ドロミテ3連戦の最後を飾るジロ第15ステージはチーマコッピ(大会最標高地点)のジャウ峠を含む、獲得標高6320mという常識はずれの難関ステージ。ステージ覇者のニエベで7時間半、遅れた選手は8時間オーバーのサバイバルレースとなった。

チーマコッピのジャウ峠に向かうパノラマチーマコッピのジャウ峠に向かうパノラマ photo:Riccardo Scanferla

序盤からアタックが繰り返される序盤からアタックが繰り返される photo:Kei Tsujiジロのオーガナイザーがドロミテ山岳3連戦の最後に用意したコースは非常識極まりない厳しさ。
1級山岳ピアンカヴァッロ、2級山岳フォルチェッラ・チビアーナ、チーマコッピ(大会最標高地点)の標高2236mジャウ峠、1級山岳フェダイア峠、最後に1級山岳ガルデッチャを駆け上がってゴールする229kmのコースの総登坂標高は6320m。

これは、登りが厳しいスイスのステージレースであるツール・ド・ロマンディが1週間かけて登る標高差を一日のうちに上回る。グランツールで一日の獲得標高差が5000mを超えるのは稀なことだ。

ゴール地点のガルデッチャは平均勾配10%で登坂距離6.2km、ゴール手前に未舗装区間も登場する。そして、選手たちは前日にモンテ・ゾンコランを走っている。これらのことから以下にこのステージが厳しいものであるかが分かるだろう。そして、ゴール地点の天候は冷たい雨になった。選手たちにとっては完走を懸けたタイムオーバーとの闘いでもある。

1級山岳ピアンカヴァッロでアタックしたステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)1級山岳ピアンカヴァッロでアタックしたステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) photo:Riccardo Scanferla序盤から18人の逃げグループが形成される。
逃げた18人
ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)
ヨハン・チョップ(スイス、BMCレーシングチーム)
ステファノ・ピラッツィ(イタリア、コルナゴ・CSFイノックス)
ミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)
カルロス・サストレ(スペイン、ジェオックス・TMC)
ダニーロ・ディルーカ(イタリア、カチューシャ)
アルベルト・ロサダ(スペイン、カチューシャ)
ルイス・パサモンテス(スペイン、モビスターチーム)
エフゲニー・ペトロフ(ロシア、アスタナ)
ピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)
フィリップ・ダイグナン(アイルランド、レディオシャック)
エマヌエーレ・セッラ(イタリア、アンドローニ・ジョカトリ)
ジョニー・フーガーランド(オランダ、ヴァカンソレイユ・DCM)
ハビエル・アラメンディア(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)
アレクサンダー・クチンスキー(ベラルーシ、カチューシャ)
ケヴィン・シールドライヤース(ベルギー、クイックステップ)
ヤロスラフ・ポポヴィッチ(ウクライナ、レディオシャック)
ヤン・バケランツ(ベルギー、オメガファーマ・ロット)

18人はタイム差約10分で先行する。このなかで総合タイムが最もいいのは、この日優勝することになるミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)の+9分03秒。
1級山岳ピアンカヴァッロでここから7人が飛び出すが、再び集団はひとつにまとまる。そして2級山岳フォルチェッラ・チビアーナを越える。

ジャウ峠で独走に入った ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)ジャウ峠で独走に入った ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) (c)CorVosそしてチーマコッピ(大会最標高地点)の標高2236mジャウ峠へと向かう。麓から飛び出したのはフーガーランド(ダヴァカンソレイユ)。それを追ってガルゼッリ(アックア・エ・サポーネ)とニエベが追走。
しかしチーマコッピ頂上3km手前でガルゼッリがフーガーランドを捕らえ、そのまま頂上を単独通過。ガルゼッリはひとつ手前の2級山岳フォルチェッラ・チビアーナも先頭通過しており、一気に山岳ポイント獲得数を増やし、マリアヴェルデに大きく近づく。

マリアローザ集団ではダビ・アローヨ(モビスター)とホアキン・ロゴリゲス(カチューシャ)の飛び出しをコンタドールが追い、3人が少しリードして頂上を目指す。ニーバリ(リクイガス)はアシストもいなくなり不利な立場に置かれるが、アタックのチャンスを伺っている。

