2012/03/31(土) - 12:07
「世界最高峰」という言葉は、ロードレースに限らず世界中で酷使されている。だがワンデークラシックにおける「世界最高峰」は間違いなくこのロンド・ファン・フラーンデレンだろう。第96回大会はコースを大々的に変更し、長い歴史にスパイスを加える。コースや有力選手をチェックしておこう。
名物カペルミュール消滅 周回コースが誕生
「モニュメント」と呼ばれる世界を代表する5つのワンデークラシックの中でも、ひと際大きな存在感を見せるのが、「クラシックの王様」の異名を持つこのロンド・ファン・フラーンデレンだ。
フランス語で「ツール・デ・フランドル」と呼ばれるフランドル地方最大のロードレースであり、そのステータスは「世界一」。そこに異議を唱える人は少ない。
1913年に第1回大会が開催され、今年で開催96回目。自転車競技熱が高いフランドル地方で開催されるだけに、沿道には熱狂的なファンが詰めかけ、頭上には黄色のフランドルフラッグが翻る。今年もフランドル地方の熱気はこのロンドで頂点に達する。
ロンド・ファン・フラーンデレンがそれだけ高いステータスを誇っている理由、それは他のクラシックレースには見られない過酷なコース設定だ。石畳に覆われた激坂がいくつも登場する。
長年コースに大きな変更は加えられなかったが、2012年大会はゴール地点がニノーヴェのメールベケから、レース博物館のあるオウデナールデに移動。決定的なアタックの決まる勝負どころとして知られるゴール前のミュール・カペルミュールとボスベルグは姿を消す。丘の上にある教会に向かう最大勾配20%の神聖なる名物坂は登場しない。
代わって、大中小の周回コースが用意された。いずれの周回にもオウデ・クワレモントとパテルベルグが含まれており、難所コッペンベルグは最初の周回コースにのみ登場する。
コース全長は2011年大会より短い256.9km。同じ場所を何度も通過するため、熱狂的なファンが熱狂的な運転で先を急ぐ必要性が減る。つまり、より観戦フレンドリーなコース設定になっている。
合計3回ずつ登場するオウデ・クワレモントとパテルベルグはいずれも石畳で、前者が平均4%・最大11.6%・長さ2200m、後者が平均12.9%・最大20.3%・長さ360m。最後のパテルベルグからゴールまでは14km。急坂の数はのべ16カ所。
ミュール・カペルミュールとボスベルグの組み合わせと比較すると、オウデ・クワレモントとパテルベルグの組み合わせの難易度は低いとの声も聞かれるが、コースの難易度がレースの難易度に直結するわけではない。レースの厳しさは展開が作るものであり、難易度が下がった分、スピードが上がり、展開的に以前にも増してサバイバルなレースとなる可能性もある。
そして、フランドル地方特有の気まぐれな天候がレース展開に大きく影響する。北海から吹き付ける強風、石畳の急坂を濡らしてグリップ力を低下させる雨、etc。時には雪が降ることもある。
登場する16の急坂
1 109km地点 ターインベルグ 石畳 平均6.6% 最大15.8% 長さ530m
2 115km地点 エイケンベルグ 石畳 平均6.2% 最大10% 長さ1300m
3 129km地点 モーレンベルグ 石畳 平均7% 最大14.2% 長さ463m
4 144km地点 レケルベルグ アスファルト 平均4% 最大9% 長さ800m
5 147km地点 ベレンドリース アスファルト 平均7% 最大13% 長さ940m
6 155km地点 ヴァルケンベルグ アスファルト 平均8.1% 最大12.8% 長さ540m
7 177km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
8 181km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m
9 188km地点 コッペンベルグ 石畳 平均11.6% 最大22% 長さ600m
10 193km地点 シュテインビークドリシュ 石畳 平均5.3% 最大6.7% 長さ700m
11 208km地点 クルイスベルグ 石畳 平均6.5% 最大9% 長さ1000m
12 218km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
13 222km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m
14 229km地点 ホーグベルグ アスファルト 平均3.5% 最大8% 長さ3000m
15 238km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
16 242km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m
好調ボーネンvsカンチェラーラの一騎打ち再び?豪華なアウトサイダーたち
毎年フランドルの期待を背負うトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)は今シーズン絶好調だ。同じフランドル地方のE3プライス・フラーンデレンとヘント〜ウェベルヘムを立て続けに制覇。近年稀に見る好コンディションでロンドに挑む。ボーネンは2005年と2006年大会の覇者。
