2011/06/27(月) - 09:14
6月26日(日)、岩手県八幡平・岩手山山麓の公道コースでロードレース日本一をかけた全日本選手権ロードレースが行われ、男子・エリートの部で別府史之(レディオシャック)が上りゴールスプリントを制し、2006年以来2度目の日本ロードチャンピオンに輝いた。個人TTとのダブルタイトル獲得も2006年の再現となった。
震災の地・東北であえて開催された全日本選手権
今年の全日本選手権の舞台となったのは岩手県八幡平市の岩手山パノラマラインコース。3月11日の東北関東大震災以来、困難な被災状況が続く東北の地であえて開催される日本一決定戦だ。
震災に見舞われる前にすでにこの地で開催が決まっていたとはいえ、その決定を曲げずに貫き通したのは地元岩手県車連関係者の強い意志だった。
岩手県八幡平周辺は沿岸部でないため被害は比較的少なかったが、関係者の多くも大なり小なり被災した状況の方が多い状況。そのなかでスポーツがくれる元気の力を信じて開催に踏み切った。その関係者の方々が払った苦労への感謝を、まずはここに記しておきたい。
日本一決定戦にふさわしい新コース
今回のコースは岩手山ふもとの1周15.5kmの公道だ。細長い二等辺三角形で、短い底辺部分が約3.5km弱の上り、あと12kmほどは直線状の緩い下りから平坦だ。上りは標高差210mで平均勾配は約6%。各クラス共に上りきったところがゴール。
平坦となだらかな下り区間が長いため、少人数での逃げより人数の多い集団のほうが有利。勝負どころとなるゴール地点までの上りは勾配は緩めだが、3.5kmの距離があるためごまかしは効かない。前日のU23他のレースを観ても、展開やトラブルで結果が左右される要素は少なく、実力があれば勝利に結びつけやすいコースという高評価。
山麓のなだらかな丘陵に草原が広がる、どこか欧州的な風景と地形のコースは雄大で美しい。ダイナミックで日本離れしているコースプロフィールも王者決定戦にふさわしいものだった。ちなみにこのコースはロンドン五輪代表選考会となる2012年の全日本選手権のコースにも立候補している。
豪華メンバーが勢揃い 好調の新城・別府の動きに注目集まる
今回のエリート男子はいままでにないほど豪華な顔ぶれとなった。欧州プロチームに所属する別府史之(レディオシャック)、新城幸也(ユーロップカー)、宮澤崇史(ファルネーゼ・ヴィーニ)、土井雪広(スキル・シマノ)、佐野淳哉(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)らが帰国して参戦。大きな話題となった。
例年、レース参加直前の帰国でベストな調子が保てない新城幸也はクリテリウム・ドーフィネ参戦以降、日に余裕を持って帰国し、長野県飯田市で福島晋一らとともにトレーニング合宿をこなしてからの参戦。もちろんツール・ド・フランス参戦(参加はまだ未定)を視野に調整期間に入っているため、仕上がりが悪いという状況はあり得ない。
また、例年欧州活動を優先して参加を見合わせていた別府史之は、ジロ・デ・イタリア完走以降、十分な休養をとって帰国。2週間前に全日本個人タイムトライアルを制した。そして長野県・八ヶ岳近辺で合宿をこなして、ベストコンディションでの参戦。この好調ビッグツーの動向がレースの鍵を握ると予想された。
土井雪広は4月に負傷した膝にテーピングをして現れた。「今の調子はベストの状態の4割ほど。急速に調子を戻していますけれど、本来なら得意なコースなので完全な状態で無いのが悔しい」と言う。
朝8時、涼やかな気候のなか121人の選手たちがスタートする。この日は結局、晴れ間は覗かず。しかし雨は降らないという、最高に走りやすい天候のレースとなった。
早めに動いた佐野とフミ
スタート後、1周目を終える段階で6名が先頭で逃げる。メンバーは佐野淳哉(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)、小坂光(宇都宮ブリッツェン)、阿部嵩之(シマノレーシング)、鈴木謙一(愛三工業)、小室雅成(湘南ベルマーレ)、斎藤祥太(湘南ベルマーレ)。
