飛び立った。
しかしニーバリのアタックには間髪入れずにジルベールが反応する。ペースが上がって縦に長く伸びた集団の先頭から、ジルベールがカウンターアタック。ギアを掛けて10%ほどの登りを踏んでいく。
大歓声に包まれたカウベルグを、先頭で、しかも徐々に後続との距離を広げながら、ジルベールが飛ぶように駆け上がった。
アレクサンドル・コロブネフ(ロシア)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)は追いきれず、ジルベールは5秒ほどのリードを得てゴールまでの平坦路に入る。風は追い風。牽制が入ってペースダウンした後続を振り払い、ジルベールが独走のままゴールに飛び込んだ。
世界タイトルを手にしたジルベール
これまで幾多のタイトルを獲得しているクラシックレーサーが、キャリアの中で初めて手にするアルカンシェル。どこか夢の中にいるかのような、まだ現実を飲み込めていないような表情でジルベールは記者会見に臨む。
「カウベルグの一番勾配がきついポイントで、最大限の力でアタックした。家族や友人、そして地元のファンが詰めかけたゴールを先頭で駆け抜けるのは、ファンタスティックな気分だった」。
今年ジルベールはビッグマネーとともにBMCレーシングチームに移籍したが、長引く歯の治療も影響してシーズン前半は低迷。夏頃からようやく調子を取り戻し、地元ベルギー・ワロン地方にほど近いオランダ・リンブルフ州での世界選手権に照準を合わせていた。「チームメイトのために走ったツール・ド・フランスで調子を上げ、ロンドン五輪に出場。そしてブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝して本来の力を取り戻した。今回のコースに似たステージで勝ったことが自信を与えてくれた」。
「まだ世界チャンピオンに輝いたという実感が無い」というジルベール。新しいアルカンシェルは、9月27日にイタリアで開催されるジロ・デル・ピエモンテで披露される予定だ。
宮澤は2年連続ロード世界選手権完走。「落車したユキヤが復帰することを願いながら前で走っていた。でも戻ってこなかったので、その時点で『今日は自分のために走ることになる可能性が高いな』と思って走っていました。持てる力を全て出したけど、最後は力が足りなかった」。宮澤は2分21秒遅れの集団内で267kmのレースを終えた。
レースの模様はフォトギャラリーにて!!
ロード世界選手権2012エリート男子ロードレース結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー) 6h10'41"
2位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー) +04"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン) +05"
4位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)
5位 ラース・ボーム(オランダ)
6位 アラン・デーヴィス(オーストラリア)
7位 トマ・ヴォクレール(フランス)
8位 ラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア)
9位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア)
10位 オスカル・フレイレ(スペイン)
54位 宮澤崇史(サクソバンク・ティンコフバンク) +2'21"
DNF 新城幸也(ユーロップカー)
DNF 別府史之(オリカ・グリーンエッジ)
DNF 福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)
DNF 土井雪広(アルゴス・シマノ)
DNF 畑中勇介(シマノレーシング)
text&photo:Kei Tsuji in Limburg, Netherlands
小雨降るマーストリヒトをスタート
1週間にわたって開催されたロード世界選手権が、9月23日、最終日を迎えた。最後を締めくくるのはエリート男子のロードレースだ。
リンブルフ州の中心都市マーストリヒトを発ち、丘陵地帯を106km走ってから16.1kmの周回コースに入る。カウベルグとベメレルベルグを含んだ周回コースを10周。267kmのアップダウンコースが今年の世界一を導き出す。
