3つの1級山岳が設定されたツアー・オブ・北京(UCIワールドツアー)最難関の第3ステージ。終盤に逃げたニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)が、同じくアイルランド出身のフィリップ・ダイグナン(レディオシャック)を敗って勝利。トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)は総合首位を死守した。

ツアー・オブ・北京2011第3ステージツアー・オブ・北京2011第3ステージ image:www.tourofbeijing.netツアー・オブ・北京第3ステージは、前日のゴール地点メントウゴウから北京北部の山岳地帯を抜け、ヨンニン・タウンにゴールする162km。前半からカテゴリー山岳が2級、1級、1級、1級と連続する。

最後の1級山岳エルプリアンはゴールから僅か12kmしか離れていない。今大会最高の難易度を誇るステージであり、クライマーにとって最初で最後の活躍の場。総合争いに注目が集まった。

前日のゴール地点メントウゴウをスタート前日のゴール地点メントウゴウをスタート photo:Sonoko Tanakaこの日最初の2級山岳で飛び出したのはアドリアーノ・マローリ(イタリア、ランプレ・ISD)、ロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)、ヨン・イサギーレ(スペイン、エウスカルテル)。しかしメイン集団は警戒して大きなタイム差を与えない。

遅れてリエーベ・ヴェストラ(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)らが逃げに合流するも、結局レース後半の2連続1級山岳を前に集団は一つに戻る。

逃げグループを形成するロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)ら逃げグループを形成するロイド・モンドリー(フランス、アージェードゥーゼル)ら photo:Sonoko Tanakaゴール29km手前の1級山岳を先頭通過したイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)は、前日の逃げで稼いだポイントに12ポイントを加算し、山岳賞ランキングトップに躍り出た。

そして迎えた1級山岳エルプリアン。まずはフィリップ・ダイグナン(アイルランド、レディオシャック)が動き、これに総合4位クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)とロッシュが合流する。3名はメイン集団を引き離して頂上をクリアし、ゴール地点ヨンニン・タウンへ急いだ。

山岳地帯の樹々は真っ赤に色づく山岳地帯の樹々は真っ赤に色づく photo:Sonoko Tanakaしかしフルームはマルティンにとって総合で26秒遅れの危険な存在。先頭3名はハイペースでローテーションを組むが、後方からリーダージャージを含む50名ほどの集団が追い上げる。脚の揃った3名は粘りのある走りを見せ、集団を振り切ってラスト1km。道幅のある最終ストレートに入った。

逃げグループを長時間率いた総合狙いのフルームが徐々に失速すると、ラスト300mでロッシュがスプリントを開始する。フルームが集団に飲み込まれるその前で、ダイグナンを振り切ったロッシュがガッツポーズを繰り出した。

「ラスト15kmはとにかくレーススピードが速かった。3人は互いを励まし合いながらただ逃げ続けた。何も考えず、ただ踏み続けた」。劇的な逃げ切りを成功させ、スプリントを制したロッシュは語る。

フィリップ・ダイグナン(アイルランド、レディオシャック)を下したニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)が勝利フィリップ・ダイグナン(アイルランド、レディオシャック)を下したニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)が勝利 photo:Sonoko Tanaka

「集団内に総合狙いのチームメイト(ジャンクリストフ)ペローがいたので、登りで賭けに出た。それが功を奏した。これまでずっとチームは僕を支えてくれたけど、その恩返しがなかなかできずにいた。今日も彼らは100%の力で走ってくれたんだ。この勝利を感謝の言葉に代えたい」。

念願のワールドツアー勝利をおさめたニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)念願のワールドツアー勝利をおさめたニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル) photo:Sonoko Tanakaロッシュは、1987年にツール・ド・フランス、ジロ・デ・イタリア、ロード世界選手権で優勝するという「トリプルクラウン」を達成したステファン・ロッシュの息子である。その名前から注目されることが多いが、意外にも勝利数は少ない。ビッグレースで安定した成績を残しながらも、勝利からは見放されていた。最後の勝利は2009年のアイルランド選手権ロードレース。

リーダージャージを守ったトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)リーダージャージを守ったトニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード) photo:Sonoko Tanaka「間違いなくこれは自己最高の勝利だ。プロツアー(ワールドツアー)レースで勝つことは特別なこと。2年間待ち続けた勝利が今日やってきた。ゴールで両手を挙げる数秒間は最高の瞬間だったよ」。キャリア最高の勝利を掴んだロッシュ。そろそろ「ステファンの息子」という呼び名も卒業だ。

この日、リーダージャージを含む集団は1秒差でゴール。結局フルームはタイムを奪えず、マルティンと総合下位の選手のタイム差に変動無し。総合トップ10の中では、新人賞ジャージを着る総合3位のアレックス・ダウセット(イギリス、チームスカイ)が唯一遅れた。

最難関山岳ステージで総合リードを守ったマルティンは、北京総合優勝に自信を見せる。「今日のステージが最難関だった。明日からの2ステージはスプリンター向きだ。これで日曜日(最終日)までリーダージャージを守り切る自信をもてるよ」。

残る2ステージはいずれも平坦基調。第4ステージは中盤にかけて難易度の低いカテゴリー山岳が3つ設定されているが、ゴール手前はフラット。今大会2回目の集団スプリントに注目だ。

レース内容や選手コメントはレース公式リリースより。

ツアー・オブ・北京2011第3ステージ結果
1位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)    3h53'15"
2位 フィリップ・ダイグナン(アイルランド、レディオシャック)
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)              +01"
4位 フランチェスコ・ガヴァッツィ(イタリア、ランプレ・ISD)
5位 ニック・ナイエンス(ベルギー、サクソバンク・サンガード)
6位 ポール・マルテンス(ドイツ、ラボバンク)
7位 アンヘル・マドラソルイス(スペイン、モビスター)
8位 サイモン・クラーク(オーストラリア、アスタナ)
9位 マイケル・バリー(カナダ、チームスカイ)
10位 ルーク・ロバーツ(オーストラリア、サクソバンク・サンガード)

個人総合成績
1位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)          7h10'19"
2位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)       +17"
3位 クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)             +26"
4位 スティーブ・クミングス(イギリス、チームスカイ)          +35"
5位 オリヴィエ・カイセン(ベルギー、オメガファーマ・ロット)      +39"
6位 ルイスレオン・サンチェス(スペイン、ラボバンク)          +41"
7位 ジャンクリストフ・ペロー(フランス、アージェードゥーゼル)     +43"
8位 アンドレー・グリブコ(ウクライナ、アスタナ)
9位 ダリオ・カタルド(イタリア、クイックステップ)
10位 ニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップ)         +46"

ポイント賞
クリス・フルーム(イギリス、チームスカイ)

山岳賞
イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)

新人賞
ベンジャミン・キング(アメリカ、レディオシャック)

チーム総合成績
チームスカイ

text:Kei Tsuji
photo:Sonoko Tanaka