大集団はこの6人の逃げを見送り、みるみる差が広がった。大集団ではどのチームもペースをコントロールせず、最初の1時間でタイム差は6分にも開いた。しかし昨年の全日本で宮澤崇史の勝利を支え、2週間前の全日本TTでも2位となっている佐野淳哉がこの集団に入ったことで、無視できる動きではないことは確かだ。
路上で指揮をとる大門宏監督は、この佐野の動きについて「脚のある佐野にとっては集団のなかでペースを乱されるより、マイペースで走れるので悪い展開ではないはず。後ろから強い選手が来るのを待てばいい。この後おそらくフミが単独で動くでしょうね」と話す。
その大門監督の言葉通り、5周目に別府史之が動く。集団からアタックをかけたフミが村上純平(シマノレーシング)を率いて前を追う。村上のシマノレーシングは前に阿部を送り込んでいるため、フミの前に出る必要は無いが3割ほど先頭を引く。
2周をこなしてフミが前のグループに追いつく。湘南ベルマーレの2人が脱落し、2人が合流したことで新たな6人の逃げグループ形成された。
集団とは2分50秒ほどの差があるが、フミはこのグループに入るとさらにペースを上げ、ときおり前に飛び出してはさらにペースを上げようとする。
レースは残り100km以上を残して、フミと佐野の2人の優勝候補が入った逃げ集団が飛び出す形となった。
積極的に攻めるフミ 愛三工業の組織的な追撃
追走メイン集団の前方には愛三工業が出てペースを上げる。先頭の6名から小坂光(宇都宮ブリッツェン)が脱落。逃げは5名に。小坂が遅れた知らせを受けると、ブリッツェンも先頭交代に加わった。
逃げる5人のなかでももっとも積極的なのはフミだ。前を引きペースを上げ、このまま逃げ切りに持ち込みたいという意思表示だ。タフさに定評のある佐野にとっても願ってもない展開だ。
一方、新城は集団内で流れに身を任せる状態が続く。まだ先頭にメンバーを送り込めていないチームに集団の牽引を任せて走る。9・10周目、愛三工業が中心になって集団のペースが上げられ、逃げグループとの差はみるまに縮小。そして11周目・残り約60kmに入った時点で逃げグループは捕まり、レースは振出しに戻った。
振出しに戻ったレース
逃げが捕まるとカウンターアタックを掛けたのは再び佐野淳哉と福島晋一(トレンガヌプロアジア)。2人は抜け出たままなだらかな下りで差を開く。西谷泰治(愛三工業)、鈴木譲(シマノ)、そして新城らが合流し、そこからさらに新城がアタックして飛び出す。
このユキヤの独走には誰も同調しなかったため、長くは続かなかったが、この局面において脚があることを誇示するかのような動きはライバル選手たちには大きなインパクトを残しただろう。
そして残すところ2周。ここで先頭集団に残っているのは26名ほどの選手たち。シマノレーシング、ブリヂストンアンカーが数を揃えるこの先頭集団で、いよいよ最後のチームプレーが始まる。
畑中勇介(シマノレーシング)、伊丹健治(ブリヂストンアンカー)、奈良基(トレンガヌ・プロアジア)、盛一大(愛三工業)の4名が抜け出す。アシストにもエースにもなれるこのセカンドエース4人が、ラスト1周を迎える前に動くが、この動きも吸収。いよいよ勝負は最後の上り区間で決することが濃厚になる。
最終周回。選手たちはお互いを探りながら下りと平坦区間では動きをみせず、着々と最後の上りに向けて準備を始める。
ゴールまでの約3.5km、平均勾配6%の最後の上りは、中ほどで勾配をやや増すが、ゴール前はなだらかになり、脚の差がない選手たちがお互いを引き離すには難易度が足りない。勝負を早めに仕掛ける理由が多くのチームと選手にあった。
上りに入る直前の平坦区間から位置取り争いがはじまり、ペースが上がった。
上りが始まると同時に激しいふるい落としのペースアップと牽制合戦が始まる。愛三工業の盛一大が綾部勇成を牽引して強力にペースを上げると、今度はブリヂストンアンカーが続く。狩野智也がアシストにまわり、井上和郎、そして清水都貴と交互にアタックを掛けていく。
