スイス・シャンペリーで開催されたマウンテンバイク世界選手権クロスカントリーを走りきった山本幸平と片山梨絵のレポートを紹介する。山本は歴代日本人最高位の23位。片山は28位の結果を残している。世界トップの走りに近づく2人はレースで何を得たのか。

思い描いていたイメージに近い走りができた
山本幸平(チームブリヂストン・アンカー)



世界一を決めるレースが今年も終わった。僕の2011年シーズン一番の目標レースが、この世界選手権大会だった。

会場入りは、イタリアのワールドカップの翌日のレース当日13日前。スイスはシャンペリーに来た。まず1週間は、標高1600m地点を拠点に高地トレーニングをしては、会場へ下って行き、コースを試走してスムーズに走れるライン取りを細かく見ては試した。
今回は、初めてコーチと一緒に歩いてコース1周もしてみて、自転車では感じる事の出来ない感覚を磨いた。

山本幸平(チームブリヂストン・アンカー) 日本人過去最高位の23位山本幸平(チームブリヂストン・アンカー) 日本人過去最高位の23位 レース6日前に日本代表チームの泊る宿へ移動をして、高地トレーニングを終えた。身体が、疲労しているのを感じるが、コーチと話して、予定通りだと言うので、「順調だ」と自分に言い聞かせて残りの数日を過して行こうと決めた。
レース前日の最終練習でも、いつものレース前の身体と比べると疲労が残っているのを感じる。またコーチと話をしてみるが、これで良いのだと言う。コーチと僕の身体の回復力を信じて、レース当日を迎えた。

朝の目覚めは、とても良い。今回はスタート時間が16:30のため、遅めの朝食を9時過ぎに食べた。その後、軽く自転車を漕いでみた、身体は完璧に回復したとは言えないが、もう走るしかない、そして、ここでもコーチと僕の身体の回復能力を信じて、信じきって最後の昼寝タイムを過した。

レースは、やってきた。もう、あとは走るだけ。今まで思い描いてきた走りをゴールするまで実行することだけだった。スタート位置は4列目でのスタートとなった。いつものワールドカップよりも前でのスタートとなるし、ポジション取りもうまくいった。

スタートループ+7周回。僕の世界選手権大会が始まった!
スタート音と共に身体が良い反応で動いてくれた。ポジション取りも上手く行き、イメージしていたスタートダッシュが決まる。トップ10以内で進んでいたと思う、良い位置で進むが、世界のTOP選手は踏み所も分かっており、僕のイメージしていた様には行かなくなってきた。

前に行かないと必ず混雑に巻き込まれると思っていた箇所の手前で、うまく前に行く事が出来ないでレースが進んでしまった。大混雑までは行かないものの、スムーズに走る事が出来ないままのスタートループ終了。順位は、かなり落としていたと思う。が、これもイメージしていた事で身体が反応してくれている。

試走の段階で見ていたラインをしっかりと走る様に心がけるのと、休まない事。ペダリングを止めない事。この日のためにどれだけの時間を費やしたのか?!想いを出し切ること、エネルギーを出し切ること!

天候が変わり、雨になった。嬉しくなった僕。悪コンディションほど僕には向いているのだ。身体は、中盤過ぎで苦しくなっているが、気持ちのエネルギーはフル充電されているので、ペースは乱れないで進む。

毎周回15位前後のグループとすれ違う区間があって、同じ差が続いていたが、ここを詰める事が出来なかった。イタリアのワールドカップも同じ経験をした。この部分を練習する必要がある。応援が聞こえる。ペダルを踏み続けてゴールへ向かう。

少しでも前に行きたい。そんな想いが最後の最後まで持つ事が出来ている。ラスト周回へと入る。
今出来る最高の走りをする事。気持ちを出し切る事。そして、少しでも前でゴールしたい気持ちがある。最後まで応援が聞こえる、自分に負けられないよ。

ゴールするまで、しっかりと思い描いていたイメージに近い走りでゴールする事が出来た、僕の世界選手権大会となった。

走りでは、やはり勢いあるパワーが必要、それが出来ると集団に追い付き展開が出来て休める所が増えると思う。そして、順位を見ると、もっと上を狙っていたので満足は出来ない。今年の目標であったワールドカップトップ10も実現できなかった。

想いはあるが、まだ、達成出来ていない。でも、僕には、実行出来る環境がある。皆が、挑戦出来る環境を整えてくれている。僕は走ることしか出来ない!
来シーズンに向けて、しっかりと練習をして、世界のTOP選手と並び、競り合う僕がいる事。その姿を、日本の皆に見せたい。そして、アジア人だって出来ると言う所を見せたい。

挑戦して行きます。ありがとう。

山本幸平(チームブリヂストン・アンカー)


世界選出場バイク&エキップメント
バイク:ANCHOR(プロトタイプ)
コンポーネンツ:SHIMANO XTR
フォーク:SR SUNTOUR AXON 100mmストローク QLOC150mm
ハンドル:OnebyESU
ステム:OnebyESU 
シートポスト:OnebyESU
サングラス:OAKLEY Radar
レンズ:OAKLEY Clear Photochromic
ヘルメット: Kabuto Redimos
ウエア:Wave One
インナー:CRAFT
インソール:ERGOMOTION 友永さん特注
サプリメン:SAVASレース中ボトル Savas Sports Water,
補給 Savas PIT INリキッド,レース後 Savas Power Amino2500


