長さ1300m、高低差121m、平均勾配9.3%、最大勾配が25%に達するとも言われる「ユイの壁」が勝負どころとなる「アルデンヌ・クラシック」第2戦フレーシュ・ワロンヌは、絶好調のフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)が矢のごとく駆け上がって勝利を飾りアムステルゴールドレースに続く2連勝を成し遂げた。

シャルルロワを背景に走りだすメイン集団シャルルロワを背景に走りだすメイン集団 photo:Kei Tsujiベルギーはワロン地方で開催される伝統のクラシック、フレーシュ・ワロンヌ。フランス語で「ワロンヌの矢」を意味するこのレースは、先の日曜のアムステルゴールドレース、続く日曜のリエージュ~バストーニュ~リエージュで構成されるメジャークラシックの「アルデンヌ・クラシック」3連戦のひとつ。

距離の短さから難易度と「格」はモニュメントに指定されるリエージュに一歩譲るが、「ユイの壁」と呼ばれるミュール・ド・ユイ(Mur de Huy)単体の坂の難易度は3連戦中もっとも高い。この壁を3回目に上り詰めるゴールが勝負を決める。

ユイのペイントが頂上まで続くユイのペイントが頂上まで続く photo:Kei Tsujiその勾配のきつさ、長さにおいてアムステルやリエージュよりもピュアクライマー向きと言われる。しかも登りでのスプリント力を求められるという、まさに爆発力を持つクライマーでなければこのレースに勝つことはできない。

快晴の乾燥して清々しい空気の中レースはスタート。最高気温は22度の予報だが、自転車レースには最高の快適なコンディションのなか、選手たちはシャルルロワを発ち東に進路を取る。

2回目のユイの壁を登るマチェイ・パテルスキー(ポーランド、リクイガス・キャノンデール)ら2回目のユイの壁を登るマチェイ・パテルスキー(ポーランド、リクイガス・キャノンデール)ら photo:Kei Tsujiレースは序盤、17km地点でのアタック合戦の末、4人の逃げグループが形成される。マキシム・ヴァントム(ベルギー、カチューシャ)、マチェイ・パテルスキ(ポーランド、リクイガス・キャノンデール)、プレベン・ファンヘッケ(ベルギー、トップスポート・フラーンデレン)、マッティ・ヘルミネン(フィンランド、ラウンドバウクレジット)の4人は、メイン集団に対して最大17分近い差をつけて逃げ続ける。

メイン集団はラボバンク、サクソバンク、レオパード・トレックが組織だって先頭に立ち、ペースを上げて追う。4人は2度目のユイの壁でもメイン集団に差をつけてクリアするが、メイン集団でのアタックはその2度目のユイの壁を超えた時点で激しさを増した。

急勾配のユイの壁を登る選手たち急勾配のユイの壁を登る選手たち photo:Kei Tsujiメイン集団からのエンリーコ・ガスパロット(イタリア、アスタナ)のアタックに追従するかたちで追走グループが形成され、先頭グループに合流。10人の逃げグループとなる。

逃げグループからさらに抜け出したのはトーマス・ロヴクヴィスト(スウェーデン、チームスカイ)とヴァシル・キリエンカ (ベラルーシ、モビスター)。

大歓声を受けながらユイの壁を駆け上がるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)大歓声を受けながらユイの壁を駆け上がるフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット) photo:Kei Tsuji2人は残り8kmまで逃げるが、集団のスピードはそれを許さない。ダニーロ・ディルーカ(イタリア、カチューシャ)やアンディ・シュレク(ルクセンブルグ、レオパード・トレック)もメイン集団先頭に立ってペースを上げる走りを見せる。

2人が9番目の登りを越えた時点で集団に吸収されると、今度はジェローム・ピノー(フランス、クイックステップ)がアタック。マルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユDCM)が追い、下りを利用して20秒の差をつけて最後の登り「ユイの壁」へと向かう。登り始めた時点でのタイム差は14秒。