そして抜け出しを図るのは西薗良太と増田成幸。メンバーの数を残したチームによる連携プレー、スプリントに持ち込みたい選手と、早めに逃げたい選手の意思がぶつかりあって先頭付近の争いはカオス状態となる。新城と別府はお互いを激しくマークしながらも、他の選手達の動きに対応する位置につける。
勝負は上りスプリントへ
激しいセレクションのあと、ラスト1kmで絞られた先頭グループは6人。新城幸也、別府史之、鈴木譲と西薗良太(シマノレーシング)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、清水都貴(ブリヂストンアンカー)。6人はお互いを牽制しながら進む。これに一度は遅れた西谷泰治がラスト数百メートで追いついてくる。
上り坂のスプリントは、そのギリギリのタイミングが来るまで牽制合戦となった。7人はゴール前100mまでスピードをあげながらも横に広がり、お互いを睨み合う。
右に別府、左に新城がリードしていたそのとき、後方から突然ラインを変えて鋭いダッシュで飛び出したのは清水都貴。この動きにすぐ対応したのがフミ。しかしフミのいる右を見ていたユキヤは、一瞬タイミングを逸するかたちになった。
追い込んだフミが清水を交わし、堂々のガッツポーズでゴールラインに飛び込む。ユキヤはフミに届かず。そして西薗と清水は、映像判定で清水の先着・3位が確定した。
別府史之の全日本ロード優勝は2006年の初優勝以来2度目。そしてその2006年当時と同じく、個人タイムトライアルとのダブル制覇での優勝だ。序盤から動いて逃げ、それが捕まってからも次の動きに向けてレースを冷静に組み立て、注意深くスプリントを制した。おそらくは会場にいた誰もが「今日はフミがいちばん強かった」と納得するほどの見事なレース運びだった。
フミは5月の厳しいジロ・デ・イタリアを終えてからも調子の良さを保ち、2週前に秋田で開催された全日本選手権個人TTを制したあと、一度この八幡平のコースを訪れ、試走を行っている。その後八ヶ岳で乗り込み調整を行い、十分な準備ができた状態での勝利。単騎参戦の不利さえを感じさせない完璧なレースだった。
別府史之のコメント
「逃げに乗ったのは、そのまま逃げきりたいと思ってのこと。僕が動くまでレースは消極的だった。しかし、快調にペースを作って逃げていたのに、後方集団がそれを上回るスピードで差を詰めてきたのは予想外のことだった。とくに愛三工業のチーム力に驚かされた。
差を詰められながら、そのまま逃げ切るプランと、捕まってからもう一度レースを組み立て直すプランBの両方を意識しながら走っていた。今日はどちらのパターンでも勝てるイメージがあった。
2週前に試走に来たとき、上りが厳しいと感じたけれど、一昨日走ってみて勾配が緩いことが気になった。『スプリントになる可能性があるな』と感じていたので、念入りにスプリントの練習もしていた。ゴールまで右のラインをとればコーナーになるので有利なことも確認していたので、そのラインをキープしてスプリントした。
走ってみて、日本のレースのレベルが上がっていることが良く分かった。皆がいいレースをしたと思う。
皆さんに実力を見せることができたこと、プロチームにいる自分は誰からも『勝って当然』と言われるので、そのなかで勝てたことは本当に嬉しい。お世話になっているすべての人に対してこの勝利でお返しがしたかった。
震災があったこの東北で、今日観に来てくれた方にも勇気を与える力強い走りができたことは、本当によかったと思う」。
新城幸也のコメント
「やはり悔しいですね。スプリントでは別府さんばかりを見ていて、(清水)都貴さんが(後ろから)行くのに気づくのが遅れたんです。別府さんはすぐに反応できたけど、僕は出遅れてしまった。あと100mあれば届いたのに、と思います。
スプリントになるだろうなという予想はしていました。チームメイトのいない、ひとりでの参戦なので、自分が動かざるをえなくなる展開に持ち込まれないように、注意しながら走っていました。逃げができたらその逃げに入っていないチームが引いてくれるので、その動きをうまく利用しながら、でも、多くのチームのメンバーが入る逃げができると自分が引かざるをえないので、そうならないように気を付けていました。
--別府選手が序盤に逃げたときに焦りはしなかったか?
