2012/01/19(木) - 05:42
スタート地点のロベサルは曇り空。今にも雨粒が落ちてきそうな街に涼しげな風が吹く。昨日と全く気候が違う!と思っていたらすぐに太陽が顔を出し、暑さが戻って来た。
スタート地点に到着した宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsuji第2ステージの舞台はアデレード東部に広がる丘陵地帯。海に近いアデレードからハイウェイで標高差300mをガツーンと登った先に、ワイン用のブドウ畑が広がっている。
レース中ずっとブドウ畑越しにプロトンを眺めるようなショットを狙っているものの、厳重にフェンスが設けられていて不可。無断で畑に入るわけにはいかないし、畑で作業中の人に聞いても「病気が入るといけないから、申し訳ないけど、畑に入ってもらうわけにはいかない」と言って断られる。
スタート地点に彩りを与えるポディウムガール photo:Kei Tsujiワイン畑の他は広大な放牧地で、牛や羊が暑さに耐えながら(特に羊は見るからに暑そう)草をむさぼっている。時おり家畜を何段にも満載した巨大なトラックが、地鳴りを轟かせて、結構な臭いを放出しながら走っている。
スタート地点のロベサルに到着した宮澤崇史(チームサクソバンク)の表情は明るい。でも第1ステージでの落車で強打した大腿骨の付け根辺りに痛みが残る。「怪我をした日は良く寝れる。昨夜は氷で(患部を)冷やしながら寝たから大分マシ」と言うが、歩く度に顔を歪ませるような状態。
内蔵したギアがこっそり見えるアッサン・バザイエフ(カザフスタン、アスタナ)の脚 photo:Kei Tsuji「(皮膚に近い)表面ではなくて、骨の中のほうが傷むような感じ。今日もゆっくりというオーダーが出ているけど、どうせ痛いので“せっかくだから”逃げようかな」。
同じく落車したユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)とフレデリック・ゲドン(フランス、FDJ・ビッグマット)はスタートしなかった。2人ともシーズン初戦に骨折リタイアという悪夢のような出だし。しかもゲドンはこのままキャリアをリタイア(引退)するんじゃないかとジャーナリストたちは言う。
沿道にはリンゴやストロベリーの露店が並ぶ photo:Kei Tsuji骨折を免れたハインリッヒ・ハウッスラー(オーストラリア、ガーミン・バラクーダ)は無事にスタート。いつも通りビーチサンダルでバイクに跨がって出走サインを済ませた本人に聞くと「落車した時はヤバいと思ったけど、大丈夫」と言う。
気温20度という、前日の40度と比べると信じられないほど涼しげなロベサルをスタート。しばらくすると熱い太陽が戻って来た。
結果的に宮澤は逃げず、ウィリアム・クラーク(UniSAオーストラリア)とマルティン・コーラー(スイス、BMCレーシングチーム)がスタート直後に逃げた。この2チームはダウンアンダーのエスケープ常連。例年はFDJやエウスカルテルもよく逃げる。
周回コース内の登りを進むメイン集団 photo:Kei Tsuji
ボーナスタイムで総合首位に立ったマルティン・コーラー(スイス、BMCレーシングチーム)がメイン集団を待つ photo:Kei Tsujiこの日はスタートとゴール地点プラス6カ所で撮影したが、レース前半のメイン集団は常にゆったりペース。「逃げを追う気が全くないんじゃないか?」と思うほどゆったりと進んでいるように見えたが、実際はカウンターアタックがかかるなど不安定な状態が続いていた。
「最初の逃げは誰も追わずにすぐ決まった。でも1つ目のスプリントポイントを前にカチューシャを中心にしたアタックがガンガンかかって、6名が飛び出した。それに反応して3名で集団を抜け出して追走グループに入ったけど、結果的には集団に戻された。それからもアタックがかかったり落ち着かなかった」と宮澤は回想する。
樹々に覆われた周回コースを進むメイン集団 photo:Kei Tsuji2つのスプリントポイントで合計6秒のボーナスタイムを獲得したコーラーは、余計な力を使うこと無く集団に戻った。
そして一人先頭に残されたクラークは、そのまま粘りの走りで逃げ切った。第1ステージで1分40秒遅れているクラークを総合狙いのチームが本気で追わなかったこともあるが、それでも全くタレずに逃げ切る走りは賞賛に値する(ちなみにモビスターはクラークが総合で遅れているとは知らずに全力で追った)。
メイン集団から遅れて最終周回に入った宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsujiクラークは1985年4月11日生まれの26歳。オーストラリア大陸の南に浮かぶタスマニア島生まれで、マシュー・ゴスやリッチー・ポルト、サルツバージャー兄弟と同じタスマニア島第二の都市ローンセストン出身だ。
ちなみに全く関係ないけど「Boys, be ambitious(少年よ、大志を抱け)」という言葉を残したアメリカ人の名前もウィリアム・クラーク。全く関係ない。
ウィリアム・クラーク(オーストラリア、UniSAオーストラリア)の勝利に沿道が沸く photo:Kei Tsujiバリケードを叩く音が鳴り響き、大歓声に包まれたスターリングの街が、ミッションを終えたクラークを迎え入れた。地元サウスオーストラリア州出身選手ではないが、やはりオーストラリア人選手の活躍は場を盛り上げる。まるで観客の気持ちが一体となったような感覚が会場を包む。
リーダージャージを獲得したコーラーには悪いが、第2ステージの英雄は完全にクラークだ。もちろんコーラーのリーダージャージ獲得は計算の上での成果であり、讃えられるべきものだが、やはりクラークが見せた勇敢な走りは観る者を何百倍も熱くする。表彰台でも、クラークに対する歓声は格段に大きい。
ゴール後に倒れ込むマイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク) photo:Kei Tsuji昨年ジャパンカップでセンセーションを起こした現ジェネシス・ウェルス・アドヴァイザーズ(当時プラティス)出身のクラークは、2010年にリッチー・ポルトの紹介でアージェードゥーゼルのスタジエールに。昨年レオパード・トレックに所属したものの目立った成績は残せず、今年アジア初のUCIプロコンチネンタルチームとなるチャンピオンシステムに移籍した。
