10月20から28日まで中国海南島で開催されたアジアツアーオークラス(超級)のツアー・オブ・ハイナン2011。2年連続の招待を受け、中島康晴がステージ優勝を挙げた愛三工業レーシングチームのインサイドレポートをお届けしよう。

2回目の参戦!チームの総合力を高めることが課題

レース前に作戦を練る別府匠監督と中島康晴(愛三工業レーシングチーム)レース前に作戦を練る別府匠監督と中島康晴(愛三工業レーシングチーム) ツアー・オブ・ハイナン、“超級”にランクされる中国・海南島でのレースに、愛三工業レーシングチームは2年連続の招待を受けて参戦した。国内最高峰のワンデイレース、ジャパンカップとの同時期開催となったため、チームは西谷泰治を軸としたジャパンカップ組とハイナン組、2つのチームに分かれての参戦となった。

ハイナン組のチーム構成は、綾部勇成、盛一大、福田真平の昨年もハイナンを走っている3選手に、今季チームに合流した中島康晴、伊藤雅和、木守望を加えた6選手。スプリントレースになることが予測されたため、今回のエースは、ツール・ド・熊野でスプリントを制した中堅スプリンター、福田真平が担うこととなった。

とある日のホテル部屋割り表(諸事情により手書き)とある日のホテル部屋割り表(諸事情により手書き) 「多くのチャレンジの積み重ねが、チームの総合力を上げるとと考えているんです」と話していた別府監督。スプリントが連続するレースでは、ベテランである盛一大がエースを担うのが自然な流れだったかもしれないが、チームはエースとして福田真平を選んだ。その背景には、若い選手に経験を積ませることで、チーム力の底上げを図ろうという意図があった。

9月末でUCIアジアツアーのランキングは切り替えを迎えた。アジアツアー、チームランキング1位をめざす愛三工業レーシングチームの昨季の成績は6位。別府匠監督の新体制1年目の結果としては、まずまず、という印象を受けるが、4位以下が僅差であったこともあり、チームには悔しさが残る結果でもあった。

10月に開催されたツアー・オブ・ハイナンは、2012シーズン最初のレースに当たるため「最初のレースからしっかりとポイントを稼ぎにいこう!」と、昨年の反省をバネに、一つ一つのポイントを大事に獲得するという強い共通意識のもと、レースは開幕を迎えた。


エース福田真平を失うアクシデント

ステージ優勝を挙げ、シャンパンを飛ばす中島康晴(愛三工業レーシングチームステージ優勝を挙げ、シャンパンを飛ばす中島康晴(愛三工業レーシングチーム レース開幕直後、第2ステージに中島康晴が約50kmを逃げ切ってステージ優勝を挙げる。まずはステージ優勝とUCIポイントを獲得でき、幸先のいいスタートにチームはホッした喜びに包まれた。

しかし、第3ステージでエースの福田真平が落車するアクシデントが発生。鎖骨を骨折し、惜しくもリタイアとなってしまう。エース選手を失ったこと、また本来7人の選手枠に対して、6選手でエントリーしていた愛三工業チームは、残りのステージを5選手で戦うこととなり、戦力的にも大きなダメージとなった。

「真平がいてくれたら……」第3ステージ以後、監督や選9日間の超級ステージレースを走りきった木守望(愛三工業レーシングチーム)9日間の超級ステージレースを走りきった木守望(愛三工業レーシングチーム) 手から、何度となく聞かれたこの言葉。レベルの高いステージレースを戦う上で、1選手の戦力の大きさをチームの誰もが、彼を失ったことで痛いほどに感じることになった。福田選手にとっては、不運の出来事であったが、「1人1人がいかに必要とされているのか?」と、考えさせられた点では、次に繋がるプラスの出来事になった。

自分の役割を模索しているというプロ1年目の伊藤雅和と木守望には、さらに大きな意味を持つアクシデントだっただろう。彼らへの期待は日増しに強くなり、「経験を積むこと」という参戦意義から、即戦力としてチームに求められる存在へと変わっていった。たとえばアスタナやレースを終え、盛一大と木守望(愛三工業レーシングチーム)が握手を交わすレースを終え、盛一大と木守望(愛三工業レーシングチーム)が握手を交わす スキル・シマノといった世界の第1線で戦うプロチームに混ざりトレインを組むことは、先輩だけの仕事ではなく、自分たちがやるべきことであり、かつできることだと気づくレースとなったのだ。ステージが進むにつれて、レースを終え、疲労に歪む彼らの表情の中から、どことなく達成感が溢れ出してきた。