「別府さんが逃げに乗って行ったとき、僕は気づいていなかったんです。その前に別府さんと一緒に動いて捕まって、そのあとでまた別府さんがアタックしていったので、その動きには気づかなかったんです。別府さんの自転車、速過ぎるからスキャンしたほうがいいですよ!カンチェラーラと一緒の自転車ですからね!(笑)」
--ツール・ド・フランスについて
「本当は今日優勝して、チームに『勝ったからツール・ド・フランスのメンバーにして』とお願い出来ればよかったんですが、それができなくなってしまった。今年のツールは僕の住んでいるヴァンデ地方をスタートするのでぜひ出たいんですが、チームの選手皆が出たいと思っているから...。ツールにもし出れれば、この全日本で勝てなかったからこそいい走りができた、というふうに見返す走りを見せたいですね」
全日本選手権ロードレース2011エリート男子 結果
1位 別府史之(日本、レディオシャック) 5h13'05"
2位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
3位 清水都貴(ブリヂストンアンカー)
4位 西薗良太(シマノレーシング)
5位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +"03
6位 鈴木譲(シマノレーシング) +"06
7位 西谷泰治(愛三工業レーシング) +"13
8位 福島晋一(トレンガヌプロアジア) +"17
9位 井上和郎(ブリヂストンアンカー) +"23
10位 綾部勇成(愛三工業レーシング) +"25
すべての結果(JCFホームページ/PDF)
photo&text:Makoto.AYANO
photo:Hideaki.TAKAGI,KeiTSUJI
震災の地・東北であえて開催された全日本選手権
今年の全日本選手権の舞台となったのは岩手県八幡平市の岩手山パノラマラインコース。3月11日の東北関東大震災以来、困難な被災状況が続く東北の地であえて開催される日本一決定戦だ。
震災に見舞われる前にすでにこの地で開催が決まっていたとはいえ、その決定を曲げずに貫き通したのは地元岩手県車連関係者の強い意志だった。
岩手県八幡平周辺は沿岸部でないため被害は比較的少なかったが、関係者の多くも大なり小なり被災した状況の方が多い状況。そのなかでスポーツがくれる元気の力を信じて開催に踏み切った。その関係者の方々が払った苦労への感謝を、まずはここに記しておきたい。
日本一決定戦にふさわしい新コース
今回のコースは岩手山ふもとの1周15.5kmの公道だ。細長い二等辺三角形で、短い底辺部分が約3.5km弱の上り、あと12kmほどは直線状の緩い下りから平坦だ。上りは標高差210mで平均勾配は約6%。各クラス共に上りきったところがゴール。
平坦となだらかな下り区間が長いため、少人数での逃げより人数の多い集団のほうが有利。勝負どころとなるゴール地点までの上りは勾配は緩めだが、3.5kmの距離があるためごまかしは効かない。前日のU23他のレースを観ても、展開やトラブルで結果が左右される要素は少なく、実力があれば勝利に結びつけやすいコースという高評価。
山麓のなだらかな丘陵に草原が広がる、どこか欧州的な風景と地形のコースは雄大で美しい。ダイナミックで日本離れしているコースプロフィールも王者決定戦にふさわしいものだった。ちなみにこのコースはロンドン五輪代表選考会となる2012年の全日本選手権のコースにも立候補している。
豪華メンバーが勢揃い 好調の新城・別府の動きに注目集まる
今回のエリート男子はいままでにないほど豪華な顔ぶれとなった。欧州プロチームに所属する別府史之(レディオシャック)、新城幸也(ユーロップカー)、宮澤崇史(ファルネーゼ・ヴィーニ)、土井雪広(スキル・シマノ)、佐野淳哉(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)らが帰国して参戦。大きな話題となった。
例年、レース参加直前の帰国でベストな調子が保てない新城幸也はクリテリウム・ドーフィネ参戦以降、日に余裕を持って帰国し、長野県飯田市で福島晋一らとともにトレーニング合宿をこなしてからの参戦。もちろんツール・ド・フランス参戦(参加はまだ未定)を視野に調整期間に入っているため、仕上がりが悪いという状況はあり得ない。
また、例年欧州活動を優先して参加を見合わせていた別府史之は、ジロ・デ・イタリア完走以降、十分な休養をとって帰国。2週間前に全日本個人タイムトライアルを制した。そして長野県・八ヶ岳近辺で合宿をこなして、ベストコンディションでの参戦。この好調ビッグツーの動向がレースの鍵を握ると予想された。
土井雪広は4月に負傷した膝にテーピングをして現れた。「今の調子はベストの状態の4割ほど。急速に調子を戻していますけれど、本来なら得意なコースなので完全な状態で無いのが悔しい」と言う。
朝8時、涼やかな気候のなか121人の選手たちがスタートする。この日は結局、晴れ間は覗かず。しかし雨は降らないという、最高に走りやすい天候のレースとなった。
早めに動いた佐野とフミ
スタート後、1周目を終える段階で6名が先頭で逃げる。メンバーは佐野淳哉(ダンジェロ&アンティヌッチィ・株式会社NIPPO)、小坂光(宇都宮ブリッツェン)、阿部嵩之(シマノレーシング)、鈴木謙一(愛三工業)、小室雅成(湘南ベルマーレ)、斎藤祥太(湘南ベルマーレ)。
大集団はこの6人の逃げを見送り、みるみる差が広がった。大集団ではどのチームもペースをコントロールせず、最初の1時間でタイム差は6分にも開いた。しかし昨年の全日本で宮澤崇史の勝利を支え、2週間前の全日本TTでも2位となっている佐野淳哉がこの集団に入ったことで、無視できる動きではないことは確かだ。
路上で指揮をとる大門宏監督は、この佐野の動きについて「脚のある佐野にとっては集団のなかでペースを乱されるより、マイペースで走れるので悪い展開ではないはず。後ろから強い選手が来るのを待てばいい。この後おそらくフミが単独で動くでしょうね」と話す。
その大門監督の言葉通り、5周目に別府史之が動く。集団からアタックをかけたフミが村上純平(シマノレーシング)を率いて前を追う。村上のシマノレーシングは前に阿部を送り込んでいるため、フミの前に出る必要は無いが3割ほど先頭を引く。
2周をこなしてフミが前のグループに追いつく。湘南ベルマーレの2人が脱落し、2人が合流したことで新たな6人の逃げグループ形成された。
集団とは2分50秒ほどの差があるが、フミはこのグループに入るとさらにペースを上げ、ときおり前に飛び出してはさらにペースを上げようとする。
レースは残り100km以上を残して、フミと佐野の2人の優勝候補が入った逃げ集団が飛び出す形となった。
積極的に攻めるフミ 愛三工業の組織的な追撃
追走メイン集団の前方には愛三工業が出てペースを上げる。先頭の6名から小坂光(宇都宮ブリッツェン)が脱落。逃げは5名に。小坂が遅れた知らせを受けると、ブリッツェンも先頭交代に加わった。
逃げる5人のなかでももっとも積極的なのはフミだ。前を引きペースを上げ、このまま逃げ切りに持ち込みたいという意思表示だ。タフさに定評のある佐野にとっても願ってもない展開だ。
一方、新城は集団内で流れに身を任せる状態が続く。まだ先頭にメンバーを送り込めていないチームに集団の牽引を任せて走る。9・10周目、愛三工業が中心になって集団のペースが上げられ、逃げグループとの差はみるまに縮小。そして11周目・残り約60kmに入った時点で逃げグループは捕まり、レースは振出しに戻った。
振出しに戻ったレース
