アメリカでヴェールを脱いだニューモデルはまだまだたくさんある。ついにフルカーボン化したCRUXは最も熱い視線を浴びていた一台。女性版ROUBAIXであるRUBYもフルモデルチェンジしている。マクラーレンとの共同開発第二弾となるTTヘルメットや、ラインナップを一新したロヴァールのホイール群、進化したサドルにも注目したい。

ROUBAIXやALLEZが関心を独占しがちだが、総合メーカーらしく女性用バイクやタイヤ、ホイール、ヘルメットなども着実に進化させているスペシャライズド。開発者へのインタビューを交えながら注目のプロダクツを紹介する。マクラーレンとの共同開発には、製品作り以上の重要な意味が隠されていた。

フルモデルチェンジを遂げたRUBY

新型デュラエースDi2を装備する新型ルビー新型デュラエースDi2を装備する新型ルビー photo:Yukio Yasui

ROUBAIXのSL4化にともない、女性版ROUBAIXたるRUBYもフルモデルチェンジ。写真はS-WORKSグレードに投入される最上級モデル、S-WORKS RUBY Di2。フレームの変更点はROUBAIXに準ずる。写真のバイクには従来型のアルテグラが装着されているが、コンポーネントは11スピード化した新型デュラエースDi2となる。ホイールにはデュラエースグレードのチューブレスが採用される予定で、RUBYの高い快適性を増幅させるアッセンブルとなる。RUBYには数種類のグレードが用意されるが、この特徴的なシートピラー「コブルゴブラー」を装備するのはS-WORKSモデルのみ。

カーボンフレームとなったオフロードレーサーCRUX

カーボンフレームとなったオフロードレーサーCRUXカーボンフレームとなったオフロードレーサーCRUX photo:Yukio Yasui

ダウンチューブには凹みが設けられ、担いだときに手がフィットしやすい形状になっているダウンチューブには凹みが設けられ、担いだときに手がフィットしやすい形状になっている photo:Yukio Yasui世界的に活況を呈しているシクロクロスシーンに、スペシャライズドが新型モデルを投入した。これまでアルミ製だったシクロクロス専用バイク、CRUX(クラックス)に、ついにフルカーボンモデルが追加されたのだ。

開発者が「シクロクロスに求められる要素を全て詰め込んだTARMAC」と呼ぶほどの自信作である。これまでのE5アルミ版CRUXも高い基本性能で好評だっただけに、このカーボンクラックスにも期待が集まっている。

コストパフォーマンスに優れるアルミ版CRUXもカーボン版と同様のチューブシェイプとなって進化している。

カンチブレーキ仕様に加え、同価格でディスクブレーキ仕様もラインナップされるカンチブレーキ仕様に加え、同価格でディスクブレーキ仕様もラインナップされる photo:Yukio Yasuiカンチブレーキ仕様に加え、同価格でディスクブレーキ仕様もラインナップされるカンチブレーキ仕様に加え、同価格でディスクブレーキ仕様もラインナップされる photo:Yukio Yasui


独自の設計思想でロヴァールがラインナップを一新

独自の設計思想でロヴァールがラインナップを一新独自の設計思想でロヴァールがラインナップを一新 photo:Yukio Yasui

フルカーボンリムながらラインナップはクリンチャーのみ。グラフィックも一新されたフルカーボンリムながらラインナップはクリンチャーのみ。グラフィックも一新された photo:Specializedスペシャライズド傘下のホイールブランド、ロヴァールもロードラインナップを一新した。製品コンセプトは「CLINCHERS ARE FASTER」。サイドウォールのたわみがチューブラーに比べて少なく、エネルギーの消費が抑えられるとの理由からラインナップは全てクリンチャーとなる。

ディスク対応のCLX40。フロントホイールはディスク側のみタンジェント組みとなるディスク対応のCLX40。フロントホイールはディスク側のみタンジェント組みとなる photo:Specialized最も空力性能に優れるラピードCLX60は、60mmハイトのフルカーボンクリンチャーホイール。リム幅は24.5mmと広めに設定されている。重量は1515gで、クリンチャーであることを考えるとライバル製品よりも軽くできているという。最軽量モデルとなるラピードCLX40(1396g)は、40mmハイト/23mm幅のフルカーボンクリンチャーホイール。いずれもセラミックベアリングを採用しており、シマノ11スピードに対応している。カーボン/アルミコンポジットリムのミドルグレードホイール、RL40(1700g)もラインナップに加わる。

注目は、ロードホイールであるCLX40にディスク対応モデルが投入されることである。リムはラピードCLX40と共通で、重量は1545g。日本にも入荷される予定だ。ディスクロードのフレームばかりが先行している中、ロヴァールはホイールメーカーとしていち早くディスクロードに対応してきた。適合エンド幅は135mm。スペシャライズドはルーベシリーズにディスクブレーキ仕様モデルを投入する予定であり、「これからのロードバイクディスクブレーキ化をリードしていくつもり」とはエンジニアの弁。