ジャウ峠のダウンヒルでアタックに出たヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)ジャウ峠のダウンヒルでアタックに出たヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) (c)CorVosジャウ峠を通過し、約30km続くダウンヒルで動いたのはニーバリ。得意の下りを利用したアタックに、コンタドールらは置き去りにされる。下りでリスクをとるニーバリの走りは、徐々に差を開き始める。

しかしニーバリを逃がすと危険と判断したのか、コンタドールは時折腰を上げてスピードアップ。ニーバリもコーナーで膨らむなど、必要以上に攻める走りをしていることが分かる。しかしニーバリのアタックは下りきってからコンタドール集団に吸収され、無駄に終わった。

マルモラーダの別名がある1級山岳フェダイア峠へ単独登り始めたのは独走を続けるガルゼッリ。逃げグループにいたニエベやディルーカ、バケランツらもバラケながらガルゼッリを追う。
この頃ら約30km先のゴール地点の冷たい豪雨が、急速に選手たちに迫りだした。

1級山岳フェダイア峠で独走するステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)1級山岳フェダイア峠で独走するステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ) photo:Riccardo Scanferlaフェダイア峠のまだ勾配の緩い登り口でスピードを上げたのはコンタドール。下りで脚を使っていたニーバリはこの不意打ちで遅れを喫する。

コンタドールのグループに残ったのはロドリゲス(カチューシャ)、クロイツィゲル(アスタナ)、スカルポーニ(ランプレ)、ガドレ(アージェードゥーゼル)、メンショフ(ジェオックス)、ルハノ(アンドローニ・ジョカトリ)。ニーバリはサルミエント(アックア・エ・サポーネ)とともに1分ほど離され、苦しむ。

ガルゼッリが逃げを続け、コンタドール集団もフェダイア峠を越えた。そしてこの下りでニーバリが再び驚異的なダウンヒルのスピードを披露し、勝負どころのガルデッチャへの最後の登りが始まる前にコンタドール集団に追いついた。

ガルデッチャへの最後の登りは、平均勾配10%で登坂距離6.2km。独走を続けたガルゼッリが登り始めたとき、ちょうどニエベが追いついた。そして、すぐさまニエベがガルゼッリを振り切って独走に入る。

コンタドール集団もラスト4kmで攻防が始まる。まず火をつけたのはスカルポーニ。これにガドレとコンタドールが反応し、すぐさまコンタドールが先行を始める。有力選手たちのこの集団においてさえ足どりは重く、コンタドールだけが軽快なダンシングを刻む。後方ではニーバリ、ロドリゲス、ルハノ、メンショフ、クロイツィゲルが一緒に登るがペースが上がらない。そしてニーバリがまたも遅れる気配を見せる。

ハイペースでガルデッチャを駆け上がるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ハイペースでガルデッチャを駆け上がるアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Riccardo Scanferlaライバルたちに先行を許してしまったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)ライバルたちに先行を許してしまったヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール) photo:Riccardo Scanferla

雨の中、ガルデッチャを駆け上がるミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)雨の中、ガルデッチャを駆け上がるミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル) photo:Riccardo Scanferlaゴールまで残り1kmを切って逃げ切りが約束されたニエベも、ガルデッチャのあまりの厳しさに険しい表情を浮かべる。そして、序盤から逃げ、7時間24分という長い、しかし最短時間でゴールに飛び込んだ。片手を上げる虚ろなガッツポーズ。そして苦痛から解放された表情を浮かべる。

独走の長かったガルゼッリも迫るコンタドールから逃げきって2位でフィニッシュ。ステージは取れなかったが、マリアヴェルデを獲得した。

そしてコンタドールはライバルたちにまたしても差をつけて3位でフィニッシュ。マリアローザをもはや不動にした。

ライバルたちを引き離してゴールするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)ライバルたちを引き離してゴールするアルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) photo:Riccardo Scanferla4位フィニッシュのスカルポー二に対して1分37秒遅れをとったのは、7位でフィニッシュしたニーバリ。総合2位の座をスカルポー二に譲ることになった。

