2011/03/27(日) - 17:11
オーストラリア・タスマニア生まれのマシュー・ゴス(HTC・ハイロード)のキャリアは、ミラノ〜サンレモの勝利で一気に花開いた。登坂力を強化したゴスが目指すのは「北のクラシック」での勝利。今シーズンでHTC・ハイロードとの契約が切れるゴスは、来シーズン発足するグリーンエッジに移籍する可能性もある。
ミラノ〜サンレモ 集団内で登りをクリアするマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:RCS Sport「ゴシィ(ゴス)は偉大なチャンピオンだ。ミラノ〜サンレモのようなビッグレースを制したことで、より一層大きな自信をつけたはず」。ゴスの勝利をそう評するのは、HTC・ハイロードのヴァレリオ・ピーヴァ監督だ。
現在24歳のゴスは、オーストラリアの南に浮かぶタスマニア島第二の都市ロンセストン出身。幼少期は同国ナンバーワンスポーツのオージーフットボール(オーストラリアン・ルールズ・フットボール)に打ち込み、プロの選手を目指していた。
ミラノ〜サンレモ ガッツポーズでゴールするマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:Riccardo Scanferlaしかし怪我によってフットボールプレーヤーの道が断たれる。そこで出会ったのが自転車競技だった。ロードバイクはゴスの資質に完璧にマッチした。
AIS(オーストラリア国立スポーツ研究所)のメンバーとしてアマチュア時代を過ごし、ロードレースとトラックレースで成績(2005年TOJ大阪ステージ優勝etc)を残したゴスは、2007年にチームCSCでプロデビューを果たす。同年ツアー・オブ・ブリテンでステージ優勝を飾ると、翌年ヘント〜ウェベルヘムで3位に入って才能の片鱗を見せた。
ミラノ〜サンレモ ゴール後のマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:Riccardo Scanferlaゴスの両親は、2008年のツアー・ダウンアンダーに脚を伸ばし、一人息子がプロ選手として活躍する姿に感動を覚えたという。今年、ミラノ〜サンレモの中継をロンセストンの自宅で観戦していた両親は、テレビに向かって絶叫したはず。自慢の息子は、世界トップレーサーのアタックを封じ込め、ミラノ〜サンレモのビッグタイトルを手にした。
「彼は毎年着実に進化している印象だ。スピードは申し分ないし、近年は特に登坂力を強化している。今となっては、トップスプリンターの中で1、2を争う登坂力を身につけている。それをミラノ〜サンレモで証明してみせた」と、ピーヴァ監督も驚く。
今年ゴスはツアー・ダウンアンダーの開幕ステージを制し、最後まで僅差の総合争いを繰り広げて総合2位フィニッシュ。ツアー・オブ・オマーンでステージ優勝、そしてパリ〜ニースでもステージ優勝を飾っている。ビッグレースで安定した成績を収めるゴスは、UCIワールドツアーランキングの首位に立っている。
とは言え、ミラノ〜サンレモのレース展開は決して生易しいものではなかった。頻発する落車を避け、チプレッサとポッジオの登りで粘り、そしてサンレモ市内でのアタックを封じ込めることでようやくチャンスが回ってきた。
ポッジオでのフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)のアタックを抑え込んだゴスは、ラスト2.5kmでのファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)のアタックにも追尾。勝ちパターンのゴールスプリントに持ち込むことに成功した。
HTC・ハイロードのマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)、ベルンハルト・アイゼル(オーストリア)、マシュー・ゴス(オーストラリア) photo:Kei Tsuji平静を装い、常に落ち着いて走ったゴス。「ポッジオの登りで集団が割れたとき、絶対に先行する選手に食らいつく必要があると判断した。そこからゴールまでひたすらアタックに反応したんだ。全ての判断が正しかったのだと思う。確かに落ち着いて走っているように見えたかも知れないけど、頭の中はストレスではち切れそうだった」。
高い登坂力はゴス最大の武器だ。登坂力とスプリント力を兼ね備えたゴスは、ロンド・ファン・フラーンデレンに代表される「北のクラシック」制覇を夢見ている。
ロンド・ファン・フラーンデレンのコースを試走するマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード)とファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック) photo:Cor Vos「ゴスはチームリーダーとしての責任感にも負けない器だ。これからもっと多くの勝利を手にするだろう」。ピーヴァ監督はゴスの将来に太鼓判を押す。
登坂力に“自信”をプラスしたゴスは「ミラノ〜サンレモを制したことで、見える世界が変わった。もっともっと多くのレースで勝てると思えるようになった。フランドル?ルーベ?今年勝てるかどうかは分からない。でも今年になるまで、そんなビッグレースで勝てるとは思ってもみなかった」と意気揚々とした表情で語る。
VENGEに乗ってロンド・ファン・フラーンデレンのコースを試走するマシュー・ゴス(オーストラリア、HTC・ハイロード) photo:Cor Vosゴスはベルンハルト・アイゼル(オーストリア)やマーク・カヴェンディッシュ(イギリス)とともに3月27日のヘント〜ウェベルヘムに出場する。ロンド・ファン・フラーンデレンとパリ〜ルーベにも挑戦する予定だ。
気になるのは、ゴスの来シーズンの所属チームだ。ゴスの勝利に喜んだのは両親だけではない。個人マネージャーを務めるポール・デゲイテル氏もまた、テレビの前で絶叫した。ミラノ〜サンレモの勝利は、選手としての価値を高めてくれる。HTC・ハイロードはもちろんのこと、他チームにとってもゴスは魅力的な選手になった。
デゲイテル氏によると、現在最も可能性が高いのは、HTC・ハイロードとの契約更新。それと同時にオーストラリアで新たに発足するグリーンエッジ・サイクリングとの交渉も進めるという。
オーストラリアのシェイン・バナン氏が発起人となって動き出したグリーンエッジ・サイクリングは、同国の純正チームを目指す。1月の記者会見でバナン氏は「100%オーストラリア人メンバーで構成することが望ましい。それだけの深みがオーストラリアにはある。だが現在の所属チームとの契約期間を考えると、75%が現実的だ」と語っている。
ゴスは現在最も勢いのあるオーストラリア人選手だ。バナン氏が多額の契約金を払ってゴスを引き抜くことは想像に容易い。
text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji

現在24歳のゴスは、オーストラリアの南に浮かぶタスマニア島第二の都市ロンセストン出身。幼少期は同国ナンバーワンスポーツのオージーフットボール(オーストラリアン・ルールズ・フットボール)に打ち込み、プロの選手を目指していた。

AIS(オーストラリア国立スポーツ研究所)のメンバーとしてアマチュア時代を過ごし、ロードレースとトラックレースで成績(2005年TOJ大阪ステージ優勝etc)を残したゴスは、2007年にチームCSCでプロデビューを果たす。同年ツアー・オブ・ブリテンでステージ優勝を飾ると、翌年ヘント〜ウェベルヘムで3位に入って才能の片鱗を見せた。

「彼は毎年着実に進化している印象だ。スピードは申し分ないし、近年は特に登坂力を強化している。今となっては、トップスプリンターの中で1、2を争う登坂力を身につけている。それをミラノ〜サンレモで証明してみせた」と、ピーヴァ監督も驚く。
今年ゴスはツアー・ダウンアンダーの開幕ステージを制し、最後まで僅差の総合争いを繰り広げて総合2位フィニッシュ。ツアー・オブ・オマーンでステージ優勝、そしてパリ〜ニースでもステージ優勝を飾っている。ビッグレースで安定した成績を収めるゴスは、UCIワールドツアーランキングの首位に立っている。
とは言え、ミラノ〜サンレモのレース展開は決して生易しいものではなかった。頻発する落車を避け、チプレッサとポッジオの登りで粘り、そしてサンレモ市内でのアタックを封じ込めることでようやくチャンスが回ってきた。
ポッジオでのフィリップ・ジルベール(ベルギー、オメガファーマ・ロット)とヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア、リクイガス・キャノンデール)のアタックを抑え込んだゴスは、ラスト2.5kmでのファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)のアタックにも追尾。勝ちパターンのゴールスプリントに持ち込むことに成功した。

高い登坂力はゴス最大の武器だ。登坂力とスプリント力を兼ね備えたゴスは、ロンド・ファン・フラーンデレンに代表される「北のクラシック」制覇を夢見ている。

登坂力に“自信”をプラスしたゴスは「ミラノ〜サンレモを制したことで、見える世界が変わった。もっともっと多くのレースで勝てると思えるようになった。フランドル?ルーベ?今年勝てるかどうかは分からない。でも今年になるまで、そんなビッグレースで勝てるとは思ってもみなかった」と意気揚々とした表情で語る。

気になるのは、ゴスの来シーズンの所属チームだ。ゴスの勝利に喜んだのは両親だけではない。個人マネージャーを務めるポール・デゲイテル氏もまた、テレビの前で絶叫した。ミラノ〜サンレモの勝利は、選手としての価値を高めてくれる。HTC・ハイロードはもちろんのこと、他チームにとってもゴスは魅力的な選手になった。
デゲイテル氏によると、現在最も可能性が高いのは、HTC・ハイロードとの契約更新。それと同時にオーストラリアで新たに発足するグリーンエッジ・サイクリングとの交渉も進めるという。
オーストラリアのシェイン・バナン氏が発起人となって動き出したグリーンエッジ・サイクリングは、同国の純正チームを目指す。1月の記者会見でバナン氏は「100%オーストラリア人メンバーで構成することが望ましい。それだけの深みがオーストラリアにはある。だが現在の所属チームとの契約期間を考えると、75%が現実的だ」と語っている。
ゴスは現在最も勢いのあるオーストラリア人選手だ。バナン氏が多額の契約金を払ってゴスを引き抜くことは想像に容易い。
text:Gregor Brown
translation:Kei Tsuji
Amazon.co.jp