プロレース初勝利がUCIワールドツアーレースでの逃げ切り。この先、チャンピオンシステムのエース的な存在になるだろう。
13分27秒遅れでゴールした宮澤崇史(チームサクソバンク) photo:Kei Tsuji中盤のスプリントポイントで注目したいのは、マイケル・マシューズ(オーストラリア、ラボバンク)が2回とも3位通過(集団先頭)して合計2秒のボーナスタイムを獲得したこと。マシューズはステージ2位に入って更に6秒を獲得しているので、この日だけで8秒獲得していることになる。
第2ステージを終えて、マシューズは総合首位コーラーから4秒遅れ、グライペルから2秒遅れの総合3位。当初ラボバンクはマーク・レンショー(オーストラリア)のスプリント狙いと見られていたが、ここにきてマシューズの存在が大きくなっている。
ポディウムガールと記念撮影するクリスティアン・プリュドム氏 photo:Kei Tsujiここまでの走りを見る限り、マシューズはグライペルより登れている。アレハンドロ・バルベルデ(スペイン、モビスター)を始めとするクライマーたちを差し置いて集団の先頭を穫っていることを見ると、第5ステージのオールドウィランガヒル頂上ゴールでも好走が期待できる。
と言うことは翌日からの平坦ステージでレンショーが得意のリードアウト役を務めることになる。「世界最高峰のリードアウト」と讃えられるレンショーの力を得て、マシューズは翌日からグライペルらと対峙する。
宮澤は周回コースの2周目で仕事を終えて集団から脱落し、13分27秒遅れでゴールした。「脚は痛いけどしょうがない。サドルが高く感じる」と言いながらも、宮澤はチームとしての仕事をこなしたことに安堵の表情。「(スターリングの)周回コースに入ってからは『ムーブメントを起こそう』ということになり、チームとしてアタックした。前半のアタックにも反応したし、チームとしての仕事をこなせたから良かった」。
チームサクソバンクのジョナサン・キャントウェル、ルーク・ロバーツ、セルジオ・パウリーニョの3人は、総合で12秒遅れの好位置につけている。チームサクソバンクのメンバーは、前日からダウンアンダーに合流したビャルヌ・リース監督とともにアデレードまで20km自走で帰っていった。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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レース中ずっとブドウ畑越しにプロトンを眺めるようなショットを狙っているものの、厳重にフェンスが設けられていて不可。無断で畑に入るわけにはいかないし、畑で作業中の人に聞いても「病気が入るといけないから、申し訳ないけど、畑に入ってもらうわけにはいかない」と言って断られる。
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スタート地点のロベサルに到着した宮澤崇史(チームサクソバンク)の表情は明るい。でも第1ステージでの落車で強打した大腿骨の付け根辺りに痛みが残る。「怪我をした日は良く寝れる。昨夜は氷で(患部を)冷やしながら寝たから大分マシ」と言うが、歩く度に顔を歪ませるような状態。
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同じく落車したユルゲン・ルーランズ(ベルギー、ロット・ベリソル)とフレデリック・ゲドン(フランス、FDJ・ビッグマット)はスタートしなかった。2人ともシーズン初戦に骨折リタイアという悪夢のような出だし。しかもゲドンはこのままキャリアをリタイア(引退)するんじゃないかとジャーナリストたちは言う。
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気温20度という、前日の40度と比べると信じられないほど涼しげなロベサルをスタート。しばらくすると熱い太陽が戻って来た。
結果的に宮澤は逃げず、ウィリアム・クラーク(UniSAオーストラリア)とマルティン・コーラー(スイス、BMCレーシングチーム)がスタート直後に逃げた。この2チームはダウンアンダーのエスケープ常連。例年はFDJやエウスカルテルもよく逃げる。
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リーダージャージを獲得したコーラーには悪いが、第2ステージの英雄は完全にクラークだ。もちろんコーラーのリーダージャージ獲得は計算の上での成果であり、讃えられるべきものだが、やはりクラークが見せた勇敢な走りは観る者を何百倍も熱くする。表彰台でも、クラークに対する歓声は格段に大きい。
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と言うことは翌日からの平坦ステージでレンショーが得意のリードアウト役を務めることになる。「世界最高峰のリードアウト」と讃えられるレンショーの力を得て、マシューズは翌日からグライペルらと対峙する。
宮澤は周回コースの2周目で仕事を終えて集団から脱落し、13分27秒遅れでゴールした。「脚は痛いけどしょうがない。サドルが高く感じる」と言いながらも、宮澤はチームとしての仕事をこなしたことに安堵の表情。「(スターリングの)周回コースに入ってからは『ムーブメントを起こそう』ということになり、チームとしてアタックした。前半のアタックにも反応したし、チームとしての仕事をこなせたから良かった」。
チームサクソバンクのジョナサン・キャントウェル、ルーク・ロバーツ、セルジオ・パウリーニョの3人は、総合で12秒遅れの好位置につけている。チームサクソバンクのメンバーは、前日からダウンアンダーに合流したビャルヌ・リース監督とともにアデレードまで20km自走で帰っていった。
text&photo:Kei Tsuji in Adelaide, Australia
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