軽い走りを手に入れた高性能タイヤ

軽い走りを手に入れた高性能タイヤ軽い走りを手に入れた高性能タイヤ photo:Specializedレース用ロードタイヤ、S-WORKSターボもフルモデルチェンジ。オメガファーマクイックステップチームと共同で開発されたこのクリンチャータイヤは、評判のよかった前作よりもさらに進化したものとなっているという。転がり抵抗の削減を目標に開発された新型は、ハイグリップと低抵抗を両立させたコンパウンドを採用し、幅は24Cに。トレッド面には細かな凹凸が付けられ、バイクを大きく傾けた状態でもグリップを失いにくいように工夫されている。もちろん耐パンク性を向上させるブラックベルトも装備している。

社内で計測したデータによると、23Cの某ブランド定番クリンチャータイヤを時速40km(8気圧、荷重50kg)で転がすのに必要なパワーが28.3ワットであるのに対し、新型ターボは同条件で23.7ワットに抑えられているという。

トゥーペモデルチェンジ&ローミンにSW追加

左が前作、右が新作。樹脂と表皮とのコンポジットとすることで、太ももとの摩擦が低くなっている左が前作、右が新作。樹脂と表皮とのコンポジットとすることで、太ももとの摩擦が低くなっている photo:Yukio Yasuiスペシャライズド社の主力商品の一つであるサドルも変更を受けている。定番モデルであるトゥーペプロは、サドルの縁部分が改良された。前作では表皮が裏側まで回り込んでいたが、新作では表皮と樹脂パーツとのコンポジットとなり、太ももとの摩擦を抑えることに成功している。また、樹脂部分をあえてしなる構造とすることで、ペダリングがさらにしやすくなっているという。

最もレースに適したサドル、ローミンにはS-WORKSモデルが追加された。ベースはフルカーボンとなり、さらなる軽量化を達成している。骨格に合わせて3種類のサイズが設定されるのは前作と変わらず。ブラック、ホワイト、チームの3カラーから選ぶことができる。

モデルチェンジしたトゥーペモデルチェンジしたトゥーペ photo:Yukio YasuiローミンにはS-WORKSモデルが追加されたローミンにはS-WORKSモデルが追加された photo:Yukio Yasui
ベースまでフルカーボンとなったローミンベースまでフルカーボンとなったローミン photo:Yukio Yasuiグレーの部分はたわみやすく作られており、ペダリングのしやすさを追求グレーの部分はたわみやすく作られており、ペダリングのしやすさを追求 photo:Yukio Yasui


マクラーレンの協力を得て誕生した最速ヘルメット

マクラーレンの協力を得て誕生したS-WORKSマクラーレンTTヘルメットマクラーレンの協力を得て誕生したS-WORKSマクラーレンTTヘルメット photo:Specialized
スリットがあっても空気抵抗は増えない形状となっているスリットがあっても空気抵抗は増えない形状となっている photo:Specializedヴェンジに次ぐマクラーレンとの合同プロジェクト第二弾、S-WORKSマクラーレンTTヘルメットも発表された。

後端には空気を抜くためのベンチホールが設けられる後端には空気を抜くためのベンチホールが設けられる photo:Specializedこのヘルメットの真価は、あらゆる条件下で空気抵抗を低く抑える点にある。前を向いて正面から風が当たるという限定された条件で優れた空力性能を有するヘルメットは他にもあるというが、「ライディング中、頭は様々な方向に向き、あらゆる方向から風が吹く。このTTヘルメットは、ライダーがどこを向いていてもどこから風が当たっていても空気の流れを乱さない。ここまで“速いヘルメット”は他にはない」と設計担当者。

側部にスリットが設けられているのも特徴。後部には大きな穴があり、スリットから空気を吸って後方から抜く構造とすることで、通気性を確保しながら空気抵抗を削減することを可能としている。「某有名TTヘルメットと比較した結果、プロレベルの走りにおいて1kmあたり0.5秒のタイム削減が可能というデータが出ました。小さい数字だと思われるかもしれませんが、50kmのTTでは25秒以上の差になります」と担当者。この“最速ヘルメット“は2013年春に発売予定だが、マクラーレン・ヴェンジと同じく少量の限定生産となる予定だ。

「肝心なことは、S- WORKSマクラーレンヘルメットの開発で得られた技術がこれから他のスペシャライズド製品にも活かされていくということです。マクラーレンとの共同開発は、決して製品を作るためだけが目的ではありません。カーボンの製造技術、空力技術、振動解析技術などを一緒に向上させることこそが最も重要な目的。F1コンストラクターの知名度を利用した、単なるマーケティングではないんです」
インタビューの最後にエンジニアはこう強調した。このヘルメットの誕生は、TTとは縁がない一般ライダーにも無関係ではないのだ。


photo&text:Yukio Yasui in Snowbird, USA

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