逃げが捕まるとカウンターアタックを掛けたのは再び佐野淳哉と福島晋一(トレンガヌプロアジア)。2人は抜け出たままなだらかな下りで差を開く。西谷泰治(愛三工業)、鈴木譲(シマノ)、そして新城らが合流し、そこからさらに新城がアタックして飛び出す。
このユキヤの独走には誰も同調しなかったため、長くは続かなかったが、この局面において脚があることを誇示するかのような動きはライバル選手たちには大きなインパクトを残しただろう。
そして残すところ2周。ここで先頭集団に残っているのは26名ほどの選手たち。シマノレーシング、ブリヂストンアンカーが数を揃えるこの先頭集団で、いよいよ最後のチームプレーが始まる。
畑中勇介(シマノレーシング)、伊丹健治(ブリヂストンアンカー)、奈良基(トレンガヌ・プロアジア)、盛一大(愛三工業)の4名が抜け出す。アシストにもエースにもなれるこのセカンドエース4人が、ラスト1周を迎える前に動くが、この動きも吸収。いよいよ勝負は最後の上り区間で決することが濃厚になる。
最終周回。選手たちはお互いを探りながら下りと平坦区間では動きをみせず、着々と最後の上りに向けて準備を始める。
ゴールまでの約3.5km、平均勾配6%の最後の上りは、中ほどで勾配をやや増すが、ゴール前はなだらかになり、脚の差がない選手たちがお互いを引き離すには難易度が足りない。勝負を早めに仕掛ける理由が多くのチームと選手にあった。
上りに入る直前の平坦区間から位置取り争いがはじまり、ペースが上がった。
上りが始まると同時に激しいふるい落としのペースアップと牽制合戦が始まる。愛三工業の盛一大が綾部勇成を牽引して強力にペースを上げると、今度はブリヂストンアンカーが続く。狩野智也がアシストにまわり、井上和郎、そして清水都貴と交互にアタックを掛けていく。
そして抜け出しを図るのは西薗良太と増田成幸。メンバーの数を残したチームによる連携プレー、スプリントに持ち込みたい選手と、早めに逃げたい選手の意思がぶつかりあって先頭付近の争いはカオス状態となる。新城と別府はお互いを激しくマークしながらも、他の選手達の動きに対応する位置につける。
勝負は上りスプリントへ
激しいセレクションのあと、ラスト1kmで絞られた先頭グループは6人。新城幸也、別府史之、鈴木譲と西薗良太(シマノレーシング)、増田成幸(宇都宮ブリッツェン)、清水都貴(ブリヂストンアンカー)。6人はお互いを牽制しながら進む。これに一度は遅れた西谷泰治がラスト数百メートで追いついてくる。
上り坂のスプリントは、そのギリギリのタイミングが来るまで牽制合戦となった。7人はゴール前100mまでスピードをあげながらも横に広がり、お互いを睨み合う。
右に別府、左に新城がリードしていたそのとき、後方から突然ラインを変えて鋭いダッシュで飛び出したのは清水都貴。この動きにすぐ対応したのがフミ。しかしフミのいる右を見ていたユキヤは、一瞬タイミングを逸するかたちになった。
追い込んだフミが清水を交わし、堂々のガッツポーズでゴールラインに飛び込む。ユキヤはフミに届かず。そして西薗と清水は、映像判定で清水の先着・3位が確定した。
別府史之の全日本ロード優勝は2006年の初優勝以来2度目。そしてその2006年当時と同じく、個人タイムトライアルとのダブル制覇での優勝だ。序盤から動いて逃げ、それが捕まってからも次の動きに向けてレースを冷静に組み立て、注意深くスプリントを制した。おそらくは会場にいた誰もが「今日はフミがいちばん強かった」と納得するほどの見事なレース運びだった。
フミは5月の厳しいジロ・デ・イタリアを終えてからも調子の良さを保ち、2週前に秋田で開催された全日本選手権個人TTを制したあと、一度この八幡平のコースを訪れ、試走を行っている。その後八ヶ岳で乗り込み調整を行い、十分な準備ができた状態での勝利。単騎参戦の不利さえを感じさせない完璧なレースだった。
別府史之のコメント
