先週のロンド・ファン・フラーンデレンで、白いイギリスチャンピオンジャージが集団前方で走る姿をご覧になった方が多いと思う。チームスカイのジェレイント・トーマス(イギリス)は、今やフアンアントニオ・フレチャ(スペイン)と同等の存在感を発揮する。現在フレチャをサポートするトーマスがいつの日か「北のクラシック」を制するときが来るだろう。

ミュール・カペルミュールを駆け上がるジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)ミュール・カペルミュールを駆け上がるジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vos「(ロンド制覇は)2年後かな」。トーマスは自信を込めてそう語る。

「レースの前方で走り、トップ選手の闘いに少しでも加われている現状に十分満足している。でも、もちろん、将来的には勝利を狙いたい。レース毎に自分が進化していることを感じるし、精神的な落ち着きも手に入れた。気持ちを和らげてくれるガールフレンドもいるし」。

イギリスチャンピオンジャージを着るジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)イギリスチャンピオンジャージを着るジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vosチームスカイのバスの中でジョークを飛ばすトーマスの彼女の存在が、24歳のイギリスチャンピオンの活躍に繋がっているのは自他ともに認める事実だ。

今年、トーマスは2度目のロンド・ファン・フラーンデレンを経験した。たった2度目とは思えない落ち着いた走りで、オウデ・クワレモント、パテルベルグ、モーレンベルグでは集団前方に姿を見せた。

ドワーズ・ドア・フラーンデレンで2位に入ったジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)ドワーズ・ドア・フラーンデレンで2位に入ったジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Cor Vosゴールまで距離を残してトム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)とファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)が刺激的なアタックを仕掛け、カンチェラーラが1分のリードを築いたときも、トーマスはいずれディフェンディングチャンピオンが吸収されると踏んでいた。

ガールフレンドの他にも、トーマスの成長に欠かせない存在になっているのが、フレチャを始めとする経験豊かなチームメイトたちだ。「レースが加熱したとき、興奮して周りのチームメイトに聞いて回ったんだ。『今行くべきじゃないの?今から全開で引こうか?』ってね。でもフレチャにこう言われた。『いや、まだだ。とにかく落ち着け』と。幸い僕は経験豊かで有能なチームメイトに囲まれている」。

ベン・スウィフトとジェレイント・トーマス(ともにイギリス、チームスカイ)ベン・スウィフトとジェレイント・トーマス(ともにイギリス、チームスカイ) photo:Kei Tsujiフレチャのアシストとして走ったトーマスは、ミュール・カペルミュール通過後の平坦区間で献身的に前を引き、エースを先頭グループに復帰させた。その後のアタック合戦を耐えしのいだトーマスは自身最高位の10位でフィニッシュ。すぐにガールフレンドのもとに駆け寄って感謝を告げた。

トーマスはマシュー・ヘイマン(オーストラリア)やジェレミー・ハント(イギリス)を始めとするチームメイトたちへの感謝も忘れない。ベルギー最大のクラシックレースに備えて、トーマスは何週にも渡って彼らから手ほどきを受けた。その“見習い期間”の成果が、ドワーズ・ドア・フラーンデレン2位、ロンドのトップ10という数字となって現れた。

2010年ツール・ド・フランス マドレーヌ峠を上るジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)2010年ツール・ド・フランス マドレーヌ峠を上るジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ) photo:Makoto Ayano「彼は将来的にこのレース(ロンド)で勝つだろう」。そう断言するのはチームスカイのセルファイス・クナーフェン監督だ。

「来年の大会で勝ったとしてもおかしくはない。今年もいい線まで行っていた。有力選手が牽制した隙にアタックすれば勝っていたかもしれない。今年のレースで12名の先頭グループに残っていた選手なら、誰が勝ってもおかしくない」。

トーマスの次戦は「北の地獄」ことパリ〜ルーベだ。トーマスは、フレチャを支えるサブエースという立場で、過酷なパヴェのクラシックに挑む。だがロンドで見せたトーマスの走りの影響で「フレチャがトーマスをサポートすべきでは?」という声が少なからず出ているのは確かだ。

「パリ〜ルーベのようなレースでは、オプションを用意しておく必要がある」。チームスカイのコーチを務めるロッド・エリングワース氏は戦略を明らかにする。「単独エースの場合、一つのミスですべてを失う可能性がある。だからチームスカイはフレチャとトーマスの二枚看板で挑む。例えばレオパード・トレックを見てみよう。現状、あのチームはカンチェラーラの強さに頼り切っている。カンチェラーラがつまずけば、彼らはすべてを失う。それよりも多くのオプションを用意して闘ったほうが勝率が上がるんだ」。

石畳レースを走れる希有なスペイン人として知られる33歳のフレチャは、過去10年間1度も欠かさずロンドを走ってきた。2008年には3位に入り、スペイン人選手として初めて表彰台に登っている。しかし先週のロンドでは、チームメイトのトーマスがより輝いていた。

「確かにジェレイントがフレチャよりも冴えているように見えた」。エリングワース氏も認める。「いつものアグレッシブな走りが影を潜めていた。それが原因で、フレチャの調子が上がっていないように見えただけだと思っている。フレチャは信頼のおける強靭なライダーだ。彼ほど安定した選手は珍しい。パリ〜ルーベは彼の走りにマッチしている」。

「ジェレイントの走り?クールで文句のつけようのない走りだったよ。彼は『いい走りがしたい』と言っていた。そしてその通りの走りを見せた」。

トーマスは2004年にパリ〜ルーベのジュニアレースで優勝している。そのときの2位は、現在のチームメイトであるイアン・スタナード(イギリス)だ。トーマスは昨年チームスカイのメンバーとして初めてプロのパリ〜ルーベに挑み、フレチャの自身最高位となる3位入賞に貢献した。

「ジェレイントが勝てないという理由がない。勝てないと考えるのはナンセンスだ。『勝てないわけがないだろう?』と考える。それを実現するチームのサポートは整っている」。

text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji