本名よりも「プリート」の愛称で語られることの多いホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)が、切れ味鋭いアタックでマルケ州の丘陵ステージを制した。クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・ニッサン)を中心に繰り広げられる僅差の総合争いは、最終個人タイムトライアルで決着する。

ミラノ〜サンレモ狙いの選手が続々リタイア

ティレーノ〜アドリアティコ第6ステージ・コースプロフィールティレーノ〜アドリアティコ第6ステージ・コースプロフィール image:RCS Sports最終日前日の第6ステージの舞台は、イタリア半島の東海岸、アドリア海に面したマルケ州。雪を冠したアペニン山脈とアドリア海に挟まれた一帯には、標高300〜400mほどの丘陵が見渡す限り延々と続いている。

オフィーダの旧市街をスタートするオフィーダの旧市街をスタートする photo:Kei Tsujiそれらの丘陵の天辺には、決まってレンガ作りの都市が点在している。オフィーダはその中でも「最も美しいボルゴ(ビレッジ)の一つ」に数えられるほど由緒正しい街だ。

全長181kmのコースは、登りと下りしかない起伏に富んだもの。丘の尾根伝いを走り、雨に浸食された谷を下り、そして丘の上目指して駆け上がる。

レース序盤の逃げグループにマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)が入るレース序盤の逃げグループにマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)が入る photo:Riccardo Scanferlaレース後半は、標高302mのオフィーダを起点とする16.2kmコースを6周。ラスト3.8km地点で頂点を迎える長さ2.5km・勾配7.1%のカテゴリー山岳「ポンテ・デッレ・ピエトレ」がスプリンターたちの進入を拒み、ラスト1kmを切ってから始まる高低差30mの登りが勝負を決める。さながらアルデンヌ・クラシックだ。

春の大一番ミラノ〜サンレモが近づいているため、同大会で2連覇を狙うマシュー・ゴス(オーストラリア、グリーンエッジ)やエドヴァルド・ボアッソンハーゲン(ノルウェー、チームスカイ)、フィリップ・ジルベール(ベルギー、BMCレーシングチーム)、ビセンテ・レイネス(スペイン、ロット・ベリソル)がスタートに姿を見せなかった。

逃げるカルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アックア・エ・ サポーネ)ら7名逃げるカルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アックア・エ・ サポーネ)ら7名 photo:Kei Tsujiレース中もリタイア者が続出し、周回を重ねる毎に集団は人数を減らして行く。DNSとDNFを合わせると、この日だけで22名がレースを去った。

アルカンシェルを着るマーク・カヴェンディッシュ(イギリス、チームスカイ)もDNF選手の一人。カヴェンディッシュはレース序盤にアタックし、ミラノ〜サンレモ前最後の感触を確かめた。

ゴールスプリントに持ち込みたいリクイガス・キャノンデールやファルネーゼヴィーニを振り切ろうと、最後まで抵抗を見せたのは、セルジュ・パウエルス(ベルギー、オメガファーマ・クイックステップ)とカルロスアルベルト・ベタンクール(コロンビア、アックア・エ・ サポーネ)。

しかし最大5分のリードを築いた7名の逃げは、最終周回の「ポンテ・デッレ・ピエトレ」で終焉を迎えた。

マルケ州の丘陵地帯を進むプロトンマルケ州の丘陵地帯を進むプロトン photo:Kei Tsuji


ボーナスタイムにより、より接戦となった総合争い

補給ポイントでレースを待つアスタナの中野喜文マッサーとチームサクソバンクの宮島正典マッサー補給ポイントでレースを待つアスタナの中野喜文マッサーとチームサクソバンクの宮島正典マッサー photo:Kei Tsuji最大勾配が10%を超えるポンテ・デッレ・ピエトレで我先に動いたのはワウテル・ポエルス(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)。新人賞狙いのポエルスが掴まると、前日の第5ステージをメカトラで失ったダニーロ・ディルーカ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)が一気にペースを上げる。

続けざまに飛び出したクリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル)とドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)の2人が先行して頂上を越え、そのままオフィーダに至るラスト1kmの登りに差し掛かった。