優勝者で7時間半。選手によっては8時間オーバーのレースに力を振り絞る。別府史之(レディオシャック)は39分59秒遅れの138位でゴールした。

ステージ優勝したニエベは、このジロでもエースのイゴールアントンを山岳で力強くサポートしてきた。前日のゾンコランを制したアントンに続き、このスペインはバスクのチームがジロでステージ2連勝を飾ることになった。

ニエベは2010年のブエルタ・ア・エスパーニャの難関山岳ステージである第16ステージで優勝を飾っている26歳のバスク人クライマー。2008年にオルベアでプロデビューし、プロ4年目。ブエルタに続き2つめのグランツールの勝利。それも、ともに難しいクイーンステージでの勝利は大きな価値と言えるだろう。

選手たちは明日、2回目の休息日を迎える。


ステージ優勝を飾ったミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル)ステージ優勝を飾ったミケル・ニエベ(スペイン、エウスカルテル) photo:Riccardo Scanferlaニエベのコメント
昨日から調子がよくて、今朝のミーティングで、アントンを含むチーム全員がぼくが逃げることに合意してくれたんだ。
ぼくにとっては、このジロのクイーンステージでの勝利で、夢がひとつ実現したことになる。プロ選手になったときには、こんな成績を実現できるなんて思わなかった。
最後の1kmは、どこまでも永遠に続くかと思った。この3日間をなんとか終えたので、自分が勝ったなんて本当に信じられない。このレベルのレースで勝つとか絶対に考えたことがないよ。でも、今日は起きたときから調子がよかったので、逃げに加わってみたかったんだ。

コンタドールのコメント
きつい一日だった。本当にきつかった。ぼくのキャリアの中で一番きついステージだったんじゃないかな。ぼくたちはここ数日、かなり苦しんできた。

最初の登りでリクイガスが速いペースで走ったから、集団が大きく分かれた。この大きな逃げ集団ができたせいで、一日中きつくて速いレースになった。チームはよく働いてくれた。作戦面でもね。でも、ジャウ峠に入ったときに、ライバルたちの本当のアタックが始まった。
ぼくはニーバリがロドリゲスやアローヨと一緒に逃げることは阻止した。3人が一緒にいるのは危険だからね。逆にニーバリが単独で先行したときは追わなかった。先は長いから、危険だとは思わなかったんだ。
みんなは、ぼくがジロを決めてしまったと口にするけど、それはちがうよ。逆に2週間のハードなレースをこなして、このタイム差がついたと言われたらうれしいけどね。でも、まだレースは終わってない。


第15ステージ結果
1位 ミケルニエベ・イトゥラルデ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ) 7h27'14"
2位 ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)+1'41"
3位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)+1'51"
4位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)+1'57"
5位 ジョン・ガドレ(アージェードゥーゼル)02'28"
6位 ホセ・ルハノ(ベネズエラ、アンドローニ・ジョカトリ)+2'35"
7位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+3'34"
8位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
9位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)+4'01"
10位 ステフェン・クルイスウィック(オランダ、ラボバンク)+4'13"
138位 別府史之(レディオシャック)+39'59"

個人総合成績 暫定
1位 アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード) 62h15'14"
2位 ミケーレ・スカルポーニ(イタリア、ランプレ・ISD)+4'20"
3位 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)+5'11"
4位 ジョン・ガドレ(アージェードゥーゼル)+6'08"
5位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ) +6'32"
6位 ミケルニエベ・イトゥラルデ(スペイン、エウスカルテル・エウスカディ)+5'37"
7位 デニス・メンショフ(ロシア、ジェオックス・TMC)+8'46"
8位 ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)+8'58"
9位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)+9'20"
10位 ダビ・アローヨ(スペイン、モビスターチーム)+9'30"
79位 別府史之(レディオシャック)+1h46'11"



ポイント賞 マリアロッサ・パッシオーネ
アルベルト・コンタドール(スペイン、サクソバンク・サンガード)

山岳賞 マリアヴェルデ
ステファノ・ガルゼッリ(イタリア、アックア・エ・サポーネ)

新人賞 マリアビアンカ
ロマン・クロイツィゲル(チェコ、アスタナ)

チーム総合成績
アスタナ


text:Makoto.AYANO
photo:Kei Tsuji,Riccardo Scanferla,CorVos

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