2011年5月1日、ツール・ド・ロマンディ(UCIワールドツアー)最終日、ジュネーヴにゴールする第5ステージ。レディオシャックの別府史之とユーロップカーの新城幸也がそれぞれ最終スプリントに絡み、ステージ6位とステージ9位という成績を残した。

別府史之(日本、レディオシャック)とヴィアチェスラフ・エキモフ監督別府史之(日本、レディオシャック)とヴィアチェスラフ・エキモフ監督 photo:Kei Tsujiツール・ド・ロマンディ最終ステージは、ヌーシャテル湖に近いシャンパーニュから首都ジュネーヴまでの164.6km。中盤にかけてジュラ山脈に分け入り、標高1184mの1級山岳モランドリュ峠と標高1449mの1級山岳マルシェリュ峠を越える。

ラスト35kmはレマン湖沿いの平坦路で、最後はジュネーヴの湖岸通りにゴール。全6ステージの中では最もスプリンター向きだが、2つの1級山岳が厄介な存在だ。

最後尾でスタートを待つ新城幸也(日本、ユーロップカー)最後尾でスタートを待つ新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Kei Tsujiこの日のスタート時間は朝10時と早め。チームバス内でのミーティングを終えた選手たちがシャンパーニュのスタート地点に続々とやってくる。

スタートラインにやってきたユキヤは抑え気味の声で「今日は動きません」とこぼした。しかしそれはユキヤがエーススプリンターであることを意味する。「今日の役割はスプリントです。他のメンバーはアタックするけど、自分はチームの指示で動けない」。

アタックするグセフ(カチューシャ)、ヴェストラ(ヴァカンソレイユ・DCM)、ガルシアアコスタ(モビスター)、ケムヌール(ユーロップカー)、ボブリッジ(ガーミン・サーヴェロ)アタックするグセフ(カチューシャ)、ヴェストラ(ヴァカンソレイユ・DCM)、ガルシアアコスタ(モビスター)、ケムヌール(ユーロップカー)、ボブリッジ(ガーミン・サーヴェロ) photo:Kei Tsujiユキヤが最も警戒するのは、2009年大会の最終ステージで優勝しているオスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)。この日と同じ1級山岳マルシェリュ峠を越え、レマン湖沿いを南下してジュネーヴにゴールするステージでフレイレは勝利している。

すぐ後ろでスタートを待つマーク・レンショー(オーストラリア、HTC・ハイロード)に関して、ユキヤは「彼はきっと山岳で残れないですよ」と分析する。とにかく1級山岳で縮小した集団内に残れれば、スプリントのチャンスが巡ってくる。「2つの1級山岳を何とか前(メイン集団)でクリアしたいですね」。

夏のような暖かな太陽がロマンディ地方を照らす夏のような暖かな太陽がロマンディ地方を照らす photo:Kei Tsuji一方、フミは「(スプリント力のある)カルドソが山岳を乗り切ることができれば、彼でスプリントを狙います。彼が脱落した場合は、好調なルカトルでスプリントするかも知れない。今日、自分の予定は無いですよ」と笑いながら答える。初出場のジロ・デ・イタリアを前に、フミはリラックスした表情で調整を続けている。

「レディオシャックは4人のスプリンターをジロに送り込む。マキュアン、ハンター、カルドソ、そしてフミだ」と自信をもって語るのは、レディオシャックのエキモフ監督。4番目に名前が挙がったフミが、この日ジュネーヴでの最終スプリントに加わることになる。

レースは開始早々にジャック・ボブリッジ(オーストラリア、ガーミン・サーヴェロ)やウラディミール・グセフ(ロシア、カチューシャ)、ペリグ・ケムヌール(フランス、ユーロップカー)ら5名が飛び出す。しかし逃げグループは協調体制を築けず、独走で最初の1級山岳モランドリュ峠に到達したグセフも吸収される。

ブライコヴィッチのために風よけになる別府史之(日本、レディオシャック)ブライコヴィッチのために風よけになる別府史之(日本、レディオシャック) photo:Kei Tsujiチームメイトとともに集団前方で走る新城幸也(日本、ユーロップカー)チームメイトとともに集団前方で走る新城幸也(日本、ユーロップカー) photo:Kei Tsuji1級山岳モランドリュ峠に向かうメイン集団1級山岳モランドリュ峠に向かうメイン集団 photo:Kei Tsuji

レマン湖に向かうダイナミックなダウンヒルレマン湖に向かうダイナミックなダウンヒル photo:Kei Tsuji1級山岳モランドリュ峠ではクリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク・サンガード)らが積極的に動いたが、メイン集団を引き離すことはできない。セレンセンはこの日獲得した山岳ポイントによって山岳賞に輝いている。

1級山岳マルシェリュ峠でようやく逃げが決まる。レンショーを始めとするスプリンターが遅れる中、ピエール・ロラン(フランス、ユーロップカー)のアタックに3名が反応し、4名の逃げグループが形成される。しかしBMCレーシングチームの集団コントロールによって逃げのリードは上限1分。チームスカイ主導のメイン集団にラスト6kmで飲み込まれた。