カチューシャ率いるメイン集団が逃げグループとのタイム差を詰めるカチューシャ率いるメイン集団が逃げグループとのタイム差を詰める photo:Kei Tsujiエースのニーバリのために献身的に動くペーター・サガン(スロバキア、リクイガス・キャノンデール)の集団牽引によって、リブロンとポッツォヴィーヴォは吸収。カウンターアタックで飛び出したプリートが、一気に後続を突き放した。

追いすがる集団を振り切り、ガッツポーズでゴールに飛び込む“プリート”ホアキン・ロドリゲス。激坂が名物の、同じマルケ州のモンテルポーネにゴールするステージで2年連続優勝を果たしている登りの名手が、ティレーノ〜アドリアティコ通算ステージ3勝目を飾った。

ガッツポーズでゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)ガッツポーズでゴールするホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji「ゴールまで1kmを残したアタックは、早すぎて失敗に終わることも多い。実際ゴールがあと200m遠かったら、逃げ切れていたかどうか分からない。一瞬ライバルたちが躊躇したことも手伝った。勝てて良かった」。記者会見席に腰を下ろしたプリートはそう振り返る。

3度目のマルケステージ制覇を果たしたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)3度目のマルケステージ制覇を果たしたホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji「サガンが最も危険な選手だと分かっていたので、他の選手のアタックが掛かったとき、彼に仕事をさせた(集団を牽かせた)んだ。それが成功の鍵だったと思う」。ジルベールがまだ結果を残せていない中、プリートはアルデンヌ・クラシックの優勝候補に名乗りを挙げた。

5秒の総合リードをもって最終日に挑むクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・ニッサン)5秒の総合リードをもって最終日に挑むクリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・ニッサン) photo:Kei Tsuji総合3位のヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)は、スプリントの末ステージ2位に。ボーナスタイムを獲得し、ホーナーとの総合タイム差を6秒まで縮めている。キエーティにゴールする第4ステージでニーバリのボーナスタイムを潰したことで非難を浴びたサガンは、こうして面目を保った。

「今日は決して自分向きのステージではなかった。ラスト1kmを切って飛び出したのがフレイレだと勘違いしていて、表彰台の裏でそれがロドリゲスだったと初めて知った。それぐらいタフな一日だった」と話すのは、ホーナー、40歳。

ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)に対して5秒、そしてニーバリに対して6秒のリードをもって、ホーナーは最終個人タイムトライアルに挑む。会場で「日本生まれの」と紹介される40歳のベテランは「レースはここまでパーフェクトに進んでいる。明日はクロイツィゲルが大きな脅威になると思うし、実際それを目の当たりにするかもしれない。勝っても負けても人生は続いて行く。リラックスするように心がけて、平常心でレースに挑みたい」と、ベテランならではのコメントを残している。

運命の鍵を握る最終個人タイムトライアルは、アドリア海に面したビーチリゾート、サンベネデット・デル・トロントで行なわれる。コースは直線基調かつ真っ平ら。総合3位ニーバリは15時48分、総合2位クロイツィゲルは15時50分、そして総合リーダーホーナーは15時52分にそれぞれコースに繰り出す。

ティレーノ~アドリアティコ2012第6ステージ結果
1位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)           4h38'27"
2位 ヴィンツェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
3位 ダニーロ・ディルーカ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
4位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・ニッサン)
5位 リナルド・ノチェンティーニ(イタリア、アージェードゥーゼル)
6位 ワウテル・ポエルス(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
7位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)
8位 オスカル・ガット(イタリア、ファルネーゼヴィーニ)
9位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)
10位 ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)

個人総合成績
1位 クリストファー・ホーナー(アメリカ、レディオシャック・ニッサン)  29h27'06"  
2位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)               +05"
3位 ヴィンツェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)   +06"
4位 リナルド・ノチェンティーニ(イタリア、アージェードゥーゼル)      +45"
5位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)           +47"
6位 ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)       +48"
7位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)             +50"
8位 クリストフ・リブロン(フランス、アージェードゥーゼル・ラモンディアール)+1'15"
9位 ダニーロ・ディルーカ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)        +1'21"
10位 ドメニコ・ポッツォヴィーヴォ(イタリア、コルナゴ・CFSイノックス)   +1'22"

山岳賞
ステファノ・ピラッツィ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)

ポイント賞
ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)

新人賞
ワウテル・ポエルス(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)

チーム総合成績
カチューシャ

text&photo:Kei Tsuji in Offida, Italy

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