「28位という結果は、自分の中では中の上ぐらい」
片山梨絵(チームスペシャライズド)

片山梨絵(チームスペシャライズド)片山梨絵(チームスペシャライズド) photo:Shuhei.Takenouchiスイスシャンペリーのコースは、総じて好調だった去年のワールドカップ転戦の中でまさかのラップアウトになった唯一のコースだ。1周が5キロ弱と短いので、ただでさえラップアウトの制限時間が厳しいのに、コースのあちらこちらに張り巡らされた木の根を上手く処理できる選手とそうでない選手の差が出てくる。

去年は焦って滑りまくり、転びまくり、散々なレースだった。今年こそは、コースに負けたくない。レースは土曜日。月曜日からコース入りして試走を重ねた。水曜日には意を決してジャンプにチャレンジし、シングルトラックは丁寧に何度もコースを確認してロスなく確実に走れるラインを探していく。コースを小さなループに区切って何度も反復した。普段なら体の調整をメインに試走をするが、今回はコース攻略が主な課題になるような特殊なコースだった。

水曜日のチームリレーではリレー形式でコースを1周全力で走ったが、まだラインが完璧に決まりきっていない状態のままフルスピードで走ったので、かなり前輪が暴れて木の根に当たって失速し、ふがいない走りだった。このおかげで残された2日間の試走の集中力がさらに高まっていった。

土曜日。クロスカントリー本戦。春先の転戦で稼いだポイントのおかげで3列目のスタート。集団の中で綺麗に流れていこうと思ったけど、明らかに周りと自分のスピードが違うのでどんどん後退していった。

「もしかして、このスランプから復活できないのかな」といやな考えが頭をよぎったけど、レース前に「何が起きても自分自身に集中して走る」と決めていたので走りさっていく集団を気にせずペダルを回し続けた。

エリート女子クロスカントリーのスタートエリート女子クロスカントリーのスタート photo:Schmid Maxime/ http://www.bikepark.chスタートループが終わり、1周目に入る。少しずつ体に力が戻り、選手を抜かせるようになってきた。ちょうどキツイけどなんとか耐えられそうな集団に乗った所で、フィードゾーンを通過。そこでハンドルが接触して大転倒してしまった。

スピードに乗っているときに急に転んだので一瞬何が起こったのか分からない状態だったけど、幸い体もバイクもダメージは少なかった。
落ちたチェーンを直すのに若干てこずってしまったが再スタートして、さっき抜かした選手たちをもう一度追っていく。
これをきっかけに順位が後退したら、チームに嫌な雰囲気が残りそうだったので、無心で前を追った。「何が起きても自分自身に集中して走る」が今日のテーマだ。

登りは過去の好調な時ほど体に力を感じられなかったけど、今日集中すべきはテクニカルなシングルトラック。出来ないことを考えるより、出来ることに集中しようと思って走り、水曜日のリレーよりも去年のワールドカップよりも、ミスが格段に少なくコースをこなし、去年出来なかったこのテクニカルコースでの完走を果たした。

28位という結果は、自分の中では「中の上」ぐらい。それでも今の自分の状態を考えると、上出来だった。また、アジア選手権で負けてしまった中国のSHI選手へのリベンジも心の中にあった。ロンドンへの道は険しいけど、世界選手権の場でアジア人1位の成績を残し、少しでもアピールできたら、という思いがあったからだ。彼女の登坂能力は高く、1周目の登りで抜かされてしまったけど、目視できる範囲にとどまり、テクニカルセクションで追い越し、逃げ切ることが出来た。

体調を崩してから7、8月のワールドカップを3戦欠場し、エントリーしていたロンドン五輪のプレイベントも出場しなかった。この判断が正しかったかどうか迷うこともあったし、気持ちよくこれらのレースを転戦していたかったという悔しい気持ちがかなり大きかった。でも回復期間を取った上でレースを走ってみた今、いくつかのレースを欠場して世界選手権に向けて時間をかけて再チャレンジできて良かったと思っている。

トレーニングをしても上手く体が反応せずに苦しい日々が続いたけど、淡々とトレーニングと休養を継続していくことでレース直前にやっと良い感覚を取り戻しつつある手ごたえを感じた。回り道はしてしまったけど、自分の身体と向き合う良い機会だった。

ぶっ倒れていても優しく見守り、復活をサポートしてくれた多くの皆さん、本当にありがとうございました。今年の世界選手権は足踏みの結果に終わってしまったけど、もう一回、自分のペースで上を目指してみたいと思います。

片山梨絵(チームスペシャライズド)

世界選出場バイク&エキップメント
バイク:SPECIALIZED S-Works Era 
タイヤ:SPECIALIZED S-WORKS サウザーウィンド 
ヘルメット:SPECIALIZED S-Works Prevail
アイウエア:OGK Kabuto REALIS
データ:POLAR RS800CX BIKE
ペダル:TIME ATAC TITAN CARBON
マッサージオイル:Sports Balm イエロー1
ニュートリション:パワージェル
テーピング:New-HALE
コンディショニング:日本カイロプラクティックセンター大船・伊藤超短波 
サプリメント・トレーニング:ゴールドジム
メカニックサポート:轍屋自転車店
アイウエア調整:メガネナカジマ
遠征サポート:じてんしゃの杜
合宿サポート:SY-Nakキャビン(長野県 野辺山高原)