2011/05/27(金) - 15:07
モルベーニョのスタート地点に到着するなり、大粒の雨がボタボタと降り始めた。一斉に軒下に隠れる観客たち。ホテルのおじさんから「今晩から雨らしいぞ」と聞いていただけに終日雨降りを想像してしまったが、幸い選手たちが到着するころには雨が上がり、太陽が顔を出す。アスファルトを濡らした雨が蒸発し、ムワッとした湿気に包まれた。
ここ数日、山間部を走っているというのに、窓を全開にしないと耐えられないほどの暑さが続いている。標高が1900mある昨日の2級山岳トナーレ峠も、上半身裸でも全然問題ないほど暑かった。
ちなみにドロミテに差し掛かった辺りから、ジャーナリストやフォトグラファーの数が一気に増えた。開幕地トリノを取材してから一旦離脱し、北イタリアに戻ったところで合流する報道陣は多い。加えて日本からの観戦客も増えてきた。モルベーニョでは日の丸もチラホラ。
出走サインを終えた別府史之(レディオシャック)は、何やら奥のVIPエリアに連れて行かれた。頼んでVIPエリアに入れてもらうと、スタッフに頼まれてPCでツイートしているフミを発見。今年からジロはツイッターでの情報発信に積極的で、フォロワー数の多いフミに目を付け、ジロのタグ付きツイートをお願いしたのだ。
フミのコメントがイタリア語に訳されてツイートされている。「Ciao a tutti, sono felice di correre il @giroditalia perche' ci sono tanti tifosi che mi vogliono bene! Sono molto contento, grazie a tutti!(みなさんこんにちは。沢山の観客から熱い応援を受けてジロを走ることができて、とても幸せです。とても満足しています。みんなありがとう!)」
前日の中級山岳ステージを集団内でこなしたフミ。しかし逃げグループを捕まえきれずにスプリントを逃したことで悔しさを滲ませる。若干難易度が低いこの日は、スプリントの可能性に言及しつつも、逃げで突破口を開きたい考えだ。
「当たって砕けろという勢いでブレークアウェー(逃げ)を狙いますよ」。フミの言葉は気合いに満ちている。脚もとを見ると、前日までロープロフィールの軽量カーボンホイールだったが、今日は平坦路での巡航を優先したハイプロフィールのものを履いている。逃げる気満々だ。
フランスの著名なジャーナリスト、ジャンフランソワ・ケネが存在感を消しながらフミのインタビューにやってくる。ケネはプロノスティコ(ジャーナリストによる優勝選手予想)の上位の常連。フランス語でのフミとの質疑応答を終えると「今日はフミが良いと思っている。彼の名前をトップ5に入れておいた」と耳元で囁いた。
コース前半の大部分はコモ湖沿いの平坦路を走る。“落ち葉のクラシック”ことジロ・ディ・ロンバルディアでも通過するコースで、雨が降るといつもパンクが多発すると記憶している。でも、スタート地点で降っていた雨は上がり、幸いコースはドライなコンディションに。
今日もスタート時間の10分前に出発し、コースに沿ってクルマを走らせた。ラジオコルサ(競技無線)はスタートからずっと鳴りっぱなし。「ヴェロチタ・センプレ・ソステヌータ(常にハイスピードな状態)」「グルッポ・センプレ・コンパット(常に集団は一つのまま)」。アタックが決まらない状態が延々と続く。
レース開始から1時間が経過し、平均スピードが告げられる。思わず耳を疑ってしまった。平坦路とは言え、1時間目の平均スピードは53.1km/h(選手たちによると54km/hオーバー)。どうりでクルマを飛ばしてもレースを引き離せないわけだ(あまりに速くてコモ湖沿いで撮影できず)。
実際には、フミがそのハイスピードを作っていた当事者の一人だ。序盤からのアタック合戦に加わったフミは「1300Wのアタックを何度も繰り返した」と言う。
84km地点のベルガモの街に到着してすぐ、JSPORTの電話レポートに出る暇もなくプロトンがやってきた。しかもまだアタックが決まっておらず、ハイスピードな状態が続いている。
ベルガモ・アルタ(丘の上のベルガモ)と呼ばれる旧市街に続く道は細く、しかも路面には握りこぶし大の尖った石が敷き詰められている。カテゴリー山岳ではないが、ジロのコースにはこんな仕掛けがアチコチにあって、選手たちを困らせる。
