2011/03/24(木) - 10:45
ベルギーのフランドル地方を舞台にした第66回ドワーズ・ドア・フラーンデレン(UCI1.1)で、ニック・ナイエンス(ベルギー、サクソバンク・サンガード)が劇的な逃げ切りを成功させた。石畳が敷かれたいくつもの急坂を乗り越え、終盤にアタックしたナイエンスが初勝利。サクソバンクが大会連覇を果たした。
3月23日、今年で66回目を迎えるドワーズ・ドア・フラーンデレンがベルギーで開催された。「フランドル横断レース」とも呼ばれるこの大会を皮切りに、フランドル地方はクラシックウィークに突入。4月3日のロンド・ファン・フラーンデレンで絶頂を迎える。
全長201kmのコースには「オウデ・クワレモント」や「パテルベルグ」「ノケレベルグ」などの急坂が13カ所、そして数キロに渡るパヴェ区間が数カ所設定されている。レース後半に詰め込まれた急坂の多くは石畳に覆われた悪路で、勾配が20%を超える激坂も登場する。
春の陽気に包まれたこの日、60km地点でフレデリック・アモリソン(ベルギー、ランドバウクレジット)、トム・フィーラース(オランダ、スキル・シマノ)、ロブ・ホリス(ベルギー、ベランダス・ヴィレムス)、ドリス・オランデール(ベルギー、アンポスト・ショーンケリー)の4名がアタックを成功させる。
メイン集団はこの4名の先行を容認し、タイム差は一時的に6分まで拡大。レース後半に入り、主要な急坂が近づくと、クイックステップやガーミン・サーヴェロがメイン集団のスピードを上げた。
ゴールまで56kmを残した「エイケンベルグ(石畳・長さ1250m・最大勾配10%)」で、2007年大会の優勝者トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)がペースを上げるとメイン集団は縦に長く伸び、中切れによって縮小する。
更にゴール35km手前の「オウデ・クワレモント(石畳・長さ1100m・最大勾配11.6%)」でサクソバンク・サンガードがペースを上げ、集団の人数を絞り込む。一方の先頭グループも分裂し、アモリソンとホリスの2人が1分30秒のリードで逃げる展開に。
間髪入れずに登場する「パテルベルグ(石畳・長さ265m・最大勾配20.3%)」で、今度はボーネンが動き、フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)やファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)が反応。しかし決定的なアタックは生まれず、パテルベルグ通過後に集団は緩んでしまう。
この緩んだ隙を突いて、ゴールまで24kmを残してカンチェラーラが猛烈にペースアップ。しかしシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)やヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・サーヴェロ)がこれを封じ込める。するとカウンターアタックでナイエンスが飛び出した。
ナイエンスのアタックに反応できたのは、イギリスチャンピオンジャージを着るジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)のみ。この2人は、ラスト20km地点でアモリソンとゴラスをキャッチ。ナイエンスが積極的に牽くこの先頭4名は、15秒のリードでラスト15kmを通過した。
ラボバンクやガーミン・サーヴェロ、レオパード・トレックが追撃したが、協調性の欠如がペースアップを阻害する。タイム差はじわり広がって20秒でラスト12km。16秒リードのままラスト9km地点に位置する最後の「ノケレベルグ(石畳・長さ500m・最大勾配6.7%)」に突入すると、序盤から逃げていたホリスが脱落した。
ペースが上がらないメイン集団に業を煮やしたオランダチャンピオンジャージのニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップ)がアタックし、これにフレチャが合流。しかしこの2人はローテーションが回らず引き戻される。
先頭ナイエンス、トーマス、アモリソンは、10秒のリードでラスト5km。集団スプリントに持ち込みたいガーミン・サーヴェロやクイックステップが懸命にメイン集団を牽いた。
ラスト2kmでタイム差が7秒を切っても諦めない先頭3名。そして迎えたラスト1km。アーチ通過後、メイン集団がすぐ後ろまで迫り、吸収直前にナイエンスがアタックを仕掛ける。これにトーマスが反応。ナイエンスとトーマスは、メイン集団から数十メートルのリードを得たまま最終ストレートに姿を現した。
最終コーナーでトーマスを前に出し、番手に付けたナイエンスがラスト200mでスプリント開始。後方から勢い良く迫るタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)やマシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)らを振り切って、ナイエンスが先頭でゴールに飛び込んだ。