「自分たちに与えられている仕事や、その走り方がわかりかけてきました」そう話す2人は頼もしかった。


ベテラン盛一大に課せられた新しい試練

福田真平を失ったことで、急きょスプリントでのエースを任された盛一大(レース前は福田真平を軸に入念なスプリントの練習をしてきた)。トラック中距離で世界トップクラスの実力をもつ彼が得意とするのはロングスプリント。そのため、通常はゴール手前数キロといった位置でエースの牽引をしたり、ゴール前でアタックを仕掛けることが彼の仕事になる。

ボーナスタイムを狙う盛一大(愛三工業レーシングチーム)ボーナスタイムを狙う盛一大(愛三工業レーシングチーム) しかし、今回彼が挑戦したのは、いつも西谷泰治が務めているような集団スプリントでのエース。さらに牽引役はベテランの綾部勇成以外、不慣れな選手たちが担う。そして盛は総合上位に入っていたため、ステージ優勝を狙うだけでなく、中間スプリントを上位通過するなどしてボーナスタイムを稼ぎ、1つでも順位を上げることも大きな課題となったが、結果としてステージを追うごとに総合成績を下げてしまった。

成績がついてこない葛藤を抱え、毎日試行錯誤を繰り返しながらレースに挑んだ盛。監督の「もっとチャンレジしていきたい!」という言葉は、若い選手だけでなくベテラン選手にも向けられていたのだ。

多くのプレッシャーがかかった盛一大(愛三工業レーシングチーム)多くのプレッシャーがかかった盛一大(愛三工業レーシングチーム) 「みんなに動いてもらった分、結果を出せなくて申し訳なく、毎日悔しい思いでした。残り500から300メートルの位置取りがうまくいかない。もっと力があれば、このポジション取りもいいところまで行けたはずです。強い選手はいつも上位に入っているので。自分が(勝利や順位を)狙っていいチャンスはあまりありません。だからこそ、結果を出したかった。まだまだ足りないものがたくさんあると気づいたレースでした」と話す。

盛は総合13位でレースを終え、チームが盛自身が望んでいた順位には届かなかったが、エースとして挑んだ今回の経験が、今後のさらなる活躍を後押ししてくれるだろう。そして来年に控えるロンドン五輪・トラック中距離の出場枠獲得をめざして、カザフスタンで開催されるワールドカップへと旅立った。


1人1人が成長したツアー・オブ・ハイナン2011

選手たちの食事は毎日ホテルのビュッフェ選手たちの食事は毎日ホテルのビュッフェ チームのキャプテン綾部勇成は、今回のレースを「失敗もありましたが、発見も多く、スタート前よりもみんな成長でき、1人1人がするべきことをよく把握できたレースでした。その面ではとてもいいレースであり、次のシーズンに生かしていきたいですね」と振り返っている。

別府匠監督は、「チームは、“伸びる”時期にあると思います。若い選手について言えば、伊藤は数十人に絞られた先頭集団に残る調子の良さがありましたし、木守は最初は何もできなかったけど、ステージを積むごとに走りが変わってきた。彼らは可能性を感じさせてくれました。これからも、愛三工業が得意とする戦い方以外にも、戦力の底上げを図って、選手の個性をいかした走りや戦略の幅を広げていきたいと思います。

選手は高い要求を出しても応えるようにレベルが上がってきています。そして選手自身、自分たちでもアジアナンバーワンになれる、という自信がついてきています。アジアのレースは、アジアだけでなく、ヨーロッパ、北米など世界中から様々な国のチームが参加するので、ヨーロッパに比べて国際的な印象があり、新しいスタイルのレースが確立されてきています。そのなかで、チームは日本の代表として恥じない走りをしていきたいと思っています、高いモチベーションをもって今後も戦っていきます!」とコメントする。

つまり、今回のツアー・オブ・ハイナンは、ステージ1勝という好成績を残したものの、それ以上に結果からは見えてこない多くの収穫があったレースだった。すでにアジアで6番目という強豪チームに成長した愛三工業チームだが、めざすところはアジアのナンバーワン。現状に満足することなく、彼らの挑戦は続いていく。

愛三工業レーシングチームの次戦は11月12、13日に開催されるツール・ド・おきなわ。そして、2月にマレーシアで開催される超級レース、ツール・ド・ランカウイへの出場が予定されている。別府匠監督の新体制になり2年目を迎える同チーム。今年はUCIレースでの好調さが目立ったが、別府匠監督は「前の田中監督がやってきたことや新加入の選手については、前のチームでやってきたことの成果が出ているだけです」といつも話す。ならば、来年は新しいチーム体制の結果が問われる時期だ。チームのモチベーションやチームワークの良さは、この1年で見るからに高まっている。

来シーズンはどんな活躍のニュースが届くのだろう? 大きな期待をもって、チームを応援したい。

ツアー・オブ・ハイナンを走り終えた愛三工業レーシングチームと現地スタッフツアー・オブ・ハイナンを走り終えた愛三工業レーシングチームと現地スタッフ


写真とレポート:田中苑子
photo&text:Sonoko TANAKA