序盤から2時間近く続いたアタック合戦で力を使ったフミは、その凸凹登りを集団中程でクリアした。ジャージのジッパーを開け、熱さを逃しながら走っている。結局ベルガモ・アルタに続く登りで集団が縦に伸び、そこで逃げが決まった。残念ながらフミは逃げに乗ることができなかった。
ゴール地点はベルガモ北部の山間にあるサンペッレグリーノ・テルメ。街の名前を聞いてまず思い浮かべるのは、日本でも販売されているイタリア大手の炭酸入りミネラルウォーターだろう。そう、まさにゴール地点はその「サンペッレグリノ」の産地だ。
澄んだ川を挟むようにして形成されたこじんまりとした街。コース脇には、ミネラルウォーターを貯蔵する巨大な倉庫がある。余談として、第5ステージで紹介したコーラに似た炭酸飲料「キーノ」もサンペッレグリノ社製。
2日連続で逃げ切りが決まり、2日連続で若いアシスト選手が勝った。前日のディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)も初々しかったが、今日のエロス・カペッキ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)も表彰台で喜びを爆発させる。ニーバリの総合成績に執着してきたチームに良い勢いを持ち込むことができた。チームのプレス担当者パオロの顔が久々に緩んだままだ。
6分遅れでゴールしたメイン集団の中に、フミの姿はあった。悔しい表情を浮かべながらゴールラインを切る。「前半の逃げに乗るために片道切符で今日は挑みました。捨て身で何度も挑んだ。ベストは尽くしました」。しかし今大会2度目のエスケープは叶わなかった。
残る3ステージのうち、2ステージは頂上ゴールで、最後の1ステージは個人タイムトライアル。つまり、この第18ステージが実質的にステージ優勝のラストチャンスだったと多くの選手が言っている。でもフミは、展開によっては第19ステージの最後の3級山岳マクニャーガ頂上ゴールで逃げ切り、もしくはゴールスプリントになると予想する。天気予報によると、第19ステージは曇り時々雨。いよいよジロの最終決戦地アルプスに突入だ。
text&photo:Kei Tsuji in San Pellegrino Terme, Italy
ここ数日、山間部を走っているというのに、窓を全開にしないと耐えられないほどの暑さが続いている。標高が1900mある昨日の2級山岳トナーレ峠も、上半身裸でも全然問題ないほど暑かった。
ちなみにドロミテに差し掛かった辺りから、ジャーナリストやフォトグラファーの数が一気に増えた。開幕地トリノを取材してから一旦離脱し、北イタリアに戻ったところで合流する報道陣は多い。加えて日本からの観戦客も増えてきた。モルベーニョでは日の丸もチラホラ。
出走サインを終えた別府史之(レディオシャック)は、何やら奥のVIPエリアに連れて行かれた。頼んでVIPエリアに入れてもらうと、スタッフに頼まれてPCでツイートしているフミを発見。今年からジロはツイッターでの情報発信に積極的で、フォロワー数の多いフミに目を付け、ジロのタグ付きツイートをお願いしたのだ。
フミのコメントがイタリア語に訳されてツイートされている。「Ciao a tutti, sono felice di correre il @giroditalia perche' ci sono tanti tifosi che mi vogliono bene! Sono molto contento, grazie a tutti!(みなさんこんにちは。沢山の観客から熱い応援を受けてジロを走ることができて、とても幸せです。とても満足しています。みんなありがとう!)」
前日の中級山岳ステージを集団内でこなしたフミ。しかし逃げグループを捕まえきれずにスプリントを逃したことで悔しさを滲ませる。若干難易度が低いこの日は、スプリントの可能性に言及しつつも、逃げで突破口を開きたい考えだ。
「当たって砕けろという勢いでブレークアウェー(逃げ)を狙いますよ」。フミの言葉は気合いに満ちている。脚もとを見ると、前日までロープロフィールの軽量カーボンホイールだったが、今日は平坦路での巡航を優先したハイプロフィールのものを履いている。逃げる気満々だ。
