2011年のシクロクロス全日本選手権で優勝した竹之内悠が、2月20日、再びヨーロッパ・ベルギーに渡る。チームNIPPOのサテライトチームであるチームユーラシアの一員としてロードシーズンを闘う竹之内に、2012年の抱負、そしてその先にあるヴィジョンを聞いた。

シクロクロス世界選手権の試走を終えた竹之内悠(チームユーラシア)シクロクロス世界選手権の試走を終えた竹之内悠(チームユーラシア) photo:Sonoko Tanaka京都府出身の竹之内は、1988年生まれの23歳。幼少期からMTBに親しみ、2005年から2年連続全日本選手権MTBクロスカントリージュニアで優勝。同時にロードレースとシクロクロスにも打ち込んでおり、2005年国体ロードの少年の部で優勝すると、2009年ロード全日本選手権U23で3位。シクロクロスでは2007年からU23カテゴリーで全日本選手権連覇を繰り返し、2011年ついにエリートのチャンピオンに輝いた。日本では稀な三種(ロード、シクロクロス、MTB)をこなすライダーだ。

2010年以降はチームNIPPOのサテライトチームであるチームユーラシアに加わり、ベルギーに拠点を置いて活動している。2月11日のシクロクロストーキョー、そして2月12日のさぬきでシクロクロスシーズンを締めくくった竹之内は、2月20日に渡欧し、すぐにロードシーズンをスタートさせる。

インタビューを行なったのはベルギーに渡る直前のタイミング。

Q. シクロクロス世界選手権を振り返って
シクロクロス全日本選手権で初優勝を飾った竹之内悠(チームユーラシア)シクロクロス全日本選手権で初優勝を飾った竹之内悠(チームユーラシア) photo:Kei Tsujiレース本戦の結果は振るわなかった。でも日程全体を見ると得たものは多かったです。今まではただ『なんだこれ!(トップ選手は)速いな!』という漠然とした印象しか持たなかったけど、試走時間から積極的にコースを走ったことで、具体的にどうすればそうできるかという感覚を得た。後で世界選手権の映像を見ると、トップ選手とやろうとしていることは変わらない。ただ自分は遅いし、弱くてまだその走りができない。

Q. 最終戦シクロクロストーキョーならびにさぬきシクロクロスを振り返って
今まで砂は得意ではなかったけど、世界選手権のコースでひたすら砂を走る練習をしたので、シクロクロストーキョーの砂浜では感覚が良かった。前半から負けない気持ちで攻めたものの、招待選手に抜かれ、後半失速してしまった。勝てないわけではないと思っていただけに残念な結果でした。そして、翌日のさぬきシクロクロスはもうボロボロでした。(ジュニアの)沢田時をぶっちぎってやろうと思ったのに、ぶっちぎられた。必死に走ったけど、遅かった。でもそこまで追い込めたのは良かった。シクロクロスで感覚的に踏めていたのは、フランスで行なわれたワールドカップまで。でもそこで追い込みすぎてその後は沈んでしまいました。

Q. シクロクロスとロードレースの両立の難しさは?
シクロクロス全日本チャンピオンジャージを着る竹之内悠(チームユーラシア)シクロクロス全日本チャンピオンジャージを着る竹之内悠(チームユーラシア) photo:Hideaki Takagi自分の中で休めていた期間は、9月下旬から10月上旬にかけて。その2週間は練習として自転車に乗りませんでした。シーズン後半だけを見ると疲れていると思われたかもしれないけど、2011年シーズンはロードからシクロクロスへの移行が成功したと思っています。ロードレースで作った体力を、シクロクロスで活かすことができた。今は疲れているけど、少し安めば、さらに上のレベルに行けると思います。

Q. シクロクロスとロードレースは互いに高め合える存在?
全てに関してそう言えます。もちろんロードレースに本気で取り組んでいますし、ロードレースを走るからシクロクロスでも強くなる。そしてシクロクロスを走るからロードレースでも強くなる。ロードレースを走ることでスピードが身に付き、それが他の競技でも上手く機能している。アベレージスピードは確実に上がっているし、踏むギアも変わってきました。競技に関係なく、スピードは選手としての基本的な力。でもまだまだ足りないし、まだまだ高める余地もある。

Q. 将来のヴィジョンは?
ロードレースでステップアップすることも考えたけど、選手として大成するために、もう一年ベルギーで走り、勝つことを学ぶというのがチームの意向。橋川監督から多くを学ばせてもらっています。夏の間に強くなりたい。そしてその先にあるのは、プロのシクロクロスレーサーになること。(オメガファーマ・クイックステップの)ゼネク・スティバルが理想像です。