BMCレーシングチームとチームスカイがコントロールするメイン集団BMCレーシングチームとチームスカイがコントロールするメイン集団 photo:Kei Tsujiジュネーヴに向かって突き進むメイン集団から、ラスト3kmを切ってから総合3位のアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)がアタック。ヴィノは逃げ切りを果たした第3ステージの再現を目論んだが、チームスカイのトレインがこれを封じ込めた。

チームスカイのリードによって縦一列に伸びるメイン集団。バリー(カナダ)とフルーム(イギリス)、ウィギンズ(イギリス)がラスト1kmまでリードアウトし、そこからトーマス(イギリス)とサットン(オーストラリア)にバトンタッチ。

ラスト150mで発射されたスウィフトが、オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)とダヴィデ・ヴィガノ(イタリア、レオパード・トレック)を抑え込んで勝利した。

別府史之(レディオシャック)と新城幸也(ユーロップカー)も集団前方でスプリント別府史之(レディオシャック)と新城幸也(ユーロップカー)も集団前方でスプリント photo:Kei Tsuji

ガッツポーズのベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)、後方に別府史之(レディオシャック)と新城幸也(ユーロップカー)ガッツポーズのベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)、後方に別府史之(レディオシャック)と新城幸也(ユーロップカー) photo:Kei Tsujiシーズン初戦のツアー・ダウンアンダーでステージ2勝を飾り、スペインのブエルタ・ア・カスティーリャ・イ・レオンでもスプリント勝利を収めているスウィフト。23歳の新鋭が再びワールドツアーレースで結果を残した。

「ヌーシャテルのステージ(第3ステージ)ではマルティンらのアタックにチャンスを奪われた。だから今日は何としても集団スプリントに持ち込んで、勝ってやろうとミーティングで話したんだ。チームメイト全員の努力が報われたよ」。

最終ステージを制したベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)最終ステージを制したベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsuji総合順位に変動は無く、リーダージャージを着てジュネーヴに辿り着いたカデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)が総合優勝。BMCレーシングチームは、山岳地帯やレース終盤に見られたライバルたちの動きを封じ込め、エヴァンスを2度目の大会制覇に導いた。

エヴァンスはティレーノ〜アドリアティコでの総合優勝を果たしており、これが今シーズン2度目のUCIワールドツアーレース制覇。今年はジロ・デ・イタリアをスキップし、ツール・ド・フランスに集中する予定だ。

総合表彰台、左から2位トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)、優勝カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)、3位アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)総合表彰台、左から2位トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)、優勝カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)、3位アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsujiこの日、チームスカイ主導のハイスピードなスプリントに、フミとユキヤがそれぞれ参戦した。

シッティングに近い低い体勢でもがくフミと、腰を上げてペダルを踏み込むユキヤ。UCIワールドツアーでポイントが与えられるステージ5位には届かなかったが、それぞれステージ6位とステージ9位という好成績で6日間の闘いを締めくくった。

フミは「ジロに向けて調子も良く、今日はスプリントに参加して6位に入った。登りも登れているし、グッドコンディションでジロに臨むことができる。今からジロが楽しみだ」と、力強いコメントを残す。フミはこの日のレース後すぐにフランスに戻って2日間自宅で過ごし、水曜日にイタリア・トリノ入りする予定だ。

ユキヤも同様にこの日の夕方の便でフランスへ。今後のスケジュールについて「しばらくフランスのレースが続いて、次の大きな大会は6月のクリテリウム・ドゥ・ドーフィネ。その後、帰国して全日本選手権に出場したいと思っています」と語っている。

ツール・ド・ロマンディ2011第5ステージ結果
1位 ベン・スウィフト(イギリス、チームスカイ)            3h50'51"
2位 オスカル・フレイレ(スペイン、ラボバンク)
3位 ダヴィデ・ヴィガノ(イタリア、レオパード・トレック)
4位 ファビオ・サバティーニ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)
5位 エンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)
6位 別府史之(日本、レディオシャック)
7位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)
8位 ニコラス・ロッシュ(アイルランド、アージェードゥーゼル)
9位 新城幸也(日本、ユーロップカー)
10位 エンリケ・サンス(スペイン、モビスター)

個人総合成績
1位 カデル・エヴァンス(オーストラリア、BMCレーシングチーム)  16h51'49"
2位 トニ・マルティン(ドイツ、HTC・ハイロード)            +18"
3位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)       +19"
4位 マルコ・ピノッティ(イタリア、HTC・ハイロード)          +31"
5位 ベナト・インチャウスティ(スペイン、モビスター)           +41"
6位 ピーター・ウェーニング(オランダ、ラボバンク)           +51"
7位 ヤネス・ブライコヴィッチ(スロベニア、レディオシャック)      +52"
8位 パヴェル・ブラット(ロシア、カチューシャ)             +58"
9位 アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)    +59"
10位 デーヴィット・ミラー(イギリス、ガーミン・サーヴェロ)      +1'00"
57位 別府史之(日本、レディオシャック)                +6'30"
98位 新城幸也(日本、ユーロップカー)                 +20'38"

山岳賞
クリスアンケル・セレンセン(デンマーク、サクソバンク・サンガード)

中間スプリント賞
マティアス・ブランドル(オーストリア、ジェオックス・TMC)

新人賞
アンドリュー・タランスキー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)

チーム総合成績
ガーミン・サーヴェロ

text&photo:Kei Tsuji in Geneve, Switzerland