アムステル・ゴールドレースと同じマーストリヒト・マルクト広場のスタート地点に集まったのは、48カ国・207名の選手たち。
「グローバリゼーションを象徴するチーム」という紹介とともに、日本ナショナルジャージに身を包んだ新城幸也(ユーロップカー)、別府史之(オリカ・グリーンエッジ)、土井雪広(アルゴス・シマノ)、宮澤崇史(サクソバンク)、福島晋一(トレンガヌ)、畑中勇介(シマノレーシング)がステージに上がる。
小雨がパラつく気温12度前後の空気と、世界一を決める独特の緊張感に包まれながら、ディフェンディングチャンピオン擁するイギリスを先頭に207名がスタートした。
連続する落車により歯車が狂い始める
しばらくのアタック合戦の後、ダリオ・カタルド(イタリア)やジェローム・コッペル(フランス)を含む11名が飛び出す。
ファルケンブルフを起点とした16.1kmの周回コースに差し掛かる頃、先頭グループとメイン集団のタイム差は4分前後を推移。ディフェンディングチャンピオンの証である「1」をつけたマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)が献身的にメイン集団を牽引し、先頭グループとのタイム差を抑え込んだ。
そして、この日2回目のカウベルグで次なる動きが生まれる。フアンアントニオ・フレチャ(スペイン)やリナルド・ノチェンティーニ(イタリア)らが登りで飛び出し、これにすかさず別府が反応した。
「もともとはレース終盤に動く予定でしたが、ちょうどアタックが掛かった時に周りに動ける日本チームのメンバーがいなかった。いい選手が人数を揃えて飛び出したので、『これは絶対マストだ』と判断して自分から動きました」と別府。
しかしここで日本チームにトラブルが発生する。カウベルグの頂上付近で、新城が前走のナイロ・クインターナ(コロンビア)と絡んで落車。フロントホイールを破損してしまう。
その場に居合わせた畑中がすぐに駆け寄り、新城にホイールを差し出したが、このトラブルによって新城はメイン集団から1分ほどのビハインドを食ってしまう。
ここから、止まって再スタートを待った福島と、ニュートラルサポートからフロントホイールを受け取った畑中が強力に新城をリードした。2人の力を借りた新城は1分の遅れを挽回し、その周回のうちにメイン集団に復帰する。一方「日本のチームカーが周りにおらず、フルもがきでユキヤを引っ張りました」と話す畑中は、他国のチームカーに衝突してしまい単独で落車。走り出したものの、2周目完了時にリタイアしている。
大歓声に後押しされたジルベールが決死のアタック
ハイペースで周回をこなした別府を含む9名の追走グループは、やがて先頭の11名を捉えた。一方、ベルギーが強力に牽引するメイン集団の中から、4周目のカウベルグでブエルタ・ア・エスパーニャの覇者アルベルト・コンタドール(スペイン)がアタックする。
ジルベールとボーネン擁するベルギーに対し、この日最も攻撃的に動いたのはスペイン。コンタドールの動きにはロバート・ヘーシンク(オランダ)やトマ・ヴォクレール(フランス)らが反応し、新たに20名ほどの強力な追走グループを組織する。コンタドールらは別府を含む20名の先頭グループにすぐさま追いついた。
レースが徐々に加熱するこの頃、「レース前半から良いポジションで走れていた」と話す土井がメカトラに見舞われる。落車した新城の集団復帰に力を使った福島も集団から脱落。2人はゴールまで5周回を残してバイクを降りている。
スペインが積極的にペースを作る逃げグループからは別府が脱落。追撃するメイン集団は、開催国オランダや、ジョン・デゲンコルブのスプリントに持ち込みたいドイツが牽引する。
落車で右の脛を打ち、「体調は良かったのに登りで踏めなかった」と語る新城がここから遅れ始め、メイン集団に残っている日本人選手は宮澤だけとなる。
結局メイン集団はゴールまで30kmを残して逃げを全てキャッチ。レースは勝負の残り2周に突入した。
緩いベメレルベルグの登りでアンドリュー・タランスキー(アメリカ)とイアン・スタナード(イギリス)が飛び出して先行したが、最終周回突入前のカウベルグで吸収。メイン集団は30名ほどに絞られた状態で最終周回突入の鐘を聞く。