単独でジルベールを追うホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)単独でジルベールを追うホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ) photo:Kei Tsuji登り始めまで逃げた2人だが、スピードの上がる集団は2人を飲み込み、勝負は定石通りユイの壁での登坂力勝負へと持ち込まれた。有力選手が一団となって激しくしのぎを削る。

優勝候補のホアキン・ロドリゲスはアシストのダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)に率いられて登るが、25,6%の最高勾配に達する最も困難な地点でジルベールが早めのアタックを掛け、一気に差を開く。このジルベールの他を圧倒する力強さは驚くことにゴールまで持続し、2位ロドリゲスらの追従を一切許さなかった。

登りに苦しむダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)やアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)登りに苦しむダニエル・モレーノ(スペイン、カチューシャ)やアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ) photo:Kei Tsuji昨年大会は6位。今年は優勝候補の一角には挙げられていたが、スタート前には「ユイの壁は自分には厳しすぎて、このレースには勝てない」と語っていたジルベールが、何度も後方を振り返って確認し、ゴール前ではハンドルから手を離して自らを祝福する余裕を見せてフィニッシュ。ロドリゲスに10mの差を持って圧倒の勝利を挙げた。

ジルベールの圧倒的な上りのスプリント力は、長さ1300m、高低差121m、平均勾配9.3%、最大勾配25%のユイの壁で楽々と持続した。

表彰台、左から2位ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)、優勝フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、3位サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル)表彰台、左から2位ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)、優勝フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)、3位サムエル・サンチェス(スペイン、エウスカルテル) photo:Kei Tsuji3位にはサムエル・サンチェス(スペイン、 エウスカルテル) 、4位にアレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)、5位にイゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)が続く。注目のアルベルト・コンタドールは15秒遅れの11位と、トップ10入りを逃した。

このレースの地元、ベルギーはワロン地方出身のジルベール。ベルギー人としては2002年のマリオ・アールツ以来、そしてワロン人としては1989年のクロード・クリケリオン以来の勝利だ。

先の日曜のアルデンヌクラシック初戦アムステルゴールドレースを制したジルベールはこれでアルデンヌ2連勝。ジルベール本人がもっとも目標としている次の日曜の「モニュメント」レース、リエージュ~バストーニュ~リエージュに向けて万全の仕上がりを見せつけた。アップダウンの続くコース、そして上りのスプリント力において無敵の力を誇るジルベール。このままの勢いが続くなら、アルデンヌ・クラシック3連覇も夢ではい。ちなみにアルデンヌ・クラシック3連覇は2004年にダヴィデ・レベッリン(イタリア)が成し遂げている。

ジルベールは喜びを語る。
「今日このレースに勝てるとは思ってもみなかった。クライマー向きのこの極度に厳しいレースだから、本当に驚きだ。この勝利はこれからに向けて大きな自信につながる。今まで勝つことなど考えもしなかったレースのことが頭に浮かんでくる。例えばジロ・デル・エミーリャは僕には厳しすぎてスタートさえしなかったが、この勝利でそういうレースに対しても頭の中でスイッチが入ってしまうね」


フレーシュ・ワロンヌ2011 結果
1位 フィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)   4'54"57
2位 ホアキン・ロドリゲス(スペイン、カチューシャ)
3位 サムエル・サンチェス(スペイン、 エウスカルテル・エウスカディ)  +05"
4位 アレクサンドル・ヴィノクロフ(カザフスタン、アスタナ)       +06"
5位 イゴール・アントン(スペイン、エウスカルテル)
6位 イェーレ・ヴァネンデルト(ベルギー、オメガファーマ・ロット)
7位 フランク・シュレク(ルクセンブルク、レオパード・トレック)
8位 ダニエル・モレノ(スペイン、カチューシャ)             +09"
9位 クリストフ・ルメヴェル(フランス、ガーミン・サーヴェロ)      +12"
10位 ポール・マルテンス(ドイツ、ラボバンク)


text:Makoto.AYANO
photo:Kei.TSUJI,CorVos