ゴール後、インタビューに「今日はスタートからずっと調子が良くて、レースが緩んだときに一気にアタックした。他の逃げメンバーが脚を貯めているのか、それとも脚がただ残っていないのか分からなかったが、全力で逃げグループを率いて、そして勝った」と答えるナイエンス。表彰台の裏で、ベルギーナショナルチャンピオンを2度経験しているエヴィ・ファンダム夫人と抱き合った。
2002年にロンド・ファン・フラーンデレンのエスポワール(U23)レースで優勝し、2003年にクイックステップでプロデビューした30歳が、セミクラシックのタイトルをもう一つ付け足した。ナイエンスは2005年にオンループ・ヘットフォルク、2006年にクールネ〜ブリュッセル〜クールネを制している。
ナイエンスはコフィディスとラボバンクを経て、今年サクソバンク・サンガードに移籍。「チーム全体の努力の賜物だ。メンバー全員が僕を信頼してくれている。そのことがモチベーションアップに繋がったよ。そして次のレースへのエネルギーになる」。ナイエンスはコフィディス時代の2008年にロンド・ファン・フラーンデレンで2位。今年はサクソバンク・サンガードのエースとして母国最大のタイトル獲得を目指す。
フランドル地方はロンドに向けて加熱していく。次戦は3月26日のE3プライス・フラーンデレン(UCI1.HC)。3月27日にはヘント〜ウェベルヘム(UCIワールドツアー)が開催され、3月29日〜31日のKBCデパンヌ3日間レース(UCI2.HC)と続く。4月3日のロンドまで休みなしだ。
レース展開はライブストリーミング映像、選手コメントはサクソバンク・サンガード公式サイトより。
ドワーズ・ドア・フラーンデレン2011結果
1位 ニック・ナイエンス(ベルギー、サクソバンク・サンガード) 4h39'55"
2位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
3位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)
4位 マシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)
5位 バーデン・クック(オーストラリア、サクソバンク・サンガード)
6位 マルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)
7位 レイフ・ホステ(ベルギー、カチューシャ)
8位 トム・リーザー(オランダ、ラボバンク)
9位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)
10位 ドミニク・ロラン(カナダ、FDJ)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
3月23日、今年で66回目を迎えるドワーズ・ドア・フラーンデレンがベルギーで開催された。「フランドル横断レース」とも呼ばれるこの大会を皮切りに、フランドル地方はクラシックウィークに突入。4月3日のロンド・ファン・フラーンデレンで絶頂を迎える。
全長201kmのコースには「オウデ・クワレモント」や「パテルベルグ」「ノケレベルグ」などの急坂が13カ所、そして数キロに渡るパヴェ区間が数カ所設定されている。レース後半に詰め込まれた急坂の多くは石畳に覆われた悪路で、勾配が20%を超える激坂も登場する。
春の陽気に包まれたこの日、60km地点でフレデリック・アモリソン(ベルギー、ランドバウクレジット)、トム・フィーラース(オランダ、スキル・シマノ)、ロブ・ホリス(ベルギー、ベランダス・ヴィレムス)、ドリス・オランデール(ベルギー、アンポスト・ショーンケリー)の4名がアタックを成功させる。
メイン集団はこの4名の先行を容認し、タイム差は一時的に6分まで拡大。レース後半に入り、主要な急坂が近づくと、クイックステップやガーミン・サーヴェロがメイン集団のスピードを上げた。
ゴールまで56kmを残した「エイケンベルグ(石畳・長さ1250m・最大勾配10%)」で、2007年大会の優勝者トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)がペースを上げるとメイン集団は縦に長く伸び、中切れによって縮小する。
更にゴール35km手前の「オウデ・クワレモント(石畳・長さ1100m・最大勾配11.6%)」でサクソバンク・サンガードがペースを上げ、集団の人数を絞り込む。一方の先頭グループも分裂し、アモリソンとホリスの2人が1分30秒のリードで逃げる展開に。
間髪入れずに登場する「パテルベルグ(石畳・長さ265m・最大勾配20.3%)」で、今度はボーネンが動き、フアンアントニオ・フレチャ(スペイン、チームスカイ)やファビアン・カンチェラーラ(スイス、レオパード・トレック)が反応。しかし決定的なアタックは生まれず、パテルベルグ通過後に集団は緩んでしまう。
この緩んだ隙を突いて、ゴールまで24kmを残してカンチェラーラが猛烈にペースアップ。しかしシルヴァン・シャヴァネル(フランス、クイックステップ)やヨハン・ファンスーメレン(ベルギー、ガーミン・サーヴェロ)がこれを封じ込める。するとカウンターアタックでナイエンスが飛び出した。
ナイエンスのアタックに反応できたのは、イギリスチャンピオンジャージを着るジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)のみ。この2人は、ラスト20km地点でアモリソンとゴラスをキャッチ。ナイエンスが積極的に牽くこの先頭4名は、15秒のリードでラスト15kmを通過した。
ラボバンクやガーミン・サーヴェロ、レオパード・トレックが追撃したが、協調性の欠如がペースアップを阻害する。タイム差はじわり広がって20秒でラスト12km。16秒リードのままラスト9km地点に位置する最後の「ノケレベルグ(石畳・長さ500m・最大勾配6.7%)」に突入すると、序盤から逃げていたホリスが脱落した。
ペースが上がらないメイン集団に業を煮やしたオランダチャンピオンジャージのニキ・テルプストラ(オランダ、クイックステップ)がアタックし、これにフレチャが合流。しかしこの2人はローテーションが回らず引き戻される。
先頭ナイエンス、トーマス、アモリソンは、10秒のリードでラスト5km。集団スプリントに持ち込みたいガーミン・サーヴェロやクイックステップが懸命にメイン集団を牽いた。
ラスト2kmでタイム差が7秒を切っても諦めない先頭3名。そして迎えたラスト1km。アーチ通過後、メイン集団がすぐ後ろまで迫り、吸収直前にナイエンスがアタックを仕掛ける。これにトーマスが反応。ナイエンスとトーマスは、メイン集団から数十メートルのリードを得たまま最終ストレートに姿を現した。
最終コーナーでトーマスを前に出し、番手に付けたナイエンスがラスト200mでスプリント開始。後方から勢い良く迫るタイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)やマシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)らを振り切って、ナイエンスが先頭でゴールに飛び込んだ。
ゴール後、インタビューに「今日はスタートからずっと調子が良くて、レースが緩んだときに一気にアタックした。他の逃げメンバーが脚を貯めているのか、それとも脚がただ残っていないのか分からなかったが、全力で逃げグループを率いて、そして勝った」と答えるナイエンス。表彰台の裏で、ベルギーナショナルチャンピオンを2度経験しているエヴィ・ファンダム夫人と抱き合った。
2002年にロンド・ファン・フラーンデレンのエスポワール(U23)レースで優勝し、2003年にクイックステップでプロデビューした30歳が、セミクラシックのタイトルをもう一つ付け足した。ナイエンスは2005年にオンループ・ヘットフォルク、2006年にクールネ〜ブリュッセル〜クールネを制している。
ナイエンスはコフィディスとラボバンクを経て、今年サクソバンク・サンガードに移籍。「チーム全体の努力の賜物だ。メンバー全員が僕を信頼してくれている。そのことがモチベーションアップに繋がったよ。そして次のレースへのエネルギーになる」。ナイエンスはコフィディス時代の2008年にロンド・ファン・フラーンデレンで2位。今年はサクソバンク・サンガードのエースとして母国最大のタイトル獲得を目指す。
フランドル地方はロンドに向けて加熱していく。次戦は3月26日のE3プライス・フラーンデレン(UCI1.HC)。3月27日にはヘント〜ウェベルヘム(UCIワールドツアー)が開催され、3月29日〜31日のKBCデパンヌ3日間レース(UCI2.HC)と続く。4月3日のロンドまで休みなしだ。
レース展開はライブストリーミング映像、選手コメントはサクソバンク・サンガード公式サイトより。
ドワーズ・ドア・フラーンデレン2011結果
1位 ニック・ナイエンス(ベルギー、サクソバンク・サンガード) 4h39'55"
2位 ジェレイント・トーマス(イギリス、チームスカイ)
3位 タイラー・ファラー(アメリカ、ガーミン・サーヴェロ)
4位 マシュー・ヘイマン(オーストラリア、チームスカイ)
5位 バーデン・クック(オーストラリア、サクソバンク・サンガード)
6位 マルコ・マルカート(イタリア、ヴァカンソレイユ・DCM)
7位 レイフ・ホステ(ベルギー、カチューシャ)
8位 トム・リーザー(オランダ、ラボバンク)
9位 トム・ボーネン(ベルギー、クイックステップ)
10位 ドミニク・ロラン(カナダ、FDJ)
text:Kei Tsuji
photo:Cor Vos
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