そんな絶好調ボーネンを支えるのが、絶好調オメガファーマ・クイックステップ。同チームは今シーズンすでに23勝を飾っており、勝利数では断トツトップ。
ドワーズ・ドア・フラーンデレンを制したニキ・テルプストラ(オランダ)や、同レース2位で直前のデパンヌ3日間レースを制したシルヴァン・シャヴァネル(フランス)がボーネンの後ろに控える(レースでは前に出る)。サバイバルレースにおいてチーム力の高さは大きなアドバンテージになる。
対するのは、2010年覇者ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン)。レースはこのボーネンとカンチェラーラの2人を中心に回ると言っても良いだろう。ライバルたちが消耗した地点でアタックを仕掛け、独走に持ち込むのがカンチェラーラの勝ちパターンだ。
カンチェラーラはストラーデビアンケを圧倒的な力で制し、ティレーノ〜アドリアティコ最終個人タイムトライアル勝利、ミラノ〜サンレモ2位。好調のダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)やトニー・ギャロパン(フランス)がカンチェラーラの伴侶となる。
セミクラシックのオンループ・ヘットニュースブラッドでボーネンを下したセプ・ファンマルク(ベルギー)が、ガーミン・バラクーダのエースに抜擢された。まだ23歳と若いファンマルクは、独走&スプリントいずれも得意。E3プライス・フラーンデレンでは5位に入っている。
多種多様なレースで勝っている22歳ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)は、ダークホースとして恐れられる存在。小集団スプリントでボーネンと張り合える実力の持ち主であり、ヘント〜ウェベルヘムでそのことを証明した(ボーネンに次いで2位)。
登りもスプリントもこなせる万能選手としてエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)にも注目。マッティ・ブレシェル(デンマーク、ラボバンク)やフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)、セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ、グリーンエッジ)らも同様に上位に絡む走りが予想される。
BMCレーシングチームのフィリップ・ジルベール(ベルギー)とトル・フースホフト(ノルウェー)は、ともに調子が低迷している状態。代わりにフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア)がレースを動かすだろう。そしてチームメイトのジョージ・ヒンカピー(アメリカ)は歴史に挑む。ヒンカピーは昨年16回目の完走を果たした。今年完走すれば、1940年代に活躍したブリック・スホット(ベルギー)を上回るロンド17回完走の記録を作る。
text:Kei Tsuji
名物カペルミュール消滅 周回コースが誕生
「モニュメント」と呼ばれる世界を代表する5つのワンデークラシックの中でも、ひと際大きな存在感を見せるのが、「クラシックの王様」の異名を持つこのロンド・ファン・フラーンデレンだ。
フランス語で「ツール・デ・フランドル」と呼ばれるフランドル地方最大のロードレースであり、そのステータスは「世界一」。そこに異議を唱える人は少ない。
1913年に第1回大会が開催され、今年で開催96回目。自転車競技熱が高いフランドル地方で開催されるだけに、沿道には熱狂的なファンが詰めかけ、頭上には黄色のフランドルフラッグが翻る。今年もフランドル地方の熱気はこのロンドで頂点に達する。
ロンド・ファン・フラーンデレンがそれだけ高いステータスを誇っている理由、それは他のクラシックレースには見られない過酷なコース設定だ。石畳に覆われた激坂がいくつも登場する。
長年コースに大きな変更は加えられなかったが、2012年大会はゴール地点がニノーヴェのメールベケから、レース博物館のあるオウデナールデに移動。決定的なアタックの決まる勝負どころとして知られるゴール前のミュール・カペルミュールとボスベルグは姿を消す。丘の上にある教会に向かう最大勾配20%の神聖なる名物坂は登場しない。
代わって、大中小の周回コースが用意された。いずれの周回にもオウデ・クワレモントとパテルベルグが含まれており、難所コッペンベルグは最初の周回コースにのみ登場する。
コース全長は2011年大会より短い256.9km。同じ場所を何度も通過するため、熱狂的なファンが熱狂的な運転で先を急ぐ必要性が減る。つまり、より観戦フレンドリーなコース設定になっている。
合計3回ずつ登場するオウデ・クワレモントとパテルベルグはいずれも石畳で、前者が平均4%・最大11.6%・長さ2200m、後者が平均12.9%・最大20.3%・長さ360m。最後のパテルベルグからゴールまでは14km。急坂の数はのべ16カ所。
ミュール・カペルミュールとボスベルグの組み合わせと比較すると、オウデ・クワレモントとパテルベルグの組み合わせの難易度は低いとの声も聞かれるが、コースの難易度がレースの難易度に直結するわけではない。レースの厳しさは展開が作るものであり、難易度が下がった分、スピードが上がり、展開的に以前にも増してサバイバルなレースとなる可能性もある。