フランスの著名なジャーナリスト、ジャンフランソワ・ケネが存在感を消しながらフミのインタビューにやってくる。ケネはプロノスティコ(ジャーナリストによる優勝選手予想)の上位の常連。フランス語でのフミとの質疑応答を終えると「今日はフミが良いと思っている。彼の名前をトップ5に入れておいた」と耳元で囁いた。
コース前半の大部分はコモ湖沿いの平坦路を走る。“落ち葉のクラシック”ことジロ・ディ・ロンバルディアでも通過するコースで、雨が降るといつもパンクが多発すると記憶している。でも、スタート地点で降っていた雨は上がり、幸いコースはドライなコンディションに。
今日もスタート時間の10分前に出発し、コースに沿ってクルマを走らせた。ラジオコルサ(競技無線)はスタートからずっと鳴りっぱなし。「ヴェロチタ・センプレ・ソステヌータ(常にハイスピードな状態)」「グルッポ・センプレ・コンパット(常に集団は一つのまま)」。アタックが決まらない状態が延々と続く。
レース開始から1時間が経過し、平均スピードが告げられる。思わず耳を疑ってしまった。平坦路とは言え、1時間目の平均スピードは53.1km/h(選手たちによると54km/hオーバー)。どうりでクルマを飛ばしてもレースを引き離せないわけだ(あまりに速くてコモ湖沿いで撮影できず)。
実際には、フミがそのハイスピードを作っていた当事者の一人だ。序盤からのアタック合戦に加わったフミは「1300Wのアタックを何度も繰り返した」と言う。
84km地点のベルガモの街に到着してすぐ、JSPORTの電話レポートに出る暇もなくプロトンがやってきた。しかもまだアタックが決まっておらず、ハイスピードな状態が続いている。
ベルガモ・アルタ(丘の上のベルガモ)と呼ばれる旧市街に続く道は細く、しかも路面には握りこぶし大の尖った石が敷き詰められている。カテゴリー山岳ではないが、ジロのコースにはこんな仕掛けがアチコチにあって、選手たちを困らせる。
序盤から2時間近く続いたアタック合戦で力を使ったフミは、その凸凹登りを集団中程でクリアした。ジャージのジッパーを開け、熱さを逃しながら走っている。結局ベルガモ・アルタに続く登りで集団が縦に伸び、そこで逃げが決まった。残念ながらフミは逃げに乗ることができなかった。
ゴール地点はベルガモ北部の山間にあるサンペッレグリーノ・テルメ。街の名前を聞いてまず思い浮かべるのは、日本でも販売されているイタリア大手の炭酸入りミネラルウォーターだろう。そう、まさにゴール地点はその「サンペッレグリノ」の産地だ。
澄んだ川を挟むようにして形成されたこじんまりとした街。コース脇には、ミネラルウォーターを貯蔵する巨大な倉庫がある。余談として、第5ステージで紹介したコーラに似た炭酸飲料「キーノ」もサンペッレグリノ社製。
2日連続で逃げ切りが決まり、2日連続で若いアシスト選手が勝った。前日のディエゴ・ウリッシ(イタリア、ランプレ・ISD)も初々しかったが、今日のエロス・カペッキ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)も表彰台で喜びを爆発させる。ニーバリの総合成績に執着してきたチームに良い勢いを持ち込むことができた。チームのプレス担当者パオロの顔が久々に緩んだままだ。
6分遅れでゴールしたメイン集団の中に、フミの姿はあった。悔しい表情を浮かべながらゴールラインを切る。「前半の逃げに乗るために片道切符で今日は挑みました。捨て身で何度も挑んだ。ベストは尽くしました」。しかし今大会2度目のエスケープは叶わなかった。
残る3ステージのうち、2ステージは頂上ゴールで、最後の1ステージは個人タイムトライアル。つまり、この第18ステージが実質的にステージ優勝のラストチャンスだったと多くの選手が言っている。でもフミは、展開によっては第19ステージの最後の3級山岳マクニャーガ頂上ゴールで逃げ切り、もしくはゴールスプリントになると予想する。天気予報によると、第19ステージは曇り時々雨。いよいよジロの最終決戦地アルプスに突入だ。
text&photo:Kei Tsuji in San Pellegrino Terme, Italy
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