「逃げに乗ったのは、そのまま逃げきりたいと思ってのこと。僕が動くまでレースは消極的だった。しかし、快調にペースを作って逃げていたのに、後方集団がそれを上回るスピードで差を詰めてきたのは予想外のことだった。とくに愛三工業のチーム力に驚かされた。
差を詰められながら、そのまま逃げ切るプランと、捕まってからもう一度レースを組み立て直すプランBの両方を意識しながら走っていた。今日はどちらのパターンでも勝てるイメージがあった。
2週前に試走に来たとき、上りが厳しいと感じたけれど、一昨日走ってみて勾配が緩いことが気になった。『スプリントになる可能性があるな』と感じていたので、念入りにスプリントの練習もしていた。ゴールまで右のラインをとればコーナーになるので有利なことも確認していたので、そのラインをキープしてスプリントした。
走ってみて、日本のレースのレベルが上がっていることが良く分かった。皆がいいレースをしたと思う。
皆さんに実力を見せることができたこと、プロチームにいる自分は誰からも『勝って当然』と言われるので、そのなかで勝てたことは本当に嬉しい。お世話になっているすべての人に対してこの勝利でお返しがしたかった。
震災があったこの東北で、今日観に来てくれた方にも勇気を与える力強い走りができたことは、本当によかったと思う」。
新城幸也のコメント
「やはり悔しいですね。スプリントでは別府さんばかりを見ていて、(清水)都貴さんが(後ろから)行くのに気づくのが遅れたんです。別府さんはすぐに反応できたけど、僕は出遅れてしまった。あと100mあれば届いたのに、と思います。
スプリントになるだろうなという予想はしていました。チームメイトのいない、ひとりでの参戦なので、自分が動かざるをえなくなる展開に持ち込まれないように、注意しながら走っていました。逃げができたらその逃げに入っていないチームが引いてくれるので、その動きをうまく利用しながら、でも、多くのチームのメンバーが入る逃げができると自分が引かざるをえないので、そうならないように気を付けていました。
--別府選手が序盤に逃げたときに焦りはしなかったか?
「別府さんが逃げに乗って行ったとき、僕は気づいていなかったんです。その前に別府さんと一緒に動いて捕まって、そのあとでまた別府さんがアタックしていったので、その動きには気づかなかったんです。別府さんの自転車、速過ぎるからスキャンしたほうがいいですよ!カンチェラーラと一緒の自転車ですからね!(笑)」
--ツール・ド・フランスについて
「本当は今日優勝して、チームに『勝ったからツール・ド・フランスのメンバーにして』とお願い出来ればよかったんですが、それができなくなってしまった。今年のツールは僕の住んでいるヴァンデ地方をスタートするのでぜひ出たいんですが、チームの選手皆が出たいと思っているから...。ツールにもし出れれば、この全日本で勝てなかったからこそいい走りができた、というふうに見返す走りを見せたいですね」
全日本選手権ロードレース2011エリート男子 結果
1位 別府史之(日本、レディオシャック) 5h13'05"
2位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
3位 清水都貴(ブリヂストンアンカー)
4位 西薗良太(シマノレーシング)
5位 増田成幸(宇都宮ブリッツェン) +"03
6位 鈴木譲(シマノレーシング) +"06
7位 西谷泰治(愛三工業レーシング) +"13
8位 福島晋一(トレンガヌプロアジア) +"17
9位 井上和郎(ブリヂストンアンカー) +"23
10位 綾部勇成(愛三工業レーシング) +"25
すべての結果(JCFホームページ/PDF)
photo&text:Makoto.AYANO
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