何度か遅れながらも集団内で走っていた宮澤は、カウベルグで遅れ、45秒遅れで最終周回に入った。「(登りで)かかると分かっていたのにダメだった。残り2周のカウベルグで遅れたときはなんとか追いついたけど、残り1周で遅れた時には、もう追いつけなかった」。
スペイン、イタリア、ベルギー、ドイツ、ノルウェーが人数を揃えて集団前方に上がり、最後のカウベルグに向けたポジション争いを展開する。主導権を得たのはイタリアで、ルーカ・パオリーニ(イタリア)がリードする形でカウベルグに突入。すると、その後ろからエースのヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)が飛び立った。
しかしニーバリのアタックには間髪入れずにジルベールが反応する。ペースが上がって縦に長く伸びた集団の先頭から、ジルベールがカウンターアタック。ギアを掛けて10%ほどの登りを踏んでいく。
大歓声に包まれたカウベルグを、先頭で、しかも徐々に後続との距離を広げながら、ジルベールが飛ぶように駆け上がった。
アレクサンドル・コロブネフ(ロシア)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー)は追いきれず、ジルベールは5秒ほどのリードを得てゴールまでの平坦路に入る。風は追い風。牽制が入ってペースダウンした後続を振り払い、ジルベールが独走のままゴールに飛び込んだ。
世界タイトルを手にしたジルベール
これまで幾多のタイトルを獲得しているクラシックレーサーが、キャリアの中で初めて手にするアルカンシェル。どこか夢の中にいるかのような、まだ現実を飲み込めていないような表情でジルベールは記者会見に臨む。
「カウベルグの一番勾配がきついポイントで、最大限の力でアタックした。家族や友人、そして地元のファンが詰めかけたゴールを先頭で駆け抜けるのは、ファンタスティックな気分だった」。
今年ジルベールはビッグマネーとともにBMCレーシングチームに移籍したが、長引く歯の治療も影響してシーズン前半は低迷。夏頃からようやく調子を取り戻し、地元ベルギー・ワロン地方にほど近いオランダ・リンブルフ州での世界選手権に照準を合わせていた。「チームメイトのために走ったツール・ド・フランスで調子を上げ、ロンドン五輪に出場。そしてブエルタ・ア・エスパーニャでステージ2勝して本来の力を取り戻した。今回のコースに似たステージで勝ったことが自信を与えてくれた」。
「まだ世界チャンピオンに輝いたという実感が無い」というジルベール。新しいアルカンシェルは、9月27日にイタリアで開催されるジロ・デル・ピエモンテで披露される予定だ。
宮澤は2年連続ロード世界選手権完走。「落車したユキヤが復帰することを願いながら前で走っていた。でも戻ってこなかったので、その時点で『今日は自分のために走ることになる可能性が高いな』と思って走っていました。持てる力を全て出したけど、最後は力が足りなかった」。宮澤は2分21秒遅れの集団内で267kmのレースを終えた。
レースの模様はフォトギャラリーにて!!
ロード世界選手権2012エリート男子ロードレース結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー) 6h10'41"
2位 エドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー) +04"
3位 アレハンドロ・バルベルデ(スペイン) +05"
4位 ジョン・デゲンコルブ(ドイツ)
5位 ラース・ボーム(オランダ)
6位 アラン・デーヴィス(オーストラリア)
7位 トマ・ヴォクレール(フランス)
8位 ラムナス・ナヴァルダスカス(リトアニア)
9位 セルジオルイス・エナオモントーヤ(コロンビア)
10位 オスカル・フレイレ(スペイン)
54位 宮澤崇史(サクソバンク・ティンコフバンク) +2'21"
DNF 新城幸也(ユーロップカー)
DNF 別府史之(オリカ・グリーンエッジ)
DNF 福島晋一(トレンガヌ・プロアジア)
DNF 土井雪広(アルゴス・シマノ)
DNF 畑中勇介(シマノレーシング)
text&photo:Kei Tsuji in Limburg, Netherlands
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