Q. ヨーロッパ、ベルギーで走ることの意味は?
国内でMTBクロスカントリーにも出場する竹之内悠(チームユーラシア)国内でMTBクロスカントリーにも出場する竹之内悠(チームユーラシア) photo:Akihiro Nakao日常生活に関しては、日本にいるほうがもちろん楽。でもレースやトレーニングを含めた“世界”が違う。みんな上を目指しているし、その“世界”を求めて各国から選手が集まっている。そして元プロの選手がゴロゴロいるようなレースが毎週のように開催される。恵まれた環境で走っていることに、とても感謝しています。ベルギーに馴染み、そこで走って現地の人に知ってもらうことで、どんどん環境が良くなっている。個人的には、夏場に走っていたことで、今年のシクロクロスは動きやすい面もありました。

Q. 現在活動している環境には満足している?
ベルギーでしごかれることで、精神面にも身体的にも強くなった。この一年、自分の成長が楽しいと思えました。やるべきことをやれば報われるという手応えを感じた。そして今になって、日本で大学生として走っていた時間を取り戻したいと思うようになりました。当時から今の環境で走っていれば、さらに強くなれたと思う。でもそれは結果論であって、今の環境にはとても満足しています。出遅れた分を取り戻すために、今は必死で走っています。

Q. それは若い選手への反面教師的なメッセージでもある?
ツール・ド・ギアナで表彰台に上った竹之内悠(チームユーラシア)ツール・ド・ギアナで表彰台に上った竹之内悠(チームユーラシア) photo:Team Eurasia若い選手は、なりふり構わず、世界に出て欲しい。世界を実際に見ることで何かが分かればそれでいいし、ダメならそれはそれでいい。タイミングが早過ぎるということは無いと思う。日本を目指すなら日本での活動で良い。自分が良くない例で、日本で強くなってから世界に行くのではなく、世界を目指すなら世界で活動する必要がある。実際に今僕が世界で走っている姿を参考にしてほしい。

Q. 2月20日ベルギーに渡り、即ロードシーズンがスタート?
すぐにレースが始まるので、監督からはトップコンディションで渡欧するように言われています。目標とするのは、月に1〜2回開催されるインタークラブ(チーム単位でエントリーを行うレース)で結果を出すこと。今年は勝たないといけないし、勝てるという実感はある。ロードシーズンで自分に足りないものを補い、さらに強くなりたい。

Q. 2012年もシクロクロスに向けた長いシーズンが始まりますが?
シクロクロス全日本選手権では“勝つこと”が義務になっているので当然狙っていきます。意識としては負ける気がしない。でも2012年はシクロクロスを二の次にして、本気でロードレースに打ち込みます。ロードレースでもっとベースを上げない限り、世界のトップには届かない。シクロクロスのワールドカップでコンスタントに20位台に入るレベルまで上げること。8月に帰国して半年間(立命館大学に)復学するので、それまでにロードで乗り込んで結果を出したいです、シクロクロスでプロになるために。

チームユーラシア 橋川健監督のコメント
チームユーラシア 橋川健監督チームユーラシア 橋川健監督 NIPPOがサポートするユーラシアの活動は、あくまでロード選手の育成にあります。ただそのロード選手育成の中の手段として、竹之内に関してはシクロクロスの活動を認めています。2011-12のシクロクロスの日本選手権で、プレッシャーを感じながら優勝したことは「勝つために必要なこと」の一部を学ぶことができたものだと思います。

今年も既にロードシーズンが開幕し、木下選手がアジア選手権U23ロードレースで優勝し、BSアンカーに加入した吉田隼人選手がHCカテゴリーの山岳ステージレースで区間16位に入り、昨年までユーラシアでサポートしていた中根、榊原の両名がTeam NIPPOでイタリアの1級カテゴリーを走り完走しています。

彼らは、皆、竹之内より海外経験が乏しく、また年齢も若い選手達です。竹之内には2月末よりはじまるロードシーズンにおいて、より高いレベルでの結果を求めていきます。彼が海外でのプロ契約を目標にした場合、24歳になる彼にとってそのチャンスは年々激減し、厳しいものになっていく事を思えば、彼にとって今年のロードーシズンがどれだけ重要な意味を示すのか理解していると思います。

ユーラシアも今年で3年目になります。3年間、同じカテゴリーで走り続けている以上、「挑戦する」と言う事は「言い訳」にしかなりません。選手もスタッフも気を引き締めて結果を求め、レースに臨んでいきます。

interview:Kei Tsuji