そして、フランドル地方特有の気まぐれな天候がレース展開に大きく影響する。北海から吹き付ける強風、石畳の急坂を濡らしてグリップ力を低下させる雨、etc。時には雪が降ることもある。
登場する16の急坂
1 109km地点 ターインベルグ 石畳 平均6.6% 最大15.8% 長さ530m
2 115km地点 エイケンベルグ 石畳 平均6.2% 最大10% 長さ1300m
3 129km地点 モーレンベルグ 石畳 平均7% 最大14.2% 長さ463m
4 144km地点 レケルベルグ アスファルト 平均4% 最大9% 長さ800m
5 147km地点 ベレンドリース アスファルト 平均7% 最大13% 長さ940m
6 155km地点 ヴァルケンベルグ アスファルト 平均8.1% 最大12.8% 長さ540m
7 177km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
8 181km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m
9 188km地点 コッペンベルグ 石畳 平均11.6% 最大22% 長さ600m
10 193km地点 シュテインビークドリシュ 石畳 平均5.3% 最大6.7% 長さ700m
11 208km地点 クルイスベルグ 石畳 平均6.5% 最大9% 長さ1000m
12 218km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
13 222km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m
14 229km地点 ホーグベルグ アスファルト 平均3.5% 最大8% 長さ3000m
15 238km地点 オウデ・クワレモント 石畳 平均4% 最大11.6% 長さ2200m
16 242km地点 パテルベルグ 石畳 平均12.9% 最大20.3% 長さ360m
好調ボーネンvsカンチェラーラの一騎打ち再び?豪華なアウトサイダーたち
毎年フランドルの期待を背負うトム・ボーネン(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)は今シーズン絶好調だ。同じフランドル地方のE3プライス・フラーンデレンとヘント〜ウェベルヘムを立て続けに制覇。近年稀に見る好コンディションでロンドに挑む。ボーネンは2005年と2006年大会の覇者。
そんな絶好調ボーネンを支えるのが、絶好調オメガファーマ・クイックステップ。同チームは今シーズンすでに23勝を飾っており、勝利数では断トツトップ。
ドワーズ・ドア・フラーンデレンを制したニキ・テルプストラ(オランダ)や、同レース2位で直前のデパンヌ3日間レースを制したシルヴァン・シャヴァネル(フランス)がボーネンの後ろに控える(レースでは前に出る)。サバイバルレースにおいてチーム力の高さは大きなアドバンテージになる。
対するのは、2010年覇者ファビアン・カンチェラーラ(スイス、レディオシャック・ニッサン)。レースはこのボーネンとカンチェラーラの2人を中心に回ると言っても良いだろう。ライバルたちが消耗した地点でアタックを仕掛け、独走に持ち込むのがカンチェラーラの勝ちパターンだ。
カンチェラーラはストラーデビアンケを圧倒的な力で制し、ティレーノ〜アドリアティコ最終個人タイムトライアル勝利、ミラノ〜サンレモ2位。好調のダニエーレ・ベンナーティ(イタリア)やトニー・ギャロパン(フランス)がカンチェラーラの伴侶となる。
セミクラシックのオンループ・ヘットニュースブラッドでボーネンを下したセプ・ファンマルク(ベルギー)が、ガーミン・バラクーダのエースに抜擢された。まだ23歳と若いファンマルクは、独走&スプリントいずれも得意。E3プライス・フラーンデレンでは5位に入っている。
多種多様なレースで勝っている22歳ペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)は、ダークホースとして恐れられる存在。小集団スプリントでボーネンと張り合える実力の持ち主であり、ヘント〜ウェベルヘムでそのことを証明した(ボーネンに次いで2位)。
登りもスプリントもこなせる万能選手としてエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)にも注目。マッティ・ブレシェル(デンマーク、ラボバンク)やフィリッポ・ポッツァート(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)、セバスティアン・ラングヴェルト(オランダ、グリーンエッジ)らも同様に上位に絡む走りが予想される。
BMCレーシングチームのフィリップ・ジルベール(ベルギー)とトル・フースホフト(ノルウェー)は、ともに調子が低迷している状態。代わりにフレフ・ファンアフェルマート(ベルギー)とアレッサンドロ・バッラン(イタリア)がレースを動かすだろう。そしてチームメイトのジョージ・ヒンカピー(アメリカ)は歴史に挑む。ヒンカピーは昨年16回目の完走を果たした。今年完走すれば、1940年代に活躍したブリック・スホット(ベルギー)を上回るロンド17回完走の記録を作る。
text:Kei Tsuji
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